第四話 初発注と初依頼


―カン! カン!


―キュリィィ……、キュリィィ……―




 ここは街中のとある工房、朝から鉄を叩く音や、鉄を磨く音が工房の中で鳴り響いていた。


優之介と斬波は工房に訪れていた、昨夜安心亭で話していた通り、ガチャポンプの製作を依頼する為だ。野郎二人が入口で見学していると、立派な髭を生やした身長が低い男性が歩いてきた。




「おう! なんだか奇妙なものを作って欲しいって言ってんのはおめぇらか? 俺はこのガリアス工房の親方をやってる、ドワーフのガリアスってモンだ、おめぇらの名前は?」


「優之介です!」


「斬波だ」




 ガリアスは工房の親方で、自分がドワーフである事を自己紹介してくれた。この世界に転移してから初めて人間以外の種族に出会った優之介と斬波は、不思議そうな目でガリアスを見つめている。野郎二人の視線に気づいたガリアスは怪訝な表情をした。




「何だ? 俺にはそっちの趣味はねぇぞ、ひょっとしておめぇらドワーフを見るのは初めてか?」


「俺だってそっちの趣味はないです! 人間以外の方と出会うのは初めてですね」


「俺も初めてで少し戸惑っただけだ」


((イメージ通りの姿すぎる! ファンタジーキタコレ!!))


「ドワーフにも会ったことがねぇってんなら、エルフには会ったことあんのか?」


「いや、エルフにも会ったことないです」


「俺もないな……」


「そうか、だったらエルフのねーちゃんとか見たら一瞬で見惚れちまうだろうよ! ガハハハハ!!」


「そいつは楽しみだな!」


「会ってみたいですね!」




 ドワーフのガリアスからエルフの存在を確認した優之介と斬波は、その場でハイタッチをして喜びを表にした。それにしても斬波のテンションが高い。




(斬波さん、この世界に転移した時からエルフに会いたがってたもんね……)


「エルフもいいがそろそろ本題に入ろうか、作って欲しいってのはどんなブツなんだ?」


「あぁ、これなんだが……」




 優之介と斬波は工房にお邪魔して、あらかじめ自分で書いた設計図をガリアスに見せて説明を始めた。




「うーむ……できないことはない、こんだけきちんとした設計図があれば問題なく作れるだろう。これはシバが書いたのか?」


「あぁ、そうだ。それで値段はいくらだ? 決められないなら金貨三枚を預けるから、そこから引いてくれていい」


「いい腕してるなぁ……。値段だが金貨三枚は多すぎだ、大銀貨五枚でもお釣りが来るだろうよ」


「大銀貨は持ち合わせがないから金貨一枚で、お釣りはいらないぞ」


「太っ腹だなぁ! そんじゃあこれを優先的にやらせてもらうぜ、二日あればできる」


「交渉成立だな」


「ありがとうございます!」




 ガチャポンプの試作を約束してもらったので、優之介と斬波はガリアスとがっちり握手を交わしてガリアス工房を後にした。


 その後、優之介と斬波は売り場に寄って剣や防具を見て回り、小型のナイフ等を購入して冒険者ギルドに向かうことにした。理由は時間もまだ午前中で、せっかく冒険者になったのだから依頼を受けてみようと試みたからだ。






――――――――――――――――――――






「あ、ユウノスケさん! シバさん!」


「あ、エマさんおはようございます」


「おはよう」


「おはようございます♪ 本日は依頼を受注されるのですか?」




 優之介と斬波が冒険者ギルドに訪れると、カウンターでエマが仕事をしていたので朝の挨拶をすると同時に、依頼を受けに来た旨を話すとエマが何点か依頼を見繕ってくれた。




「ユウノスケさんとシバさんもCランクですので受けられる依頼の幅は広いのですが、冒険者歴が浅すぎるので、採集依頼か低ランク魔物の討伐がよろしいかと思い、こちらをご用意しました」


「ゴブリン討伐、ホーンラビット狩り、ヒール草集め……どれにします?」


「修行がてら、ゴブリン討伐にしようか」




 エマの言う通り、優之介と斬波はCランクだが冒険者歴はたったの三日目のルーキーなので、二人共大人しくエマの案内に従う。


 三分程考えた結果、優之介と斬波はゴブリン討伐の依頼を受ける事にした。


受注する依頼が決まるとエマが手続きを済ませ、優之介と斬波に一枚の紙を渡して今回の依頼の説明をしてくれた。




「それでは依頼の内容をご説明させていただきます。これからお二人にはカヤ村に行ってもらいます、カヤ村に着きましたら、依頼主であるカヤ村の村長に依頼を受けに来た事を伝えてください。依頼が完了しましたら依頼主からその依頼書に依頼完了のサインを頂き、ゴブリンの討伐証明と一緒にギルドに提出頂ければ依頼は完了となります。詳しい事は依頼主と打ち合わせしてください」


「ゴブリンの討伐証明って何ですか?」


「平たく言えば魔物の身体の一部です、ゴブリンの場合は耳が討伐証明になります。まぁ首でも良いのですがゴブリンは魔石以外使い道が無いので、討伐完了後は耳と魔石の剥ぎ取りを済ませて後は埋めるか焼却処分した方がよろしいですね」




 魔物とは言え生き物の身体の一部を剥ぎ取り、埋めるか焼却処分した方が良いと平気で言い放つエマに、優之介は内心冷や汗をかいた。冒険者活動では当たり前の事なのだろうけど、慣れるのには時間がかかりそうだ。




「わ、わかりました。頑張ります……」


「オーガを討伐なさったあなた方なら余裕だと思いますが油断は禁物ですよ♪」


「わかった、じゃあ行ってくる」「行ってきます!」


「行ってらっしゃいませ♪」




 優之介と斬波はエマの見送りを背に、冒険者ギルドを出発した。


 野郎二人の記念すべき最初の依頼はゴブリン討伐となったが、無事に成功できるのだろうか?


 

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