第五話 ゴブリンを解剖しないで!
優之介と斬波はゴブリン討伐の依頼を受けるために、カヤ村の村長宅にお邪魔して依頼内容の打ち合わせをしていた。
カヤ村はティユールの街からそれ程離れていなかったのでお昼頃には到着できたが、できることなら依頼を早めに完了させたいと思った野郎二人は、手短に村長から説明を受けている。
「私がこのカヤ村の村長で、依頼主のモラクと申します。この度は依頼を受けていただきありがとうございます」
「優之介と言います。ゴブリンの討伐をして欲しいそうで?」
「はい、その通りです。奴らは五匹から七匹の集団で現れては、村の家畜や作物を荒らしては奪っていくんです。このままでは村人に被害が出るのも時間の問題で……」
村長のモラク曰く、二~三週間前にゴブリンが姿を現し始め、ここ最近になってからは頻繁に出現しては村の作物や家畜を堂々と盗んで行くらしい。村の男達で討伐を試みたが、チームワークが狡猾で手に負えないとのことなので、冒険者ギルドに依頼したそうな。
「事情はわかりました、ゴブリンはどこからやって来るのか検討はついてますか?」
「林を抜けた先に洞窟があるので、おそらくそこではないかと……」
「そんじゃ、慎重に調べてみるか」
優之介と斬波はモラクが言っていた洞窟に行ってみることにした。
洞窟に向かう道中、子供の足跡ぐらいの大きさの足跡を見つけた。鳥の足跡にも似ているが指が五本あったので、ゴブリンの足跡と判断した。
「足跡の数からして、ゴブリンはだいたい十五から二十体程と見た。もしくは五から十体が無駄に踏んでフェイクを作ってるかのどっちかだな」
「ゴブリンってそんなに頭が良いんですかね?」
「ラノベに出てくるゴブリンは簡単に殺られてたけど、装身具を身につけたり、道具を使ったりと知性はしっかりあった印象が強い。油断はできないな」
「そ、そうですね……」
しばらく歩いていると、洞窟の入口が見えてきたので優之介と斬波は茂みに身を隠しながら洞窟の様子を伺った。
「何もいませんね……」
「何もいないな……、でもおいそれと中に入るわけにもいかない。さてどうするか? 君ならどうするかね優之介君?」
斬波がいたずらっぽく優之介に聞いてきたので、優之介は目を瞑って一分程考えた。優之介が出した答えは……。
「入口で焚き火をして煙で燻し出す!」
「それでいこう」
優之介と斬波は洞窟の入口に燃えるものを集めて火をつけ、煙で燻し出す作戦に乗り出る事にした。野郎二人は早速、枯葉等の燃えやすい物を拾い集め、入口に積み上げて枯れ木の山を作る。
「それじゃあ、火魔法いきますよ」
優之介が火魔法で枯れ木の山に火を付けようとする、その時だった。
―ザッ、ザッ、ザッ……―
「ギュ……?」
「ギィ……」
林の方から子供くらいの背丈で緑色の肌、黄色い眼球、尖った耳が特徴で人型の生物が出てきた。優之介と斬波は日本で見たイメージとそっくりそのままの姿に現れたその生物がいったい何なのか、直ぐにわかった。そう、ゴブリンだ、その数は五匹。
ゴブリン達は、優之介と斬波を取り囲むように配置について攻撃するチャンスを伺っていた。
「うぉ!?これがゴブリン!?」
「どう見てもそうだろ! つか、俺ら運がいいな。背後から襲われなくてよ」
優之介と斬波は崖を背にゴブリン達と対峙し、睨み合っていた。その最中、斬波が優之介に対し、冷静に語りかけた。
「さて優之介、これからこいつらと殺し合いになるわけだが、覚悟は出来てるな?」
「もちろんです、人型のモンスターと直接戦うのは初めてだから若干抵抗ありますけど……」
「そうか、まぁ状況はこっちが少し有利なんだ、とにかくやってみろ」
「……っ、やってみます! 来い!!」
「ギュアアアアア!!」
優之介が剣を抜き、構えるとゴブリン達はいっせいに襲いかかってきた。
「ふっ、せいッ―!!」
「ギャア!」
優之介はゴブリンの攻撃を避けて、カウンターでゴブリンを斬りつけていく。王都からティユールの街までの道中で斬波から教わった喧嘩術と、動物型の魔物との戦闘経験を活かして戦っていくその姿は、斬波から見ても頼もしかった。
(頼もしくなったなぁ、剣術はまだまだだけど俺は教えられないし、いい師匠が現れてくれることを祈る他ないか)
「ギュオォオオオ!」
「甘い」―ドゴォッ!
「ギュピッ……」
「素手でゴブリンを殺した……」
「自分の戦いに集中しな」
優之介は剣でゴブリンと戦ってる最中、斬波は素手でゴブリンを圧倒していた。背中の剣はただの飾りの如く背負われたままなので、優之介はそんな斬波の剣を少し哀れに思った。そして先ほどの緊張感はどこに行ったのやら、斬波の表情は余裕を通り越してつまらなそうだった。
「これじゃあ喧嘩と変わんねぇなぁおい、クラウディアの方がよっぽど強かったぞ」
斬波は既に死んでいる三匹のゴブリンに向かって、愚痴をこぼした。それにしても一国の近衛騎士団副団長とゴブリンを比べるのは、どっちも可哀想なのでやめてあげてほしい。
―ザシュッ!!
「ギギャッ……!?」
斬波が戦闘を終えた頃、優之介もゴブリンを二匹の討伐を完了していた。ゴブリンの増援が来る気配もないので優之介と斬波は初依頼達成の喜びをハイタッチで分かち合った。
「やりましたね!」
「味気なかったけど、とりあえず初依頼達成だな。そんじゃさっさと耳と魔石を剥ぎ取って燃やそうぜ」
ゴブリン討伐証明の耳と魔石の剥ぎ取りを行う優之介と斬波だったが、これがかなりグロかった。生身の肉体を解体していく際にご対面する血肉や内蔵、そしてそれらの血生臭さは、見た者の気分を悪くさせるには十分で、優之介は途中で林に駆け込んで嘔吐する程その光景は酷かった。
しかし、斬波はそんなのはお構いなしに解体作業を進めていた。むしろ余計にゴブリンの身体を切り開いて解剖を始める始末、優之介はかなりドン引きした。
「ふむふむ、胸骨と肋骨に守られてる位置にある魔石ってのはモンスター、即ち魔物の心臓部って事か……。内蔵の位置、筋肉の構成は人とほぼ同じ、骨は人より細いが骨密度は高くて……よっと」
―ゴシャッ!
「頭蓋骨をかち割って脳みそはどうなってるかなぁ~っと、頭の大きさの割に脳が小さいなぁ。だから言葉を話せなかったのかなぁ?」
「何やってるんですか!?そんなグロいの早く燃やして!!」
「ん? 地球上に存在しなかったファンタジー生物の死体があるんだぞ? 解剖して中身を調べたいと思わないのか? 次は胃袋を裂いて何を食べ「【
優之介は斬波の言葉を遮って解剖途中のゴブリンを火魔法で焼いた、勿論青色の強い炎で。斬波がもったいなさそうにしていたがこれ以上はこちらの精神が持たないので、自分がいないところでやってくれと強くお願いした。
斬波は優之介の必死さに折れ、渋々ゴブリンの死体を一箇所に集めて火魔法で火葬しようとしたその時だった。
「グォオオオオオオオオオオオオオ!!」
洞窟の奥から身長百八十センチくらいの、立派な体格をしたゴブリンが出てきた。
唐突な新手の登場に野郎二人は驚いたが直ぐに表情を引き締め剣を構える。体格の良いゴブリンは自分の手下が殺られて腹が立っているのか、相当お怒りのようだ。
「ここからが本番って感じですね……!」
「そのようだな、どうするよ?」
「俺が前に出ます!!」
「じゃ、俺は援護だな。気張っていくぞ……!!」
「グゥウオオオオオオオ!!」
体格の良いゴブリンは雄叫びを上げながら優之介と斬波に襲いかかってきた、野郎二人の初依頼はここからが本番だ。
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