第九話 ランクアップと宿屋にて
ティユールの冒険者ギルド内、ギルドマスターの部屋で優之介と斬波はティユール支部のギルドマスター、セドリックから野郎二人の冒険者ランクをGからCに上げることを提案してきた。
「「…………なんで?」」
優之介と斬波は声を揃えて疑問を口にした。冒険者登録をしたばかりのルーキーが一夜を明かしたら、いきなりCランクに上がるのだ、疑問を呈しない方がおかしい。
優之介と斬波の疑問に対する答えはセドリックの隣に座っていたバロンが答えた。
「Cランクになってもらったほうがお前らに仕事が頼みやすくなるからだ。勿論お前らにも利があるぞ、Cランクに上がればある程度幅広い依頼を受けられるようになるし、世間からすればCランクは一人前だ、仕事がしやすくなるし何より稼ぎやすい、安定した収入が得られるようになるぞ。まぁ、オーガを売った大金があるから魅力が薄れちまうだろうが……」
「そんな事ありません、収入が安定することは良い事ですよ。斬波さん、ランクアップさせてくれるならしてもらいましょうよ」
優之介はランクアップの話を受け入れる様子だ。しかし、斬波は首を少し捻って待ったをかけた。
「ランクアップは構わないんだが、俺らまだ一回も依頼を受けた事無いぞ、いいのか?」
「その点に関しては問題ない。オーガの他にも薬草類をたくさん納品してもらったそうだが、どれも質が良い。常駐依頼の薬草集めを数回クリアした扱いにしてEランクに上げる事は確定している」
優之介と斬波が集めてきた薬草が好評だったので、Eランクにランクアップする事が確定したことをセドリックから告げられた、冒険者ギルド王都本部で出会ったマリィのアドバイスが役に立ったようだ。
Cランクへの飛び級の理由としては冒険者の基礎である素材採集の重要さを理解できていて、尚且つオーガを討伐できるほどの強さがあるならもっと幅広く活動してもらおうと思ったのだそうだ。
セドリックの言葉を聞いた斬波は納得してランクアップの話を受け入れた。晴れて優之介と斬波は、冒険者登録をして二日目でCランクになったのだ。
ギルドマスターとの話を終えてギルドのカウンターに戻るとエマが二人のギルドカードと売却した素材の代金を渡してくれた。
「あれ? このカード銅でできてる?」
「はい、Cランクの冒険者にはギルドカードを更新する際、銅のカードをお渡ししています。Bランクに上がれば銀、Aランクに上がれば金のカードに更新されます」
「それはランクアップが楽しみになりますね♪」
「お二人ならSランクも夢じゃありませんね♪ ユウノスケ様、シバ様、取り乱していたとは言え先程は大変申し訳ございませんでした」
「さっきも謝ってくれたじゃないですか、もういいですよ」
「そうだ、こっちは気にしてないからやめてくれ。これ以上はこっちが罪悪感を感じまう」
「ありがとうございます、お二人は優しいのですね♪」
「それじゃあエマさん、また何かあったらよろしくお願いします」
「しばらく世話になるかもしれないからそん時は頼むよ」
優之介と斬波は笑顔でエマと別れ、冒険者ギルドを後にした。その後、優之介が街を散策がてら教会に行こうと提案をしたが、斬波に「気持ちはわかるけど宿屋を探すほうが先だ」と言われ、とりあえず野郎二人は宿屋を探すことにした。
宿屋は三十分程街を歩いたら見つかった。安心亭と言う名前で、外装は高級感もなくボロボロでもなく、至って普通の落ち着いた雰囲気の宿屋だった。
優之介と斬波は早速中に入ってみると、中は小さなレストランのようになっていて階段の側に受付が設けられていた。所々見ると掃除が行き届いて清潔感があり、好印象だった。受付にいた宿屋の娘らしき人物が野郎二人の存在に気が付くと、明るい声で対応してくれた。
「いらっしゃいませ~! 安心亭にようこそ、お二人ですか?」
「はい、二人です」
「お部屋は二人部屋と一人部屋が二つ、両方ありますよ♪ 料金は二人部屋が一泊大銅貨四枚、一人部屋なら大銅貨二枚と銅貨三枚を二部屋分いただきます。いかがなさいますか?」
受付が部屋の料金を説明してどうするかを優之介と斬波に聞いてきた。
優之介と斬波は受付の前で相談した。結果、二人部屋を十日分借りる事にした、支払いは銀貨四枚だ。
「十日分、確かに頂戴しました。こちらが鍵になります、宿を出るときは鍵をここに預けてくださいね」
「わかりました、お世話になります!」
「世話になる、ついでにこれもやるから色々面倒を見てくれよ」
斬波が受付にチップとして銀貨一枚をコイントスで渡すと受付は大喜びで「お任せください!」と張り切っていた。
良いサービスを受けるにはチップを払うのが上手くやっていくためのコツらしい。
「(チップを払うんですか……?)」
「(外国じゃ当然の事だったし、払えば融通を利かせてもらえるからな、払って損はない)」
優之介と斬波は階段を上がり、案内された部屋に入るといきなりベッドに飛び込んだ。
「あぁ~ふかふかだぁ~~!」
「香りも良い、部屋の家具も申し分ない。いい部屋だな♪」
「ありがとうございます! あっ、私の名前はコネリーと言います♪ この宿屋の娘で、父が経営をしているものですからお手伝いをしています」
「俺は優之介と言います」
「斬波と言う、改めて世話になる」
「はい! それではごゆっくり~♪」
宿屋の娘、コネリーがいなくなると、優之介と斬波は椅子に座り直してお話をする事にした。
「まずは今回入った金を三等分にしよう、俺と優之介で三分の一ずつ分けて、残りの三分の一は旅の資金や予想外の出費が発生したとき用の貯金にしようと思う」
「俺はそれで大丈夫ですよ」
優之介と斬波は冒険者ギルドでもらった金貨五十枚と銀貨十六枚を、二人で金貨十八枚と銀貨五枚に分けて、余りは斬波が管理する事にした。
「この世界の大まかな物価からして俺らはいきなり大金を手に入れたわけだが、無駄遣いはするなよ?」
「そんなのわかってますよ、装備を新調したり、消耗品を購入したりするのに使いますよ」
「色町で女遊びするのにちょっとぐらい使ってもいいんだぞ♪」
「からかわないでください!」
女遊びと聞いて顔を赤くした優之介に対し、斬波は冗談だとけらけら笑う。
元々リラックスモード全開の二人だったが更に場の空気が砕けたところで斬波がスッと真面目な話をした。
「すまんすまん、でも女を武器にされてタジタジになってたら男が廃るぞ? さて、やることはやったから後は自由行動と行きたいところだけど……教会に祈りに行かなければならない。何故だかわかるな?」
「この世界のゲイ達をけしかけられちゃうからですか?」
「その通りだ! それだけは回避しないといけない! てなわけで、疲れてて怠いだろうが教会に行くぞ!」
「お、おぉ~……」
昨夜、言語と魔法を司る神ジュノンから、この町の教会に祈りに来るように言われている優之介と斬波は、ゲイ襲来を回避すべくコネリーに道を教えてもらい、嫌々ながらも教会を目指すことにした。
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