第八話 どこの世界でも質がいい物には価値が付くもんだ
受付嬢が優之介と斬波を盗人呼ばわりしてきた。受付嬢に釣られて他の冒険者達も「やっぱりか……」等と声を漏らしていた。聞き耳を立てていた優之介はイラっとしたが、面倒事が増えることだけなので無視した。
「ふむ、確かに俺と優之介はルーキーだ。しかし、武者修行を積み重ねてから冒険者登録をした場合はこれ如何に? オーガを倒せる強いルーキーもいなくはないんじゃないのか? 冒険者登録は十歳から可能なのだろう? そっちにいる優之介は十八歳、俺は二十三歳、まぁ俺ら二人共五年は修行期間があってもおかしくはないな。五年の間にオーガを倒せるくらい強くなってから、冒険者デビューしたって考えは君にはないかい?」
斬波が「きっちり武者修行を積んでから冒険者になった強いルーキー」と言う設定で作り話をして受付嬢を丸め込もうとし始めた。斬波の作り話に受付嬢は渋い顔をしながら唸り始め、斬波と受付嬢の会話を盗み聞きしている冒険者達も「筋は通ってっけどよ……」「修業中の食い扶持はどうすんだよ……」と難しそうな顔をしてひそひそ話をしていた。
「おう、おめぇか? オーガを持ってきたってのは……」
カウンターの奥からガタイが良くてスキンヘッドのおっさんが出てきた、身長が二メートルはありそうな大男だ。
大男の問いに斬波は怯むことなく淡々と答える。
「俺だが、何か?」
「何かって程問題はねぇんだが、ちと聞きたい事があってな。俺の名前はバロン、ここで魔物の解体を仕切っている。お前さん達の名前は?」
「斬波だ」
「優之介と言います。あの、聞きたい事ってなんですか?」
「ユウノスケにシバだな、覚えたぞ。それなんだがあのオーガはどうやって討伐したんだ? 見たところどこにも傷一つ付いてねぇんだが……」
解体屋のバロンは買取査定に出されたオーガの状態に疑問が沸いたらしい。
それもそのはずだ、斬波が討伐したオーガには傷が一切ない。言わば文句のつけようがない綺麗な素材を持ち込んだのだ。
バロンの質問にはオーガを討伐した斬波本人が答えた。
「俺の魔法で討伐したんだ、正確には魔法を用いた毒殺だがな……」
「魔法で毒殺、ある分にはあるが……。でもまぁ証拠にあんな綺麗すぎる素材があったんじゃ、信じるしかねぇよなぁ。おっといけねぇギルドマスターがお呼びだ、ついてこい。エマ、お前もな」
「私もですか!?」
「(斬波さん、ギルドマスターですって)」
「(まぁ、偉い人とのパイプが繋がるのは悪いことじゃないからついてってみようぜ)」
優之介と斬波はバロンと受付嬢のエマの後ろについていくような形でギルドマスターの元へ向かった。
――――――――――――――――――――
―コンコンコン―
「やっと来たか、入りな」
「ギルマス、例の連れて来たぞ」
優之介と斬波はバロンとエマの案内でギルドマスターの部屋に来ていた。
落ち着いた雰囲気で一番偉い人の事務所って感じの部屋だった、ギルドで一番偉いギルドマスターの部屋なので当然だろうが……。
「立ってないで座んな。エマ、茶を淹れてくれ」
ピシッとした背筋で体格の良いロマンスグレーな男性が優之介と斬波にソファに座るように促し、エマにお茶を入れるように指示をした。
優之介も斬波も言動からしてこの人がギルドマスターだと言うのは直ぐに理解した。
優之介と斬波が並んでソファに座り、向かいにはギルドマスターと思わしき人物とバロンが座り、エマがお茶とお茶菓子を出し終えると、ギルドマスターと思わしき人物が口を開いた。
「まずは初めましてだな、俺の名前はセドリックだ。大体の事情はバロンから聞いている」
「斬波です」
「優之介です」
「あぁよろしく、こうして呼び出したのはいくつか話があってだな……、まずはあのオーガはこちらで買い取らせてもらう事にした。傷が全くない状態で出回ることはまずないのであれはいい金になる、買取金額は少し色を付けて金貨五十枚でどうかな?」
「オーガの値段の前にそっちの受付嬢が難癖つけてきたことに関してはどうなんだ? そっちのエマさんだっけか、彼女曰く俺達がオーガを横取りしたらしいが?」
「それは問題ない、俺のスキル【虚偽看破】で君達の言うことに嘘がないのは確認済みだ」
「嘘を見抜けるスキルですか?」
「あぁその通りだ、大抵の嘘は見抜ける。だけど嘘をつく時に、心が微塵も動じない奴が相手だったり、心の動き方を覗かせないスキルや魔法を使われると、見抜けない場合もある。ギルマスとして様々な人間の言い分を聞いて、嘘か真かを判断することばっかりやってたから自然と身に付いたわけだ」
セドリックのスキルのお陰で、優之介と斬波の潔白を証明することができたので、二人共とりあえずほっと胸を撫で下ろした。その後、セドリックとエマから謝罪をされたので、優之介と斬波は快く許してこの件は解決とした。
なんやかんやあったが、エマが横取りしたと難癖をつけてきたオーガは金貨五十枚の値段が付いた。
貨幣についてはアースカイ王城にいた時にソフィーリアから聞いていたので、二人共その価値は概ね把握していた。
因みに貨幣は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨、黒金貨の八種類が存在し、銅貨十枚でレートが一つ上の大銅貨と同じ価値になる。
ソフィーリアから貰った銅貨を【鑑定】スキルで鑑定してみると、銅貨一枚に対し日本円にして百円と同等の価値があるそうなので。
銅貨一枚=十円
大銅貨一枚=百円
銀貨一枚=千円
大銀貨一枚=一万円
金貨一枚=十万円
大金貨一枚=百万円
白金貨一枚=一千万円
黒金貨一枚=一億円
と計算が可能になる。
今回のオーガの買取金額を日本円に換算するなら金貨五十枚=大金貨五枚=五百万円となる。
冒険者を初めて二日目なのに大きな収入を得られるのは幸先がとても良い、優之介と斬波はお互いに顔を見合わせて頷き、セドリックに了承する事を伝えた。
「ありがとう、実は値段を決めるのに結構悩んでたんだ。納得してもらえて助かったよ」
「こっちとしては冒険者駆け出しなのに、潤沢な資金を得ることができて良かったよ。なぁ優之介?」
「そうですね♪ ところでオーガってそんなに高値が付くんですか?」
「いいや、オーガが確かに危険度Aランクだが討伐できないわけではない、通常は金貨五~七枚くらいだろう。今回は無傷で持ち込まれた素材だから特別だ」
斬波が討伐したオーガは通常の十倍近い値段で買い取ってもらえた。
因みに他の薬草類の素材は全部まとめて銀貨二十枚の値段がついた、こちらも状態がよろしいとのことで色を付けてもらったみたいだ。
素材の売買のお話が終わると、セドリックがここからが本題だと言わんばかりに身を乗り出して優之介と斬波に聞いてきた。
「素材の話がまとまったところで次の話をしよう、どっちかって言うとここからが本題だ。ユウノスケ君にシバ君、君達をCランクに昇格させようと思う」
ギルドマスターセドリックから優之介と斬波に昇格の誘いのお声がかかった。
野郎二人はその申し出に対し、目が点になることしか出来なかった。
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