第五話 初めての野営と神からの通知
ハントウルフとの戦闘後、優之介と斬波は旅を再開していた。
斬波の治療、ハントウルフの死体の回収、お魚さん漁、水の補充等、必要な事は全て済ませると、もう魔法鞄の中身はそろそろ限界が近そうだ。
旅の途中、優之介と斬波は歩きながらひたすらスムーズに魔法を発動させる練習をしまくっていた。
「【
「段々さまになってきたな……。厨二臭いけど実際にちゃんと発動できてるから、何の文句も言えないな」
「無詠唱で撃つこともできるんですけど、魔法名っぽく叫んだほうがイメージ通りになるんですよ」
「物理攻撃をかます際に『エイッ!』『セイヤッ!』と声を張るようなもんか」
「斬波さんは練習しないんですか?」
「してはいるぞ、しかしイメージができてもなかなかネーミングが決まらなくてな……」
「ネーミング?」
「一酸化炭素中毒魔法をどう思い通りに操れるか……」
「さらっと言ってるけど、やろうとしてる事はとんでもないの、自覚ありますか?」
「当たり前だ、扱い方を間違えたら自分が死にかねないからな」
優之介の扱う魔法はゲームの様に、火や水を生成して敵を攻撃するシンプルな魔法が主なので、覚えることは難しくないようだ。
しかし、斬波が覚えようとしている魔法は類を見たことがないため、覚えることが難しそうだ。特にネーミングが難しいらしい。
「普通に一酸化炭素! じゃダメなんですか?」
「ダメだ、呼びにくい」
「じゃあ、CO」
「そっち路線なら『口を塞ぐ死神の手』とか『息をするように盛られる猛毒』の方がしっくりくるな」
「じゃあ『死神が振舞う最後の晩餐】』なんてどうでしょう!」
「それいいな! 【死神が振舞う最後の晩餐】(Cmp from Mr, Death)にしよう!」
斬波の一酸化炭素中毒魔法のネーミングが決まったようだ。
因みにCmpとはCarbon monoxide poisoning(一酸化炭素中毒)の略だ。
「ネーミングが決まった途端どんどんイメージが湧き上がるぞ!」
「一酸化炭素中毒はマジでシャレにならないので試し打ちしないでください」
「う~ん、モンスターが出てくるまで我慢か……」
早速魔法を試しに使用する斬波だが、優之介に全力で止められてしまった。試し打ち感覚で一酸化炭素を発生させられたら、我が身が危険にさらされることを肌で感じ取ったのだろう。一酸化炭素の危険性は斬波も十分理解しているので試し打ちは我慢した。
しかし、旅の途中で筋肉隆々の肉体を持つモンスター、オーガと出くわしてしまったので、斬波は早速【死神が振舞う最後の晩餐】を放つと、オーガはぐらぐらと頭を抑えながら崩れ落ち泡を吹きながら二十秒も経たないうちに絶命してしまった。オーガってこんなにあっさり死ぬんだっけ?
オーガのあまりにも呆気ない最期に疑問に思った斬波は【高速思考回路】で色々考えた結果、ある事を思い出した。
「一酸化炭素100%にしたんだから酸素も吸えなくなって、一酸化炭素中毒+酸素不足からなる呼吸困難や酸素欠乏症もついてくるってわけか♪」
「いや、一人で納得しないでくださいよ……」(俺の中のオーガのイメージが崩れていく……)
【死神が振舞う最後の晩餐】の効力を確認できた事で上機嫌になった斬波と、化学兵器混じりの魔法のチート性能に呆れる優之介はオーガの死体をギリギリ回収して旅を再開した。
やがて日が暮れてきたので野宿する事にした優之介と斬波は、野営地を決めると焚き火を起こして休憩に入った。アースカイ王城を抜け出して初日目の夜、野郎二人は今日の出来事を振り返った。
冒険者ギルドの存在、全く知らない文字、アイテム、初めての実戦、色々語り合った。
「そう言えば、【言語理解】はこっちに召喚された当初から取得してたんだろうなぁ」
「どうしてそう思う?」
「だって、ソフィーさんが俺に声をかけた時、普通に日本語だったじゃないですか。あんな綺麗な外国人っぽい顔してすごい日本語が流暢でしたよ」
「言われてみればそうだったな、すっかり忘れてた」
「ソフィーさん、元気にしてるかな?」
「おい、まだ城を出て一日も経ってないぞ。人生初のガールフレンドがそんなに気になるか?」
「いやぁそこまでは、でも、向こうにいた時は遠くに離れててもスマホで連絡できてたから……」
「……そうだな。でも、気軽に連絡できるのもいいが、連絡が取れないからこそ相手を心の底から想い合うのも、いいんじゃないか? 再開した時に思いっきり抱きしめ合えるように、その温もりを感じ合えるように…………」
斬波が何処か遠い目をしながら語るが、優之介は眉を顰めながら聞いていた。
「斬波さんにそんな相手いませんでしたよね? ラブコメ系ラノベの読み過ぎですか?」
「どう思おうがお前の勝手だ」
「はぁ……ソフィーさんとLINEでやり取り出来たら楽しいんだろうなぁ~」
「流石高校卒業したての少年、考えがまだ青春っぽいねぇ♪」
「うっさい!」
優之介は斬波に少し反発しながらスマホの電源を入れた。
パスワードを解除し、ホーム画面を開いてみるが何の通知もなく、電波は勿論圏外。インストール済みの簡単なアプリで遊ぶためだけのゲーム機と化していた。
「通信はできなくても写真は取れるもんね♪」
カシャ! カシャ! と焚き火と斬波の写真を撮った優之介は、人生初野宿の記念にと楽しそうに保存していた。その様子を温かい目で見守る斬波が、眠さから大きな欠伸をすると……。
―ピンポン!
スマホから本来ならない音が流れた、その音とはLINEの通知音だ。
「え……? マジ?」
「優之介、今のはLINEか? それとも音声ファイルを再生しただけか?」
「いや、誰かからメッセージが送られて来ましたよ……」
「はぁ!?嘘だろ!?!?」
「いやだってこれ見てくださいよ!!」
優之介はスマホの画面を斬波に見せた、画面を見た斬波の表情は驚愕に満ちていた。
馴染みのあるチャット画面にこうメッセージが綴られていたのだった。
『やあ、異世界からの迷い人君達、私はイェクムオラムに置いて言語と魔法を司る神、ジュノンだ』
『君達に話があるんだ』
まさかの神からLINEが来ていたのだ……。
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