第四話 魔法を使うことに慣れましょう

―グルルルルルル……―


―ヴルルゥ、バウッ! グルルルルルル―




「ふっふっふ……。タイマンになればこっちのもんだな」


「いや、俺そんな余裕ないんですけど……」 




 三頭現れたハントウルフの内、一頭を斬波が投石で倒した為残り二頭となったハントウルフは作戦を変え、それぞれ一頭対一人で戦うように動いてきた。


 仲間が一頭倒された上に、真っ向勝負を仕掛ける事になったハントウルフ達は、流石に警戒してすぐには襲ってこない。


 ハントウルフ達の動きを警戒しながら斬波が呟いた。




「突然で忘れてたが、この世界は魔法が使えて、魔法を発動させる為にはイメージがしっかりしていることだったなぁ」


「あ……、それじゃあ俺やってみます!」


「え?」




 斬波の呟きを聞いた優之介ははっとした様子で思い出した。ここは異世界で、クラウディアが魔法の使い方を教えてくれたことを……。


 そして、既に自分が魔法を使える事を……。




「火……メタンガスと酸素と熱を一つに…………」


「おぉ!?」




 優之介は手のひらをかざし、火が燃えるイメージをした。すると、ボッ! と掌の上で火の玉が燃え上がった。


 その様を見ていたハントウルフは吠えながら更に警戒を強めるが優之介は魔法に集中していて気づいていない。




「酸素……酸素…………」




 優之介がそう言うとオレンジ色の火の玉が青色に変化した。


 自分のイメージにあった火の玉が出来上がると優之介はひと呼吸置いて神経を研ぎ澄まし……。




「喰らええええッ!!」




 ハントウルフ目掛けて放った。


 放たれた炎は優之介が剣で切りつけた手負いのハントウルフに命中し、ハントウルフは断末魔を上げながら黒焦げになった。




「はぁ……はぁ…………」


「優之介、お前すげぇな……」




 優之介と斬波の前に現れたハントウルフも残りあと一頭となった。残された最後の一頭は二対一になった時点で勝ち目がないと判断したのか、低い声で唸った後、背中を見せて一目散に逃走した。




「逃がすかよ!!」


「ギャン!」




 しかし、斬波の投石が命中し転倒してしまった。


 ハントウルフはすかさず立ち上がるが、斬波の二投目が命中し再び転倒、もう起き上がれないでいた。


 動けないが、まだ息があるハントウルフに斬波が近寄り、何かを唱え始めた。




「ハントウルフを中心に半径一メートルのドームを形成、ドーム内の気体を全て一酸化炭素に……」




 斬波が唱えるとハントウルフは痙攣し、その場で息を引き取った。


 ハントウルフが死んだのを確認すると、斬波は大きく深呼吸してこう言った。




「優之介を真似てみたけど……これができちまったんじゃ、強さと言う概念が崩壊しちまうな…………」


「斬波さん何したんですか……?」




 斬波は優之介に自分がしたことを説明した。「魔力でドーム状に囲って、ドーム内の気体の濃度を一酸化炭素100%にしただけだ」と……。


 それを聞いた優之介は少し顔を青ざめて「エグ……」とだけ返した。


 それもそのはずだ、斬波はハントウルフを一酸化炭素中毒に追いやって殺したのだから……。


 一酸化炭素とは無味無臭の気体で極めて毒性が強く、空気中における濃度が0・02%に上昇すると頭痛などが起こり、さらに、濃度が上がると吐き気、めまいなどの中毒症状が進み、最悪の場合、死に至るなど身体に大きな影響を与える物質だ。


 それを敵の周りだけ濃度100%にするなんて考えただけでもおぞましいと優之介は思った。自分の身に何が起きているかも理解できないまま、確実な死を迎える事になるのだから……。


 何がともあれ、ハントウルフを撃退する事に成功した優之介と斬波は「レベルアップしてるかもしれない」と、それぞれ自分のステータスを見てみた。




名前:夢咲 優之介


種族:人間/性別:男/年齢:18


レベル:5


職業:なし


称号:異世界人


攻撃力:170


耐久力:130


魔力:95


敏捷:50


運:45


スキル:【鑑定】【鑑定妨害】【魔力操作】【魔力制御】【言語理解】


魔法NEW:【水魔法(初級)】【火魔法(中級)】【身体強化】


加護:???






名前:叶 斬波


種族:人間/性別:男/年齢:23


レベル:7


称号:異世界人、知識を追い求める者


攻撃力:230


耐久力:150


魔力:150


敏捷:70


運:50


スキル:【鑑定】【鑑定妨害】【魔力操作】【魔力制御】【高速思考回路】【読心術】【言語理解】


魔法NEW【身体強化】【火魔法(初級)】【空間魔法(禁忌)】


加護:???






「なんかいっぱい増えてる……」


「俺の【空間魔法(禁忌)】ってなんだよ。しかも称号増えてるし……」




 アースカイ王城で最後に見たステータスと比較すると二人共レベルとステータスが上昇していた。ステータスもさる事ながら、特に目を引いたのは知らないうちにスキルを習得していた事と、ステータスの欄に魔法が追加されている事だ。


 野郎二人は何故こんな事になっているのかさっぱり理解できなかったが、勝手に増えたスキルを見ていたらとある一つの疑問が解決できた。




「あ、【言語理解】なんてスキルがちゃっかり増えてる!」


「【言語理解】……。あーだからギルド登録する時、見たことない文字が読めたりできたのか」


(俺らが書いた漢字が向こうに伝わったのは何故だかわからんが【言語理解】のオマケか?)




 優之介と斬波は【言語理解】スキルの詳細を開いて読んでみた。




 スキル:【言語理解】


 ありとあらゆる言語を使用者が知りたい言語に変換して目、耳から情報を取り入れることができる。


 自分の書いた、話した言語を相手に理解させることができる。


 魔法と言語の神ジュノンから異世界に招かれた人々へ、歓迎の意味を込めた贈り物。




「わぁお便利ぃ~♪ でも魔法と言語の神ジュノン? って……」


「この世界にも神様はいるってことだろ。それよりも……」




 ステータスを閉じると、斬波は大きくため息をついてからぼんやりとこう言った。




「こっちの世界で生き抜くためには魔法や魔力を使う事に慣れていかねぇとなぁ……。今回みたいな詠唱まがいみたいなもんを唱えながら魔法を使うのは非効率だし、何より恥ずい」


「あはは……そうですね…………」




 これからは魔法の練習をメインに訓練していこうと心に決めた野郎二人だった。


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