第六話 ソフィーリアの好みは優之介
「シバ様……『優之介は具合が悪いから食事会に出席できそうにない、いきなり転移させられたばかりの異世界で放置するのも悪いから俺達は欠席する』と仰っていたのは嘘だったのですね?」
どうやらソフィーリアは優之介のお見舞いに来たのだが、嘘をつかれた事にお怒りの様子だ。
(斬波さん、メイドさんにそんな事を言って追い返したのか……。俺は別に具合は悪くないぞ!)
優之介は斬波に少しジト目を向けた、それに合わせてソフィーリアも斬波を睨みつけた。しかし、対する斬波は何の悪びれる様子もなく淡々と話す。
「そうだなぁ、優之介の具合が悪いのは嘘だ。俺達がこの世界に転移させられたばかりの時、君は優之介の体調が良くないと思っていたからなぁ~……、今回はそれを利用させてもらった、嘘をついた事はすまない、反省はしない」
「ぐぬぬ……」(せっかくユウノスケ様とご一緒に会食できる機会が台無しにされてしまいましたわ!)
斬波の無慈悲さに涙目状態で堪えるソフィーリアがちょっとだけ可愛いと、優之介は思ってしまった。
「斬波さん、王女様は心配してくれてるんだから……」
「その心配してくれてるのが不可解なんだよ」
優之介がソフィーリアのフォローに入ろうとするが斬波が止めてしまった。ひと呼吸おいてから斬波は自分の考えてることを優之介とソフィーリア、ついでにソフィーリアの後ろに控えているメイドに打ち明けた。
「王女様側から見れば、俺達は異世界から来た得体の知れぬ人種だ、勇者様と呼んでてもな。そして人間普通は初対面の相手には少しでも必ず何かしら警戒する。しかし、そこの王女様は優之介に近づこうとしている様子が伺えるのだが、何故か? 優之介は利用しやすい人間だと判断したからだろう、違うか? 今もこうしてわざわざお見舞いに来ているのが不自然なんだがな、俺にとっては」
「ちがっ……違います…………!!」
斬波の言葉を聞いたソフィーリアは善意を否定された悲しみで目から涙がこぼれた。流石に言い過ぎだと思った優之介は斬波を止めにかかる。
「斬波さん! 言い過ぎですよ!!いくらなんでも女の子を泣かせるのは男として良くないと思います!!」
しかし、斬波は悪びれる様子もなく話を続けた。
「優之介もソフィーリアも早合点するな、俺の話は終わってない。でも確かにさっきのは言い過ぎたようだ、それはすまなかった。だが反省はしない」
(ちょっとは反省しろ!!)
優之介は心の中で斬波にツッコミを入れた。
「さっき言ったのは普通に考えた俺なりの説で、後一つ、考えられる事なんだが……」
斬波は間をおいてからゆっくりとソフィーリアに質問した。
「王女様、王女様は優之介が好みの男性のタイプかい?」
「……え?」「……ふぇ?」
斬波の質問に優之介とソフィーリアは固まった、メイドは「やはりそうでしたか」とどこか納得した様子でいる。優之介は訳が分からず慌てふためく。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ斬波さん! 俺と王女様は出会ったばかりですよ!?そんな事ってありますぅ!?」
「あるんだなぁそれが♪ 運命の出会い、一目惚れ、と言った言葉があるように人間突然恋に落ちる事があるもんさ、俺は無いがな。王女様はお前に一目惚れした結果、何とかしてお近づきになりたかった、これがもう一つの考えだ。どうだい王女様? 俺が考えられる君が優之介に近づく理由はこの二つしかないんだけど」
優之介と斬波はソフィーリアの方に顔を向けて彼女の答えを待つ。ソフィーリアは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに答えた。
「こ……こ、後者です…………///」
「うぇっ!?王女様が俺に一目惚れ!?何でぇ!?」
「そ、その……私、可愛い男の子が好みでして…………。ユウノスケ様の見た目もさる事ながらお声も素敵だなって……///」
ソフィーリア王女様は可愛い男子がお好きなようです。
ソフィーリアが頬を染めて身体をくねくねさせながら答える仕草の方が可愛いと思う優之介だったが、自分の事が可愛いとはどういう事なのか腑に落ちない様子でいた。
「俺って可愛いの……?」
「あぁ、優之介は可愛いに入るだろうな。美肌で、顔立ちは整ってるし、声も中性的だしなぁ。
「え、ちょっと待って。俺、女の子からアプローチを受けてたことないんですけど?」
優之介は解せなかった、彼の今日に至るまでの人生の中で異性からのアプローチ等を受けた経験がないのにも関わらず、斬波が「お前はモテてた」と言った事が。本当にモテていたのなら一回や二回はあっても良かったのではと思った優之介だが、斬波が次に言った言葉を聞いて納得した。
「だけど優之介の背後に俺有りってな! 野生の小熊の背後に居る親熊の如く俺が居たから女は近寄らんかったのだ! はっはっは!!悪い虫が寄って来ないで快適な学生生活を送れただろう?」
「俺の青春を返してください」
「無理! はっはっは!!」
優之介に春が来なかったのは斬波がガードしていたかららしい、優之介は更なるジト目を斬波に送った。
「共に養護施設で約十年過ごしてきた絆を、ぽっと出の女に邪魔されてたまるもんか。ゆくゆくは好きな相手が出来て一緒になるんだろうけど、俺が認めた相手じゃないと優之介との結婚は俺が認めぬ!」
(あんた俺の親じゃないでしょ……。まぁ、俺には親はいないけどさ…………)
児童養護施設で育った優之介と斬波には親がいなかった。斬波が優之介の親、兄代わりとなって優之介の面倒を見てきたので斬波の気持ちも理解できない事はないが、少し過保護気味の斬波に優之介は苦笑いすることしかできなかった。
「斬波さん、俺ももう社会人ですよ。全部一人でやって行かないといけないんですから……」
「それはそうだが結婚に関しては首を突っ込ませてもらうぞ。悪い女に騙されたら親、親戚がいないお前の人生は絶望の淵に追い込まれてしまうだろうよ」
「じゃあガールフレンドを作るくらいはいいですよね? ね?」
「それはいいだろう、人生経験を積む上でも異論はない」
「あ……あの!!」
優之介が実はモテモテだったお話辺りから蚊帳の外だったソフィーリアが声をあげた。優之介と斬波はきょとんとした表情でソフィーリアの居る方を向いた。メイドが「王女殿下を除け者にするとは大変よろしい度胸で」と愚痴をこぼしたが野郎二人は聞かなかった事にした。
「でしたら私がユウノスケ様のガールフレンドに立候補します!」
「えっ……///」
ピシッと手を挙げて優之介のガールフレンドになる事を立候補するソフィーリアを見て優之介は照れくさそうに頬をかいた。
意気揚々と名乗り出るソフィーリアに斬波は少し微笑んだ様子で言った。
「異世界で初めてできたお友達が王女様とは幸先が良いな」
「王女様ではありません、ソフィーと呼んでくださいまし」
「だってよ優之介」
「え……あ、はい」
「シバ様もです!」
「そんじゃあよろしくソフィー、さっきは悪かったな」
「いえ、シバ様はユウノスケ様の親のように面倒を見てこられたようで……。もしよろしければそのへんのお話もお聞かせくださいな♪」
「ええっとソフィーさん、その……よろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いしますねユウノスケ様♪ いつか必ずユウノスケ様の事、攻略してみせますからね!」
ピシッと人差し指を突きつけるソフィーリアの可愛さにもう既に攻略されそうな優之介は気弱そうに「はい……///」としか返すことができなかった。
(いきなりこんな可愛い娘とお友達になれるなんて、人生何があるかわからないな……///)
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