第七話 冒険者になる前に

「お二人にはそのような過去があったのですね……」


「ユウノスケ様とシバ様の絆は血の繋がった家族と同じレベルなのも頷けます」




 野郎二人が滞在している部屋にソフィーリアが訪問してひと悶着あった後、今は優之介、斬波、ソフィーリア、メイドの四人が卓を囲んで軽食をつまみながら雑談をしていた。


 優之介と斬波はそれぞれの生い立ちをソフィーリアとメイドに聞かせて話に花を咲かせていた。また、ソフィーリアとメイドも野郎二人に負けじと自分や自分の身の回りの事を話す、その雰囲気はまさに合コン状態だった。




「タマキさんもソフィーさんが小さい頃から仕えていたんですよね? でしたらソフィーさんとタマキさんの絆も強いのでは?」


「はい、私達もお二方に負けませんよ♪ ね、殿下」


「そうですわね、タマキ」




 ソフィーリアに仕えているメイドのタマキは他のメイドとは違い、幼少期からソフィーリアに仕えてきた言わば専属メイドだ。扱いや待遇が段違いに良いだけではなく、ソフィーリアからの信頼もかなり厚い。




「私と殿下とクラウ様は小さい頃、いつも三人で中庭を駆け回っていた事を思い出します。殿下が人目を盗んで毒キノコや毒木の実を食してはお腹を壊されたり、意気揚々と私とクラウ様を廃墟に連れて行ってはゴーストに遭遇させたりと、本当に殿下はお転婆でした」


「「うわぁお……」」


「ちょっとタマキ! それは言わない約束だったわよね!?」




 ソフィーリアは顔を真っ赤にしてタマキにポカポカ殴りにかかるが、タマキはアイアンクローの要領でソフィーリアの頭を押さえつけ、近づけさせんとばかりに腕を突っ張っているのでソフィーリアのぐるぐるパンチは面白いように空振りしまくる、この二人は本当に仲がよろしいようだ。


 因みにタマキがクラウ様と呼んでいるのはこの国の近衛騎士団の副団長の事で名前をクラウディア・フォン・ローゼンと言うらしい。優之介と斬波が興味なさげに相づちを打つとソフィーリアが「式典の間で私と一緒に居た銀髪の女性騎士ですわ」と教えてくれたので、野郎二人は「あぁ、あの人がね……」と思い出すことができた、勿論……銀髪碧眼の超美人だったことも。




「お陰様でソフィーリア王女殿下には適わないと縁談話を持ち込む貴族がいないので、仕える者としては対応に追われずに済んでいます」


「~~っ…………///」


「なるほどなぁ、ソフィーくらいの年齢になれば婚約者がいてもいいと思ったんだけど、そうかぁ~」


「はい、まさに殿下は行き遅れそうになっているのです!」


「タマキ……本当に怒りますわよ? ユウノスケ様の前で、よくも…………」


「だ、大丈夫ですよソフィーさん! 俺はそういうのは気にしないですから!!」




 タマキはソフィーリアの黒歴史であろう彼女の過去を暴露して、精神攻撃するのでソフィーリアの顔はリンゴのように真っ赤っかだ。少し言い過ぎたと思ったタマキはさり気なくソフィーリアのフォローに入る。




「ほら、ユウノスケ様はその様な事は気にしないそうですよ? 良かったですね」


「タマキ……後で覚えておきなさい」




 ソフィーリアがタマキに対して恨めしさを放つが、当のタマキはなんのそのとお構いなしだ。


 時間が経ち、雑談が一段落したキリの良いところで優之介がソフィーリアに質問した。




「ソフィーさん、話がだいぶ巻き戻ってしまうのですが……。ソフィーさんが部屋に入って来た時『考える必要はない』って言ってましたよね?」


「え? ……あ、そうですわね!」




 最初は何のことかわからなかったソフィーリアだったが、ぽんと手を叩いて思い出したように話しだした。




「冒険者になれなかった場合の事を考えていらしてたようなので、つい口を挟んでしまいましたわ。冒険者には十歳から登録が可能なのでお二方は問題なく冒険者になる事ができますわ♪」


「そうでしたか、こちらの世界では冒険者があるかどうかが疑問だったので、助かります」


「お役に立てのなら何よりです、ユウノスケ様の元居た世界では冒険者はないのですか?」




 優之介と斬波はソフィーリア達に自分達が元居た世界の職業事情を説明した。するとソフィーリアとタマキは少し驚いた様子で野郎二人の話を聞いていた。




「冒険者をする必要がない程平和だなんて羨ましいです……」


「モンスターや盗賊の遭遇と言った命の危険がないのは私達にとっては理想の環境でございます」


((まぁ、モンスターは存在しないし、強盗はいるけど人を殺す前提で来ないしな!))


「でも、どうしてお二方は冒険者になりたいのですか? 生活に必要な物はこちらで支給致しますのに……」




 冒険者になりたい動機は斬波が答えた。斬波の答えにソフィーリアは納得しつつも、どこか寂しげな表情を作る。




「理由はわかりました、お父様には魔王討伐の旅に出たと申しておきます。しかし、寂しいです……せっかくこうしてお話できる異性のお相手ができましたのに……」


「悪いが、縦社会に縛られる窮屈な思いは元居た世界だけで十分だ。せっかくの異世界、俺と優之介は自由を求めて旅がしたいのでな」


「すみませんソフィーさん、俺のことを好意に思ってくれているのは嬉しいのですが、これだけは譲れません」




 ソフィーリアは優之介と斬波を引き止めたかったが、それは叶わないと判断すると。気持ちを切り替えて野郎二人にある提案をした。




「お二方が冒険者になって自由に旅をしたいのはわかりました。しかし、道具もお金も何も持たないままでは命は持ちません、明日になったら必要な物をご用意いたします」


「それは有難い」


「ありがとうございます!」


「準備には時間がかかりますのでそれまでの間、お二方には基礎戦闘訓練と基礎魔法訓練を受けていただこうかと思います」


「「…………へ?」」




 必要な道具類を揃えてくれるのは有難い事だったが基礎戦闘訓練と基礎魔法訓練? どんな事をやらされるんだ? と疑問が沸く野郎二人だった。 


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