第五話 野郎二人は王城を抜け出し、冒険者になる事を計画する

「とりあえず、食事会は欠席でいいか、あんまり腹減ってないしな」


「え? あ……うん」




 斬波はそう言うと扉を少し開けてメイドに欠席の胸を伝えた。メイドがいなくなった事を確認すると扉を閉めて斬波が戻ってきた。




「さて、話を戻そう。……優之介、俺達は今絶賛ニート中だ、日本にいた頃はお互い社会人として仕事に励むはずが今はどうだ? 右も左も分からぬ異世界に転移させられてしまったではないか。そんな中これからどうやって生きていこうか、考えたことはないか?」


「今言われてみればそれはそうですけど……、斬波さん頭の回転速すぎじゃないですか?」


「んぅ? そうかぁ? 現状把握とこれからどうアクションを起こすかを考えるときは常に頭をフル回転するように意識してるだけだぞ」


「それ……何かのスキルなんじゃないですか?」


「日本にいた頃からそうしてきただけだって、別にそんなスキルとか――」




 優之介の指摘に斬波は否定しようとするが話してる途中で固まってしまった。




「……斬波さん?」


「【高速思考回路】と【読心術】のスキルを取得した……」




 どうやら斬波は会話の流れでスキルを二つ取得したようだ。予想外の展開に斬波は固まったままだが直ぐに頭を切り替えて話を戻した。




「まぁ俺の頭の回転の速さはともかく、俺達これからどうするよ? このまま勇者をやるのか? 俺はごめんだぞ、ラノベ主人公みたいに事が上手く運ぶとは思えんし誰かに縛られるのも嫌だ」


「俺だってせっかくの異世界ですから勇者とかじゃなくてもっとファンタジーを体験したいですよ……」




 優之介と斬波はため息を付いて沈黙した、部屋全体を静寂に包まれて約五分後……。


優之介と斬波は同時に口を開きこう言った。




「「この城を抜け出そう!」」




 二人はお互いの意見が一致し、固い握手を交わす。優之介と斬波は王城を抜け出すことにしたのだ。


 しかし、王城を抜け出すにあたって問題点がいくつかあった。ひと呼吸おいて斬波がいくつかの問題点を例に出した。




「と、言ってもいくつか問題点があるな、まず俺達はこの世界のことを知らない。このまま抜け出してもただのサバイバル生活を強いられる事になるだろう」


「それなら異世界じゃなくて無人島でいいですもんね……」


「異世界でファンタジーを満喫しつつ、自由に生活を営むにはやはり経済活動が必須なわけだ。身分や身元を気にせずにできる仕事とは何かな優之介君?」




 マンツーマン形式の授業みたいに斬波に質問された優之介は少し考えてからはい! と元気よく手を上げて斬波の質問に答えた。




「冒険者!」


「正解! 俺もお前もラノベの知識があるから冒険者についてはよぉく知っているな? まさに俺たちにうってつけの職業だ。しかし、この世界に冒険者と言う職業があるのかはわからん。そこで俺達は王城を抜け出した後、予定通り冒険者を出来るのか、それとも冒険者と言う職業が存在しなかった場合はどう収入を得るかの、二パターンの計画を立てなければならない。OK?」


「OK!」




 優之介と斬波のラノベ知識が正しければ、冒険者とは冒険者ギルドに所属して、依頼を遂行し達成することで報酬を得たり、魔物の素材を売って換金し、それを収入源にしたりする職業だ。冒険者になる為に必要な身分はなく、比較的に自由度が高いところが彼らにとっては何よりの利点だ。


 しかし、魔物との戦闘や盗賊との戦闘等、命の危険が身近な職業でもあるので決して油断できるわけではない。それでも優之介と斬波の冒険者になる志は閉ざされない。何故なら”冒険”の二文字に男のロマンを感じているからだ。


 王城を抜け出して冒険者をやれれば万々歳だが、優之介と斬波は日本から異世界に転移させられたばかりだ。転移後の世界のことなど右も左もわかるはずがなく、そもそも冒険者と言う職業があるのかでさえ疑問だ。




「それじゃあ仮に冒険者になれなかった場合の事を――」


「考える必要はありませんわ」




 斬波が冒険者になれなかった場合のプランBを考えようと、提案しようとしたところで第三者の声がそれを遮った。




「……え?」


「……ん?」




 声がする方へ優之介と斬波が振り向いた先にはこの国の王女であるソフィーリアが機嫌悪そうに腕を組んで立っていた。

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