第四話 要領が良ければスキルは簡単に取得できちゃうようです

 王城の長い廊下を歩いて優之介と斬波が案内された先は綺麗な二人部屋だった。豪華ではないが少し高いホテルの一室のような、そんな雰囲気が出ている。


 優之介と斬波はソファに座ってこれからの事を話し合うことにした。




「なんか、大変なことになっちゃいましたね」


「そうだな、飛行機の行き先が新千歳空港から異世界だもんな、飛行機は着陸してないが……。優之介、そういやさっきお前のステータスを横目で見たけどどこにも勇者の二文字がなかったな」


「あ……」(言われればそうだ、ステータスを見たとき称号の中に”勇者”なんて単語はなかった。国王によって俺達は勇者としてこの世界に召喚されたはずなのになんでだろう?)




そんな疑問を抱いた優之介は不思議そうに考えていると、ある1つの考えが頭の中をよぎった。




「もしかして俺達は勇者召喚に巻き込まれた感じですかね?」


「か、まだ発現してないか、それとも勇者とはただ単なる呼び名のどれかだろうな」


「えー、それじゃあただ単にとばっちり喰らっただけじゃあないですか!?」


「今のままならな、努力次第じゃ誰もが認める最強の男になれるかもしれないぞ?」


「なんでそんな事言い切れるんですか……」


「それは俺のステータスを見れば早いな、ステータスオープン」




 表示された斬波のステータスは優之介のものとは比べ物にならなかった。






名前:叶 斬波


種族:人間/性別:男/年齢:23


レベル:2


称号:異世界人


攻撃力:100


耐久力:100


魔力:95


敏捷:50


運:75


スキル:【鑑定】【鑑定妨害】【魔力操作】


加護:???






(ちょっと待ってちょっと待ってお兄さん! 俺と同じタイミングで召喚されたのにもう開きがあるんですけど!?ちゃっかりスキル3つも習得してるし!!)


 優之介は戦慄した、いや、戦慄せざるを得なかった。四つん這いのポーズで項垂れる優之介を見て斬波は笑いながら優之介に教えた。




「まぁそう落ち込むな、俺だってスキルは謁見の間からこの部屋まで移動してる間に取得したんだ。慣れりゃお前でもできるって、【鑑定】はそのへんにある適当なモノをよーく見ると取得できるぞ」




 そう言われた優之介はテーブルの上に置いてあった銀盆に目を凝らしてみる、結果は何も起きなかった。鑑定スキルを取得できてなかったようだ。


 優之介がスキル取得に失敗したタイミングで斬波がアドバイスをした。




「ただ目を凝らすだけじゃダメだ。その銀盆1つにしても得られる情報はいくらだってある。何年前に作られたものなのか?作られた時代、時間、銀盆を作るために使われた素材、使われた製法、使われた技術、色々あるだろ?そうゆうところに着眼点を持って見ると見え方が変わってくる。もう一度やってみろ」




 優之介は斬波のアドバイス通りにやってみる、すると優之介の脳内に誰かの声が聞こえてきた。




―スキル【鑑定】を取得しました―




 謎の声が聞こえた後、もう一度銀盆を見てみた。すると銀盆が鑑定された説明文が空気中に表示されるようになった。




【王宮御用達の銀盆】


 アースカイ王国王宮が抱える職人たちの手によって製作された銀盆。


 細かい装飾は職人達の技術の結晶、王宮御用達の品なのでアースカイ王城内以外の場所で見ることは極めて稀。




「おっ、できた! ってこれ王宮御用達のお高い品物だったのかよ……」


「先ずは無事に【鑑定】を取得できたようだな。これは俺の予想だがこの世界におけるスキルってのはざっくり言えば”仕事や作業に慣れた結果”ではないかと思っている。”初めて仕事を教わる時は効率も速さも悪いが、仕事に慣れると効率や速さも段違いになった”みたいな感じにな」


「なるほど、仕事がバリバリ出来る人程スキルはいっぱい持っていると」


「そう言うこった、先ずはスキルをある程度取っておこうか」


 因みに謎の声に関しては斬波も説明がつかなった。まぁ実害があるわけじゃないからいつか分かればいいでしょうでこの場は済ませた。




――――――――――――――――――――




 一時間後。




「いいかぁ? 魔力操作は先ず魔力を感じるところからが肝心なんだ。体内のオーラ? 気? みたいなのを練るんだよ、ハ○ターXハ○ターの念能力みたいな? 中二病とか気にしないでやってみな」




 今現在、優之介は斬波の指導で【魔力操作】のスキルの取得訓練中だ、斬波が漫画やアニメのギミックを用いて説明してくれるのでとても理解しやすかった。そしてスキルを取得すると同時にまた謎の脳内にアナウンスが流れる。




 ―スキル【魔力操作】を覚えました―




「いぃよっしゃああ!」


「やったな、ウェイ!」




 優之介と斬波はパァン! とハイタッチを交わす。




(うん、スキルを取得できたら達成感が新鮮でとてもテンションが上がるなぁ)




 優之介は【鑑定】【鑑定妨害】【魔力操作】のスキルを取得し、ついでにレベルも上がった。




名前:夢咲 優之介


種族:人間/性別:男/年齢:19


レベル:2


職業:なし


称号:異世界人


攻撃力:100


耐久力:90


魔力:45


敏捷:30


運:25


スキル:【鑑定】【鑑定妨害】【魔力操作】


加護:???




 レベル1の時よりも若干ではあるがステータスが確実に上がっているのは喜ばしいことだし、何より超ファンタジーっぽい。せっかく【魔力操作】のスキルを覚えたんだから魔法とか使ってみたいと優之介は思っていたりもする。




(座禅を組んで気を練る様な感じで瞑想すれば魔力のステータスも上がるのかな? 後で実験してみよう)




 とまぁこんな感じで野郎二人、スキル取得の話に花を咲かせているときに優之介はふと疑問に思った。




(スキルってコツとか理解すれば簡単に習得できるものなのか? いや、いろんなロールプレイングゲームをプレイしたり、ライトノベル作品を読んだりした経験上、スキルの取得自体に難のないものは数多くあったけど、いざ自分がってなると違和感がするなぁ……)




 優之介が過去にプレイしたゲームのシステムは、モンスターを倒して獲得した経験値をスキル習得に割り振ったり、別の作品では特定の素材を消費することで能力が開放されたりと方法は様々だった。


 優之介が物思いにふけっていると、ソファーの上で胡座をかいた姿勢で斬波が優之介に話かけてきた。




「今の段階じゃあスキル取得はこんなもんでいいだろう、焦っても何もいいことないしな。優之介、今お前”スキルの習得がこんなに簡単なもので良いのか?”なんて思わなかったか? スキルがどのように取得されるのかは一旦置いておくとして……、この世界の人間は何らかのスキルを持っていて、それを仕事や私生活に役立てているのは間違いないだろう。実際に王女様も何個かスキルを持ってたし、この世界では魔法が当たり前だしなぁ」




 斬波は聞き逃さなかった、ソフィーリアが「使用できる魔・法・やスキル等を表示することが可能」と言ったことを。


 ソフィーリアの台詞からしてこの異世界では魔法が日常的に使われていると予想した斬波は魔法使いが魔法を発動する為に魔力を集めるようなイメージで手に神経を集中させていたら”空気中に何かまとわりつくもの”と”体内を流れる血液以外の何か”を感じたらしく、その何かを追求したら斬波の脳内に謎のアナウンスが流れ【魔力操作】のスキルを取得した経緯があった。


 結果【魔力操作】のスキル取得でこの世界には魔法が存在することを確信した斬波はその事を優之介に教え、今に至る。




「でも憧れの魔法が使えるのはめちゃめちゃ嬉しいですね♪ 早くゲームやラノベみたいに魔法を使ってみたいですよ」


「まぁ、そう焦るなよ。それよりもだ、ここがファンタジーな世界なら…………」


「ファンタジーな世界なら」


「エルフ! 生エルフが見たい! 超見たいッ!!お前もそう思わないか!?」




 ズコオオオオオオオオオオオオオオッ!


 突拍子もなく斬波がそんな事を言い出したので優之介は盛大にズッコケた。




「まったくもう……、見たくないと言えば嘘になるけど今そこ気にするんですか?」


「ファンタジーを語る上でぜっっったいに外せない案件だ、せっかく異世界にいるんだからエルフのお友達の一人や二人作りたいではないか!」


「はぁ……」


「あ、あと今までさらっと流してたけどいつまで俺に敬語使ってるんだ? 俺とお前の仲じゃないか、敬語は紳士的で良いけど俺にはいらねぇよ」


「いやぁ、でも一応年上だし……」


「はぁ……、同じ養護施設で十年以上共同生活した仲にそんな事を言うのか? 無粋なやつめ。まぁいい、そのうち五分の盃を交わそうじゃないか、お前の敬語はその時までだ。いいな?」


「俺達ヤクザじゃな―」


「い、い、な?」


「へぃ……」


(エルフのお話から急に俺の敬語に話を変えるんだからこの人は自由だなぁ……)




 優之介は斬波の言動を聞いて彼と自分の人生の今までを振り返っていた。


 実は優之介と斬波はそれぞれ親のいない孤児で、幼い時から同じ児童養護施設で共同生活を送っていた過去がある。年が五年離れていたが年齢が近かった事がきっかけにすぐに仲良くなり、よく一緒に遊んだり、食事を共にしていた。優之介や斬波の他にも施設に入ってる子供もいたけが優之介と斬波はいつも一緒だから周りからは兄弟みたいってよく言われていた。


 ただ特殊な環境にいたので、ごく普通の家庭の子供達からは冷ややかな目で見られていたのは、今でも嫌な記憶として二人の脳内に残っている、多少のいじめもあったが斬波が喧嘩で返り討ちにしてくれていたので心の傷としては浅く済んでいる。




(施設や学校内のいじめや喧嘩の時はいつも斬波さんに助けてもらってたっけ、辛いこともあったけど斬波さんと過ごした日々は温かかったな。そして斬波さんは喧嘩めちゃめちゃ強かったな……)


「わかりました、その時までは俺の自由にさせてもらいます」




 ―コンコンコン。


 俺達が滞在している部屋の扉がノックされた後、メイドが扉越しに話しかけてきた。




「ユウノスケ様、シバ様、これから食事会が行われます。ご案内いたしますのでご同行願います」




 メイドの言葉に斬波はぼそっと呟いた。




「正直、魔王討伐とか食事会とかいいからとっととこの王城を出てのんびりしたいんだがなぁ……」


「……斬波さん?」


「なぁ、優之介……。お前はどうしたい?」


「…………え?」




 斬波からの突然の質問を突きつけられた優之介は戸惑いを隠せず、困惑してしまった。 

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