第三話 謁見とステータス

 飛行機から放り出され異世界召喚に巻き込まれた九人はソフィーリアと銀髪美女の案内で王城内にある謁見の間に来ていた。


 謁見の間では既に国王と思わしき人物が玉座に座っており、国王から見て右隣にはヨーロッパの貴族が着るような服を着た賢そうな男性が、左隣には銀髪美女と同じ軍服を着た初老の男性が立っていた。




「ソフィーリア、そちらの勇者殿達ををこちらに案内せよ」


「はい、お父様」




 ソフィーリアは国王の要求に淡々と返事をした。国王に返事を返したソフィーリアはこちらに振り向き緊張を解いてくれそうな温かい笑顔で九人に「さ、参りましょう♪」と共に行くことを促した。




「はい、王女様!」


「……あぁ」


「ソフィーでよろしいのに……」




 優之介は元気よく返事をして、斬波は短く返事をして、残りの七人は無言でソフィーリアについて行った。ソフィーは彼女の愛称だろうか、優之介は(申し訳ないけど初対面で馴れ馴れしく接するのもアレなので王女様で勘弁してください)と心の中で呟いた。


 玉座に座る国王のまでの移動中、斬波は平然を装っているが内心警戒していた、斬波は目を細め、調べ物をしているかのような目つきで辺りを見回した。


 優之介は斬波との付き合いは長いのでそのへんの癖も大体理解していた、警戒心を表わにしている斬波を見て優之介も警戒する。正直ソフィーリアの第一印象はかなり良かったので、安心して心に余裕ができたいたがまだ何もわからない以上、警戒心や疑念を解くわけにはいかないかった。


 全員が国王の前に着くとソフィーリアと銀髪美女は一歩前に出て、国王に頭を下げ、勇者、つまり飛行機から放り出された九人を連れてきたことを報告した。




「お父様、こちらの九人が今回、召喚の儀で召喚された勇者様方でございます」


「うむ、ご苦労……。では大まかではあるが余からそなたたちに説明しよう」




 国王は自分に注目が集まることを確認するとゆっくり口を開け、優之介達九人にこう告げた。




「余はアースカイ王国国王、ウェドモンド・レイ・アースカイ、そなた達をこの世界に召喚した者だ。そして余から見て右にいるのが宰相のロウラン、左にいるのが近衛騎士団団長のディムルだ。勇者達よ、はるばる異世界から来て早々で申し訳ないがそなたらにはこの世界に住み、我々の生活を脅かす邪悪な魔王を討伐してもらいたい」




 国王、ウェドモンドはラノベじゃなくても一般家庭用ゲームでも聞いたことあるような台詞を吐いてきた。


 ウェドモンドの言葉で優之介は”国王が””飛行機から放り出された自分達九人を””異世界から召喚した”と理解した。ここで優之介はようやく自分が異世界召喚に巻き込まれた事を自覚できた。


 優之介がこのタイミングで理解できた事を考えると、斬波の”思考速度からなる理解の速さ”は何かしらのスキルか? と考えてしまうが確かめようがないので、優之介は脳内の片隅にそっとしまっておいた。




「(魔王の討伐ねぇ……、こっちに何のメリットもないし面倒なだけだな)」


「(俺もそう思いますよ、いきなり言われても嫌ですとしか言えないですよ)」




 斬波は乗り気ではない、むしろ嫌そうだ。勿論優之介もいきなり魔王を討伐してくれと言われてはいわかりましたと言うわけがなかった。


 ウェドモンドの言葉に「異世界!?冗談じゃない!」「元の世界に返してください!」等、優之介と斬波意外の七人は否定的な意見を返すも王様は表情を変えることなく淡々とこう述べた。




「すまないが我々ではそなたたちを元の世界に返すことは不可能なのだよ、元の世界に帰る為には魔王を討伐した暁に、神からの返礼によってこの世界に留まるか元の世界に帰るのかを選択できるとされている、それ以外に方法はない。だから是非とも魔王を討伐してもらいたい、武器や住居など、こちらで提供できるものはできる限りしよう。まぁ……住まいは王城内の一室を使ってくれて構わん」




 ウェドモンドはそうは言っているがやはり皆の顔色は暗い。何せいきなり異世界に飛ばされて魔王を討伐してもらいたいなんて言われても頭の中の整理が追いつくはずがない。ましてや飛行機事故で空中に放り出されたと思ったらいきなりこのような場所に連れてこられたものだから余計だ。


こんな謁見なんて早く終わってくれと心の中で呟いた優之介はふと思い出す。




(あの後飛行機に乗っていた他の人達はどうなったかなぁ? みんな助かっていればいいけど……)




 海に不時着した飛行機の事に関しては確かめようがないので、優之介は考えるのをやめた。


 それはさておき、これでウェドモンドの話は終わったと思われたが、ふと思い出したようにウェドモンドが話を続けた、話はまだ終わっていなかったようだ。




「さて、勇者諸君らはまだ異世界から召喚されたばかりだ、心の整理が追いつかず疲れているであろうから早速部屋に案内させたいのだが、一つ頼みがある。そなたらのステータスを見せて欲しい」




 ウェドモンドが優之介達九人にステータスを見せて欲しいと要求してきた。しかし、いきなりステータスを見せて欲しいと言われてもどうすれば良いのかわからない。ゲームならスタートボタンを押せば画面上に表示されるようになっていることが殆どだが、これはゲームではない。困惑する九人にウェドモンドが質問した。




「なんだ? そなたらの世界にはステータスが存在しないのか?」


「ステータスが存在しないわけではない」




 ウェドモンドの質問に答えたのは斬波だった。




「ステータスと言う単語はある、ただ自分の能力を人に見せることが出来るようにはなっていない。その人の性格や、運動能力、精神力を大体的に見てこの人はこんな能力を持っていると判断するのだ」


「お主……」


 斬波の言葉遣いにピクリとディムルが動いたがウェドモンドが手でそれを制した。




「良い、ディムル……。我々が無理矢理異世界から呼んだのだ、これくらいは大目に見ろ。しかし困ったな、そなたらの世界はステータスを見ることができないのか? こちらでは他人が見やすいように自分のステータスが表示できる。ソフィーリア、皆に見せてみよ」


「はい、お父様」




 ソフィーリアは二、三歩前に出ると体を振り返り「ステータス・オープン」と唱えてみせた。するとソフィーリアの前に画面のようなものが表示され空中に浮いている光景が九人の目に飛び込んだ。




「こちらの世界ではこのように自分の身体能力を数値化したり、使用できる魔法やスキル等を表示することが可能なのです」 


「す、すげぇ……」


「どんな原理で表示されてるんだ? ホログラム? いや、違うな……」


「どのような原理で表示されるかは私達にもわかっておりません。それでは、これから皆様にはご自分のステータスを確認していただきます。”ステータスオープン”と唱えてみてください」




 優之介は(ファンタジーなシステムだなぁ)と思いつつ素直に”ステータスオープン”と唱えてみた。


 すると空中に画面のようなものが浮かび上がりそこにはこう表示されていた。






名前:夢咲 優之介


種族:人間/性別:男/年齢:18


レベル:1


称号:異世界人


攻撃力:75


耐久力:50


魔力:10


敏捷:20


運:15


スキル:なし


加護:???






(これが俺のステータス……)


 優之介は自分のステータスを見て感心した、まるでゲームの世界で自分がキャラクターとして入り込んだような気分になったからだ。


 流石に異世界に召喚されたばかりだからかレベルはやはり1だった、強くてニューゲームとはいかないようだ。他の七人のステータスも横目で見たけどやっぱり皆レベルは1だった。




「ふむ、皆ステータスはレベル1のようだな、因みにごく普通の兵士のレベルが23~30代だがそれはあくまで目安である。ステータスは鍛錬を行うことでレベルと数値を上げることが可能だ。ただ、鍛錬を偏るとステータスも偏るので鍛錬の方法には気をつけるようにしたまえ」




(俺、普通の兵士より弱いやん……。まぁ、戦闘経験とか積んでいないごく普通の一般人だから当然ちゃ当然だけどさ…………)




 優之介は心の中で強くなろうと誓った。そして、みんな思い思いに自分のステータス画面を眺めているが斬波だけが何もせずにじっとしていた。斬波は自分のステータスを確認しないのか疑問に思ったソフィーリアは斬波に質問した。




「シバ様はご自分のステータス画面をご覧になられないのですか?」




 ソフィーリアの質問に斬波はため息を吐きながら気だるそうに答えた。




「後で周囲に誰もいないところで確認するさ。今ここで”自分の個人情報”を公開したら弱みを握られるだけだろう」


(ちょ!?普通そこまで考えないって! 誰だって素直にステータスオープンって唱えちゃう場面でそのリスクを指摘できる斬波さんパネェっす……。やっぱり思考速度が速くなるようなスキル持ってるんじゃないですか?)


「貴様! 王女殿下になんて無礼な!」




 斬波の指摘を聞いた優之介と他の七人は皆焦りだした、斬波の発言に対し騎士の一人が声を上げるがソフィーリアがそれを制止した。




「構いません、シバ様の言う通りですわ。皆様、開いてるステータスは”クローズ”と唱えれば消えます、お試しになってください」




 皆が皆”クローズ”と唱えると各々のステータス画面が消えていく、もちろん優之介もステータス画面を消し、安堵の表情を浮かべた。


 それにしても、今現在のステータスではとても魔王とか倒せそうなステータスじゃない、どうすればステータスが上がるのかはウェドモンドが鍛錬と言っていたけど他に方法がないかどうかは今後の課題だなと優之介は思った。




「異世界人はステータスが上がりやすいのかどうか見たかったのだが、確かにその通りだ。この世界においてステータスの開示は個人情報の開示だ、信頼の置ける人物以外にやすやすと見せてはいかんぞ。ふむ、今現在の段階ではここらへんで良いだろう、正式に魔王討伐を受けてくれるかはまた後日聞くとするので考えておいてくれたまえ。では、謁見はこれにて終了する、後は任せた」


((ステータス開示を要求した後にそれを言ったら好感度ダダ下がりだぞ国王))




 優之介と斬波は表情に出ないように心の中でツッコミを入れた。


 ウェドモンドが謁見の終了を宣言するとロウランとディムルを連れてそくささと何処かへ行ってしまった。ウェドモンドが謁見の間からいなくなると、ソフィーリアが玉座の前に立ち、九人に向かってこう言った。




「それではこれから皆様の居住スペースとなる部屋にご案内します、今後の予定等はメイドに伺ってください」




 ソフィーリアがそう言うと、どこからかメイド達が現れ「こちらでございます」と言って優之介達九人を部屋に案内する。


 七人はメイドさん達について行く、七人とは少し遅れて優之介と斬波も一緒について行った。

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