第2話 ずれてく日常

散歩で疲れた日から数日、またコタローたちにも会う事もなくいつもの散歩道に。

夕日が沈むのも少し遅くなり、初夏を思わせるような心地よい川沿いの道。

海まで続いてるこの道をいつも決まった場所で折り返す。

川には鴨も泳いでいる。

ジョギングの人、犬の散歩の人、ただの通行人、色々な人がいる。

自分は他人の目からはどう映っているのか。

そんな事もたまには考えたりして。

ただ縛っただけの長い髪に、厚めの前髪、黒縁のメガネに、ほぼノーメイクの、凄く地味な見た目。

身長は160cmで、痩せ型。

ただ、その地味な見た目のおかげであまり目立つ事なく生活できている。

それはそれでいいのだ。


『うわーっ、』

バタッ ドサッ


目の前でジョギング中の男性が軽く転倒。


かすみ「あの〜、大丈夫ですか?」


軽い転倒だとはいえ、さすがに目の前なので無視はできないのだ。


男性「あーっ、すいませーん。」


パンッ パンッ

トレーニングウェアをほろってすぐに立ち上がる男性。

歳は近そうで、爽やかな見た目で、自分の周りにはいないようなタイプの人だ。


男性「いや〜、ドジですねっ、ハハハッ。」

男性「びっくりさせちゃいましたね。」

かすみ「いえっ、全然大丈夫です。」

男性「いつも走る道なのにドジですよね。」


…いつも通ってた人なんだ。


そんな事を考えて。


男性「ここ走りやすくて好きなんです。」

かすみ「はー、そうなんですね。」


既に帰りたいと思いはじめてるかすみ。

そんな事など関係なく、


男性「いやっ、夕日を見て走るのが好きなんです。綺麗だし。」

かすみ「あっ、はー。」

男性「この時間でもまだ暖かくて、いい季節になってきましたよね。」

男性「このくらいの気温がホント丁度いいですよね。」

かすみ「あ、はー。」


なんか1人で凄く話してる。

申し訳ないけどあまり会話が入ってこない。

早く帰りたい。

そんな事ばかり考えて。


男性「あっ、なんかさっきから僕1人で話してますよねー。」

男性「すいません。なんか。」

かすみ「いやっ、大丈夫です。」

男性「それじゃー!」


勝手に転んで、勝手に話して、勝手に走り去っていった。

やっと帰れる。

最近この道で誰かと話す事が多い。

だが、こんないい散歩道は他にはない。

多少は我慢する事に。

なんか不完全燃焼のまま帰宅。

爽やかではあったが、やはり人と話すのは疲れるから嫌なのだ。

明日からはまた1人の世界で。


ザーッ


今日は朝から雨が降る。

傘をさして通勤。

職場に着く頃もまだ降り続いていた。

いつもと同じ仕事で、同じ時間の流れの中あっという間に1日が終わる。

帰り道は小雨になっていた。

家に着く時には雨はあがり空には晴れ間も。


…散歩行こうかな。


川沿いの道に着く時には晴れ間が広がり、空には大きな虹が。

立ち止まり虹を見る。

こんな景色も結構好きなのだ。


わんっ わんっ


かすみ「あっ、コタローくん。」


わんっ わんっ


かすみ「あれ?またはぐれたの?」


周りにはコタローしかいない。

一緒に待つことに。

かすみの横でお座りをするコタロー。

ならんで虹を見る


かすみ「綺麗だね。」


男「あっ、いたーっ!」


わんっ


男「あっ、こんにちは。」

かすみ「こんにちは。」

男「すいませんね。何度も。」

かすみ「大丈夫です。」

男「んっ?虹でてるんですねー。」

かすみ「はい。」

男「ホントにコタローあなたになついてますよねー。」

男「こんなに大人しく座って。」

かすみ「お利口さんです。」

男「全然人に寄っていかないんですよね。普段は。」

男「あっ、ホントごめんなさい。」

かすみ「大丈夫です。」

男「それじゃ、またっ。」

かすみ「それじゃあ。」


ボサボサの髪を揺らしながら、少し体格のいい男がコタローと走ってゆく。

コタローはホント可愛いい。

最近の唯一の友達みたいな。

ただ、人と話すのはホント嫌だ。

知らない人と一緒に虹まで見て。

今日も知らない人と話した。

今まではこんな事なかったのに。

ホントどうしたのだろう、最近は。

ゆっくり歩きながら帰宅。

虹は綺麗だったが、完全1人の世界ではなかった気がする。

なんか違う。

しっくりこない。

だが、生きていればこんな事は当たり前の事なんだろうけど。


ザーッ


昨日の虹が嘘みたいにまた雨が。

天気予報は時々雨って感じだったので、早くやむといいのだが。

帰り道、パラパラ小雨が降っているがすぐやみそうな空模様。

だんだん晴れ間が出てきて、昨日と同じような感じに。

家に着く頃雨は降ってないので散歩に。

また虹が出ている。

2日連続で虹を見る。

なんかいい事ありそうかも。


男性「いやー、綺麗な虹ですねっ!」


この爽やかな人は、

先日走って転倒してたあの…


男性「あっ、先日はどーもっ!」

かすみ「えっ、あっ、どーもです。」

男性「うーん。綺麗な虹だ。」

男性「なんかいい事ありそうですねっ。」

かすみ「はー。」


爽やかなんだが、どうもこのテンションにはついていけない。


男性「いつもこのくらいの時間に?」

かすみ「はい。」

男性「散歩?ですか?」

かすみ「はい。」

男性「この道いいですよねー。」

男性「海まで走って行けそうで。」


…帰りたい。勝手に海まで行ってー!


早くこの瞬間から抜け出したいのだ。


男性「虹、消えちゃいましたね。」


…お願いっ!どうか一緒に消えてください。


男性「じゃあ、またっ!」


…あっ!?願い叶った!


かすみ「あっ、どーも。」


せっかく綺麗な虹が出てるのに、しかも2日続けて。

なのに、なんで2日続けて他人と見なければならないのだろうか。

いい事なんかなかった。むしろ逆だ。

小さな頃から人が苦手で、友達も少なく、必要以外人と接点をもたなかったのに。

この数日はどうかしてる。

よかった事はコタローに会った事くらい。

その他はなくてもよかった。


『明日はいい天気になりますように。』

『そして1人でいれますように。』


小さく空にお願いをしてみた。

沈む夕日が、そっと夜を連れてくる頃に。


第3話に続く







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