第3話 新たな自分
朝からジリジリと日差しが痛く、そろそろ夏と言っていいような通勤路。
夏はあまり好きではない。
みんなが外に出るようになるので、通勤や散歩も人が多い。
職場も夏用の制服にかわる。
昼も食堂で冷たい麺を食べる日が多くなってきた。
帰り道も結構暑い。
そろそろ夕方なのにまだ陽が高い。
いつものように散歩に。
川沿いの道もまだ昼間みたいで、気温も全然下がらない。
夕日まではまだ時間があるが、いつもと変わらない場所で折り返す。
男性「あれ?こんにちは。」
この爽やかな感じは、
かすみ「あっ、どーも、こんにちは。」
やっぱり苦手なタイプである。
男性「いやー、よく会いますね。」
かすみ「はー。」
男性「僕、セイヤっていいます。」
…えっ?いきなり自己紹介?嫌だなぁ。
セイヤ「あらためてよろしく。」
かすみ「あの、かすみっていいます。」
…あー、早く帰りたい。
セイヤ「かすみちゃんかー、よろしくね。」
かすみ「あっ、よろしくお願いします。」
セイヤ「かすみちゃん散歩好きなの?」
かすみ「はい。」
セイヤ「いつも散歩してるんだー。」
かすみ「はい。」
セイヤ「運動はいいですよねっ。」
かすみ「あ、やる事他にないし。」
セイヤ「趣味とかはー?」
かすみ「いいえ。とくに。」
…なんだ?職務質問か?これは。
セイヤ「そっかー。でも、毎日散歩してて健康的でいいと思うよ。」
かすみ「はー。」
…あ〜、早く帰りたいよー。
セイヤ「この道海までいけるんだよね。」
かすみ「はー。」
セイヤ「行った事あるー?」
かすみ「いいえ。」
セイヤ「なんか4kmくらいだから歩いて行けそうだよねー。」
…どうぞ。勝手に行って下さい。
セイヤ「行ってみたいよねー。」
…どうぞ、どうぞ。
セイヤ「今度一緒に歩かない?海まで。」
かすみ「えっ!?」
セイヤ「あっ、すいません。いきなりこんな事言っちゃって。」
かすみ「はー。」
セイヤ「でも、今度行きましょうね。」
かすみ「えっ?あっ、はー。」
セイヤ「それじゃ、またっ!」
いきなりの自己紹介。
いきなりの誘い。
軽い会話だが、かすみにとっては重い。
初めての事で少し戸惑い。
悪い気はしないが、いい気もしない。
1人の散歩の世界がなんか違う。
わんっ わんっ
かすみ「あー。コタローくん。」
わんっ
男「こんにちは。」
かすみ「あっ、こんにちは。」
男「ホント、コタローはあなたの事大好きみたいですねっ。」
かすみ「それはうれしいかも。」
男「あれっ?なんか疲れてます?今日。」
かすみ「えっ?」
男「なんか下ばっかり向いてるし。」
かすみ「あっ、なんとなく。」
男「上向いたら元気になりますよ。」
男「あっ、なんかテキトーな事言ってごめんなさいっ。」
かすみ「あっ、いえっ。」
男「それじゃっ。」
かすみ「はいっ。それじゃー。」
今日は全然1人になれない。
だが、コタローは最近の癒しかもしれない。
コタローに会うとホッとするのだ。
それにしても今日は疲れた。
初めて男性に誘われた事が少し頭に。
…私なんかと一緒に?本気かなー?
少し間に受けて考える自分がいる。
自然に鏡の前に。
あまり普段見ない自分。
…こんな私と一緒に歩きたい?まさか。
髪をほどいたり、メガネを外したり。
…あんな爽やかな人の隣に私?いや、ないな。
色々頭によぎる。
こんな事考えてる自分を今まで知らない。
初めての自分。
世の中の女の子はみんなどうだろう。
こういう時どうするんだろう。
そういう事を話せる友達もいない。
…海、一緒に行ったほうがいいのかな?
さっきまで会話も面倒くさいと思っていたのに、不思議と今は違って感じてる。
つい最近まで知らない人だったはずのセイヤが頭に浮かぶ。
普段他人の事なんてあまり考えないのに、セイヤの事を色々考えてしまう。
…なに浮かれてるんだ。自分は。
少し冷静になってきた。
軽い会話の軽い誘いで浮かれてる自分が急に虚しくなってきた。
そう思うとバカバカしくもなってきた。
今日はもう寝よう。
セイヤ『でも、今度行きましょうね。』
また急に頭によぎる。
なんだか自分でもよくわからない。
明日には考えないようになってるさ。
自分にそう言い聞かせて。
ミーン ミーン
今日は休みだが用事もなく家にいる。
セミの鳴き声をききながら、エアコンの風が気持ち良い。
…あー、もう夕方かー。散歩行くか。
少し早いが散歩へ。
時間も早いので川沿いの道から川の淵まで行ってみる。
川の浅瀬では遊ぶ親子もいる。
少し座って休む。
なんか気持ちが良い。
人もそれなりにいるが今日は珍しく気にならない。
こんな清々しい感じは、最近あまりなかったかもしれない。
わんっ
かすみ「あっ、コタローくん。」
男「こんにちは。」
かすみ「こんにちはっ。」
男「あれー?この前と違ってなんかすごく明るい感じですねー。」
かすみ「えっ、そうですか?」
男「隣、座ってもいいですか?」
かすみ「はい。どうぞ。」
男「いやー、今日もコタローあなたにベッタリですね。」
かすみ「いいんですよ。私、コタローくん大好きなんで。」
男「そー言ってもらえるとうれしいな。」
男「それにしても、なんかいい事とかあったんですか?」
かすみ「えっ?そんな感じします?」
男「先日お会いした時が元気なかったんで、そう思うのかもしれないんですけど。」
かすみ「そうだと思います。」
男「ここの場所気持ちいいですね。」
かすみ「そうですね。気持ちいいです。」
男「こうやって座ってるだけで、なんか癒されますよね。」
かすみ「私はコタローくんに癒されてます。」
男「ありがとうございますっ。」
男「コタローもよっぽどあなたの事が好きみたいですね。」
かすみ「最初にコタローくんに会った時、あなたが来るまでずっとお話ししてたんです。」
男「あっ、最初にお会いした時ですね。」
かすみ「その時から私の友達なんです。コタローくんは。あっ!?すいません。勝手に。」
男「ありがとうございます。コタローもきっと喜んでると思います。」
かすみ「最近コタローくんに会うの結構楽しみにしてるかも。私。」
男「きっとコタローも楽しみにしてるはずですよ。あなたに会う事を。」
今日は人との会話も嫌に感じなかった。
多分コタローがいるからだろう。
自然に他人と触れあえてる。
そして、今まで見たことのない新しい自分を見つけた気がした。
第4話に続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます