【解決編】 第8日目
第48話 【解決編】 到着8日目・朝
「誰かぁ!? ジニアスを助けてぇえっ!!」
そんな悲痛な叫び声が聞こえたのが、この日の朝の始まりでした。
日が昇るまで絶対に部屋から出てはいけない。
そう昨夜、みんなで確認したはず……。
なのに、この叫び声が聞こえたのは、朝日が登る数十分も前のことだったのです。
午前8時前、7時半ごろのことでした。
「ジェニー警視! 聞こえましたか!?」
「ああ! キノノウくん! まだ夜明けまで少しあるが……。緊急事態だ! 急いで行くとしよう!」
「コンジ先生! 何があったのでしょうか!?」
「……ま、まだわからないな。とりあえず、行ってみよう。」
コンジ先生、ジェニー警視、……そして遅ればせながら、ジョシュア。
急いで現場と思われる『左翼の塔』側2階へ急ぐ。
「あ! メッシュさん!? もう駆けつけてくれていたんですね?」
「ああ! みなさん! へい! あっしは早起きでさぁね。ですが、何も見当たりませんですぜ?」
廊下にいたのは、メッシュさんでした。
しかし、他には誰の姿も見えません。
おかしいですね……。
この2階から声が聞こえたのは間違いないのですけど……。
「スエノさんは? さっきの声はスエノさんだろう……。」
コンジ先生が素早く、スエノさんの部屋の前に移動する。
「スエノさん!? 無事ですか!?」
ジェニー警視がスエノさんの部屋の中に向かって声をかける。
スエノさんの部屋の扉はきっちり閉められている。
『銀の粉』が光っている。
「はい! 私は無事です。だけど……、ジニアスが! ジニアスがっ……!」
部屋の中からスエノさんの声がした。
良かった。
スエノさんは無事なようです。
そして、スエノさんが自室のドアノブに巻いたワイヤーを外し、扉を開けて部屋の外に出てきた。
「お待たせしました。ジニアスが私を助けるために一人で人狼に向かっていったのです! ジニアスは!? 彼はどこに!?」
「スエノさん! ジニアスさんは一緒だったのですか?」
「はい。夜の間、ずっと一緒でした。そして、さきほど夜が明けたと言って…。ああ!? メッシュ! あなた!?」
スエノさんはメッシュさんを見て、怯えだした。
「お嬢様! ご無事でしたか!? って……、ど、どうかしやしたか……!?」
「お……、おまえっ!! さっき、私の部屋に来た人狼じゃあないのか!?」
……え?
メッシュさんが?
人狼……?
「キノノウ様! ジェニー警視! このメッシュが私の部屋を訪ねてきたのです! 人狼はメッシュに化けているのです!」
スエノさんが叫んだ!
「なんだって!? メッシュさんが!? どういうことですか?」
ジェニー警視が素早く、メッシュさんの両手を後ろ手にし、取り押さえていた。
「いえ……! あっしじゃあありませんよ!?」
メッシュさんがそう言って、抵抗しようとする。
「ジェニー警視。メッシュさんを離してあげてください……。スエノさんも落ち着いてください。スエノさんのところに来た人狼はメッシュさんに化けていたのでしょう。ですが、今、ここにいるメッシュさんが人狼ではないのです。」
「え……? そうなのですか?」
「スエノさん……。話は後です! ジニアスさんはどこへ行ったのですか?」
「ああ! そうでした! ジニアスは襲ってきた人狼から私を守るため、廊下に飛び出していったのです! そして……、人狼は彼の後を追って、階段を下りて行きました!」
スエノさんが証言する。
「ジェニー警視! 1階へ急ぎましょう!」
「わかった! キノノウくんがそう言うなら、メッシュさんの件はとりあえず信じよう。メッシュさん、すまなかったな……。」
そして、全員で急いで1階へ下りました。
廊下を見ても何も跡が残っていません……が、玄関ホールの扉は開けっ放しになっていました。
その向こうに見える玄関のほうに……。
玄関ホールの中に雪が舞い込んでいた。
だが、玄関前に、血溜まりが見える……。
赤い。
鮮血の赤……。
たった今、飛び散ったかに見える赤の溜まり。
それが見えた。
「あれは!? 血……。外に逃げたのね!?」
外へと続く血……。
玄関扉が開きっぱなしだった。
だから、館内に雪が舞い込んでいたのだった。
「ジニアス! 外へ逃げたのね!?」
スエノさんが叫ぶ。
「ふむ……。この血の乾き具合からすると、襲われてまだ間もない……。そして、外の吹雪が止み始めている……。ひょっとすると……、ジニアスさんは外へ逃げたのであれば、まだ生きているやもしれない!」
「ええ!? コンジ先生! 本当ですか!?」
「ああ。人狼も外まで深追いしなかったと見える……。ほら!? 足跡がジニアスさんと思われるものが一対だけしか外へ向かっていないだろう?」
「本当だ! キノノウくん! さすがの観察力だな!?」
「……となると、ジニアスのだんなは、あの吹雪の向こうに……?」
「そうだな……。雪が止めば、この『或雪山山荘』へ戻ってこられるかもしれない……。」
「今すぐ! ジニアスを助けに行かなきゃ!」
スエノさんがそう叫んだ。
「スエノさん……。それは危険だ。吹雪は止み始めているとは言え、まだ迷ってしまう危険がある。」
「そんな!? ジニアスを見捨てろっていうんですか!?」
スエノさんが憤って反論する。
そこまで黙って聞いていたコンジ先生がスエノさんに向かって冷たく言い放ったのだ。
「スエノさん……。そんなにジニアスさんが心配なら、なぜ、ジニアスさんが人狼と出会って逃げていた時、あなた自身は部屋の扉の鍵をかけて部屋の中に閉じこもっていたんですか? もちろん……、危険に身を晒せって言いたいのではありませんよ? 今も同じく外に出るのは危険だと申し上げているのです。吹雪はもうすぐ止みます。止んでからみんなでジニアスさんの捜索に向かいましょう……。」
「……っ! そ……、それは……。」
スエノさんはそれ以上反論はできませんでした……。
そして、私たちはそれから小一時間の間、吹雪が完全に止むのを待ってから、ジニアスさん捜索に向かうのでしたー。
****
雪も止んだようで、みんな揃って来たときと同じように、厚手の服に着替え、館の外へ出ました。
この1週間、猛烈な吹雪に閉じ込められていたのですが、ようやく晴れたのです!
この辺りの天気は7日吹雪くと1日晴れる特殊な天気と聞いていました。
そして、今日がこの館に来て、ちょうど8日目なのです。
……ということは、今日1日は晴れるのです。
だから、今日が麓の村まで助けを求めに行けるチャンスというわけです。
もし人狼が館内や、あるいは館周辺の森に隠れ潜んでいたとしても、昼間の間なら襲われることはありませんからね。
そういうことで、みんな一同に着替えて、麓の村まで向かいながら、ジニアスさんを捜索しようということになったのでした。
コンジ先生、ジェニー警視、スエノさん、メッシュさん、そして……ジョシュア。
「じゃあ、みなさん! 準備はいいですか!?」
そして、先頭に立って、後ろを振り返り、みんなに声をかけました。
みなさん、そろって横一列に並んでいます。
「じゃ、出っ……発ーっつ……!」
と、そう言った時ー。
後ろから誰かがジョシュアを、ギュッと抱きしめたのです!
え……!
誰……?
なんと……。
コンジ先生でした!
コンジ先生がなんと、後ろからジョシュアを抱きしめているのです……。
「つかまえた……。もう、離さないよ?」
コンジ先生が後ろから耳元でささやく……。
ええ……!?
まさか?
愛の告白……!?
きゃぁああ!?
どうしましょう……!?
そして、突然の出来事にうろたえていると……。
コンジ先生がさらに、こう言ったのです!
「人狼……。捕まえた! もう逃しはしないよ?」
~続く~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます