第49話 【解決編】 到着8日目・朝その2
「人狼が……、私……!? 」
狼狽するジョシュア……。
背後からそのジョシュアを抱きしめるコンジ先生。
……というか、抱きしめているのではなく、逃さないように捕まえているのでした!
「コンジ先生!? 冗談はやめてください! 私がどうして人狼なんですか!?」
「それはオレが聞きたいくらいだっ!? 本物のジョシュアをどこへやったのだ!?」
コンジ先生が怒ったように叫んだ。
「キノノウくん……!? いったい、どういうことなんだ? ジョシュアくんが人狼だって……?」
ジェニー警視はコンジ先生にそう問いかけながらも、素早く手錠を取り出し、ジョシュアの両手を後ろ手にし、手錠をかける。
さすがは熟練の警察官ってところか、反射的に容疑者を確保するのだった。
しかし、当のジョシュアも、何が起こったのかまったくわからないといった不思議な表情をしていて、特に暴れたりする素振りは見えないのでしたが……。
「キノノウ様? ジョシュアさんはあなたの助手ではないですか!? それが人狼とはいったい……?」
「そうですぜ。キノノウ様。そんなこと……、あるはずがありませんや……。」
スエノさんもメッシュさんも信じられないといった様子でした。
「コンジ先生! 説明してください! 私が人狼のはずないじゃあありませんか!? まず、いつ私が人狼に成り代わったというのです!?」
「うむ。そうだな。順を追って説明しようじゃあないか! ジェニー警視。そのままジョシュア……、いやさ人狼を押さえていてくださいね?」
「あ……、ああ。それはかまわないが、本当にジョシュアくんが人狼なのかね? 人狼が館に侵入してきたと思われる最も怪しい人物は、カンさんとメッシュさんではなかったか? 今となってはメッシュさんしか残っていない……。だから、私はてっきり……。」
メッシュさんが驚いた顔をしてジェニー警視を見たので、ジェニー警視も黙ってしまった。
「そう……。思い出してください。アイティさんが殺害され死体が発見された第2日目のことです。電話線が切れ、連絡手段が絶たれこの館に閉じ込められたと判明した日のことです。」
「ああ。たしか、人狼がどこへ消えたか……ということもありましたが、どこから入ってきたか? ということが謎だったんですよね?」
スエノさんがそう発言する。
「そう! スエノさん! エクセレント! 前日の夜23時ごろカンさんが戸締まりをしてから、翌日まで館中の扉や窓は閉まっていた。つまり、それ以前に人狼は館内に侵入してきたことは間違いなかったですよね?」
「そうでしたな……。それであっしとカンが疑われているってことでさぁね?」
メッシュさんも自分が疑われていたことに気がついた様子です。
「人狼は館へ侵入してくる前は、野生の狼と同然。館の2階や3階の窓から出ていくことはできても、侵入してくるとこはなかったと考えてよいでしょう。ここまではいいですね?」
「ああ。キノノウくん。それはあの日にも確認したとおりだ。」
「グラッチェ。では、1階から侵入したと考えると、侵入した時点で誰かがすでに犠牲になり、その者に化けてなりすましていたことになる。そこで、アリバイを確認したのだが……。それがそもそも間違いだったんだ!」
「ええ!? どういうことだい? キノノウくん。」
「ええ。あの日の夜はほぼ全員がシャワーの前後30分ほどしか一人きりになった時間がなく、メッシュさんとカンさんだけが1時間ほどアリバイがなかった。それに1階から侵入したと考えれば、メッシュさん、カンさん以外の者は可能性はもちろんゼロではないが、偶然が重なりすぎていると言えよう。」
「ほら!? 私もあの日はシャワーの時間くらいしか一人になっていませんし、容疑度最上位のメッシュさんが人狼なのではないですか!?」
ジェニー警視に後ろ手を抑えられているジョシュアが反論した。
「ああ。だから……。人狼はこの『或雪山山荘』に来た時点で、すでにジョシュアに成り代わっていたのだよ!」
コンジ先生がそう言い放ち、みな黙ってしまいました。
「き……、来た時に? すでに人狼になっていた……って? 言いました?」
ジョシュアがつぶやく。
「そうだ。この館に来る道中、オレたちはカンさんの先導で猛吹雪の中を歩いてやってきた。そして、視界は非常に悪く、お互いの姿も見えないほどだった……。あの時、すでに入れ替わっていたのだとしたら? そう……。第1日目の夜のアリバイなど関係なくなるのだよ。」
「そんな……!? キノノウ様? それが事実だったとして、でも……、夜までどうして人狼は人を襲わなかったのですか!?」
「それは……、食事をたっぷりと取ったからだ。あの日の昼、夜の食事の時間、ジョシュアは非常に大食いだった。ゆえに夜中までそのお腹が満たされていたのだろう……。そして、深夜になって、その欲望……7つの大罪でいうところの『暴食』の衝動が起きたのだろう。」
「な……、なるほど。ジョシュアさんは、あっしの料理をお代(わ)りしてむしゃむしゃ食べなさっていましたもんね……。」
メッシュさんも納得の様子で頷いた。
「でも……、それは、私にも人狼が成り代わるタイミングがあった……っていうだけで、私しか人狼になりえないというわけじゃあありませんよね!? やっぱり、メッシュさんが人狼だっていうことではないんですか? それに人狼はどんどん他の人に成り代わっていくことができるのですから、カンさんだったかもしれないし……、可能性は低いとおっしゃいましたが、第一日目の夕食の時間以降で、戸締まりをした23時までの間、他の人も少なからず一人きりの時間はあったのですから、そこで人狼に襲われたのかもしれませんよ!?」
「そうだったな……。それはジョシュアくんの言うとおりだな。その点はどうなんだい? キノノウくん。」
ジョシュアの反論に、ジェニー警視もそこは賛同する。
コンジ先生は黙って聞いていました。
そして、こう言うのでした。
「ふむ。そのとおりだな。もちろん、ジョシュアにも強く人狼に成り代わり得た機会があったという事実を示したに過ぎない。この1点だけでは、ジョシュアが人狼であると断定はできない。」
「ほら!? でしょ? 早くこの手錠を外してください! ジェニー警視!」
「だが……! その他の事件で、人狼はジョシュアでしかあり得ないという事実を示しているのだよ……。」
コンジ先生が、バァーーーッンン……! って言い放ちました!
「キノノウ様! それはどういうことですの!?」
「ええ……。あっしにもわかるように説明してくださいな!?」
「キノノウくん。つまり……、殺人事件の謎を解いたと言うのだね?」
「ええ……。そのとおりです。オレにはすべての謎が解けた!」
そして、コンジ先生がさらに続ける。
「そして……、このキノノウ・コンジにとって、最も大切なのは『真実に向かおうとする意思』だと思っている。 たとえ……。君が本物のジョシュアじゃあないってわかっても……。オレは『真実』を明らかにする使命がある!」
珍しく、コンジ先生が熱く言うのだった。
そう……。これはコンジ先生の宣誓でもあり、宣言でもあったのです。
たとえ、つらい事実が待っていたとしても、暗闇の荒野に進むべき道を切り開く『覚悟』をしたと……。
『或雪山山荘』の外は、これまでの恐ろしかった吹雪が嘘のように晴れ渡り、その空はどこまでも青く、青く、透き通っているのでした-。
~続く~
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