第47話 到着7日目・夕食~夜
この日、メッシュさんの夕食のメニューは素晴らしかったです。
私としては、これからメッシュさんの料理が食べられなくなるのだろうと思うと、少しさびしく感じるのでしたが、最後かもしれないと思うとなおいっそう美味しく感じるのですねぇ……。
「夕飯の準備が整いましたですぜ! みなさん、どうぞお召し上がってくださいな!」
メッシュさんはその仕えてきた主人がいなくなっても、その職務をきっちりこなしてくれる。
なんていい人なんだろうか!?
BCロール(ブリティッシュコロンビアロール)が、まずは提供される。
この料理は、バンクーバーの日本人寿司職人が発案したとされるロール寿司なんです。
焼き鮭とカリカリの鮭の皮、きゅうり、レタスなどを巻いた寿司の上から甘辛いタレがかかっているものが一般的です。
日本の寿司とは違いますが、とっても美味しいのでオススメですね!
そして次に出されたのが、七面鳥の丸焼きです!
カナダでは、サンクスギビングやクリスマスに七面鳥の丸焼きを、甘酸っぱいクランベリーソースを添えて食べるのが一般的。
なかなか、日本人にはあまり馴染みのない組み合わせですが、これが意外と合うんです。
そして、カナダと言えばメープルシロップ。
カナダではお菓子だけでなく、料理にもメープルシロップを使いますね。
例をあげると、スペアリブや照り焼きなどのソースに使ったり、チーズに合わせたりなどなど……。
また、メープルシロップで甘みをつけたメープルサーモンキャンディーはお土産としても人気があります。
七面鳥にもたっぷりのメープルシロップがかけられていて、とても美味しくいただきました。
料理に合わせたお酒で、シーザーがまた食欲をそそりましたよ。
シーザーは、カナダのアルバータ州カルガリー生まれのカクテルです。
真っ赤な見た目が特徴的で、ウォッカにトマトジュースがミックスされています。
カナダではシーザーの日があるくらい、カナダ人にとても愛されているカクテルなんですよねぇ。
夕食を堪能した私たちでしたが、その間、誰とも言わず、事件についてのことは触れませんでした。
「スエノ! 美味しい料理だね?」
「そうね。うちのメッシュは本当に腕がいいのよ。ね? メッシュ。」
「は! お嬢様。そう言って頂けると光栄ですぜ。……それにしてもスエノお嬢様は明るくなられましたなぁ……。こんな凄惨な事件があったというのに……、はっ!?」
スエノさんがメッシュさんのその言葉を聞いた瞬間に、とても怖い表情をしたのを私は見逃しませんでした。
メッシュさんもそれに気がついた様子で、黙ってしまいました。
「メッシュ……。あなたがずっと父に贔屓(ひいき)にされ、私にも優しく接してくれていたのは私も覚えていますよ? だけど……。今、事件のことを思い出させるようなことは、口にすべきではないことはあなたもわかるでしょう? これからは気をつけなさい……。」
「へい……。申し訳ありません……。」
「まあまあ。スエノ。メッシュさんも悪気があって言ったわけじゃあないんだから……。」
「ジニアス……。あなたのその優しさは大変いいところですよ? しかし、こういうことは使用人としてのしつけなのです。わかるでしょう?」
「……ああ。そうだね。僕もそれはわかるよ……。」
ここに来て初めて会った時のスエノさんは、おどおどした印象があったのですけど、今はそんなところは一切感じない。
やはり、これだけの事件にあって、精神が鍛えられたのでしょうか?
コンジ先生をちらりと視ると、やはり、何か思案をされている様子でした。
「いやぁ、メッシュさん。さすがに美味しい料理だったですよ。」
「はい! メッシュさん! 本当に最高でした! ああ……。これでメッシュさんの料理も食べおさめですかねぇ……?」
「ジョシュアくんは本当に食べることが大好きなんだねぇ?」
「いえいえ! ジェニー警視。普通ですよぉ!」
「ジョシュア様にたいそう気にいっていただき、あっしも嬉しゅうございますよ!」
食事も一段落して、メッシュさんが後片付けを済ませた後、ダイニングルームに私たちはまだ残っていました。
コンジ先生、私・ジョシュア、ジェニー警視、ジニアスさん、スエノさん、そして、メッシュさん……。
もうこれだけしか残っていないのですね。
「ええー……。昨夜も言った通り、そして昼にも確認したと思うが、夜の間は決して部屋から出ないこと! いいか!? 明日は朝が来るまで、絶対に部屋を出てはいけないぞ!? そして、明日、みんなでこの館を生きて出るんだ!」
ジェニー警視がみんなに声をかける。
みんな、黙って頷いた。
こうしてこの日は解散となったのです。
「コンジ先生……。お気をつけて……。」
「ジョシュア……。うん……。そうだな……。」
コンジ先生はこの時、妙に思いつめた顔をしていたのでした。
何か心配事があるように……。
この時、私には彼が何を思っていたかは、決してわからなかったのです。
そして……。
この『或雪山山荘』に滞在してからの最後の夜がおとずれるのでしたー。
◇◇◇◇
~人狼サイド視点~
ふぅ……。ふぅ……。ふぅ……。
苦しい……。
血の渇望の時間がやってきたのだ。
そして、私は思い出す……。
自身が人狼であることを……。
いや、この欲望は人間という種に根ざしたものなのだ!
大罪……、それを犯しているのだろう。
昼の間、成り済ました人物に記憶も性格も委ねているので、おぼろげながらであるが、明日にはこの館をみな脱出してしまうという……。
その後は、人を襲わずに人間の社会で生きていけるのか?
否(いな)っ!! そんなわけはない!
心の奥底の遺伝子から細胞が命令してくるのだ。
人間という種を……。
『喰い殺せ!!』
……とね。
やはり、みな一同に、部屋に閉じこもっているな。
怯えきっている……。
ふん!
なんとか部屋の扉を越えようと考えたが、やはり、銀の物質から生じるあの不協和音が嫌いなのだ。
どうにかして、おびき出すしかない……。
人狼は飢えてよだれを垂らしながら、ある部屋の前にやってきた……。
「……さん? もう朝になりましたよ!」
そして声をかける。
部屋の中から、警戒した声が聞こえる。
「本当に? でも……、あなた一人ですか?」
小賢しい……。
警戒しているのか?
「はい! あっしもおりますぜ! 朝食の準備も整いましたぜ!」
人ならざる者がさらなる変身を遂げ、声色を変えて話しかける。
「ああ!? ……もいるのですか? 二人揃っているなら、安心ですね。待ってください。今、開けます!」
そう言って部屋の中の主は、動き始めた気配がする。
そして、部屋の中から、何やらワイヤーらしきものを外す音が聞こえる。
先程まで、怯えきって警戒心をあらわにしていた者と同じとは思えないほど、安心しきった声が聞こえてくる……。
「ふふふ……。あわれなる子羊よ……。ゆっくりもしていられないが、最後の晩餐になるやもしれないねぇ……?」
人狼が化けたその男は、不敵なる笑みを浮かべながら、夜明け時間まで迫って来ているこのわずかな間隙の時間に、獲物にありつけることを喜んだのだ。
そう……。
決して、自分の正体に気づいている者などいないと完全に油断しきっていたのだ。
それは、『傲慢(ごうまん)』という『七つの大罪』の一つであろうことは、人狼自身も理解していない、人間の業のなせる純粋なる『欲望』であったのだろう……。
思い起こせば、最初の殺害は、純粋なる『暴食(ぼうしょく)』だっただけなのです。
そして、その部屋の扉は開かれたー。
~続く~
※参照
今回のカナダ料理参照は、StaywayMediaさんのサイトの【在住者おすすめ】カナダに来たら絶対食べたい!カナダ料理14選という記事より。
https://stayway.jp/tourism/cuisines-canadian14
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