第46話 到着7日目・昼その2
さて、コンジ先生の部屋に集まった私・ジョシュアと、ジェニー警視でしたが、なかなか話し出す雰囲気にはなりませんでした。
アレクサンダー神父はまだ人狼として、人を喰らい続けようとしているのでしょうか?
そして、いったい今はどこに潜んでいるというのでしょうか……。
謎はまだ解明されていないのですから……。
「キノノウくん! アレクサンダー神父はシュジイ医師を、いや人をいまだ喰らい続けるというのは『暴食』を体現しているからだろうか?」
「たしかに……。神父さんの残した手紙に書かれていた『七つの大罪』の残りは『暴食』と『色欲』……でしたね。」
「そうなると……、残りの『色欲』がゆえの殺人がまだ起きるということでしょうか?」
「うーむ……。それはなんとも言えないな。人狼が『七つの大罪』を動機の根源としているだろうことは推測できる。それは過去、何百年も人狼を追い続けていたアレクサンダー神父の所属する教会が解き明かした真実ということだったからな……。しかし、人狼がすべての『七つの大罪』を決行するかどうかは明らかではないのだよ!?」
「じゃあ!? このまま最後の『大罪』は起きないかもしれない……と?」
「わからないけどな……。そう願うよ。」
それならいいのですけどね。
私には嫌な予感がするのです。
なぜなら、昨日ももう何も起きないと思い、今朝になってのシュジイ医師殺害発覚という事実だったのですから……。
ジェニー警視がコンジ先生に言葉を発し始めた。
「シュジイ医師は、夜明け前にあの遺体が安置してあった『右翼の塔』側の階段の間の地下室へ、人狼が遺体に化けているのではないか確認しに行ったのは間違いないだろう。我々が遺体を発見した時、まだ体温が若干、残っていた。」
「それは間違いないでしょうね。シュジイ医師は人狼の時間が終わったと勘違いしたのかもしれないな。夜明け前だったが、この地方の天候は朝が来ても暗いからな……。」
「なるほど……。朝、暗いですもんね……。それはあるかもしれないです。」
「だが、アレクサンダー神父がシュジイ医師を殺した後、いったいどこへ消えてしまったか……。それが謎だな。」
「うーむ……。それについては僕も少し考えがありますね。まだはっきりしていない段階では言えないですが……。」
「ええ!? コンジ先生! 何かお考えがあるのですか?」
「ふむ……。そうだな。僕の考えに間違いがなければ……。明日、吹雪が晴れたら、人狼を捕獲できるだろう……。」
これは驚きです。
コンジ先生は人狼がどこに隠れているか、推理ができているというのでしょうか……。
いったいどこに隠れているのでしょう?
まさか!?
この館内にはいませんよね……。
「キノノウくん! それじゃあ、いったい今日、捕獲しないのはなぜなんだい?」
「うむ。ジェニー警視。いい質問だ。……だが、物事にはタイミングというものがあるのだよ。今日の段階では時期尚早なんだよ。」
そんなことありますか?
早いほうがいいと思うのですけど、コンジ先生は常人の思考をお持ちではないので、何か深い考えがあるのかも知れません。
「まあ、キノノウくんに考えがあるのはわかったよ。どのみち、明日にならなきゃ、ここから出ることはできないからな。いいでしょう。」
ジェニー警視も完全に納得はしていない様子でしたが、承知したようです。
コンジ先生はそれっきり黙ってしまったので、私たちもそれ以上は聞けなくなりました。
でも、私はコンジ先生を信じていますので、良い結果になると思います。
それにしても、アレクサンダー神父はどうして、姿を消したのでしょうか?
もし神父さんが姿を消さずに、人狼が化けてなりすましたままでいたなら、私たちは決して神父さんが犯人とはわからなかったのですよねぇ……。
それだけが不思議です。
「ところで、もう一度、今まで起きた事件を振り返ってみると、人狼はやはり最初の日、どこから入り込んできたのか? その疑問が残るな……。」
「そうでしたね……。アイティさんを襲った日の昼、どこからこの館に入ってきたのでしょうか? あの時、考えましたけど、いまだにはっきりわかっていませんでしたね。」
「たしかにな。あの時は、カンさんとメッシュさんが最も怪しい人物として推理を展開したっけな……。」
そうでした。
メッシュさんとカンさん……。
しかし、カンさんはその翌日、犠牲にあってしまいましたし、メッシュさんは……。
「カンさんは殺されてしまったし、メッシュさんは……、シープさんが殺された時、人狼によって襲われている。少なくともあの時は、メッシュさんは人狼ではあり得なかった……。」
「そうでした! メッシュさんの容疑は晴れたと言っていいですよね?」
「そうだな……。少なくとも最初の日に人狼がメッシュさんをその手にかけ、メッシュさんに成り代わっていたとするなら、その後、メッシュさんと人狼が同時に存在することは考えられないからな……。」
「なるほど! キノノウくんの言うとおりか……。ならば、よけいに人狼がどこからこの館に忍び込んだのかが謎になるな……。」
「そのカンさんとエラリーンさんが殺された時に、アリバイがないということで、スエノさんが怪しまれましたが、結局、スエノさんは無実が証明されましたよね?」
「うむ。ジョシュアの言う通りだ。スエノさんはその翌日、パパデスさん、イーロウさん、……そしておそらくはジジョーノさんも連続で殺されたと推測されるが、その際は、『右翼の塔』の地下室に閉じ込められていたのだからな。ジニアスさんと共謀してトリックを用いたとも考えにくい。」
「うむ。その場合、ジニアスさんがなぜ殺されていないのか……? という疑問が生じるしな。あと、イーロウさんが先に殺され、その後パパデスさんが殺されているという事実がある。スエノさんが人狼であったなら、わざわざ、回り道をしてイーロウさんたちを殺害し、その後、また回り込んでパパデスさんを殺害していることになる。」
「そうですね。パパデスさんの部屋に入り込み、地下室の鍵を盗り、そして、いったん部屋の外に出て、イーロウさん、ジジョーノさんを殺し、その後またパパデスさんの部屋に戻り、パパデスさんを殺害し、地下室へまた戻り、その地下室の鍵をジニアスさんに託して、パパデスさんの部屋に戻しておく……などということが行われたと考えるのは、人狼の性質からもあり得ないと言えよう……。」
そうでしたね!?
地下室はパパデスさんの部屋にあった地下室の鍵じゃないと開けられないのでした!
人狼が隠し持っていると思われるマスターキーで開けられないのが、地下室だったのです。
「あと、わかってることもあるな。まず間違いなく、シープさんが殺害された時、人狼はビジューさんに成りすまして逃げたのだ。つまり、ビジューさんの死体が今朝、シュジイさんとともに発見されたが、ビジューさんはシープさんより先に殺されたのだろう……。」
「む……!? そうか! それを忘れていたな。さすがはキノノウくんだな!」
さすがはコンジ先生!
私のコンジ先生!
そうでしたね。ビジューさん……、いつ殺されたのかわからなかったですけど、シープさんが襲われた時はすでにビジューさんは殺されていたのですね……。
「そして、その後、アレクサンダー神父になりすましていた……というわけか……。」
「そうですよね……。あの時、もっと神父さんを警戒すべきだったんだわ!」
「しかし、神父は『聖なる結界』と称して、『銀の粉』を私たちに提供してくれたのは、人狼としてはおかしい行動をしたものだな……。」
「たしかにね。それはジェニー警視の言うとおりですねぇ……。そう考えると神父の行動には矛盾が生じるのだよ。」
「ふむぅ……。キノノウくん。こうして考えるとまだまだ謎ばっかりなんだけど、君にはもうすべてわかっているというのかい?」
「まあまあ……。ジェニー警視。とりあえず、今晩は明日の朝になるまで、部屋から出ないようにしましょう。そうすれば、明日は晴れるのですから……。」
そんな話をしているともう夕方近くになっていました。
メッシュさん……、どんな夕食を作ってくれるのかしら?
私にはそれが気になって仕方がなかったのですが、それは言わないでおきましたよ。
~続く~
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