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 大国コリステア。


 大陸の東に位置し、自由貿易が盛んな国。

 古今東西さまざまな人間が、商品を売りにこの国へとやってくる。

 街は活気で賑わい、年に1度の建国祭ではそれこそ国中に人が溢れかえるほどだ。

 表だけを見れば素晴らしい国だと皆絶賛するかもしれない。



 だが、光があれば必ず闇が生まれるように、この国にも暗部はある。



 古今東西さまざまな人間が商品を売りに来るコレすなわち、それだけの種類商品があると言うこと。

 その商品の中は、人も含まれる。


 奴隷貿易。


 従順そうな子供を対象に貧しい家庭から人を買い、金持ちに売る。売られたモノに人権など存在せず、自分を買った主人が死ぬか、飽きて他に売られるかしない限り、生涯売られた家でこき使われる。

 もちろん、表向きにはそんな貿易は存在せず、法律でも厳しく取り仕切られている。

 故に生まれたのが闇市場。

 お役所も、実害が出ない限り本腰を入れないのでその辺のチェックは甘い。



 奴隷貿易はやめよう。


 人権を大切に。


 忌むべき慣習だ。



 声高に叫ぶモノはいるが、この国から奴隷は消えない。

 リックは、今更ながら自分の知識に吐き気がしそうだった。

 リックが暮らしている一軒家に帰ってきて十数分後、レイトと、服を取り替えた少年が帰ってきた。

 少年の名は、ルマというらしい。


「一応、奴隷として買ったわけじゃないとは説明してみた。理解したかどうかは微妙だけど、とりあえず当面の生活には困らないと思う」


 自分より頭2つ分ほど小さい少年の髪をぐしゃぐしゃと撫でながらレイトはそう言って笑った。

 ルマは戸惑うように視線を部屋に漂わせ、最終的にリックに固定する。

 リックは表情を消した顔でそうかと小さく呟き、テーブルの上でトランプマジックをただ繰り返していた。

 シャッフルし、1枚選びもう1度シャッフルする。十分切ったところで横から息を吹きかけると、先ほど選んだカードが飛び出てくるという彼お得意のマジックだ。

 話半分のリックを特に気にすることもなく、レイトは報告を続ける。


「念のため調べてみたけど、どこかの闇市場から脱走してきたわけじゃないみたいだよ?」


 さすがのリックも、その報告には目を丸くした。

 トランプを切っていた手を止め、リックはここで初めてレイトの顔を見る。


「じゃあ、何であんなとこにいたんだ?」


 基本的に奴隷というものは闇市場か買われた家以外には出て行かないものだ。

 故に役所にばれにくいのだが。

 レイトはルマの後頭部を見下ろし皮肉気に口角を上げる。


「さァて。何でかは知らんがここにいるんだから何かしら理由があるんだろうネェ」


 曖昧に濁し、不安そうな目を向けるルマに微笑みかけた。


「今日からルマはここで生活するんだよ。いいね?」

「はい、だんなさま。

 よろしくおねがいいたします。ごしゅじんさま」


 ルマは、リックに向かって丁寧にお辞儀をする。


 拙い言葉。


 自分と大して年も変わらないだろうに、たどたどしくしか話せないのはそれだけ奴隷としての歳月が長かったからなのか。

 不愉快そうに、リックは眉を寄せた。

 殺気にも似た怒気に、怯えたようにルマがレイトを振り仰ぐ。


「だんなさま、わたしはなにか、ごしゅじんさまのきにさわることをいったでしょうか」

「あそこにいる無愛想な彼は、リックって言うんだ。“ご主人様”なんて言うと怒るから、リックって呼んでやりな。様付けもなし。

 ちなみに私はレイトね。これまた様付けなし」


 ニッコリ笑うと、戸惑うようにルマの瞳が揺れる。


「ですが……」

「ああ、まずは言葉遣いから直そうか」


 何かを言おうとするルマに有無を言わさない口調でそう言い、レイトはリックを見た。


「いいよね?」

「好きにしろ」


 投げやりにそう言い、リックはまたトランプを切り始める。

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