第9話
その晩、彼は自分の部屋に戻らず、居間のソファで寝た。ただ、横になってはみたものの、まるで眠れなかった。居間の壁にかかった時計の針の音がいやに大きく聞こえた。
結局彼はまんじりともせず朝を迎えた。朝食の時、邪悪様に契約解除のことを話そうとしたが、彼女はすこぶる機嫌がいいようで、言えなかった。
まあ、今じゃなくても、いいか……。
邪悪様の髪を三つ編みにして結ってやると、そのまま二人で学校に行った。
午前中の授業が終わり昼休みになると、彼らは一緒に校舎裏の人気のない場所で昼食のパンを食べた。よく晴れた夏の日で空はとても晴れ渡っていた。話を切り出すタイミングは今しかないという感じだった。
「あの、邪悪様……」
と、直春が口を開いたとたん、
「ねえ、ナオ。このガッコーってところは、もうすぐ夏休みってやつになるんだよね?」
「え?」
「あの偉そうな人が言ってたよ。センセーだっけ。ぼく、今日はね、あの偉そうな感じ、勉強してたんだよ」
「ああ、そうか……」
そういえば、今日は午前中、こいつやけにおとなしく授業を聞いていたっけ。授業の内容ではなく、教師の態度を見ていたのか。なんの勉強だ。
「それでね、夏休みになったら、ここにしばらく来なくてよくなるんでしょ? だったら、毎日一緒に遊べるね」
「うん……」
「ねえ、ナオ。ぼくたち、一緒にどこか行こうよ。楽しいところがいいな。もちろん、悪い感じがするところだと余計にいいな。ナオはどこに行きたい? ぼくはね、昨日怜花が言ってた、大きい花火が見たいな。空にドーンって上がるんだって。すごく綺麗なんだって。ナオは見たことある?」
「あ、ああ……」
邪悪様はとても楽しそうに夏休みの計画を話している。どうして、今日は朝からこんなに機嫌がいいんだろう。どうして、今日に限って授業中もおとなしかったんだろう。直春は苦い気持ちでいっぱいになった。
「どうしたの、ナオ? さっきから元気ないみたいだよ?」
直春がうつむいていると、邪悪様は正面に座りこんで、下から顔をじっと見つめてきた。その淡い紫の瞳は、やはりとても澄んだ、罪のないきらめきをたたえている。
「じ、実はな――」
直春は立ちあがり、彼女から目をそらしながら言った。
「俺、ゆうべ考えたんだよ。やっぱり、俺達一緒にいないほうがいいんじゃないかって」
「え……」
「ほら、お前、普通の人間とは違うしさ。だったら、普通の人間の俺といるより、元の世界に帰った方がいいと思うんだ。それが、お前のためだと思うんだ……」
それは直春自身も驚くぐらい、歯切れの悪い、覇気のない言葉だった。胸がとても痛くて、苦しかった。
「も、元の世界ってなんだよ! ぼく、そんなところ行かないもん!」
邪悪様はたちまち怒ったようだった。
「なんでいきなりそんなこと言うんだよ! ぼくのためって何? わかんないよ! ナオの言ってること全然わかんない!」
「落ちつけ。俺の話を聞け。お前は俺と一緒にいちゃいけないんだ。そういうやつなんだ……」
「そんなことないもん! ぼく、ナオとずっと一緒にいるもん!」
邪悪様は直春の腕にしがみついて叫んだ。
直春は一瞬その腕の力に引っ張られ、体のバランスを失った。強い力だった。十歳の子供の精いっぱいの力だった。
だめだ、このまま引きずられては……。
彼はとっさにそれを強く振り払った。
「なんでわからないんだ。なんで人の話を聞かないんだ、お前は!」
直春は叫ばずにはいられなかった。そうしないと決心が揺らいでしまいそうだった。
「だって――」
腕を強く振り払われ、怒鳴られて、邪悪様は目に涙を浮かべ始めた。
「ぼく、やだもん。ナオとずっと一緒にいたいよ……」
「俺だってそうだ。でも、無理なんだ。お前は人じゃない。だからあるべきところに帰らなくちゃいけない。それが一番正しいことで、一番お前のためになることなんだ」
「ぼくのため?」
「ああ、そうだ。俺はお前のためを思って――」
「そんなの、うそだよ」
「うそじゃない」
「うそだよ! だって、ぼく、それじゃ全然うれしくないもん!」
邪悪様は泣きじゃくり、叫んだ。
どうしてこうなるんだ……。
なにも、邪悪様を泣かせたくてこんな話をしたわけじゃない。なのに、どうしてこいつは、何一つ俺の話に耳を傾けないんだろう。どうして、こんなに聞き分けのない子供なんだろう……。次第にいらいらしてくる。
と、そのときだった。彼は目の前で泣いているのが、決して帰るはずのない父を待って泣きじゃくる幼い自分のように見えた。それはとてもみじめで愚かな子供の姿だった。たちまち強い厭悪が沸き上がってきた。
「なんで……なんでお前は、そんなにガキなんだ!」
瞬間、彼の右手は邪悪様の頬を叩いていた。
「ガキがどれだけ泣こうと、世の中無理なことはたくさんあるんだ。ガキが泣いたからって、死んだ親が生き返るわけじゃない。ガキが泣いたからって、親の仕事が暇になるわけじゃない。だったら……受け入れるしかない。俺はずっとそうしてきた。なのに、お前はなんでそれができないんだ!」
直春は強く邪悪様を睨みつけた。
「ナオ……」
邪悪様は一瞬、目を大きく見開き呆けていた。
だがやがて、体を震わせ、叩かれた頬をさすりながら、
「ナオのバカ! バカバカバカ!」
と、涙目で叫び、向こうに走って行ってしまった……。
直春はそれを追わなかった。
「追いかけなくていいんですか、マスター?」
ポケットの中から声が聞こえてきた。
「いいんだ」
どうせ五十メートル以上離れられないんだから。そして、その距離の制限に気づけば、いくらあのお子様とはいえ、さっきの俺の話の正しさに気づくだろう……。
そうだ、俺はなにも間違っちゃいない。これは正しい選択なんだ。
彼は心の中のいらだちを抑えるように、瞼を固く閉じた。
邪悪様はそのまま泣きながら、校内をめちゃくちゃに走り続けた。途中、人や物などいろんなものにぶつかったが、構わず走り続けた。悲しくて、同時にとても腹立たしかった。ナオのくせになまいきだ、いきなりあんなこと言うなんて。しかもぼくをたたくなんて。ぼくは邪悪様なんだぞ、ナオはぼくの家来なんだぞ。それなのに急に家来をやめたいなんて、そんなの……そんなの……。だんだん怒りよりも悲しみの方が勝ってきた。いつしか彼女は泣きじゃくりながら、とぼとぼと廊下を歩いていた。ちょうど高等部の教室が並んでいるところだった。
と、そのときだった。
「ねえ、君、どうしたの? 迷子?」
前を歩いていた男子生徒がいきなり話しかけてきた。
「わ!」
邪悪様はびっくりした。本当に、飛び上るほどびっくりした。自分の姿は誰にも見られてないはずなのに、どうして――と、そこで、彼女は三つ編みにしていた髪がほどけているのに気づいた。どうやら、走っている間にどこかにぶつけて留め具が外れてしまったようだった。また、邪悪様自身はまったく知らないことであったが、朝、この髪を結った人間は大変な上の空で、それもまた外れた原因の一つだった。
「君、どこの子? どうしてこんなところにいるの?」
高等部の生徒だろう、少年は親しげに尋ねてきた。だが、邪悪様はうまく答えられなかった。少年にじっと見られていると、とても不安な気持ちになった。彼女は全然慣れてなかった。知らない人間とこうやって一対一で話すということに。そう、今まではずっと直春が一緒だった……。これもまた、邪悪様自身のまったく知らないことだったが、彼女は人見知りなほうであった。直春には「たまちゃん」の面影があり、最初から臆せず接することができただけだった。
「あ、もしかして君、日本語話せない? えーと、ハロー?」
「……そ、その」
と、邪悪様がようやく何か言おうとしたとたん、
「おおお! なんかスゲーかわいい生き物発見!」
向こうから数人の男子生徒達が駆けよってきた。
「うわー、こいつめっちゃ外人じゃん! 何この髪の色? 天然ブリーチかよ」
「目の色もすごくね。日本人、遺伝子レベルで負けてる。超負けてる」
「なんでこんなモデルみたいな外人の子供がここにいるんだよ?」
「日本語通じるの」
「さあ……」
「英語の先生呼んでこようか」
男子生徒達は邪悪様を一斉に囲み、じろじろ見つめた。邪悪様はたちまち震えあがって、その場に縮こまってしまった。怖かった。全然知らない人間が、それも自分よりずっと体の大きい人間がこんなに周りにいて、いっせいにこっちを見ている。それは人見知りの幼い少女には耐えがたい重圧だった。涙が出てきた。
「お、おい……泣いてるぞ、こいつ?」
「やっぱ誰か早く先生呼んでこいよ」
頭上で響く男子生徒達の声がとても恐ろしく聞こえた。直春に会いたかった。直春の背中に抱きついて、こんなやつら全部やっつけろと命令したかった。きっと直春なら、すぐそうしてくれるだろう……と、邪悪様はそこまで考えたところで、さきほど彼に一方的に突き放され、あげくにたたかれたことを思い出した。胸の奥がぎゅうっと痛くなって、悲しくて辛くて、めちゃくちゃな気持ちになった。そのまま、大声で泣き出してしまった。
と、そのとき、
「ジャアクちゃん、どうしたの?」
聞き覚えのある声がした。はっとして顔を上げると、すぐ近くに怜花がいて、心配そうに邪悪様を見降ろしてた。その手には大きな弁当箱を携えている。
「怜花、ぼく……ぼく……」
邪悪様はたちまち怜花にしがみついた。周りは知らない人ばかりで心細くてたまらなかったのだ。知っている顔に会えて、すごくほっとした。
「ジャ、ジャアクちゃん?」
怜花は戸惑っている様子だ。
と、そこで今度は、
「怜花、ほら、あんたの弁当――」
すぐ隣の教室から或香が出てきて、近づいてきた。その手には小さい弁当箱を携えている。
「何その子、あんたの知り合い?」
或香はすぐに泣きじゃくる邪悪様に気付いたが、一度学校の屋上で会ったことは忘れているようだ。憑依されていたせいだろうか。
「直春お兄ちゃんの家の子なの」
と、怜花はそう言ったところで、邪悪様が知らない人間に囲まれておびえているのに気付いたようだった。「あっちで話しましょ」と、邪悪様の手を取り、向こうに歩き始めた。早足で。
「ちょっと! 怜花、あたしの弁当持っていかないでよ!」
或香もあわててその後を追った。
それから、彼女達三人は、学校の中庭の隅っこに移動した。そこにはベンチがあったが、古くて錆びついているので誰も使いたがらない場所だった。今日も、周囲に人気はなかった。
怜花達はさびを我慢して、そのベンチに並んで腰かけた。怜花が真ん中で左に邪悪様、右に或香だった。そして、姉妹はお互いが持っていた弁当を交換し合った。
「今日、お母さんがね、お姉ちゃんのお弁当と私のを間違えてかばんに入れちゃったの。それで、さっき届けに来たところだったのよ」
怜花は笑って邪悪様に説明した。だが、邪悪様はずっと暗い顔をしてうつむいている。泣きやんだものの、さっきから一言も発していない。何か口にすれば機嫌もなおるかな、と、怜花は卵焼きを差し出してみたが、邪悪様は首を振るだけだった。食欲もないらしい。
そもそもどうして学校なんかに来たんだろう。もしかして、直春お兄ちゃんに会いに来たのかな……。
「ジャアクちゃん、直春お兄ちゃんと何かあったの?」
と、怜花が尋ねると、また邪悪様は泣きだした。その小さい肩が嗚咽で震えるのを見て、怜花は動揺せずにはいられなかった。「ご、ごめんね、いやなこと思い出させちゃって」肩をさすって必死になだめた。
しかし、その反応からして、やはり直春と何かあったのは明白だった。もしかすると、学校に来たことで直春に怒られたのだろうか。だったら……。
「ねえ、ジャアクちゃん。直春お兄ちゃんに何を言われたのかわかんないけど、あんまり気にすることないよ。直春お兄ちゃんってね、昔から素直じゃないっていうか……ちょっとひねくれてるところあるから」
怜花は邪悪様の手を握りながらゆっくり話した。きっと、ちょっとした喧嘩だろう。だったら、わたしがフォローしてあげなきゃ。
「本当に思ってることとか、ちゃんと口に出して言わないの。いや、言えないのかな。そういう性格なの」
「見栄っ張りでひねくれてんのよ、アイツ」
と、或香が口をはさんできた。
「アイツの家さ、親いないじゃない? それでさ、昔から、君の家大変だね、とか、家に子供一人でさみしくない、とか、さんざん無神経な連中に言われまくってるんだけどさ、いっつもアイツ、決まった答えなの。そんなのしょうがないって。うそくさい笑顔で言うの」
もぐもぐ。弁当を勢いよく口に運びながら或香は言う。
「しょうがないってなんなのよ。そりゃ、事実としてはそうかもしれないけどさ、親がいないことについて、ガキがあんな能面みたいなうそくさい笑顔で言うことじゃないわよ。どこの優等生様よ」
怜花は姉が憤然としている理由がわかった。直春は、一言で言えば水臭いところがあるのだ。彼は決して人に自分の弱いところを見せようとしない……。怜花は切なさを感じずにはいられなかった。昔からずっと直春の近くにいるのに、彼の口から「さみしい」などといった本当の気持ちは一度も吐露されたことはなかった。彼が時折すごくさみしそうな顔をしているのは知っているのに。
と、そのときだった。向こうから天然パーマの男子生徒が「おーい」と言いながら近づいてきた。銀次だった。
「お、なんだこのキラキラの幼女は?」
銀次も邪悪様のことをすぐ気にとめたようだった。かくかくしかじか。怜花は今までの経緯を説明した。
「そーか、ナオのやつがなあ。こんなかわいい女の子を泣かせるとは」
「お、女の子じゃないもん……」
邪悪様は怜花の肘にしがみつきながら、小声で抗議した。さっき、知らない男子生徒達に囲まれて怖い思いをしたせいだろうか、銀次に対してもちょっと警戒している様子だ。
「ああ、悪い。こんな可愛い子が女の子のはずがない、って、パターンだったか」
「何そのキモイ言い方」
或香が眉をひそめた。
「でも、そんなに気にすることないと思うぜ。あいつ、根はいいやつだからさ」
銀次は邪悪様に言う。彼なりにやさしそうな声を出して。
「まあ、昔からちょっとズレてんだけどな。頭よすぎるのも原因か? もっとバカになって俺らのゾーンに降りてくればいいのにさ」
「ズレてるって?」
怜花はふと気になった。
「なんつーか、変に体裁を気にしすぎるって言うか? そうだなあ、あれは確か、小学校五年の運動会の時……」
「なんで急にそこから話始まるのよ」
或香がいらいらしたように突っ込む。
「いいから聞けよ。お前らが弁当食ってるから思い出したんだからな」
「弁当?」
「そうだ。運動会と言えば、昼に保護者と弁当食うだろ? でも、その小学校五年の運動会の日は、あいつの家、誰も来なかったんだよ。だから、俺らの家族と一緒に食ってた。それぐらいはまあ、お前たちも知ってる話だよな」
「まあね」
或香は答えた。怜花も無言でうなずいた。
「それでさ、あいつ弁当持ってきてたんだよ。手作りの。それで俺の親に言ってたんだよな、これは僕のお母さんが作ってくれたんです、って。仕事が忙しくて今日は来れなかったけど、お弁当だけはちゃんと用意してくれたんです、って。笑いながらさ。実際、見た目はそんな感じだったよ。いかにも母親が丁寧に作った、美味しそうな弁当だった。だから、俺さ、どんなもんかと思って、勝手に一口つまんだんだよ。そしたらさ……すごくまずかったんだよな、これが」
銀次はそこでふと憂鬱そうに顔をしかめた。
「俺、バカだからさ、まずいって言っちまったんだよ。親の前で。そしたら、ナオのやつがすごく青い顔になって、ごめんって必死に謝りだすんだ。なんだか変な空気だった。それで、運動会が終わった後、ナオに聞いたんだよ。あの弁当、ほんとにお前のカーチャンが作ったのか?って。そしたら、あいつしばらく黙りこんだあとに、違うって答えたよ。本当は自分で作ったんだって。だから、見た目はなんとなかったけど、味はだめだったって……」
「え――」
怜花は驚いた。
「俺、ほんとバカだよな。空気読めなさすぎっていうか。なんで、あのとき嘘でもいいから美味しいって言ってやれなかったんだろうな……」
銀次は重く息を吐いた。悲しい話だ、と、怜花は思った。先日食べた直春の料理はとても美味しかった。だから余計に今の話は胸にくるものがあった。
「今にして思えばさ、その見てくれだけはいい弁当って、あいつそのものなんじゃないかって気がするんだ。あいつは、良くも悪くもうそつきだよ。それも、変に知恵が回るから、うその出来がいい。いつも、言ってることはすごくもっともらしくて筋道が通ってるんだ。でも、間違いなく、そのもっともらしい理屈はあいつの本当の気持ちとはズレてるんだ。見た目と味が一致しない弁当みたいにさ」
「うそ?」
邪悪様はその言葉にふと反応したようだった。
「そうだ。簡単に言うとキャラ作ってんだよ、あいつ。それで時々本心じゃないことを言うんだ。でも、ほんとはいいやつなんだぜ?」
「……そんなの、ぼく、わかんない」
邪悪様はきゅっと口を固く結び、うつむいた。そしてまた涙ぐみはじめた。うそ、という言葉に何かを思い出したのかもしれない。
「あー、もう。これやるから、泣くなよ」
と、銀次は携えていたポリ袋から紙パックを取り出し、邪悪様の膝の上に置いた。
「糖分取れば、ちょっとは気分も落ちつくぜ」
「トウブン?」
「甘くてうまい飲みものだってことだよ」
銀次はさらにポリ袋からストローを出し、紙パックに挿した。邪悪様は興味を持ったようで、それを素直に彼の手から受け取った。茶色い紙パックだった。表面にはコーヒー牛乳という文字が書かれていた。
「……マスター、一つ、質問いいですか?」
校舎裏の人気のない場所で呆然と立ち尽くしていると、ポケットの中から声が聞こえてきた。
「なんだよ」
直春は投げやりに答える。周囲からの蝉の鳴き声がいやにうるさかった。
「いえいえ。アタシ、もうすぐマスターとおさらばするでしょ? さっき、そういう流れだったでしょ? だから、最後に人間のこと聞いておきたいなって。ほら、ココちゃんってばあ、人間じゃないから。箱系女子だから」
「くだらない前置きはいい。早く言えよ」
「じゃあ質問しますけど、人間ってのは、頭の中で理屈をこねくり回すと、それで、身近な誰かへの感情が消える生き物なんですかね?」
「な――」
いきなり何を言い出すんだろう、この箱は。
「そ、そんなの人によるに決まってるだろう!」
「そうですか。マスターはどうなんですか?」
「俺は……」
言葉に詰まった。
「おやおや。答えられないんですか。どうやら、ココちゃん、ついうっかりクリティカルな質問してしまったようですねえ」
「うるさい!」
直春はポケットから箱を出し、地面に投げつけた。だが、それは地面に当たる寸前に宙に浮いて止まり、それから少し離れたところに移動して、一人の女の姿に変わった。褐色の肌の、やけに露出度高い恰好したグラマーな女である。
「今度は暴力っすか。男として最低ですよ? さっきもいたいけな幼女に暴力振るってましたよねえ、マスター」
ココのアバターは腕を組み、半開きの目で直春を見つめている。
「暴力って……俺は少し叩いただけだ」
「あ、そっちじゃないんで。ココちゃんは言葉の暴力的なことを言ってるんだな、これが」
「言葉の暴力? 俺はあいつを説得しただけだ。それなのに、あいつが俺の話を聞かないから――」
「十分な暴力っすよ。自分だけの正しさを誰かに押し付けるってのはねえ」
「な……」
ココにじっと見つめられて、直春はまた返す言葉を失ってしまった。
「ココちゃんの三界のデータベースを参照するところによると、人間の争いってのは古今東西、欲と正義のぶつかり合いが主な原因ですよね。正義ってのは悪よりもずっと人を傷つけるもんなんだな、これが」
「だからなんだ! 正義ってのは、正しさってのは、人や組織の数だけある。それが衝突し合えば戦争になることもあるだろう。場合によっては暴力を肯定するために、なんらかのイデオロギーが標榜されることだってある。そんなの、何千年も前から続く人の営みだ」
「ですねえ。滑稽なもんです、人というものは。今日からマスターもその滑稽チームの仲間入りさあ」
「お前、俺に喧嘩売ってるのか」
直春はむかむかしてきた。今日の箱はいつになく癇に障る。
「傍から見て、見苦しいぐらいに滑稽だから滑稽って教えてあげただけですよ。ココちゃんの半分は老婆心から出来てるんで。残りは怠惰」
「俺のどこが見苦しいって言うんだ!」
「見苦しいですよお。マスターは、自分の感情をごまかすために頭の中で理屈をこねくりまわしてたら、いつのまにか理屈のほうが大事になったって人間でしょ。それなんてピエロっすか?」
「だ、黙れ! 知ったふうな口をきくな!」
直春は叫ばずにはいられなかった。
「たかが数日しか付き合いのないくせに、お前に俺の何がわかるって言うんだ!」
「まあ、そう言われればそうなんですけどね。ココちゃんはさっき見ちゃったんですよね。マスターがあのお方に、一番正しいんだって言ってる時の顔。なんか苦しそうでしたよねえ。自分の言葉に、全然納得してなさそうな顔?」
「なんだよ、それ。ばかばかしい……」
よりによって顔の話かよ。やっぱりこいつはうざい箱なんだ。ただ、適当なことを言って、俺をからかってるだけなんだ……。直春はそう考え、その言葉の意味を深く追及するのを避けた。こいつとは議論にならない、こいつの言葉には何の価値もない、そう思いたかった。
「お前が何を言おうとな、どうせもうすぐ、あいつは俺のもとに帰ってくるんだ。そして、俺の申し出を受け入れるだろうよ」
直春は嘲笑うように言った。
「ほう。またなぜそう思うんですか?」
「あの鎖さ。もうそろそろ、あいつは俺から五十メートル離れるだろうし、出てくるはずだよ。そして、そのときあいつは思い知るんだ。自分が鎖によって自由を制限された哀れな身分だってことを――」
「あ、その距離の制限、今は五十メートルじゃないんで」
「え」
「今は、マスターとあのお方、四十万キロメートルまで離れて大丈夫なんで」
「ちょ……それ、どういうことだよ! そんな話、聞いてないぞ!」
いきなりすぎる新情報である。
「やだなあ、もう。聞いてないのはココちゃんが教えてないからですよ。ココちゃんは基本的に明日できることは今日やらない。距離の設定を変えたからって、わざわざ報告するような、そんな気が利くようなことはしませんよ?」
「お、お前……」
相変わらずふざけた箱である。殴りたい。
「そもそも、なんで急にそんなデカイ数字なんだよ?」
「データ復元完了した時に、そこまで伸ばせるようになったんですよ。で、さらに土の下に埋められる前の設定はその数字だったんで採用したまでです。隠匿機能と同じですねえ」
「だからって四十万キロって……」
月に行ってもおつりがくる数字である。
「もういい。それはわかった。じゃあ、今すぐその設定を五メートルに戻して、あいつをここに引っ張ってこい」
「それはできませんねえ」
「なんでだよ?」
「ココちゃんが、やりたくないからです」
「な……」
ここにきて、まさかの反逆だと!
「お前、今まで俺のことさんざん、マスターマスターって主人扱いしておきながら――」
「いやあ、しょうがねえっすよ。ココちゃんの半分は怠惰で出来てます。残りは気まぐれ?」
「さっきと成分変わってるじゃねえか!」
しかも怠惰は据え置きかよ、ふざけんな! 直春は怒髪天を衝く思いだった。こいつはなんでこうも人の神経を逆なでするんだろう。
と、そのときだった。急に周囲の蝉の鳴き声が止まった。
そして同時に周りの景色が大きく一変した。近くの木々や校舎は、いっせいにカラフルな色彩に変わった。色だけではなく素材も変わったようだった。見た感じ、校舎の建物は色とりどりのビスケットを組み合わせて作られていた。木もまた、チョコレートの幹と、緑や赤や黄色のグミの葉でできている。地面も、いろいろな色の飴の板が敷き詰められていた。その隙間から生えている雑草の葉はゼリービーンズだ。
これではまるで……お菓子の学校だ。
「なんでいきなりこんな――」
と、そこで直春ははっとした。
「もしかして、これ、邪悪様の仕業なのか?」
「間違いありませんねえ。魔力が暴走してるようです」
ココは異変をたいして気にとめてない様子だ。
「暴走? 一体何が――」
「おそらく、ヤケ酒ならぬ、ヤケコーヒーってところでしょうね」
「コーヒー? あいつ、また飲んだのか……」
それで酔っ払って、こんな……。あの夜のことを思い出し、直春はめまいを感じた。あれは本当に、めんどくさい夜だった。少しうれしいこともあったが。
「物質変換って相当高度な魔法なんですよね。それをこれだけ大規模にかけられるって、どんだけあのお方、酔っ払ってんでしょうねえ」
ココはあくびをしながら言う。
「説明はいい。早くあいつをここに呼び戻してくれ」
「いやです」
「お前……この状況を見てまだそんなこと言うのかよ!」
「いやなものはいやなのです。元はといえば、マスターがあのお方を泣かせたのが悪いんでしょ? なんでココちゃんがその尻拭いをしなくちゃいけないんですか?」
「う……」
言われてみれば。
「特別に、あのお方のいる方向だけ教えてあげます。あとはマスター一人でなんとかしてくださいね」
と、ココは三つある校舎のうちの北側の棟を指差した。
「もういい! お前には何も頼まない!」
直春はそっちに向かって走り出した。
ビスケットの校舎の中に入ると、他の生徒たちはみな、その場で固まって動かなくなっているようだった。魔力硬直というやつなのだろう。直春はとりあえず、彼らがお菓子にはなっていないのを確認してほっとした。そして、廊下を走り回り、声を出しながら、邪悪様を探した。
学校の中は、本当にびっくりするぐらい様変わりしていた。床は外観と同じカラフルなビスケットだったが、教室と廊下の間の壁はスポンジ生地だった。窓ガラスは飴で、教室の中の机や椅子は、プレッツェルや細長いクラッカーの脚にドーナツやケーキやシュークリームやパイを組み合わせたものだ。教卓はマーブル模様のヌガー、黒板はキャラメル、黒板消しはマドレーヌ、カーテンはクレープだ。目に飛び込んでくる全てがお菓子でできており、校内はその甘ったるいにおいでいっぱいだった。
あいつ、いったいどこにいるんだ?
カラフルなお菓子と硬直している生徒達の中から、直春は必死にその姿を探した。だが、一階、二階と回っても、まるでその影は見当たらなかった。声すらも聞こえない。
早くあいつを見つけないと……。
直春は焦りといらだちを感じていた。だが、同時に不安も彼の胸の内にあった。邪悪様に会って自分は何を言えばいいんだろう? ココはいない。彼にできることは、直接会って、彼女を説得することだけだ。でも、酔っ払って、学校をこんなめちゃくちゃにしてしまった邪悪様といったいどんな話ができるというのか。それに、たとえ酔っ払ってなくても、邪悪様は直春の話など聞かないに決まっているのだ。きっと、どこまでも泣き叫んで我を通そうとするだろう。そんなとき、自分はいったいどうすれば……。
俺が折れればいいのか?
だめだ、と、彼はとっさにその考えを否定した。自分は、邪悪様の今後について、ちゃんと何が正しいか、何がベストか考えた。それなのに、あいつはただ、子供のわがままでそれを拒んでいるだけだ。そんなの許せるもんか。俺はちゃんとあのセキレイを逃がしたんだ。本当はずっと一緒にいたかったのに……。胸の奥がふいにキリキリ痛んだ。邪悪様の、ずっと一緒にいたいという言葉が頭の中で何度も響いた。
俺だって……。
直春は涙が出てきそうだった。なんでこんなに苦しいんだろう。一番正しいことを選んでるはずなのに、その正しさにすがりきることができない自分がたまらなくもどかしかった。目を閉じると、今まで肌に感じた彼女のぬくもりがよみがえってくるようだった。
やがて、彼は三階までをすべて回り終えた。どこにも邪悪様はいなかった。残る場所は一つしかなかった。屋上だ。きっと、まちがいなく彼女はそこにいるのだろう。直春はゆっくりと屋上へと続く階段を上がり、チョコレートの扉を開けた。
「な……」
彼は目の前の光景に、一瞬頭が真っ白になった。そこには屋上なんてものはなかった。すなわち、空がなかった。彼の目の前に広がっているのは大きな円形の広間だった。さながら、西洋の城の謁見の間といったところだろうか。周囲はきらびやかな調度品や美術品が置かれていたが、それらはよく見ると、やはりお菓子だった。足元にはマジパンで出来た細長い赤いじゅうたんがしかれていて、その先、彼から十メートルほど離れたところのマシュマロとクッキーで出来た玉座に邪悪様は座っていた。ひどくぐったりした様子で。
「邪悪様!」
彼はただちにそちらに駆け寄る――が、そのとたん、
「うるさい! あっち行っちゃえ!」
邪悪様の叫びと共に、頭上からシャンデリアが落ちてきた!
「うわっ!」
彼はそれをギリギリのところでかわした。シャンデリアは彼のすぐそばで砕けた。飴で出来ているとはいえ、かなり重量のあるものだったようで、当たればタダでは済まなかった感じだ。
「お前……なんでいきなりこんな……」
「ナオなんていなくなっちゃえばいいんだ!」
邪悪様は顔を上げ、彼をにらみつけた。その頬は酩酊して紅潮していたが、瞳の光は逆にとても冷ややかだった。
「お、落ちつけ。俺は別にお前を――」
「うるさい! ナオなんか大嫌いだ! 死んじゃえ!」
たちまち、周囲の家具や美術品が次々と彼に向って飛んできた。
「ちょ、待て! 話を――」
彼は必死にそれらをよけた。お菓子の家具や美術品は床に当たると次々と砕けた。
「なんでお前は人の話を聞かないんだ!」
「うるさいうるさい! ナオだってぼくの話を聞かないじゃないか!」
「え――」
「お前なんかもうぼくの家来じゃない! 消えてなくなっちゃえ!」
邪悪様は取り付く島がなかった。また次々とお菓子の家具や美術品を飛ばしてきた。直春は再びそれらをよけた。だが、その動きは、さっきとはうって変わって鈍かった。彼は邪悪様の言葉に動揺していた。
俺も、あいつの話を聞かなかった……?
冷たい水を浴びせられたような言葉だった。違う、俺はちゃんと……。必死に胸の内の動揺をかき消す言葉を探したが見つからなかった。
「いいから、お前は俺の言うことを聞け!」
彼は叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
「俺の方が大人なんだ。俺の方が正しいんだ。お前は何でそれがわからないんだ!」
「わかるもんか! ぼくは邪悪様なんだぞ! 悪いやつなんだぞ! 正しいことなんて、いらないんだ!」
邪悪様は玉座から立ち上がり、叫んだ。その目には涙がたまっていた。
「邪悪……様……」
直春は再び、その言葉に心を大きく揺さぶられた。彼は気付いた。ようやく気付いた。彼女が、はじめからずっと「邪悪様」だったということを――。
そうだ、あいつは悪いやつなんだ。正しいことにとらわれる必要なんて、これっぽっちもないんだ……。
深い霧が一瞬で晴れるようだった。思い返してみれば、彼女とは出会いからして常識外れでめちゃくちゃだった。彼女自身も、過去に世界を敵に回すような大罪をしでかしている。そして、自分が今この世にいるのは、その大罪があってこそだ。それなのに、自分はいったい何にとらわれていたんだろう。正しいこと? そんなのは、たかが十六年しか生きていない少年が一人で下した、薄っぺらい正義だ。そいつはきっと、大人ぶりたかっただけなんだ。本当はガキのくせに……。
そうだ、本当に間違ってたのは――俺のほうだ。
「邪悪様、俺……」
彼はゆっくりと彼女に近づいた。謝らなければと思った。
「なんだよ! ナオなんて、あっち行っちゃえ!」
お菓子の家具や美術品が再び彼めがけて飛んできた。だが、彼はもうそれらをよけなかった。ワッフルのソファや、メレンゲの彫像などが、次々と彼の体にぶつかって砕けた。
「な……なんでよけないんだよ!」
「よける資格なんて、俺にはないからな」
直春は邪悪様を見つめた。
「お前が俺に何をしようと、何を言おうと、何をぶつけようと、俺はもう、逃げない。好きにすればいい。俺はお前の全てを受け止める」
「そんなのうそだ!」
「うそじゃない」
「うそだ! そんなの絶対うそだ! さっきはぼくの話なんか聞かなかったくせに
!」
邪悪様は声を張り上げた。と、同時に周囲の壁や天井が鈍い音と共に動きだした。それらはプレート状に剥離して、直春のすぐ近くに集まり、彼を囲んだ。いずれも飴でできているようだったが、厚さは相当なものだった。
「このまま、ナオを押しつぶしちゃうんだからな! 逃げないと、ナオ、死んじゃうんだからな!」
「ああ、構わない」
泣きじゃくる邪悪様から目をそらさず、直春は即答した。本当に、それでもいいと思った。そう、邪悪様が望むなら、それで――。
「じゃあ、ほんとに死んじゃえ!」
ただちに、重く厚い飴のプレートが、四方から次々と彼に迫ってきた。彼を押しつぶそうと。だが、直春はただ、邪悪様をじっと見ていただけだった。やがて前から迫ってきたプレートによって視界が遮られる、その直前まで――。
プレートはしかし、彼の体にわずかに接触したところで止まった。そして、それらは瞬く間に粉々になってしまった。風船がはじけるように。
プレートが砕けた向こうには七月の昼下がりの青い空が広がっていた。広間はもうなかった。お菓子の家具や美術品も、玉座も何も。少し離れたところに一人の少女がうずくまって泣いていただけだった。
直春はゆっくりと彼女のそばに行った。
「邪悪様、さっきはごめんな……」
彼女の頭を撫でながら彼は言った。ささやくように。
「叩いて悪かった。俺、本当にバカだった。物分かりのいい大人になりたくて、自分がただのガキだって認めたくなくて、何にも見えてなかったんだ。お前の気持ちも自分の気持ちも……」
そう、邪悪様を天界に帰すべきだというのは彼にとっては「大人の正しい判断」だった。そして、邪悪様と一緒にいたいという気持ちは彼にとっては「子供じみた感情」だった。だから、彼は前者を選ぶしかなかった。自分が子供であると認めるわけにはいかなかったから。でも、それはお互いにとって本当の意味で正しいことではなかった。どんなに背伸びをしても、強がっても、彼はまだ子供だったから。どうしようもないくらいに。
「痛かったろう。本当にごめん……」
直春は自分が叩いてしまったほうの頬にそっと触れた。すると、彼女はその手を握り、ややあって顔を上げた。その目にはやはり涙がたまっていた。まなじりには涙のたくさん流れた跡があった。直春はたちまち胸が苦しくなった。彼女は、自分が泣かせてしまったのだ。ほんの少し前まであんなに無邪気に笑っていたのに……。彼は彼女をぎゅっと抱きしめた。そうせずにはいられなかった。そして、彼女の耳元でもう一度、ごめん、と言った。
「もうあんなことしないから。もう二度とあんなこと言わないから……」
「……ほんと?」
「ああ。ずっとお前のそばにいるよ。約束する。どこにも行かない。お前を誰かにやったりもしない。俺、お前とずっと一緒に……いたいから」
直春は顔を上げ、邪悪様の瞳をじっと見つめて言った。するとややあって、その淡い紫の瞳は細くなった。やわらかな光をたたえて。
「約束、だよ……」
邪悪様はほほ笑みながらそうつぶやくと、やがて目を閉じ、直春のほうに倒れてきた。疲れて眠ってしまったようだった。
と、そこで、
「チーッス、話は終わったっすか?」
ココがどこからともなく飛んできた。箱の姿のまま。
「ああ、もう大丈夫だ。こいつも、俺も」
直春はココから鎖を受け取り、それを邪悪様の体に一周させた。たちまち、周囲に漂っていた甘ったるいにおいが消えた。鎖を取って、屋上のフェンス越しに外を見てみたが、そこにはもうお菓子の学校はなかった。元の見なれた朱鷺浜学園の校舎が並んでいるだけだった。
「ココ、こいつが人間の世界で暮らすってことは、今後もこんなめちゃくちゃなことが起こるかもしれないってことだよな」
「ですねえ」
「きっと世界全体にとっては最高によくないことなんだろうな。人間の俺と、
直春は眠っている邪悪様を背負いながら言った。
「でも、俺は、もう綺麗事で自分の気持ちをごまかすつもりはないぜ。世界がなんだってだ。俺はまだガキだし、そんなデカイ話わかんねえっての」
直春は笑った。背負った邪悪様の重みをとても心地よく感じながら。
「まあそうでしょうねえ。マスターってば童貞ですし」
そうつぶやくココの声は、少し笑ってるように聞こえた。
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