第20話 《アイデア》成功率51%
自分が昨日探していない方の砂浜を歩くことにした。
トウコちゃんは一緒に行くと何度も主張していたが、上手く言いくるめて寝床で休ませている。ただでさえ海に浸かって消耗している身だ。俺にも彼女にも限界は必ず来る。それは遅ければ遅い方がいい。
朝の優しい陽ざしも、これから強くなる。
それまでに、探索は終わらせておく。
トウコちゃんが先に探してくれた通り、これと言ったものは落ちてない。ペットボトル二本があっただけでも幸運だ。あとは彼女が見落とす、価値の見いだせないものを漁ればいい。例えば――
「お、洗剤の詰め替えボトル。フタがないけど、でかいし洗えば使えるな。あと洗面器みたいなもの、は無いけど、代用になりそうなものは幾つか」
昨日までなら俺もスルーしていた。
ただ今は数日のうちどこかで雨が降る、という予報が当てにできる。
これらも洗って水を溜められるようにしておこう。俺たちのサバイバルのためだ。できる努力や小細工は何でもやっておけ。
汗をタオルで拭きながら、砂浜に限らず、原っぱの方や岩場の上も何かないか眺める。……奥の茂みに透明な傘の外れたビニールだけが落ちていた。草に巻き付いて絡まり、水滴をたっぷり包んで太陽の光を反射させている。
ごくり、とノドが鳴った。
……飲み干したい。傘のすみずみまで吸いまくりたい……っ!
いや、落ち着け。透明に見えたっていつの水か分からないんだぞ。夏の気温と日差しで悪くなってる可能性大。雨はしばらく降ってないから、雨水じゃあないと思うけど。
「
水と太陽。
俺の足りない頭で考えろ。結露は冷えて蒸気が集まる……水分を集める方法。他に無かったか? 理科の実験でも兄さんの雑学でも何でもいい。島で活用できるモノで、上手くいきそうなアイデアは――
「おかえりハル! いいものあった?」
「ただいま。収穫はあったよ」
「洗剤のボトル? それにビニール傘……ホントに使えるの?」
「使えるよ。どれだけ使えるかと言うと……これがないとサバイバルが始まらないってくらいかな」
「ええ? そんなに? ……ハル。ふざけて言ってますね?」
「あはは。まあ役に立つかは準備次第かな。さて」
荷物を寝床の端に置き、ひと息ついた。
早朝に何本かもぎ取って置いたイタドリをかじると、さわやかな酸味がノドを刺激して身体に染み込んでいく。
これからちょっとした実験と重労働だ。それも昼前までに突貫でもいいから終わらせておく必要がある。そんな自分の様子に気付いたのか、トウコちゃんがすり寄るように密着してきた。
「ハル。手伝います」
「いや、一人で大丈夫。休んでて……」
「休まない。トウコもやるんだから!」
「……そうだよね。なら、大きな方のペットボトルに海水を溜めてきて」
「もちろん!」
トウコちゃんが離れ、砂浜を弾むように歩いていく。
それを見送りながら適当に落ちている浮木に目星をつけて、割れた竹を手に取る。これなら仕事するのには充分。
時間短縮は二人の望むところ。
何せ誇張なく俺たちの救助までの明暗を分けるミッションだこれは。トウコちゃんにもある程度は手伝ってもらおう。
「汲んできたよー!」
「よし。ここに竹で引いた線があるよね。この円形のスペースに、水を撒いて欲しい……おお、この量か。なら全部使い切っちゃっていいな。もう一回汲んできてくれ」
トウコちゃんがふらついた足取りでペットボトルを運んでいる間に、ざくざくと竹で砂を掘り穴を掘っていく。シャベル代わりには割れ具合がぴったりだったようだ。深さはどれくらいだろう? この海水の染みた砂を土手にした方がいい?
……いや、もう少し広くして風避けにしよう。微調整をしながらイメージより少し円の範囲を狭く、深めに掘り続ける。
「ありがとう。流し入れてくれ。周りもそう、固める感じで……」
「わ、汗すごいよ。交代する?」
「トウコちゃんこそ重たいだろう? 持ち手はあっても4キロの水だ。これで多分大丈夫だから、あとは寝床で休んでてくれ」
「いやです。まだ――」
「ああ忘れてた。ビニールと洗剤の容器をよく洗って水を切っておいて欲しい。その後は日陰でゆっくり待機するんだ。お願いできる?」
「うう、ハル。分かったよ。休むから」
……無理しないでね。
と口が動いたような気がした。
悪いけど無茶はする。
この鯨井。理の無いことは極力しない性分だが、常識外れなことはやるのだ。そしてここは無茶苦茶のやりどき。あとで働いた分以上に休むことにする!
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