第十章〜ワーム〜

 明日から豊穣祭に向けて出発をします。

 なので今日は準備に忙しい。

 バジリスクの件からゴーレムを五体に増やした。

 コカトリスの世話用と敵迎撃用だ。

 まぁ、今までヒトが来る気配も無かったので大丈夫だとは思うのだけれど、準備だけはしておく。

 帰ったら家に誰かいたりしたら怖いからね。

 後はシルキーさんを人間のように造形し直した。

 以前もドールっぽさがあったのだけれど、今は”ドールのような人”という感じまで仕上がっている。

 筋肉は魔糸で、肌は燃えない木を煮詰めた物を塗った。すると、弾力があって肌のような質感になった。

 本当は燃えない木で紙を作ろうとしたのだが、失敗してこの様な結果になった。

 白粉によってシルキーさんの白い肌は相も変わらず。そのせいで人形っぽさは抜けないのかもしれない。

 後は荷物は四種にタグ付けしておいた。

 ダイヤマークは商いの品として持って行く物。

 ハートマークは自分達で使うかもしれないポーションなど医療関係。

 スペードマークは装備品。

 クローバーマークはは食料全般や雑貨。

 もう粗方準備が揃っている。

 クラーケンを倒したお礼としてクラーケンテントを貰ったので、テントの中で寝られる。

 雨風凌げるのは大いに嬉しい。

『お嬢様。このような物を持って行くのですか』

 シルキーさんがダイヤマークの中から瓶を嫌そうに摘む。

「シルキーさんもわかっているでしょうが、こういう物を買うのはいつもヒトなんですよ」

 シルキーさんは理解したが、納得していないような顔ぶりで瓶を戻した。

 シルキーさんが手にしたのは「サパ」という鉛入りの甘味料だ。

 ベートーベンはサパ入りのワインを好んだともされている。

 シルキーさんが嫌がる理由は調べたらすぐに分かる。

 こういう物こそ売れるのだ。どんな用途だろうと。

 武器は新しく新調した。

 ナイフ五本と小刀一本。後は苦労して作ったフランベルジュ。

 ウネウネと刃が波打っているその武器は、まさに火のようだと言われている剣だ。

 馴染みのない剣だが、私が好きな剣なので作ってみた。

 何故この剣が好きかというと、この剣の殺意が気に入っている。

 この剣で刺され、抜いた場合に周りの肉がグチャグチャになって治りにくくなる。

 この「絶対殺す」と言わんばかりの殺意が好きなのだ。

 そして私のフランベルジュには剣の真ん中に溝がある。

 その溝に毒を垂らせば毛細管現象によって、更に殺意が上がる。

 これは昔やっていたアニメのアイデアだ。

 毛細管現象でも、ある程度下に向けておかないと切っ先までいかないのが面倒な所だ。

 まぁ、今の所は人魚以外のヒトに会っていないからPvP対人戦なんてやるかわからないのだけれど。

 しかし、フランベルジュなんて武器を好む異世界転生者なんているのだろうか。

【投擲】スキルがあるため、チャクラムも悩んだ。

 しかし、チャクラムを回して投擲前に自分の方へ飛んで来たら怖いので辞めた。

 異世界転生主人公でチャクラムを使う系があったらマニアックだな。

 武器からして主人公じゃない感が凄い。

 サブキャラクターにはいそうなのだけれど、出ないだろうなぁ。

 ついでにシルキーさんの武器も新調した。

 魔力鉱石を作った時に出た残りカスには、ミスリルという物質が少量含まれており、それを鉄と混ぜた合金が良くしなる事が分かった。

 なら弓を作ろうと頑張ってみた。

 全て金属には材料的にも無理だったので、負荷がかかる部分を金属に変えた。

 そうした事で矢の速度がとても速くなった。

 その分命中率は下がったが、殺傷能力は上がった。

 シルキーさんは魔法ありきでの命中率だったので、命中率を無視しても致し方無い。

 医療道具――もとい解剖道具も持っていく。これが無いと始まらない。

 ポーションは売れるそうなので、自作ポーションを腐るほど持っていく。

 魔力鉱石に魔力を溜めた後、砕いてひとつまみポーションの中に入れたら体力、魔力ほぼ全回復出来る物が出来上がった。

 こういう物って物語終盤のダンジョン内で見つかるヤツだと思う。

 売れないだろうけど、持って行くかな。

 それらを全て魔法鞄――もとい魔法ートバックに入れる。

 鉄や銅は売買しても意味はないので持って行かない事にした。

 後の準備としては、ステータス確認か。

 何か増えたかもしれないし、出発前に確認するのは良い事だろう。

 出発直前にやると魔力を盛大に持っていかれるので、今日やるべきか。

「シルキーさん。出発前にステータス確認しておきましょう」

『承知しました』

 シルキーさんとステータスが確認出来る水晶の前に来た。この水晶の効率を高める事が出来れば脱力感に苛まれないのに。

「では、やりますか」

 何故かステータス測定前は意気込んでしまう。

 魔力が削られるのがわかる。

「どうかな」

 追記された所を探す。


『スキル』

【☆石化耐性】

『魔法』

【☆魔眼(石化)】


 あぁ。これはバジリスクを食べたからかな。

 しかし、石化耐性がついたから腕一本で済んだのだろうか。

 それとも石化の能力がそこまで高くないのだろうか。

 気にはなるが、また石化したくは無い。

 神経を圧迫した痛みを思い出し、身震いする。

『石化の耐性があって良かったです。お嬢様に何かあったらと思うと気が気ではありません』

 シルキーさんは私の事を心配してはくれているようだが、私はどうやっても死ぬ気配が無い。斬られても、刺されても気持ちの悪いくらいに再生する。

 理科の教科書にあったプラナリアを思い浮かべて身震いした。

「では、次はシルキーさんどうぞ」

 シルキーさんが水晶に魔力を流す。


『レベル』四十

『スキル』

【☆限界突破(自動)】、【☆排魔(自動)】

『魔法』

【☆ウィンドスピア】、【下級光魔法】


『レベルも上がり、新しいスキルや魔法が増えていますね』

【限界突破】はなんとなくわかるが、【排魔】って何だろう。排熱の排に魔法の魔。

『これはお嬢様が作った魔力結石を食べたからでしょうね』

 それで【限界突破】が手に入ったと。

「【排魔】もですかね」

 シルキーさんは頷いた。

『魔力が溜まっている状態を長く続けていられないのでしょう。【排魔】によって体内の魔力を調整したのだと思います』

 本当に排熱のようだ。

『普段の状況ならそんな事は起きないのですが、お嬢様の魔力は強力ですからね』

 強力な魔力に浸かっていると毒されるわけか。

 酸素や二酸化炭素みたいなものか。

『しかし、【下級光魔法】を覚えられるとは思いませんでした』

 そうか。シルキーさんは元々風の精霊だから風に関係する魔法しか覚えないのか。

「精霊(デュアル)だからですかねぇ」

 そうなると光と風の精霊になるわけか。

『どうでしょう。お嬢様の魔力に誘発された可能性もあります』

 そうか。私の混沌とした魔力に光魔法も入っていたら可能性としてあり得るのか。

 そうか。そうか。

『どうなされました?』

「え?」

 何かありました?

『いえ、お嬢様がご機嫌そうでしたので』

 私は頰に手のひらを当てる。

 顔に出てしまっていたか。

「シルキーさんが自分の意見を言ってくれるのが嬉しくて」

 ついニヤケてしまう。

『そうなのでしょうか。私は自分の考えを言っただけですが』

 それだよ。それ。

「自分の考えた事、深い意見を私に言ってくれる事は私にとって嬉しい事なのですよ」

 全く意見の無いヒト。流されるがままなヒト。意見はあるが、思慮が足りないヒト。他人を考慮して意見が言えないヒト。様々いるが、深い考えを言ってくれる事は最大の喜びと言っても過言では無い。

 濾過ろかされた水のように。または、蒸溜された酒のように。洗練された考えほど美味なものはない。

 自分と違う意見や仮説があってこそ洗練されていく。だからシルキーさんが良い意見を言ってくれた事が嬉しい。

「全て私と同じ意見では面白くありませんからね。様々な角度からの意見をください」

『承知しました』

 話は戻るが、下級光魔法を持っても何が出来るのだろうか。

「【下級光魔法】は使えますか?」

 シルキーさんは頷いて手のひらに魔力を込める。

 ぼんやりとした光が手のひらに集まる。

 外が暗いからわかるが、昼だと認識出来ないくらいだ。

『暗い場所だとライト代わりぐらいにはなりそうですね』

 もっと明るく光れば目くらましぐらいにはなりそうだけれど、下級なのでこれが限界かもしれない。

 光の魔法ってどのような魔法なのかわからない。

「光魔法は取得するのは難しそうですね」

 私の魔法一覧にもありそうだが、私は面倒くささから考えるのをやめた。

『光魔法は珍しいですが、言ってしまえば「その他」が大半を占めているようですので、種類は多いそうです』

 へぇ。例えば何だろうか。

「光だから……虹を出す魔法とか?」

 シルキーさんが失笑した。

『失礼しました。そういう魔法があればそうですね。後は魔法鞄みたいな時空や次元系の魔法も光魔法に当たります。』

 あれも光魔法なのか。

 区別がよくわからない。

『闇と光の魔法は特殊ですので』

 ライトノベルでも光魔法は聖女や勇者が持っているイメージだ。

 勇者が存在するなら時空をどうこうする魔法を得ているのだろうか。

 無限収納というイベントリが使えたりね。チートかよ。

 私はイベントリが使えないので、隣にある制限付きの魔法バッグを使用するしかないのだ。

 魔法バッグは現代で言う貸し物置みたいなものだ。

 コンテナに仕事を選ばないとあるキャラクターが付いていたりする。

 まぁ、ステータスの確認も終わった事なので、魔法バッグに荷物を入れていくかな。

 あと必要な準備は大丈夫だろう。

 武器や解体道具、医療品や商品、お金も準備した。

 そうだ。

「ゴーレムを全て岩にしておきますね」

 土のままだと雨で崩れるかもしれない。

 そうなっては困る。

『先日集めた岩を畑の横に置いておりますので、それを使って下さい』

 外に出てシルキーさんとゴーレムに集めて貰った岩を媒体としてゴーレムをつくる。

 小さな魔力鉱石でも一週間は保ちそうなので、、五日交換でプログラムしていく。

 パーディンが二週間滞在するとは言っていたが、私達はどうするかまだ決めていない。

 街に一週間前には着いて、パーディンは準備するらしい。

 それから三日間豊穣祭が行われるので、一週間と三日は最低でもいる事になる。

 帰るのに三日かかるから、豊穣祭終わってすぐに帰れば二週間も家を空けないだろう。

 念の為に三週間分の魔力鉱石とコカトリスの餌を置いておく。

 稗が随分と無くなってしまった。街の買い物リストにコカトリスの餌も追加しておかねば。

 宿泊先はパーディンが予約してくれたので、問題ない。

 ――というより、来賓のお供としての部屋らしい。なので、チェックアウトも来賓であるパーディンがいる間ならいつでも問題ないらしい。

 その辺りは村で会った時にパーディンに話そう。

 さて、色々と魔法鞄に詰めて、準備完了かな。

「シルキーさんは他に必要な物ありますか?」

 最後の確認をとる。

 何事も確認は大事だ。社会人になって一番に思った事だ。

『野営用の鍋や皿――あと本があれば私の方は大丈夫です』

 あ。皿を入れるのを忘れていた。

「お皿を忘れる所でした。シルキーさんナイスです。本は出る直前に持って行きましょう」

 こういう地味な物を忘れるのが一番困る。

 木皿をテントと一緒に仕舞う。

 これで大丈夫だろう。


 ◆

 さて、天気は快晴――と言ってもまだ陽は出ていない。雲が少ない旅行日和だ。

「おはようございます」

『おはようございます。朝食は出来上がっております』

 シルキーさんがテーブルに朝食を並べてくれる。

 腐りそうな食材から使っていったので、今日の朝食は保存食に近い。

 スープがあるのが救いである。

 魔力を流し、いただきますと手を合わせてそそくさと食べ始める。

「シルキーさん、料理上手くなりましたね」

 シルキーさんの料理の腕が上がっている。

 シンプルだからこそわかる。味付けが絶妙だ。

『お褒めにあずかり光栄でございます』

 シルキーさんは頰をかいて照れくさそうにしている。

 このシンプルな料理で美味しいのだ。調味料を増やせばもっと美味しくなる。そう確信した。

 調味料と冬を越せるぐらいの食材を求めに行きますか。

「後片付けが終わったら行きましょうか」

『そうですね。お嬢様の準備が整い次第、出られるようにしておきます』

 なら最後の旅支度としましょうか。

 二人でご馳走さまをして、私は着替えや歯磨きなどのの支度を終え、洋服や歯ブラシを鞄に入れる。

 パーディンが来賓という事なので、念の為にヒラヒラしたドレスも入れておく。

 使う時が無い事を祈ろう。

 さて、シルキーさん用の本と解体刀も持ったし行きましょうか。

「お待たせしました」

『私も今終わった所です』

 何そのデートの待ち合わせみたいな返事は。

 前世でも言われた事が無いよ。

 言われたかったけど、その台詞は今じゃないよ。

「行きましょうか」

 変にテンションが下がったが、旅を始めようじゃあありませんか。

「さて、海に沿って歩くわけですが、そうなると食料の確保が難しくなるので、海が見える位置をキープしながら進みましょう」

 釣りが出来ても時間がかかる。

 なら狩りや採取で補った方が良い。

『では、何か見つけたら得る方向でいきますね』

 話が早くて助かる。

 私が「何か見つけたら」となると前に進めなくなる可能性があるので、私はよっぽどの事が無い限りは立ち止まらないように心掛けなければ!


 ◆

 家を出て結構歩きました。

 陽は高く上がり、暖かい気温を振りまいています。

「そろそろお昼ご飯にしましょうか」

 お嬢様から昼休憩の合図が出ました。

 お嬢様は道中、あれやこれやと道に生えている植物を魔法鞄へ入れていきましたが、私の方は未だに収穫は無しです。

 鳥を見つけては狩ろうとしても逃げられ、いつもは何も考えずに向かってくる一角兎も今日は見ません。

 今日のお昼ご飯は肉無しになりそうです。

 お肉は胃に落ちた瞬間に込み上げる旨味と脂味が美味しいのです。これは植物には無い美味しさですね。

 干し肉はありますが、生肉と干し肉では感じ方が違いますね。

 家でお昼ご飯を作って持って行っても良かったのですが、材料が保存食しか無かったのと、お嬢様が「秋ほど食中毒には注意しないといけませんから」とおっしゃっていましたのでやめました。

 よくわかってはいませんが、名前に毒と付くなら止めるべきでしょう。

 毒には良い思い出がありませんから。

「ここに第一拠点を作りましょう」

 お嬢様がそう言った場所は木々が倒れ、少し開けた場所でした。

『静かな場所ですね』

 鳥の小さな囀りが聞こえるぐらいです。

 ここからは木々の間から僅かに海が見えますが、波の音も聞こえないぐらいの場所です。

「シルキーさんには薪となる枯れ木や枯れ葉を持って来てくれますか?」

『承知しました』

 枯れ木や枯れ葉なら私が風を操れば簡単に入るでしょう。

 風の強さを調節すれば乾いたものだけ浮かせる事も出来るでしょうし。

「私は簡易かまどを作るのと共に、食事の準備を済ませておきますね」

 お嬢様は簡易竃も作れるのですか。お嬢様のいた世界はどんな場所なのか想像もつきません。

 このような事に慣れていらっしゃるようですので、野営が必要な世界だったのかもしれませんね。

 そう考えながらも渦を巻く風を操って木の葉や枝をかき集めていく。

 これで美味しそうな鳥でもいれば良いのですが。

 背にある弓に手をかけ、いつでも戦闘準備が可能な状態にしておく。

 何かあった場合に備えておくように。と、お嬢様から言われましたからね。

 しかし、静かですね。

 もう少しざわついてもいいのですが。

 今、目の端に何か映りました。

 ゆっくり慎重に“何か”に近付いていきます。

 大きく、茶……色の何か。

 私は木の陰から窺ってみる。

 大きな岩のような体格。白い牙。焦げ茶色の毛並み。自分の身体の四倍はありそうな猪。

『ロックボアですか』

 ロックボアと呼ばれる岩のような体躯の大きな猪。

『良い獲物ですね』

 私がここで仕留める事が出来たなら昼食でお肉が追加されます。

 また、二人で食べる分には多いので明日も持ち越しで食べられるでしょう。

 なら早速準備をしましょうか。

 私は新調した弓を構え、もう片方の手に矢を三本ほど持つ。

『じっくり構えて――』


 ◆

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

 シルキーさんの悲鳴が聞こえた。

 本体は霊体のようなものだからシルキーさんが死ぬ事は殆ど無いだろうが、急いでシルキーさんのいる方へと向かう。

 弓矢は渡したので物理攻撃が効く相手なら、最悪時間稼ぎぐらいは出来るはず。

「それまで何とか持ちこたえて下さいね」

 シルキーさんの悲鳴元に血痕が見つかった。

 勿論シルキーさんの身体は人形なので、血液の正体はシルキーさんのものではない。

 血痕を辿って行くとシルキーさんがへたり込んでいた。

「シルキーさん大丈夫ですか?」

 シルキーさんは『ハイ』と頷いた後に血痕先の物体を指差した。

 あれは動物だな。毛があって大きい。

「あれは?」

『あれはロックボアという猪です』

 ロックボアと呼ばれる猪は三本の矢が刺さって動かない。

 シルキーさんが仕留めたのだろう。

 息絶えているなら、もう近づいても大丈夫だろう。

 ロックボアに近寄ろうとした時にシルキーさんが服の裾を掴んだ。

 すると猪の表面上で何かが動いた。

 滑りのある茶色の何かが蠢いている。

 これはアレだろうか。人気アニメで「お前にSAN値が守れるか」とか言われる物語の猪だろうか。触ったら呪われるタイプ。

 そしたら近寄れないのだけれど。

『あれはワームです』

 へたり込んでいたシルキーさんがやっと口を開いた。

 ワーム。虫だろうか。ミルワーム的な。幼虫。

『ワームは種類が豊富で、細長く幼虫のような生物はワーム種として一括りにされています』

 嗚呼。そういえばシルキーさんって虫が苦手でしたね。本人は決して言わないけど。

 しかし、ワーム種か。

 それなら魔物か何かの幼虫だろうか。

 猪を食べるつもりなのか、表面に付いている。

『あれはブラッディワームと呼ばれるもので、血液を吸うものです』

 製作者様が書いたであろう本に、そう書いてあったという。

 吸血性のある生物か。

 蚊、ダニ、ノミなど吸血する生物は意外と多い。異世界にもいるだろうとは思っていたが、ブラッディワームか。

「って事は、ロックボアの血液を吸っているわけですか」

 私の腕ぐらいある生物がウネウネと猪の上で踊っている。

『ハイ。ロックボアに矢を命中させた後、ロックボアが逃走したので追ったら血の匂いに引き寄せられたブラッディワームがいっぱい……』

 シルキーさんはおぞましい光景を思い出したのか身震いする。

 トラウマにならなきゃ良いのだけれど。

 しかし血を吸って、細長くて、茶色で、滑りのある生物か。

 大きさは違えど、私の知っている生物と似ているな。

 私は火を起こし、少し湿った葉に火をつけた。

 煙がモクモクと立ち上がったのを猪の方へ扇ぐ。

「シルキーさんも手伝ってくれますか?」

 風を使うならシルキーさんに任せた方が良い。

 適材適所だ。

『お嬢様!?』

 私は猪の方へ近付いていくとシルキーさんは止めようとした。

 まぁ見てなさいって。

 シルキーさんには、そのまま扇ぐのを続けてもらい、私は火の付いた薪を持って少しずつ猪へと近寄る。

 息を止め、煙でいぶされた猪の辺りを見渡す。

 やはりそうか。

 落ちた触手だった物を手で掴む。グニャリとして滑りがあるそれは、私の身長よりは短いがヒルとしては凄く大きい。

 そう。ブラッディワームはヒルである。

 正確にはヤマビルという種に近い。

 ヤマビルは山に生息し、猪などに吸着し、血を吸う。人間から血を吸う場合もある。

 吸われた場合、煙や火によって落とす事が可能である。

「シルキーさん、ブラッディワーム捕まえました」

 辺りは血が流れ、複数のブラッディワームが落ちている中、シルキーさんに向かってブラッディワームを掲げた。

『お嬢様。そんな地獄絵図の中、無邪気な笑顔を向けないで下さい』

 叱られてしまった。

 蛭という生き物は中世ヨーロッパでよく使われていた。

 よくある異世界物にある「中世ヨーロッパ風の世界」の中世だ。

 蛭は瀉血しゃけつという治療法に使用された。

 瀉血というのは、悪い物を血液と一緒に体外に出すという治療だ。蛭は血を吸い、血液を固まらせない物質「ヒルジン」を唾液腺から出す事で血液の凝固を妨げる。そのためより使用されたという。

 抗凝固剤か。

「シルキーさん。これ飼いましょう」

『何おぞましい事をおっしゃるのでしょうか』

 拒否られたか。

 まぁ、苦手なのだろうから無理もないか。

 私のフランベルジュにこのヒルジンを使用したい。

 毛細管現象でヒルジンを剣先に流し、刺された場合には失血死に陥る。という感じにしたい。

 ただでさえ殺意に満ちた剣なのだけれど、もっと殺意を込めたい。

 太い血管が切れてヒルジンを流し込まれたら助からないだろうなぁ。

『お嬢様。悪いお顔になっております』

 ヤバい。顔が緩んでしまった。

『お嬢様がどう言おうとワームを飼うのは許可出来ません』

 そうかー。ダメかぁ。

 なら、大量に散らばっているブラッディワームからヒルジンを集めるか。

 血を固まらせない物質だから上手く使えば医療にも使用可能だけれど、やっぱり殺生に使用するのが使いやすいかな。血抜きで使用すれば血抜きしやすいし。

 その場合に注意しなくてはいけないのが、ブラッディワームが病原菌の媒体じゃない事だ。

 蛭は比較的菌の媒体にはなりにくい。とは言ってもだ。

 逆に蚊は媒体となりやすく、人間を一番殺している生物としてランクインしている。

 吸血性のある生物ではマダニやツツガムシなども危険ではある。

 血液を吸う生物は嫌悪感以外にも危険性のある生き物が多い。

 なので私が集めているヒルジンも殺菌をしておく事にする。

 ポーション作りが日課なので瓶は余っているが、ワームの数が多いので足りるかが不安だ。

 後で【錬成】によって土器のような物を作るか。

 待てよ。【精錬】によってヒルジンだけ抽出すれば良いのではないか。

「シルキーさん。この猪を頼んで良いですか?解体と調理は任せます。血抜きはされているのでそのまま始めて下さい。肉は調理する前に叩くかフォークで刺して下さい」

 元の拠点とする位置には竃を設置してある。

 シルキーさんも薪は拾っていたので一食分はどうにかなるだろう。

『承知しました』

 シルキーさんが恐る恐る近付いてくる。

 シルキーさんは血液がないので襲われる可能性は無いのだが、とても慎重だ

 私の方が危険な事をしている気がするが、これを言うと怒られそうなので言わない。

『お嬢様はブラッディワームを何に使用するので?』

 ワームの死体を避けながらシルキーさんが聞いて来た。

「私のいた世界じゃブラッディワームはもっと小さく、医療関係などで古くから使用されていたのですよ」

 このブラッディワームで瀉血した場合、失血死に至るので出来ないだろう。

「医療や血抜き、殺生など様々な使用が可能ですよ」

 私はウネウネと動いているブラッディワームを見せつけると、シルキーさんはそそくさとロックボアを引きずって逃げた。

 私は溜まった血液を【精錬】スキルでヒルジンだけ抽出した。

 小瓶二つ分のヒルジンが溜まった。

 やはりブラッディワーム自体が大きいので、吸った血液から取れるヒルジンは多い。

 しかし、現場は悲惨だ。

 血の海の中、血だらけの童女。

 こんなヤバそうな童女に出会ったら即座に危険人物と認識されるだろうな。

 私は一度服を脱いで、【精錬】スキルで服から赤血球、血小板、ヘモグロビンを抜いた。

 血液の色素は大分無くなったが、臭いは取れない。

「後で洗濯するしかないか」

 やろうと思えば【精錬】スキルで綺麗に出来るのだろうが、正直面倒だ。洗った方が速い。【精錬】スキルは【魔術】の派生。錬金術の枠だ。なので細かく設定する必要がある。

 血液の中にどれだけの栄養素があり、どれが作用しているか知っていなければならない。

 それを一個ずつ取り除くより洗濯して干す方が簡単だ。

 ライトノベルにある【クリーン】みたいな魔法があれば別なのだけれど。

 魔法は曖昧で、イメージされたものを魔力で補う。魔法は才能や適性、イメージと習得が揃って発動出来る。

 私の【獄炎魔法】はもの超高温の炎をイメージして放たれる。この場合には魔力が全て補正して黒い炎になる。

 しかし、魔術や錬金術でそれを発動しようとすると、燃焼の化学式やエネルギー分が必要とされる。そして出る炎の色は仮説ではあるが、白となる。

 まぁ、化学式を把握しなくても魔術は可能だろうが、炎ぐらいは出せるだろうが、超高温となると化学式を用いらないと無理だろう。

 なので【クリーン】という魔法があれば“なんとなく綺麗な状態”まで戻す事が可能なのだ。

 シルキーさんがそういう魔法を手に入れるまで無理だろうなぁ。

 シルキーさんが【初級光魔法】を習得したので期待が出来る。

 そうでなければ、私が綺麗好きな魔物を食べるしかない。

 ふと、落ちているブラッディワームを見る。

 これを食べたら何か習得するのだろうか。

 いや、止めておこう。シルキーさんにドン引きされそうだ。

 私はシルキーさんが料理して待っている方へと向かった。


  ◆

 お嬢様にブラッディワームを取っていただいたので、私は拠点に戻ってロックボアを解体していた。

 ロックボアを解体した事は無いのですが、お嬢様は「大体の生き物は頭落として腹開けばなんとかなる」とおっしゃっていたので挑戦しています。

 頭はお嬢様の魔力鉱石を飲んで何とかなりました。

 大きいので内臓を取るのは大変そうですね。

 森の方へ向かって切り口を向け、傷つけてはいけない臓器を慎重に取り出します。

 サポートとして【解体】スキルがあるので厄介な臓器は上手く切り離せました。

 あとは【竜巻】を開いた腹から森へ向けて発射します。

 あっ……威力が強くて森の木々に臓物が叩きつけられ、悲惨な現場が出来上がってしまいました。

 まぁ、お嬢様がいた場所よりはマシでしょう。

 幸いロックボアに影響はありませんでしたので良しとします。

 皮が硬いので、分厚く削いでいきます。

 一発目の矢が刺さっても効いていなさそうでしたので予想はしていました。

 流石はロックボアです。

 私は風の力で無理やり刺せましたが、普通のやり方じゃ無理でしょう。

 それにしても、ブラッディワームによって随分と血抜きがされましたね。

 血を吸ったブラッディワームは悍ましい容姿ですが、ちゃんと利用出来るものなんですね。

 流石はお嬢様です。

 私はロックボアの関節を外し、切り分ける。

 背中の方に脂身が多いですね。脚はしっかり肉が引き締まってます。

 お嬢様が作った竃の横に山菜が置いてありますね。

『これは食べられるものでしょうか』

 ここに来る途中でお嬢様が色々と摘み取っていたようですので、食べられる物でしょう。

 そうでない物は魔法鞄に入れてあるはずです。

 とりあえず私はロックボアを各部位へと分けていきます。

 お嬢様の言われた通り、肉をフォークで刺しておきます。

 理由は後で聞く事にしましょう。

「シルキーさんお疲れ様です」

 お嬢様が帰って来ました。

 お嬢様は当然血まみれで――ない!?

『お嬢様、お洋服の血液はどうされたのでしょうか?』

 あれだけ血にまみれた服装だったのに血の一滴も付着していません。

「ああ。魔術で血液の色素だけ除外したんですよ。臭いとかは取れてないので早くシャワー浴びたいんですけどね」

 お嬢様は軽く苦笑いして軽くスカートの裾を持ち上げた。

『シャワーとやらはわかりませんが、赤くない血液が付着しているという事でしょうか』

 お嬢様は頷いて「そんな感じです」と微笑んだ。

 お嬢様の微笑みに少しドキりとしながら、竃の横にある山菜を指差す。

『あれは食べられるものでしょうか?』

「ん〜と、これは香草で、これはサラダ用。これはスープにいれるタイプかな」

 お嬢様は次々と山菜を分けていく。

 お嬢様は様々な種類の山菜を知っている。前世の記憶があると言うが、どれほどの知識があるのでしょうか。

「これはこの世界特有の物なので判断しかねますが、の様な植物ですので水で灰汁抜きしてから和え物やサラダなんかやってみても良いと思います」

 お嬢様は先がクルリと巻いた茶色い茎を纏めて置いた。

 あまり見た目は美味しそうでは無いのですが、お嬢様がいた世界では食べていたのでしょう。そうでなければ食べ方を知らないでしょうし。

「私は少し水浴びして来ます。食材は余ったら置いておいて下さい」

『行ってらっしゃいませ』

 お嬢様が帰って来る前に仕上げたいですね。

 お嬢様は水浴び等が速いので私も結構なスピードで作らなければなりません。

 お嬢様がこごみと言っていた植物を手に取り、切ってから水に浸す。

 柔らかくしたロックボアに香草を混ぜて揉み、塩を振りかける。薄く切ったものと厚く切った物に分ける。

 スープは作れなさそうですね。仕方ありません。サラダ用の山菜の山菜を切って皿に盛り付ける。

 サラダに油と塩をかけます。隣に肉を盛り付けるのでスペースを空けておく。

 薄切りした肉をしっかり焼いてサラダの隣に盛り付けたら完成です。

 余った厚切り肉はスープ用として残しておきましょう。

 残りのロックボアはお嬢様に保存してもらいましょうか。

 塩を多くかけると腐りにくいと言っていましたね。何故かはわかりませんが。

 さて、火が残っているのでお湯も沸かしておきましょう。洗い物も楽になりますし。


 ◆

 水浴びと洗濯をしていたら、時間がかかってってしまった。

 戻ったらシルキーさんの調理が終わっていた。

 沐浴にあまり時間をかけていなかったので、凄いスピードだ。

 シルキーさんの上達力が凄まじい。

 シルキーさんが食欲を感じるのも腹にいる何かのおかげだろう。

 舌での味覚や嗅覚による刺激があればもっと上達するのかもしてないが、それは難しいだろうな。

 手足を動かす為に魔力の通りを良くする事は出来るが、シルキーさん自身に舌で味わう概念が無い。

 それは食による生命の危機が無いという事だ。

 本来、生物は食べてはいけない物を食べると死ぬので、食べないように回避能力が備わっている。

 先ずは臭いで判断し、舌の刺激でも判断する。それでも駄目なら内臓でから体外へ出そうという働きが生じる。

 口から出るか、下から出るか。

 しかし、シルキーさんはその工程が無い。食べた後に味が分かるので死の概念すら無いシルキーさん向きなのだ。

 私の製作者様は何を造ろうとしていたのか――いや、それは私か。私を造ろうとしたのだったか。

 そこまで固執した理由でもあるのだろうか。

『お嬢様食べますよ』

 シルキーさんの声で、ふと我に返る。いらない事を考えてしまっていた。

「魔力を流しますね」

 料理に魔力を流す。シルキーさんの動力源だ。

 食べ物内にある魔力ではシルキーさんが動き続けるには足りないらしい。本来なら様々生物から魔力を分けてもらって行動するのだが、シルキーさんは私の主従契約でこのようになっている。

 主従契約を半ば無理矢理させられた私は、シルキーさんには色々食べてみてもらいたいと勝手ながら思っている。

『中々噛みごたえがありますね』

 いただきますをしたシルキーさんがロックボアをよく噛んでいる。

「やはり玉ねぎやワイン、パイナップルなどに浸す方が良かったかもしれませんね」

 ワインならあるが、持っているのが毒物なので使いたくはない。

 その他の材料は持って無い。詰んだ。

 それに多少臭みがある。香草で消しても感じられるのでもう少し強めの香辛料が欲しい。

 タイムやディルはあるが、カレーに入っているようなスパイスが欲しい。

「ポトフもどき用に、ある程度脂身のある肉は保管して残りは干し肉にしましょうか」

『その方が良さそうですね。ステーキには向きませんでした』

 火を調節する事が出来ればもう少し上手く出来るのかもしれない。

 弱めの火の魔法が欲しい。

っぽいヤツも美味しいですね」

 アク抜きの方法は教えたが、こごみはゼンマイと違って調理しやすい。

 異世界こごみにアクはあったのだろうか。

「そうだ、シルキーさんに設問です」

 質問ではなく設問。

「ワーム種――ブラッディワームは魔物モンスターだと思いますか?シルキーさんの考えで構いませんので」

 シルキーさんは少し考えた後に口を開いた。

『お嬢様が言う魔物モンスターである事は、魔法が使え、ヒト種の脅威であり、超的変異が行われるという事ですよね』

 私は頷いた。定義として全て当てはまる生物を魔物モンスターとしている。

『ブラッディワームは魔法が使え、家畜を狙うなどヒト種の脅威となり得ますが、魔物とは思いません』

 私は口角が上がってしまうのを抑えられずに何故か聞いてみた。

『私の経験でしかありませんが、ワームはどこにでもいますが、どこにでもいる中で上位種、下位種が同時に存在しているのを見た事がありません』

 ゴブリンならばゴブリンがいて、近くにゴブリンの超的変異種が近くに存在するという。

『サンドワームなら砂地にしか生息しませんし、ブラッディワームなら森に多く存在します。魔物なら混在すると思うのです』

 私も同意見だ。ワーム種は魔物では無く、動物。ワーム種として認識されているが、種別としては別だろう。もしかしたら魔物のワーム種が存在するかもしれないが、シルキーさんの経験上いても少数だろう。

 ブラッディワームも顎ヒル目ヒルド科に分類されそうだ。

 大きさは十倍以上違うものの、ヤマビルと大差ないはず。

 見た目も口の形もY字で野生動物の血液を吸う。また、ヒルジンという抗凝固剤を出している。正確には物質を出しているだろうと言うべきだが、許容して欲しい。

 なので、私の中ではヤマビルという結果に至る。

「では、逆に魔物であると証明するには如何すれば良いと思いますか?」

 これは意地悪な設問だったかもしれない。

『お嬢様はワームが魔物だと思っているのでしょうか』

 シルキーさんとしては自分の意見は違うと思ってしまったようで、自信無さげに俯いてしまった。

「いえ、私はシルキーさんと同意見です。魔物では無く動物と思っています。けれど、視野を広げる為に逆の考えを知りたかっただけです」

 間違った事は言っていないので安心して欲しいと言うと、シルキーさんは少し悩んだ上で答えた。

『超的変異が可能である事を証明出来れば魔物と判断出来ますね。幼体や超的変異前となるものを育成してみるとかでしょうか』

 その後シルキーさんはお嬢様によるワーム育成は禁止しますが、と付け加えた。

 ワーム育成は許してくれそうにないが、有意義な回答が得られた。

「いやぁ、シルキーさんに聞いてみて良かったです」

 私はずっとニヤニヤが止まらなかった。

 こういう他人の意見が聞けるのは良い事だ。

 反対意見であればあるほど面白いのだが、今回は同意見だった。

 しかし、シルキーさんが私と同意見になるなんて少し嬉しい。

 私の影響があるとはいえ、自分の経験を交えた考えで言ってくれるなんて、ニヤニヤが止まらない。

「ちなみに、ロックボアはどうですか?」

 ついでに聞いてみた。

『あれは動物ですね。魔物のように魔法が使えないので』

 魔法が使用出来たなら、もっと苦戦してました。とシルキーさんは付け加えた。

 確かに。あれは猪だ。元の世界でもロシアで五百キログラムを超える猪が捕獲されたらしいので、あまり気にはならない。

 個体として大きいのではなく大きくなる種のようなので、そこには驚きを隠せない。

「はやり同じ意見ですか。けれど、楽しいものです」

『お嬢様が満足しているなら良かったです』

 その後私とシルキーさんは「ご馳走さま」をして、後片付けに入った。

 旅の初日から実に充実している。

 後片付けが終えた後は初日のキャンプ地まで何も無かった。

 今思うとブラッディワームが多かったせいで野生の動物が少なかったのだろうか。

 ロックボアは偶々そこに居合わせた可能性がある。

 本来の縄張りを出たか、拡張したかったか。

 いや、ロックボアはブラッディワームに血を吸われない自信があったのだろう。しかし、シルキーさんに傷を付けられたのが運の尽きだった。

 ブラッディワームは傷ついた箇所から噛み付いて血を吸っていったのだろう。

 大きめのブラッディワームが二匹もいたら、成人男性の血液ぐらい全て吸い取ってしまいそうだ。

 それが小さい個体も含めて二十匹はいただろう。

 蛭対策が出来ない野生動物にとっては、たまったものじゃないだろう。

 あの森から動物がいなくなる前に、ある程度数を減らせたのは良かったかもしれない。

 しかし、それも単なる自己満足に過ぎない。ブラッディワームを捕食する生物が多量にやって来ては繁殖するかもしれないからだ。

 余計なちょっかいだっただろうか。

 そんな事を思いながら睡眠に身体の自由を奪われた。

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