第三章〜マンドラゴラツリー/スライム〜
時は遡り、オークと出会う前の出来事となる。
私はマンドラゴラを部屋で偶然にも見つけてしまった・(一章参照)
それを植えようと、鍬と培養液を持って庭先に出る。
まだ植えようにも何もしていないので、畑から作ることにする。
何か他にも植えるかもしれないので、大きめにしよう。
玄関を出て左側に十六平方メートルぐらいの土を耕す。
この身体では鍬が大きすぎるが、力で何とかしよう。
あれ?私ってば脳筋?
違うはず。異世界に来たばかりで、たまたまそうなっているだけ。
そんな事を考えながらも畝が四列出来上がった。力技でも速いもんね。
さて、とりあえずはマンドラゴラを端の方に植えましょうかね。
一度プランターから枯れたマンドラゴラを引き抜く。マンドラゴラの弱々しい叫び声が聞こえるが、無視して畑に植え変える。
マンドラゴラを三十センチメートル間隔で植える。園芸とか詳しくはないが、あまり近過ぎてはいけなかったはず。
けど、これは遠すぎるだろうか。畑が大きいのに間隔が空きすぎて逆に寂しさが出てしまっている。
自分のセンスがなさすぎる!
ま、まぁ、これから色々増やせば良い感じの畑になりそうって思えば大丈夫でしょ。ほら、未来性のある畑なわけだし。
私の心の隙間と畑の隙間を埋められるよう頑張ろう。
とりあえず、植えたけれど栄養素が皆無だ。
と、いうより既にマンドラゴラは枯れている。普通ならこのまま植え変えても復活はしないだろう。しかし、培養液をかければ復活すると見込んでいる。
だが、培養液の原液だと強すぎるかな。
水で薄めて使ってみるか。けど、魔物だから大丈夫かもしれない。
とりあえず萎びた感じの一本に小瓶一杯分をかけてみる。
みるみるうちに萎びたマンドラゴラは瑞々しくなり、大きく成長していった。
大きく、大きく。私の背丈を超えて大きく。
いや、これは大きすぎない?
三メートルぐらいの木になっていた。
ナス科なのに、ナス科には見えない完全なる木。
おかしいな。魔物だからか?
もしかしたら、マンドラゴラから超的変異を遂げたのか。
木から枝が分かれ、葉が生い茂る。
一輪の花が咲いては萎み、実が出来た。
ナスの実としては丸い。日本で売ってるナスとは全然違う。
花はナス科の薄紫色で綺麗な花だったが、実は丸い。ヘタはナス科っぽいけれど。
あれがマンドラゴラの実なのか。
しかし、また随分と急成長したな。
まだ春なのに実までつけてしまった。
端に植えといて良かったぁ。変なところに植えてこんなに大きくなったら邪魔でしょうがない。
「マンドラゴラの実かぁ。美味しいかな」
そんな事を呟いていたら、綺麗な鳥がマンドラゴラツリーにとまった。
鳥はマンドラゴラツリーについている実を嘴でつついた。
パンッ!
突然破裂音が響いた。
びっくりした。
この世界に来て初めてびっくりした。ホムンクルスになった時は違う感じでびっくりしたけれど、今回はシンプルにびっくりした。
綺麗な鳥は驚いて逃げ去ったけれど、また戻ってきた。しかも何か様子がおかしい。フラフラしている。
警戒心がないのか?鳥頭だからって、こんなすぐに忘れるわけがない。
マンドラゴラツリーの実を見ると、最初と色が違う。
破裂音から変わった?
もしかして、風船のような膜が張っていたのか?それを突いて割ったのか。
そして、本当の実が出たのか。
それにしても、あの実は美味しいのだろうか。鳥が驚いて警戒心なく、また飛んでくるなんて、途轍もなく美味しいのだろう。
そう思っていると、鳥は実を咥えて飛び去っていった。
ん?実を咥えて飛び去る?
野生の鳥ならそのまま食べるでしょう。
あ。あぁ。そういえば、マンドラゴラの超的変異だ。
鳴管が実の外殻に変わったという事か。叫び声から破裂音へ。驚いた鳥は精神魔法で操られた感じか。
「操る」まで出来るなら結構魔物として上位種であろうな。
あの実の味がわからずじまいな上に、あの実を植えたらマンドラゴラが生えるのか知りたかったが、仕方がない。
次にまた実が出来たら検証しよう。
◆
豚肉の残りが僅かとなった。
あの量を一人で食べきるにはもっと時間がかかるだろうと思っていたのに、あっという間だった。
今の時期は雨季らしく、雨の日が続いた。
豚肉の減りが速いのはそのせいもあるだろう。
雨の日に外へは出たくない。
今も曇天である。
しかし、外に出ないと食糧難になるのは、自給自足生活の嫌なことろである。コンビニが欲しい。
湿気とともに気持ちが重い。
とりあえず、野草でも確保しますかな。
製作者様が作ったであろう、ケロケロ雨合羽を着て外に出る。
ナイフと籠は持った。弓矢はオーク戦でなくなったため、オークの使っていた槍を持って行く。
さてと、出発しますか。
この世界に来て、少しずつ移動範囲が広がってきている。川や茨のある場所毒キノコ群生地など。
今日は何処に行こうかしら。川と逆方向にでも行ってみましょうかね。
歩きながら記憶媒体にインプットされた食べられる野草や薬草を籠に入れてゆく。
便利だなあ記憶媒体。製作者様はキノコが好きではなかったようで、「食べられるキノコ」が全くインプットされていない。
美味いのに、キノコ。
そうこうしているうちに、沼地へ着いた。
沼地かあ。
正直言って、沼地なんて初めて見た。池や湖ならわかるけれど、沼地かあ。
辺りを見渡すと沼地に多く生息する植物がある。例えばガマがある。「ガマの穂」とか特徴的で、図鑑とか見ると頭に残る形をしている。確か、ガマの花粉には利尿作用があるんだったかな。後で何本か貰って行きましょう。
生け花とかでもたまに見るガマは地味だけど嫌いじゃないよ。
沼地の植物はまだまだある。シダ類、スゲ属、イネ科とある。
イネ科!イネ科だよ。
スズメノテッポウに似たイネ科がある。スズメノテッポウはよく日本の水田にあったりする。真っ直ぐな穂を出しているからよく目立つ。
このまま稲を手に入れ、お米を主食にしたいが、無理だろう。
異世界に来てそんな簡単に米が手に入るとは思っていない。
せめて、それに代わる何かが欲しいけれど。
葦やシダ類を寄り分けながら、探していると目の端で何か動いた。
丸くて透明なものがいる。
スライムだ。
「スライム」
ゴブリン、オーク、コボルトに並ぶ物語の最初に出会う魔物だ。
まぁ、この世界でのコボルトは魔物ではなく人の類だ。「獣人」と呼ばれる人の別称だ。
ゲームや物語でのコボルトはよく犬の容姿で二足歩行だが、間違っていないが、合ってもいない。
様々な獣の容姿で、私達の良き隣人である。
オークはコボルトではないのか、という議題は出たたらしいが、それは今でも続いているらしい。
しかし、スライムか。
スライムは何でも溶かし、消化する。私の材料でもある。全てのスライムなのか、「オールスライム」という種類なのかはわからないが、どうせ消化器官でしょう。
「スライムは核を攻撃すれば簡単に倒せる」よくそう言われている。このスライムもそうなのか。
私は槍を構えてスライムと対峙する。
弓矢の扱いは最悪だったが、槍ならば。
なんてったって私、高校時代に薙刀で全国大会優勝しましたから。
嘘です。嘘つきました。
そんな「全国大会優勝者」が「何処にでもいる普通の高校生」なわけありませんし、そんな運動神経良さそうな人が異世界転生するにはもっと先ですって。
槍なんて日本で持つ機会がありませんよ。
高校時代の薙刀部の女子が可愛かったなぁ。と思っていたぐらいの根暗高校生でした。
「普通」ってのはこのぐらいですよ。
「普通」について考えていたら、スライムが水を発射してきた。
危なっ!
ただの水鉄砲なら濡れるだけだけど、水と共に小石も混ざっていた。
あれだ。雪合戦で雪玉に小石入れる悪ガキ戦法だ。
当たったら結構痛いやつ。
こちらも槍で反撃する。
「超素人級奥義!何回か突く」
私は華麗に何回かスライムを突いた。
華麗でしたよ。華麗でしたとも。すごく素人臭い突きとか言わない。
遅い連続突きだが五回目には核に当たったらしく、スライムは土へと還った。
しかし、スライムってどうなっているのか。
核らしきものを発見したが、構造がわからない。
核はただの丸い小石のようなもので、特別何かありそうな感じとは思えない。
スライムは謎だらけである。
スライム研究をしている人はいるらしい。しかし周りは液体な上、核は脆くて弱い。
弱いスライムなのに何でも消化し、超的変異は無数に存在するという。
私の考えでは、液体には様々なバクテリアなどの微生物が存在しているのではないか。と考える。
微生物は酵素によって分解を促す。
ゴミが土へ還ったり、海が魚の死骸でいっぱいにならないのは微生物のおかげである。
スライムは強力な酵素とバクテリア、微生物に覆われていて、何でも分解及び吸収しているのではないか。
超がつくほどの速さで分解するなど普通では無理だ。
しかし、ここは異世界。何でも分解するバクテリアがいる可能性や、各分解担当の微生物が色々生息しているかだ。
それが仮説の一つ。
もう一つは――いや、「もう一つ」というより派生と言うべきか。
微生物の他にアメーバのような単細胞生物もいる可能性がある。
バクテリアとアメーバの違いを説明しよう。
バクテリアは真正細菌である。細菌の複数形がバクテリアである。バクテリアはsn-グリセロール3-リン酸の脂肪酸エステルより構成される細胞膜を持つ原核生物と定義される。
アメーバは単細胞生物である。そして、アメーバは微生物を食べる。アメーバの中にはネグレリア・フォーレリと言う脳を溶かして栄養素にするという凶悪なアメーバもいる。
なかなか難しい話になってしまう。「原生生物と原核生物の違い」といって分かる人は凄いと思う。
まあ、違いがわからないからといって困る事は無いだろう。
スライムの液体にはこの驚異的な分解・吸収能力のある二つが生存している可能性がある。バクテリアが外殻を分解し、アメーバが内側から破壊するといった感じだ。
真正細菌は発酵食品などに応用できる可能性はあるが、本当にいるかわからないためリスクは高いな。
変なことをして病気になるのも嫌だしね。
さて、そろそろスライムの核の破片を拾って探索の続きといきますか。
食べられそうな植物を探す。
稲じゃなくても小麦とかあれば栽培して増やしていきたいのだけれど。
またスライムが出た。倒す。
沼地だからスライムが多いのだろうか。さっきからスライムが出ては倒されていく。
食べ物よりスライムの核の方が多くなりそうなんですけどー。
スライムは様々な超的変異があるらしいが、この辺りは普通のスタンダードタイプのヤツっぽいな。動きは遅く、槍素人の私でも倒せるコツは必要だが。
スライムの核の破片を拾いあげた時に思わず息を飲んだ。
近くにイヌビエがあった。
イヌビエ。普段は聞く事のない植物だが、ヒエの元となった植物である。
粟や稗は昔から食べられている植物で、米が普及する前は主食として食べたりとしていた。
しかし、米の普及が多くなり、食べる機会は減った。が、現代では栄養価の高さなどを見直され、話題となっているという。
まあ、私には現代の日本を考えるより今日の夕飯よ。
イヌビエが多く存在するなら、普通にヒエがあったりしないだろうか。
とりあえず、イヌビエを大量に刈っていく。
籠にスライムの核とイヌビエが大量に入っていく。
ヒエがあった。イヌビエではないやつが。
思わずヒエーと叫びそうになったが、もの凄くつまらないのでやめた。
やはりイヌビエほどの量ではない為、これは栽培して増やしていかなければならない。
ヒエだけだと一膳にもならないだろうなぁ。食糧難かよ。
ヒエを栽培するのだが、ヒエの良い所は水田でも畑でも栽培が可能な所だ。
水田しか栽培できないものだと家の近くに水を引いて水田をつくる所から始めなければならない。
まあ、水田は今後の為に作るとしよう。ヒエを水田でも育てても良いし。農家ではないので、大きくなくて良いのだ。
小、中学校だかでバケツで米の栽培をしたのを思い出す。
懐かしい。
そんな思い出に浸りながらも帰りますかな。
早く帰ろう。雨が降ってきたら嫌なので。
ガマも忘れずに持って帰らないと。
◆
まず、薔薇苺の隣にヒエを植える。ついでに少しイヌビエも植えてみる。
とりあえず、残りのイヌビエは乾燥させるか。
雨季だけど、上手く乾燥するだろうか。あと、小鳥に食べられたら辛い。
そういえば、スライムの核を擦り潰して調合すると簡易結界がつくれるらしい。それを後で調合しておこう。
スライムの核がここで役に立つとは思わなかった。
スライムの核。スライムの核ってそもそも何だろうか。
スライムと戦っていた時には必死だったから考えていなかったが。
スライムの周りが細菌や微生物として、核を破壊されたら死ぬってどういう事だろうか。
そもそも生物なのだろうか。生物集合体なだけかもしれない。
核はそれをまとめあげる何かなのか。
確かに研究しようにも何処から手をつけていいかわからない代物だな。
例えば、核が何も意思を持たないものだとする。そしたら水辺に誘われ、淡水を纏い、移動するだけのもののはずだ。
そしたら攻撃はしてこない。攻撃をするならば、意思を持つ一つの生物と思われる。
ならば、核は司令塔の役割をしているのだろうか。
私が核ならば、身を守るために淡水を纏う。そして微生物には餌の提供をし、運命共同体になってもらうか。
そう考えるとスライムは一つの国だな。核が王様で微生物は騎士といったところだ。日和見菌は民かな。
人も肌から内臓まで様々な菌や微生物がいる。そう考えるとスライムは一個体と考えるしかない。
ところで、スライムが水分なのにかかわらず、球体のまま維持しているという事が気になる。
水分が球体である。確かに球体なのは「普通」なのであるが、維持している事がおかしいのだ。
水分が球体の形をするのは「表面張力」という力が働くからである。
それは地球が丸い形である事やコップに水をいっぱい入れた時に溢れるのを防いだりする力だ。面積を小さくしようとする力。
その表面張力が維持されるのは不思議だ。
例えば、地球上にある玩具の「スライム」は表面張力などないに等しい。ドロドロのネバネバで、球体なんてのは程遠い。
では、水ならどうだろうか。水と玩具のスライムをプラスチック製の下敷きに乗せる。水は半球体になるはずだ。
しかし、地面に水滴を垂らした場合、地面が水を吸う。
では、液体ではなく、グミのような固体ならどうだろう。
固体なら地面に吸収される事はない。
しかし、スライムが移動した場合、周りに土や埃がついて小汚くなる。
それにだ、固体ならば微生物が表面上についているだけになる。それでは分解や吸収など出来ない。
実に不思議である。悔しいが、私の存在よりファンタジーだろう。
そんな事を考えながら、作業を進めていく。
イヌビエを食べるのはもっと先になりそうだなぁ。脱穀とかしないと不味そう。
そういえば、私のスキルに【魔力緩衝】ってのがあった。
読んで字のごとく、魔力でクッション材をつくる魔力緩衝。
あれってもしかしたら、スライムのスキルなのかもしれない。
液体であるスライムが微量な魔力緩衝で膜を張り、移動する。
固体ではない上、自分の魔力なので通したいものは通せる。球体、分解、吸収が可能であり、土もつかない優れものである。
何でも吸収してしまうスライムには無くてはならないスキルなのだろう。
何でも吸収……?
あーっ!
すぐさま槍の先を見たが、遅かった。
槍の先は分解、吸収され、ボロボロになっていた。
私はまた武器を失ったのである。
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