第5話
しかし、俺は分かっている。劣等感に寄り添ったままでは、本当の意味では楽にならないということを。本当に楽になるには…。
某芸能人は自殺についてこのように言った。
「死んだら負け」
俺はこう思った。
「人生は勝負事じゃない」と。
その芸能人は本当の苦しさを知らない。
「死を選んだ人は逃げられなかったんだ」と、ある人は言った。
俺はこう思った。
「他の人を殺せなかったから自分を殺したんだ」と。
自殺した人を逃げた人と言うのはその人に対する最大の侮辱だと俺は思っている。
彼らは優しかった。
優しさ故に己を消してしまったのだ。
苦しみの痕を抉るのが好きな人間達でこの世は溢れている。
「活きる」ためには優しさなんてナンセンスだ。
「生きている」中で本当に逃げられなかったのは他人を亡き者にした者達だ。しかし、それにも必ず「かてい」がある。
俺は決して彼らを擁護しない。
しかし、憐れみはする。
逃げたのではなく、逃げられなかったのだから。
いつの間にかこの国では、「人生」という、我慢をすればするほど「偉い」ゲームをほぼ全ての人間がやらされている。そして、そのゲームのコントローラーを握っているのは好き放題にやる人間達さ。この世界で楽しくやるには後者にならなきゃならない。しかし、それには苦痛が伴う。そうなるためには結局一度は、己を滅さねばならない。
まるっきり違う自分にならなければならない。その狭間で板挟みにされた感受性の高い人間だけがのたうち回って苦しむことになる。そして、皮肉なことに、彼らにはそれが愉快で愉快でたまらないのだ。
非情に。冷酷に。残忍に。
嗤うのさ。
故に、本当に逃げているのは「彼ら」にほかならないのだ。気付かない。気付きたくない無意識を抱えて。
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