第15話 猫耳フードのロリっ娘は好きですか?

<これまでのあらすじ>

 

 寝れば必ず夢を見る男、それが俺です。

 

 そして今、美少女獏ふたり、サキュバスふたりが「一緒に寝てよぉ! お願い、一緒に寝てぇ! こら、あんたそっち行け!」と群がってくるのです。


 何故なら俺が寝れば夢を食べ放題、精気を吸い放題だからです。


 何の得も無いと思ってたこのスキルでモテモテになるなんて!

 とはいえ精気を吸われたのでちょっと疲れたな、そのせいか日課のオ〇ニーも全然する気がない。


 げっ! もう深夜の一時じゃないか! 寝よ寝よ……。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



「ま、参った! 許してくれえ!」

 

 帝国魔法学園の中でもレベル66という飛び抜けて高いレベルを持つ生徒会長は無様にもレイピアを放り出し、降参とばかりに俺の方へ手の平を向ける。


「それは俺に言うもんじゃ無いだろう?」


 学園のバトルグラウンド中央にいる俺は完全に埋まった観客席へ手を向ける。

 そこには会長に利用され、身も心もズタズタにされた女生徒がいた。


「うっ! くっ……」

 

 その女生徒を見た会長の顔色が変わる。そして石畳に着いた両手を見る様下を向いた。

 

「終わりだよ、ゲス会長」


 俺の言葉に、怯えきった子犬の様に体をブルブル震わせる――――いや、猫に追い詰められたネズミの様に、か。


「誰が終わりだって? ヴァカがぁ! 俺様が終わってたまるかよぉ!」


 勢いよく立ち上がった会長が俺を射抜く様指を向ける。


 ――――ゲスい奴の思考は、本当に読みやすい。


 俺は会長に向けた目を微塵も動かす事無く、様々な方向から撃ち込まれる何十発というライフル魔法弾をレイピアで叩き落とした。


「はっ! はあ!?」


 驚愕の表情を浮かべ、両膝をガクガク震えさせている会長に、俺はレイピアを鋭く突いた。


 バトルグラウンドの客席から波の様に悲鳴が湧き起る。

 

 レイピアは会長の耳からぶら下がったゴールド色のリング――――帝国魔法学園生徒会の文字が彫られているリングの穴を突き抜いていた。

 

「な、鍋島卓巳……お前、いったい何者なんだ!?」

 

 レイピアの先端をちょいと動かし、会長の耳たぶからリングを千切り取った。

 

「うぎっ!? いでぁぁー!!」

 

 血を噴出す片方の耳に手を当てる会長を見ながら、レイピアの先端から放り上げたリングを手に握った。


「お前みたいにロクでもない奴に追い詰められ殺された男……そう、地球という星から転生してきた者さ」


 そんな俺の声など届いていないであろう、溢れる血で手を赤黒く染めた会長にリングを放り投げ、背を向ける。


 水をさした様静まり返ったバトルグラウンドを後に出入り口をくぐった。

 淡い魔法灯に照らされた通路、そこを歩く俺の足が止まる。


「アドラスティアか」


 通路の先に瞬時で人影が現れる。

 それは金髪碧眼、年頃十代の少女で、ボディラインがくっきり現れるアーミールックの衣装を纏っていた。


 そう、こいつが死んだ俺をこの異世界へ転生させた張本人、彼女の言葉を借りれば“賞罰を司る女神”とかいう存在だ。

 

「ボク驚いたよ、何で会長を殺さなかったんだい?」

「ふん……体験したからこそ言えるが“死”は一瞬だ。それであの男を楽にしてやる程、俺は優しくないんでな。あの大観衆を前に受けた屈辱、それを毎晩思い出し、眠れない苦しみを与えてやった」

「殺すより、生かして苦ませる方がいい、そういう事だね。成る程成る程」


 アドラスティアが懐から取り出した手帳にメモをする。


「さて、この学園も去り時、次へ行くか……レベル上限99を超えて三桁になり、レベルチェッカーの数値がバグってる俺の力を必要としている所へ」

「レベルドレイン!」


 突如全身の力が急激に奪われた。


「な、何を……する!?」


 アドラスティアが邪気の無い、まさに女神の様な笑みを浮かべ、こちらを見ている。


「君の教え通りにするよ。本当は頃合を見て君を殺すつもりだったけど、生かして苦しませる事にした。だからこうするね、レベルドレイン! メガレベルドレイン! ギガレベルドレイン!!」

「ぬおおおああああー!!!!」


 全身の力を奪う激しい衝撃で胸ポケットから飛び出したレベル証明廉レベルチェッカーカードが、四つんばいになった俺の前に落ちる。


 なに! 俺のレベルが5!?


 前と後ろから大勢の駆け足が聞こえてくる。


「な、鍋島ー! 生徒会である! 会長をあのようにしておいてタダで済むと思うなーである!」

「おい、あいつ鍋島じゃねーんじゃね? 俺のカードじゃレベル5って出てんだけど?」

「よく見るである、不正照合のマークが出てないである。奴は間違いなく鍋島である! 何か知らないがこれは好機! みなの者、かかれー!」


 通路の前後からバットや木刀を持った男子生徒らが怒涛の勢いで俺に向かって来る!


「苦しい? ねえ苦しい?」


 感情の無いアドラスティアの声が、ボコボコにされ意識が遠ざかる俺の耳へ響く。


 最強チート転生した俺が何でこんな目に……ってか死んだ……また死んだ……。


 そんな俺の頭の中に、アドラスティアの声が流れる。


「死なないよ、だって夢だもの」


 

「――――って夢を見たんだ」

「らりひゃ~! 鍋くん良い事したのにボコられたんですか~、酷過ぎますよ~その夢~」


 今朝見た夢を部室で話す俺に、ほっぺを膨らませた獏天がプルプルと両拳を震わせた。


「むひゃははは! 夢だから死なない、とは正にその通り。それを夢の中で言われるとはウケるでござるな、お兄ちゃん」

「結構笑えないぞ、咲馬。夢の中とは思えないスゲー痛みを感じたんだからさ。いやいや、生れて初めてだよ夢の中であんな激痛感じるなんてさ」

「でも夢で良かったですね~」

「そうでござる。たかが夢でござる」

「まあそうだな」


 そう言って三人で笑い声を上げた。

 

「その悪夢、笑い事じゃないぞ。鍋島」

 

 巨大ハリセンを前に置き、正座姿の夢香先輩が、こちらの笑いを押し潰す、そんな重い声で言う。

 それに押し黙った俺にこう続けた。 

 

「その金髪碧眼の少女、腰まで髪が伸びて、自分の事をボクと呼んでなかったか?」

「え、ええ、まさにその通りです」

 

 ふう、とため息をついた夢香先輩がメディ先生へ顔を向ける。

 

「ワタシ達が捕えてきた新種悪魔に潜り込まれた人間は皆そう言ってるの、『夢の中とは思えない現実みたいな痛みだった』ってね」

 

 それに小さく頷いた夢香先輩が俺に

「金髪碧眼の少女、というのが決定的だ。このハリセンで捕えた新種悪魔はクローンの様に皆その容姿だった」

 と言いながら、置かれたハリセンを手で叩く。

 

「そ、それじゃ鍋くんに新種悪魔が潜んでいるっていうんですか~?」

「かなりの確率でな、というかお前ら何をやってた? 鍋島の夢の中で特訓していたのだろうが! 何で今まで気付かなかった!」

「す、すみませ~ん。膝枕しないで夢の中に全身入れたのって、つい先日なんですよ~」

「夢の中でパイオツ大きくするのに全力を捧げていた拙者には酷な話でござるよー」

 

 握り締めたハリセンで、今にも二人へ怒りのツッコミを入れそうな夢香先輩の顔が落ち着きを取り戻す。


「鍋島、今すぐ寝ろ。そしてその悪夢を見ろ」

 

 涼しい口調で言われた。


「え? そんな、今すぐ寝ろと言われましても……」

「事は急を要す」

「まあ無理すれば寝れると思いますが、その悪夢見る保証なんて無いですよ?」

「あらあら、ワタシの出番ね」


 メディ先生が俺の横に移動してきたと思ったら、両手で俺の頭を掴み、向かい合う様強引に顔を横にされた。そして、あっ! と言う間もなく口づけをされてしまう。


「らりひゃ~!!!!」

「むひゃー!!!!」


 二人の声を聞きながらメディ先生の舌が口の中へ入ってくるのを感じる。

 そして、ちゅぽんっ! という音と共に唇が離れた。

 

「上級夢魔のとっておき、見る夢を指定出来ちゃうキス……つまり悪夢を見ちゃうキスよ。うふっ」

 

 口内から鼻腔に立ち上る不思議で甘美な香りを感じつつ、頭をクラクラさせた俺は、後ろ向きのまま倒れ、意識を失った。


  

         ◇



「という訳なのです。至急こちらへ来て頂きたいと存じます……はっ! そうですか、お待ちしてます」

 

 そう言って夢香先輩がスマトラフォンをしまい込む。

 

「すぐこちらへ向かうそうだ」

「わ~、支局長来るんですか~」

「こらっ! 非常事態だぞ、笑ってる場合か」

「ご、ごめんなさ~い」

 

 二人のやりとりを聞きながら絶望的な気分になった俺は

「そ、その、支局長とか偉い人呼ばなきゃならない程その、俺の中の新種悪魔って大変な相手なの?」

 と、思わず尋ねてしまう。

 

「お前も見ただろう、あの新種悪魔は恐ろしく強力だ。間違いなく新種悪魔を増殖させた母体に違いない」

「その新種悪魔さん凄いです~。夢香ちゃんが敵わない相手なんて二百年ぶりじゃないですか~」

「懐かしいわね、確かグレートブリテンの王に憑りついた悪魔王ベレトに負けたのよね。夢の中で」

「ベ、ベレトっていえば人間界でいう大臣クラスの実力者でござる! そ、そんなレベルの奴がお兄ちゃんの中にいるとは……」

「だ、大丈夫ですよ~咲馬、支局長はとーっても凄い方なんですよ~。悪夢爆食王決定戦でも優勝してるし、お笑い獏王決定戦のピン部門一位にもなってるんですよ~」

「優夢、すまんがそれのどこに凄さを見出せば良いか全然わからないでござる……」

 

 その時、戸が叩く音がした。

 

「あ~、支局長ですよ~、きっと~」

 相変わらず早い」

 

 いや、早過ぎじゃね? 通話終わって十分も経ってないよ? 獏の日本支局ってウチの学校の裏山にでもあんのかよ?

 

 ゆっくりと戸が開かれ、すらりとした長身の女性が現れる。

 

しゃんと背筋が伸びた立ち姿、紺色のジャケットにパンツ、紫がかった瞳、その眼差しは涼しげだ。

 

「獏炎、報告は受けました」

 

女性が穏やかな、だがしっかりとした響きを含む声で話す。


た、確かにすんごく頼りになりそうな人。支局長なのも断然納得だ。

 

「それでは支局長にその話を詳しく説明してください。私はこれで」


 長身の女性が踵を返し、外へ消えた。


 はい?  


 ちょっと状況が掴めない俺の耳に、

「じゃじゃーん! 支局長推参!」

 という妙に舌足らずな声が届く。


 そして戸の向こうから、ピンと尖った猫耳フード付きの白いもこもこコートを羽織った女の子が現れた。


「んん~? 一大事なのか? 夢香っちん、優夢りん?」


 咲馬より小さな小学生位の女の子が舌足らずの声をあげる。

 フードから見える顔は童顔、くりくり大きな目は緋色、顔とフードの隙間から飛び出る髪は栗色でかなりのクセッ毛だ。

 その女の子が、もこもこした白い長靴をとっちらかす様脱ぎ、すたこらと獏天らへ向かう。


「支局長だ、支局長だ~、わ~い、可愛いですよ~」


 獏天が支局長と呼ぶ女の子に抱き付き猫耳フードの頭を撫でる。


「こ、こら優夢、また支局長にそんな事をして……」


 顔を赤らめ、こほんと咳払いする夢香先輩。それに、

「いいじゃないか、ほり、夢香っちんも、ほりほり」

 と頭に被った猫耳フードを指さす女の子。


「そ、そうですか、それではお言葉に甘えまして……」


 夢香先輩がもじもじと手を伸ばし、猫耳フードを撫で撫でする。


「はぁぁ……和みます支局長! とっても心が和みますぅ。ああ、これでメガネをかけていれば、もう、私は……私は……抑えきれないかもしれません」


 夢香先輩が赤ら顔で邪まな妄想を口にする。


「あ、あの……こ、これが……いやこの人が支局長?」


 猫耳フードの子へ震える指を向ける、そんな俺に

「おうよ、そこの人間。わたちはD・E日本支局長にして新種悪魔対策委員長、獏府夢幻(ばくふむげん)だ。よりょしくな」

 と、自己紹介してきた。


 獏天とか獏炎とかふざけた名前付けてたクセに自分はそんなカッコイイ名前かい! 

 

 心の中でそうツッコミながら

「鍋島卓巳です。獏天と夢香先輩にはいつもお世話になってます」

 と、頭を下げた。

 

「お兄ちゃん、見た目で騙されてはいけませぬぞ、ああ見えて彼奴はあの獏二匹や拙者より遥かに齢を重ねておるまする。つまりロリババア、ロリBBAでござる」

 

 咲馬が顔を近づけ「むひひ」と笑う。

 

 お前だってロリババアだろ、しかもオタク趣味の。

 

 そしてメディ先生はといえば俺の肩越しに支局長を覗き見しつつ

「四百年前に見たかしら、あの獏。確か下っ端だった気がするけど……今は日本支局長にして新種悪魔対策委員長、か。実力は……ふうん……あるようね」

 とぶつぶつ呟いている。

 

「はっ! いや、支局長、こんな事をしている場合ではないのです。新種悪魔がこの鍋島の中に……」

 

 やっと我に返った夢香先輩。その手をぎゅっと掴み

「んん~? 喋ってもりゃおうか、増殖させた新種悪魔の母体の話を」

 と、上目遣いで見る。

 

この時の支局長は、さっきまでの撫でられ喜んでいたお子様とは違う、凄みのある顔つきになっていた。

 

つづく

次回、後ろから蹴ったら3メートルは飛んでいきそうなお子様支局長の恐ろしさが明らかに!

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