第13話 人外美少女たちと鍋をつつくことになったのだが……

<これまでのあらすじ>

 見た目は美少女の獏、優夢ゆうむが立ち上げた夢部(仮)。

 そこに入部してくるのは、ガリロリ眼鏡のサキュバス、ガチ百合のエリート獏、超変態上級サキュバス、と人外ばかり。


 人間俺だけじゃん。


 そんな人外部に獏本部と魔界から緊急指令がくだった。


 何でもやべえ悪魔がこの近くに潜伏してるらしいから捕まえろという命令らしい。

 

 ガチ百合のエリート獏と超変態上級サキュバスがコンビを組んだので、結果的に優夢とガリロリ眼鏡のサキュバスがコンビを組む。


 つまりおちこぼれコンビの誕生だ。



Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж 


 

「ら、らりひゃ~、もうダメです~」

「む、むひー、拙者の頑張りもここまででござるー」


 夢から目を覚ました俺は部室の壁から背を放す。そして肩をくっつけ合い、死にそうな顔をしている二人を見た。


 獏と夢魔がコンビを組み、新種悪夢を捕獲するという話から一週間、夢香先輩とメディ先生は順調に新種悪魔を捕獲していた。

 そして目の前の二人といえば今だゼロ、このままではイカンとばかりに俺は特訓を勧めた。

 

 まず獏天には自分の膝枕でしか夢を食べれられない超不自然な方法を指摘。そして、見詰めるだけで夢を食べる事が出来る様俺を使って特訓せよ! と言い渡した。   

 そして咲馬、夢魔は魔力が強い者ほど同族である悪魔の気配を察知する能力が高いという(メディ先生にこそっと教えて貰った)。

 そして夢魔にとっての魔力は、人間からいかに精気を吐き出させるかにかかってるらしい(これもこそっと教えて貰った)。

 夢の中に現れるこいつは胸がまな板で全然精気を出す気がしない。そこで、夢の中で妖艶な姿を作れる様俺を使って特訓せよ! と言い渡した。


 こうして始まった特訓だが……俺の夢に現れた獏天は、宙に浮く顔だけであった。

 そして観光地の顔出しパネルから抜けなくなった人よろしく、うんしょうんしょと顔を上下左右精一杯動かしたのだが結局「これ以上夢の中に入れないです~」と泣き出す始末。

 

 咲馬といえば、胸の膨らみや腰のくびれなど全く無いスク水姿で夢に現れた。 

 それでは少数のマニアックな層しか精気を吐き出してくれないぞ! と言ったら、小さい身長を更に縮め、その分を胸に回して膨らませるというウルトラマニアック仕様になる始末。

 

 「これじゃ新種悪魔の捕獲は無理無理だな」

 

 その台詞が喉元まで上がってきたが、

 「ん~、でももう一回やってみますよ~。夢香ちゃんに新種悪魔を横取りされたくないですよ~」

 「むひ……せ、拙者もでござる、あのビッチを何としても見返してやるでござるー」

 と二人がふらふら立ち上がるのを見て、飲み込んだ。

 

 そんな特訓が三日目に突入した土曜日の昼下がり、

 「失礼するぞ」

 「どう、新種悪魔は捕獲出来た?」

 と、夢香先輩、メディ先生が部室を訪ねてきた。

 

 畳にうつ伏せのまま二人は、

 「あ~、夢香ちゃ~ん。久しぶりだね~」

 「むひー、そのビッチ面は今見たくないでござるー」

 と、疲れ果てた声を口から吐き出す。

 

 「今は特訓中でして、新種悪魔の捕獲は、その……まだ」

 

 俺は言いよどみながら彼女らが手にしている物へ目をやる。

 

 「うふ、ちょっと高級なお肉を沢山頂いちゃって。だから、みんなで食べようかなーって」

 

 メディ先生が両手に持った銀色の保冷バッグを持ち上げ、こちらへ見せる。

 

「私とメディの組が新種悪魔捕獲数トップをずっと維持しているしな。ここらで一息入れ、自分にご褒美という訳だ。是非付き合ってくれ」

 

 夢香先輩が携帯ガスコンロと鍋を両手に抱えたまま、靴を脱いで部室に上がる。

 

「ふえ~、お肉さんで鍋ですか~、やった~」

「いいからそこで休んでろ。私とメディ、それに鍋島で準備する」

 

 その言葉に俺は素早く夢香先輩の前に駆けつけ、携帯ガスコンロと鍋を受け取り、長テーブルへ運んだ。

 

 夢香先輩が背負っていたリュックを下ろし、中から黒っぽい茶色の液体の入ったペットボトルやらカット済み野菜やらを取り出し長テーブルに並べ始める。

 

「いい肉というのでな、キムチ鍋など刺激の強い味付けでは無く、シンプルなすき焼きをする事にした。それも醤油薄め、出汁強めのだ」


 そう言いながら夢香先輩が、俺のセッティングした鍋に火を掛け、小さな袋から取り出した牛脂を箸で溶かし始める。


「すき焼きといってもな、関西風ではなく関東風だぞ。関西風はせかせか焼いて食べるのが性に合わん。その点関東風は……」


  額に薄っすら汗を浮かべた夢香先輩が、肉やネギを鍋に並べつつすき焼き講釈を垂れ始めた。

 はっきり言ってウザかったのだが、目を輝かせ箸を動かすその姿はイキイキとしており、つい聞き入った振りをしながら「へえ」「そうなんですか」と相槌を打ってしまう。

 

「さすが夢香ちゃん、美味しそうな香りですよ~」

 

 いつの間にか俺の隣に坐っていた獏天が目を閉じ鼻を鳴らしている。

 

「いや、俺みたいに料理出来ない人から見ても手慣れてる感じだよな」

「えへ、夢香ちゃんは昔っからお料理が得意なんですよ~。アップルパイに焼きそばなんか絶品ですよ~」

 

 ふと食堂での記憶が甦る。

 あの時言ってた、アップルパイに焼きそばパンが大好きというのは、そういう事か……にしてもこの容姿で料理上手といえば、二十四時間完全無休で男共が言い寄って来るだろうに、ガチ百合なのが本当に惜しまれる。

 

「これでほぼ完成だな」

 

 ペットボトルの黒っぽく茶色い液体(割り下だったのか!)を鍋に注ぎ込んだ夢香先輩が満足げに頷く。

 

「むひひ! お兄ちゃんはその食べ物好きでござるか?」

 

 これまたいつの間にか俺の隣に腰を落ち着けていた咲馬が、散歩に出かけようとする犬みたいにはしゃぎながら俺を見る。

 

「好きな方だよ。てか何で俺がお前のお兄ちゃんになってんだよ」

「いいではござらんか。それより拙者、すき焼きなる食べ物は初めてでござる」

「へえ、初めて食べるのか、じゃあ」


 パックに並んだ卵を手に取り、テーブルの端で軽く叩くと、咲馬の取り皿へ中身を落とした。

 

「それに付けて食べるんだ。美味しいぞお」

 

 目を爛々とさせた咲馬が、口からヨダレを垂らし俺と取り皿を交互に見る。

 

「むむ~っ……鍋く~ん、私にも卵入れてくださいよ~」

 え? ああ、いいぞ」

 

 同じ様に卵を入れてやると、

「わ~い、鍋くんが咲馬のより上手に卵さんを割ってくれました~」

 と長いもみあげをふわふわ揺らしながら喜ぶ。

「何言ってるでござるかー! よく見てみるでござる、拙者の卵は黄身が盛り上がってるでござる。つまりお兄ちゃんは新鮮な卵を選び拙者に入れてくれたでござる!」

「え~? そうですか~。それよりほら、この卵さんと~ってもぷるぷるしてますよ~、これ食べて私の胸もぷるぷるになって欲しいという鍋くんの願いが込められていると思いますよ~」

「むはは、相変わらず優夢はノータリンでござるな、獏はこの世界の食べ物食っても何の栄養も無いでござろうが」

「うわ~ん鍋くん、咲馬がヒドイ事言うです~」

「な、何だよ獏天」

「むひゃ! 何どさくさにまぎれてお兄ちゃんに抱き着いてるでござるー!」

「何がお兄ちゃんですか~! 咲馬~、鍋くんを返すです~」 

 

 獏天と咲馬に腕を引っ張られる俺は、さながら大岡裁きの子供の様。

「ちょ……ストップ!」

 俺は二つの腕を同時に振り払った。

 両手がすっぽ抜けた二人は畳へ背中を打ち付け

 「らりひゃ!」

 「むひゃ!」

 と、同時に声を上げる。

 

 「何をやってる! 誤って鍋にぶつかったらどうするつもりだ、バカもん!」

 

 仁王立ちの夢香先輩がおたまを手に、鬼軍曹の様な表情で二人を一喝した。

 

 それに

「ご、ごめんなさ~い」

「お、お許しをー」

 と、慌てて飛び起きた優夢と咲馬が土下座する。

 

 それを見ていたメディ先生が咲馬へこう尋ねた。

 

「さっきから気になってたんだけど、メガネはどうしたの?」

「急に視力が良くなったんで外したでござる。お主のビッチ臭い顔もよく見えてガッカリでござるよ、むひひひ」


 そんな言い草にも表情一つ変えないメディ先生が俺へ顔を近づけ


「努力して魔力を上げたからそうなったのね。鍋島くん、あなたのおかげよ」

 と、小声言うとにっこり笑った。


 サキュバスは魔力が上がると身体的に変化が起きるのか?

 

 そう考えている内に、割り下と食材の入り混じった食欲誘う香りが部室内に漂う。

 

「うほお、いっただっきまーすっ」

 

 俺は湯気を上げ震えるお肉様へ箸を伸ばした。

 

「何をやっとるか、バカもん!」

 

 突如夢香先輩に一喝されてしまった。

 

「それはまだ火の通りが甘い、これを食べるのだ」

 

 別なお肉を紙皿へ投入される。取ろうとした肉と見比べたが、まったく違いがわからない。

 

「わ~い、豆腐さんもーらい」

「待てこらあー!」

「え~? な、何? 夢香ちゃん」

「豆腐は味が染みてから頂くもの。食べるべきは肉だ、硬くなって味が抜けてゆくからな」

 

 妙に堂々とした所作でお肉を紙皿に取り繕う夢香先輩。

 

「わ~い、ありがとう夢香ちゃん」

「まったく、鍋の基本も知らん連中ばかりとは……はふはふ。うむ、美味い肉ではないか」

 

 予想通りの鍋奉行ぶりを発揮する夢香先輩から、鍋に箸を付けてないメディ先生へ目を移す。

 

「あの、先生は食べないんですか?」

「私は料理の前に、チーズでワインを飲むのが習慣なの、パ・ドゥ・プロブレム」

  

 黄金色のワインが入った瓶に手を添え、紙コップを揺らす。

 

 瓶のラベルには、頭部が牡羊、体が胡坐をかいた人間というサバトの悪魔みたいな絵があり、不気味なラベルだな、どこの国のワインだ? と思ったが無視する事にした。それよりも今は鍋だ。

 

 紙皿の肉を掴むと口へ入れた。

 

 うん、柔らかい歯ごたえ、噛む度に甘い脂が溢れ出て、こりゃ美味し! こんな凄い肉は食べた事無い!

 

 もう一切れ頂こうと鍋へ箸を向ける。

 

 ……あれ? お肉さんは何処。

 

 左にいる獏天と正面に座る夢香先輩を見る、何と二人の紙皿にはお肉が積まれてあった。

 

「ちょ、ちょっと、二人とも肉を独占するなんてヒドイですよ!」

「箸の導くまま頂くのが鍋というものだ」

「そうですよ~、導かれる者たちですよ~鍋くん」

 

 メイン食材食べまくる奴懲らしめるのが鍋奉行じゃないんですか、夢香先輩!? つか獏天! いつものノロい動作はどうしたんだよ? お前完全草食系なのに何肉がっついてんだっ!

 

 人知れず心の叫びを発する俺をよそに獏天が 

「鍋く~ん、お出汁が染みたお肉、と~っても美味しいですよ~」

 と、ほっぺに手をやりもぐもぐ口を動かす。

 

 それを恨めしげに一瞥くれた俺が、鍋に目を移す。

 

 鍋には豆腐とネギにシイタケしかない。追加用の肉は無いのか?……って、あれ? そういえば咲馬はどこ行った? あいつも食い意地が張ってそうなのに俺の隣に居ないぞ。 

 

「なっ! 何をやっとるかー!!」

 

 首を後ろに向けた夢香先輩が大声を上げている。

 夢香先輩の後ろを窺うと、咲馬が発泡スチロール器にある生の肉を食べているのが目に入った。

 

「いくら食い意地が張っても生で食べるとは何事だ!」

「むひっ、よく見るでござる。ここに〝生食可〟と、シールが貼ってあるでござる。そんな良い肉に火を通して食べるなんて勿体無いでござるよ」

「むっ! 気付かなかった……って、それより一人で全部食べる気か、よこせ!」

「お主らは十分食べたでござろうが」


  咲馬が肉の入った発泡スチロールの器を手に、忍者のよう部室の隅へジャンプした。

 

「むひひー、良い生肉には醤油も何も必要無いでござる!」

 

 そう言い終わるなり、咲馬はヒョイパクヒョイパクと生肉を口に放り込んだ。

 

「むひょぉー! この生肉ならではの食感と甘みがたまらねえでござるー!」


 テーブルのオタマを掴んだ夢香先輩がすくっと立ち上がる。


「咲馬ぁ、よくも肉を喰い尽くしてくれたな、おのれっ!」


 おおっ、鍋奉行獏炎の夢香さんが成敗に立ち上がったぞ! 

 

「このオタマで何をするかもうわかるな? そう、アレとアソコに激烈なお仕置きだ」

 

 手の平にオタマをぽんぽん叩きながら歩を進める先輩。

 

 オタマでアレとアソコにお仕置きって何ですか? てかアレとアソコってどこー?

 

「……む?」

 

 夢香先輩の足が止まる。

 

 空になったプラスティックの器が咲馬の手から滑り落ち、畳にコトンと着地した。

 

 生肉爆食い咲馬の様子がおかしい。

 猫背の姿勢にだらりと下げた両手をぶらぶらさせている。

 ずり下がったメガネ越しに見えるオッドアイは虚ろだ。

 

「ちょっと、アイツ変ですよ。どうしたんですかね、夢香先輩」

「ぬう……何だろうな……ん?」

 

 今度は夢香先輩の手からオタマが滑り落ち、畳の上を小さく跳ねる。


「はぁぁん、な、何だ? これは……あ、あ」


 自分の体を抱きしめると色っぽく震え始めた。




 次回、18禁ワールドに変貌する夢部(仮)!

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