第12話 サキュバス姉妹 の巻
<これまでのあらすじ>
オレ、寝れば絶対夢見る人。
こいつ美少女獏の
つまりウィンウィンな関係。
そこへ精気を吸うサキュバスがオレの夢の中に登場、人外の溜まり場か、俺の夢の中は。
Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж
「え~、そうだったんですか~」
ゆっくり瞼を開けた俺の目に飛び込んできたのは獏天の顎の下。
前みたいに頭と顎をぶつけないよう、横に転がって獏天の膝枕から離れる。
「ザ・バクアイで見なかったのか、優夢?」
正座姿の夢香先輩が、こめかみに指を当て、呆れたように言う。
「職員室の先生達に頼み回って、やっと引き受けてくれたのが嬉しくて、そんな事全然考えてませんでしたよ~」
獏天が左右の人差し指をつんつん合わせながら後ろめたそうな表情を浮かべる。
「むひぃ……何で彼奴が……何で彼奴が……」
背後から響く呪詛みたいな呟きに驚いて振り向くと、壁を背にした咲馬が両足を抱えしゃがみ込んでいた。
「だから今の今まで気付かなかったんですよ~、メディ先生が夢魔だったなんて~」
先生というワードから、記憶の映像が甦った俺は正面に向き直る。
「あらあら、起きたわねボウヤ。いいえ、鍋島卓巳くん」
声の方へ顔を向けると、長テーブルに両腕置いて坐っている夢香先輩から少し離れ、先程夢に見た白人女性が座っていた。当然ボンテージではなく、モスグリーンのスーツ姿だ。
「入学式の時、先生達の中に居ましたよね」
「ウィ、フランス語教師のメディ・レーヴです。よろしくね」
夢の中で見せたドSでエロティックな顔はどこへやら、穏やかで柔和な笑みを浮かべている。
バンッ! と長テーブルを叩く音が部室に響く。
「貴っ様ー、また私の所に現れおって! 何のつもりだ!」
叩いた手を握り締め、夢香先輩が険しい表情でメディ先生を睨む。
「何のつもりって、決まってるじゃない。アナタの後を追えば美味しい精気にありつけるからよ。まっ、アナタを追うのが趣味といってもいいわ」
穏やかで柔和な表情のまま、メディ先生が小さく首を傾げた。
――――何この既視感。
口に手を当て、そろりと獏天へ顔を近づける。
「なあ獏天、この二人って……」
「え? ああ~、夢香ちゃんって~、D・Eでも文武両道超優等生の獏なんですよ~。だから世界中の偉い人間さんの悪夢を食べる任務が多いんです~。それでもってあの夢魔も上級夢魔で~、夢香ちゃんの任務が終わったらその偉い人間さんの精気を吸ちゃう~、そういうコバンザメさんなんですよ~」
「それってお前と咲馬と同じ構図じゃね?」
「えへっ、私と咲馬は全然ダメダメさんですけど、夢香ちゃんとあの夢魔は超一流ですからね~。田舎のスイカ泥棒とルパ○三世位違いますよ~」
「言ってて悲しくならないか、それ……」
それにもほわほわした表情を変えない漠天に溜息をつき、超一流の二人へ目を移す。すると先程まで険しい表情していた夢香先輩が両腕を組んでメディ先生を横目で見ていた。
「……ところで私の今回の任務は知っているか?」
「知ってるわよ、新種悪魔の退治、捕獲でしょう?」
「ならわかるだろう、ここにいても貴様が満足出来る精気を持つ人間はいないぞ」
「うふっ、まあそうね。でも最近知ったのよ、三ツ星フレンチフルコースやプレミアムTボーンステーキみたいな精気は確かに美味しいけど……」
「美味しいけど、何だ?」
「裏通りにある年季の入った食堂のサバ煮定食とか、廃れた町にポツンと佇む肉屋のコロッケとか、そんな精気もいいなって」
「はあ? つ、つまり精気の趣向が変わってきたというのか? ……ってかその例えどこで覚えた」
「ま、そういうことかしらね。そこでこちらを見ているあのボウヤよ」
メディ先生の柔和な目がこちらに向いたので俺はピクっと身構えてしまった。
「鍋島か、確かに人間の実力者が持つ、みなぎるような精気は全然無いが、多種多様な夢を見る味わい深くも素朴な精気があるな」
――――あたりめですか、俺の精気は……。
「ちょっと待ってください~、上級夢魔の吸う精気の量って凄いんでしょ~、鍋くん干乾びたら嫌ですよ~!」
「うふふ、ワタシ位上級になると半年以上精気を吸わなくても大丈夫な様、体内に精気をストックしてあるの。だ・か・ら、アナタの大事なボウヤの精気はチビリチビリと頂くから安心なさい」
「だって、良かったですね~、鍋くん」
「チビリチビリって、年代物のワインじゃないんですけど俺」
何故か嬉しそうに獏天がほわほわ笑顔を近づけてきたので、俺はゆっくり手で押し返した。
「あ、そうそう、アナタの分もちゃんと残して吸うから安心なさい」
テーブルに片肘を着き、頬に手を当てたメディ先生が俺の背後にいる咲馬へそう言う。
俺の後ろで勢い良く立ち上がる音がした。
「お主、拙者をバカにしに来たでござるなー! 色々口上述べたがそれが真の狙いでござろう!?」
頭上から響くその声は、いつもの咲馬と違っていたので、思わず振り向いてしまう。
「ぷっ! 何でそんな事する為にわざわざここへ来なきゃいけないのよ、ジェミドゥ。いえ、今は咲馬だったわね」
「うるさい、その名を言うなでござる!」
「む、貴様、咲馬と知り合いなのか?」
「知り合いも何も、あの子はワタシの双子の妹よ。ワタシの本当の名はジェミヌス。そしてあの咲馬の本当の名前がジェミドゥ」
「へえ~、咲馬羨ましいです~、こんな凄いお姉さんいるなんて~」
「うるさいでござる、この低スペック獏! こいつのせいで拙者がどんな苦労をしてきたか、周りの連中に何と言われて来たか!」
「え~? な、何か深い事情でもあるんですか~?」
「ふ……む、大体読めてきた。能力の差がある姉妹というのは難儀なもの、そういうことか」
「ウィ、セ・サ」
「え? え? 何のことですか~、私にも教えてください」
「姉と妹、どちらかが極端に出来がいいと、もう片方が比べられて苦労するって話じゃね、獏天」
「あ、あ~! なるほど~、さすが鍋くんです~、というか私も夢香ちゃんに比べられて、昔からみんなに散々バカにされたの思い出しちゃいました~」
よほど悔しい思い出だったのか、泣きっ面になった獏天がハンカチを取り出しチーンと鼻をかむ。
「さっきも言ったけど、ワタシはこの夢香の後を追うのが趣味なの。正直ここに来るまですっかりアナタのこと忘れてたわ」
メディ先生が懐から煙草の箱を取り出し、一本口に銜えた。煙草の煙は大嫌いなので眉をしかめたが、いつまでも火をつける気配がない。テーブルに置かれた箱をよく見ると何故かココアシガレッ○だった。
「貧相な身体のままということは、相も変わらず精気を吸う能力が低いのね。少しは努力ってものをしてみたら? うふふ」
指で挟んだココアシガレッ○を口から放し、煙でも吐くよう「ふーっ」と息を吐いて目を閉じる。ハーフエア煙草というやつだろうか。
「ワタシね、煙草の煙は大嫌いだけど、煙を吐く仕草は大好きなの」
誰も訊いてないのにそう言ったメディ先生が再びココアシガレッ○を口に銜える。
にしてもさすがドSサッキュバス、双子の妹相手にキツイこと言うなあ。
「この際だから言ってあげるわ、目障りなのよね。双子ってだけでアナタのダメな評価がワタシにまでつきまとってくる。本当、嫌になっちゃうわ」
「おい、夢魔同士だからどうでもいいと思っていたが、それは酷い言い草だぞ!」
夢香先輩がそう言うと同時に
「むひゃー!」
と、メガネを弾き飛ばして立ち上がった咲馬が、猛然とメディ先生の所へ行き、肩や背中を叩き始めた。
「いい加減にするでござる! ちょっとばかり出来るからと調子に乗った自惚れビッチがー!!」
小さな両手で双子の姉を叩くその姿は、母親相手に癇癪起こした子供を彷彿とさせる。
「ちょっと咲馬、止めろよ」
俺が夢の中でされたように、亀甲縛りの上ムチで打たれるぞという意味を込めて注意したのだが、事態は思わぬ展開を迎える。
「あっ! あっ! ああんっ! もっと強く! もっと強くぅ!」
メディ先生がテーブルに覆いかぶさり、咲馬の貧弱な叩きに激しく喘ぎ始めた!
「むひー! このこのこの! エロゲのビッチみたいな声出しおってからにー!」
「ああー! そうなの、ワタシはビッチ! ビッチなのよー、こんないけないビッチをもっと叩いてー!」
予想と完全に違う逆転の立ち回り、ガリチビっ娘の責めにセクシー美女が悶える図は恐ろしくシュールで、
「らりひゃははははっ、夢にうなされるお母さんを叩き起こそうとしている子供みたいです~」
という獏天の上手い発言に、思わず頷いてしまう。
「何回見ても、現実体のこの姿はドン引きするな」
「ゆ、夢香先輩、それってどういう意味ですか?」
苦虫を噛み潰した顔で「ふーっ」と溜め息を吐く。
「この夢魔は二重の性癖を持っていてな、夢の中ではお前にした様ドS、現実体ではご覧の通りドMなのだ」
「えー、何でですか?」
「確か、ドSは精神的な快楽が得られ、ドMは肉体的な快楽を得られる、とか言ってた気が……って何を破廉恥な事を言わせる!」
ちょっと顔を赤らめプイとそっぽを向く夢香先輩。どの口が破廉恥言ってるのやら。
「え~、昼は昼行燈、夜は暗殺業、な町奉行の人みたいですね~。ちょっとカッコいいです~」
「それちょっと違うと思う」
目を輝かせる獏天の肩へ軽く突っ込む。そんな俺達をよそに、双子の姉妹は別次元のプレイへ突入していた。
「こ、このココアシガレッ○を穴、下の穴にいれちゃってぇー!」
「むひゃー! 上の穴に入れたこの棒を下の穴に入れろでござるかー!? このビッチめ、お下劣なこのビッチめー!」
「そうなの! いけないこのお下劣ビッチの穴を貫いてー!!」
咲馬がココアシガレッ○を握り締め、それに呼応する様メディ先生が突き出したお尻からパンツをずり下げ始めた。
さすがに正視出来ず横を向くと、同じ様横を向いた獏天と目が合う。
「らりひゃ~、見てられないですよ~。な、なんで咲馬のお姉さん酷い事されて喜んでるんですか~? 咲馬もです~、牛さんみたいにヨダレ垂らして目が怖くなってますよ~」
湯気が上がりそうに顔を真っ赤にした獏天が、頬に手を当てオロオロする。それに俺は、
「落ち着け獏天、あれはアブノーマルプレイ……そう、料理でいうと邪道、ゲテモノだ。食べてはいけない様、見ちゃいけない」
獏天の両肩を掴んだ俺は、アブノーマル姉妹に背を向ける様彼女の体をくるりと回した。
「ゲテモノですか~、知ってます~。イタリアでブタの血固めたケーキ出された事あります~、お腹痛いふりして食べませんでしたけど。ああ~嘘ついちゃってゴメンね~、カルロおじいちゃん。らりひゃっ! 今の呻き声何ですか~!?」
「見るな! 見ちゃいけない! ちょっとー、夢香先輩、いい加減あの二人何とかしてくださいよー!」
獏天が振り向かない様がっちり両肩を掴んだ俺は夢香先輩へ助け船を求めた。
「はあ……うう…………ロリサディスティックな咲馬も……いい……じゅる」
下半身に潜り込ませている手をいかがわしく動かし、虚ろな目をしている夢香先輩に、こちらの声はまったく届いて無い様子だ。
――――何だよ!! ハイスペックな人外美女は変態しかいないのかよー!!
「らりひゃあ~、どうなってるんですか~、鍋くん? 後ろの二人は何してるんですか~?」
ちらりと変態双子姉妹を見た。
何というか校門に丸太が運び込まれている最中だ。こんな光景獏天には絶対見せられない。夢香先輩もいかがわしい手と呼吸が激しくなるばかりでこっちに気付くとは思えない。かくなる上は――――。
「てやあ!」
後ろ蹴りを思い切りテーブルへ叩き込んだ。
「むひゃ!?」
「いやぁぁん!?」
テーブルが勢いよく畳の上をスライド、その上に覆い被さっていたメディ先生がその勢いでひっくり返った。それに巻き込まれる形で咲馬がメディ先生の下敷きになる。
「むひゃあ!? うごっ! お、重いでござるー、早くどけー! このビッチ!」
「あらあら、ごめんなさいね」
正気に戻った二人がひっくり返ったテーブルを元に戻し、高揚の余韻を残す顔で畳に座る。
夢香先輩にちらりと目をやると、頬を赤く染めながらそそくさとスカートを正していた。
「もうこっち見ても大丈夫だぞ」
俺は獏天の肩から手を放し、そう言った。
「あ~、二人共もとに戻ってよかったです~、さっきはとっても怖かったですよ~」
それにメガネを探しながら手を振る咲馬と、穏やかな笑みを返すメディ先生。
まったく、誰か来なくて本当に良かった……SMクラブみたいなあの状態、目撃されてたら絶対廃部だったぞ。
ほっと胸を撫で下ろしたその時、讃美歌みたいな音楽が部室に響く。それはメディ先生のスマトラフォンからだった。
「はいもしもし……」
メディ先生が通話に出る。そこへシューベルトの子守歌みたいな音楽が鳴った。今度は夢香先輩のスマトラフォンからだ。
「はい獏炎夢香です……」
通話は数分で終わる短いものだったが、その間二人は驚いた顔を浮かべ、互いをチラチラ見るのが気になった。
「ふう……おい、優夢」
「は、はい何ですか~、夢香ちゃん」
「支局長からの命令でな、私はそこのメディと組んで新種悪魔を探すことになった」
「え~?!」
「プッフ……ワタシにも夢魔東アジア支部長から連絡があったわ。D・Eの獏炎夢香とコンビを組めと……」
「な、何で~? 何で夢魔と組むんですか~?」
「夢魔は一応悪魔の系統に入る。人間の心に潜んだ新種悪魔を嗅ぎつける能力は我らより格段上だ」
「そんなの嫌です~。私ダメダメだから夢香ちゃんいないと困ります~」
「ふう、いい加減私に頼るのはやめたらどうだ? ちなみにお前と組む相手は咲馬だぞ。支局長が言ってた」
「むひっ!?……またまた、夢香殿……」
「あらあら、本当よ。東アジア支部長もそう言ってたわ」
「そんなでござるー!!」
「え~ん、腐れ縁のダメダメ夢魔が本当の相方になってしまったです~」
「泣きたいのは拙者でござる! 何でこんなヘッポコ獏をサポートせにゃならんでござる!」
「ちなみに新種悪魔を一匹も捕獲出来なかった獏と夢魔は百年間、人間界に来る事を禁止するそうだ」
「らりひぇ~!! それって神界でモルペウス様のお世話するって事じゃないですか~、滅茶苦茶わがままでノイローゼになるって聞いてますよ~!」
「むひょえー! それって魔界行けってことでござる! そして場末でお下劣ダンサーやるのが夢魔の定番でござるー! せ、拙者の質素なボディでは、酔った下級悪魔共に何投げられるかわからないでござるー!」
獏天と咲馬が真っ白に燃え尽きた様、両手を着いて畳を見詰める。
「私はそんなの真っ平ゴメンだから本腰入れて新種悪魔を捕獲する。お前がモタモタ追っかけるの見つけたら容赦無く横取りするからな、覚えておけ優夢」
「うふふ、ワタシも新種悪魔をバンバン見つけてゆくわ。せいぜい頑張ってねジェミドゥ、いいえ、咲馬ちゃん」
つづく
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