殺人事件を起こして逮捕された犯人の、供述の記録(という体裁の物語)。
とてもシンプルな、でも丁寧に書かれた、なんだか気持ちの良い作品でした。
4,000文字に満たない短い分量の中で、物語の主題(といっていいのか、とにかく読み手に伝えんとしていること)がくっきりはっきり浮き彫りにされているような印象。主人公が作中で訴えている、非常に感覚的でなかなか言語化の容易でない〝それ〟が、でもはっきり「理解した」という手触りで伝わってくることの面白み。お話自体がその一点に向いていて、他は細やかに演出はすれども決して余計な雑味がないのが、読んでいてとても心地良かったです。
ついでに、といってはなんなのですが、この作品の紹介文が好きです。ニュース原稿調の事件概要。ついつい読んじゃうというか、本編への期待感を高めてくれるこの感じ。ちゃんとお話そのものは本文だけで完結しているのに、でも作品紹介もしっかり作品の一部を構成しているような、この演出の巧みさは技だと思いました。