7.崇高なる者

前書き

実は剣道部だった矢口です!文を書くことが大好きなウナムです!きっと俺こそが仮面ライダー聖刃セイバーなのかもしれない。「物語の結末は俺が決める!」なんちゃって。はい。仮面ライダーファンの皆様すみません。僕も特撮が好きなんですよね。(でもネタはパクったりしてないよ!)その話は仕舞って...ついに七話になりました。ホシケン!これを書くと十万字ほどホシケンで書かせていただくことになるんですね。いやぁ...ホシケンは初めての作品で至らない点もあるでしょうが読んでいただける事が嬉しくてたまりません...。厳しい意見やお褒めの言葉をいただくと、とても励みになります。みなさんの心に寄り添える作品を書けるように努力し果ては、寄り添い続けられるような作品を書けるといいなと考えている次第です。理想が高いかもしれませんが、本音ですし、夢ですから大きくいきましょう!夢といえばファンタジーなどの世界では夢同士の衝突があってこそ争いや発見、平和を生むように見受けます。この話は後書きでまた書かせて下さい!それでは七話お楽しみください!ウナムでした!


 制御不能のデッドゾーンを習得して一ヶ月が経った。クリティカはデッドゾーンの習得後一週間で倒す予定だったが、クロニカが作戦を立てに来ないこの状況ではきっとクリティカに傷一つつけられないだろう。

「ジーク。あの時以来デッドゾーンの発現がないのはどういう事なのですかね?何か条件があるように感じませんか...?」

レジェは過去から現在に至るまで幾千の修羅場をくぐってきている。きっとその通りなのだろうが、その条件とは一体何なのだろう。あの時の事を思い出そうとしても、遠い記憶としてしか僕の頭には映っていない。

「マリンが言ってた副産物っていうのが気になるけどよ。魔法融合ってやつを行った故のものなんじゃないか?ってザードが言ってんだけどよ。」

確かにその通りなのかもしれない。あの禁忌を犯した僕への代償は大きかった。その代償を耐えようとしたとき、あのデッドゾーンが僕に宿った。ということはきっと力の代償の忍耐こそがデッドゾーンの近道なのだと推測できる。

「推測だけではどうにもならないですよ。ジークさん。」

背後からナチュラルに僕の心を読んで会話に混ざって来る人物を僕は何となく見る前に分かってしまった。

「一ヶ月も何してたのさ...クロニカ。」

「えぇ!?私があなたの心を読んだのは無視ですか?」

最近というかあれ以来キャラが変わりすぎてついていけない。あと何故心を読めたのか聞きたい。

「それはですね?ジークさん。愛の力ですよ?」

「うん。ありがとう。で、この前の指輪みたいなのが出てくるんだろうけど。」

「いえいえ?残念ながら...ってえぇ!?何故指輪だって知ってるんですか...私のこの指輪型の封剣断罪ノ裁徒ジャッジメント・サクリファイスの能力だって分かったんです!?あと地味に私の告白を流してません?」

その武器の名前と性能は初めて知った。当てずっぽうだったがなんか当たった。それにしてもそんな武器を持った相手と対等以上に戦ったレジェは凄まじい力の持ち主だなと思いながらクロニカの質問の答えと質問を返す。

「単なる適当だけどね。それで僕の質問の答えは?」

「適当ってどういうことですか!?まぁ後でゆっくり聞きます。そうですね、一ヶ月間で奴の信用を取り戻し、ゼウス家の四家宝の一つを手に入れたわけです。」

目の前に差し出されたのはなんの変哲もなさそうな銀の棒だったが、クロニカはいつもと違って白い手袋をしているのが見えた。それにしてもなんだかんだ波乱万丈していたようだ。加えて、小さな治りかけの切り傷がいくつもあった。クロニカはいつものスーツのような姿で肌の露出も少ないが、手袋と袖の間から覗く手首や髪によって多少隠れてはいるものの額などの至る部分で相当な量の切り傷があった。きっとクリティカにやられたものなのだと目星をつけたが、僕はあいつへの対抗手段を持っていない。そのためのデッドゾーンを習得中だ。

「なぁジーク。四家宝のあの指輪って竜を呼ぶものなんだろ?でもどうやって使うかなんて聞かされてねぇよな?」

「ジェミニさん。それに関しては私も同感ですが、何か嫌な予感がしませんか?」

「ん?んな事無いぞ?俺も感は良い方って思ってるんだが。」

二人はあの指輪の使い方を教えてもらうべきだと僕に伝えているように見えた。あと、ジェミニが悪い気を感じないのは珍しい。僕は今何かとても嫌な予感がしている。そう。そんな予感がしたその時。

「やぁやぁジークくん?ご機嫌いかがかな?」

玄関からノックもせずに堂々と入って来たのはクリティカだった。僕はクロニカを背に隠しながら対応した。

「何の用ですか?言っておきますけど死ねとか言われても無理ですからね。あなたの姉みたいに。」

そう言葉を発するとクリティカは不敵な笑みを浮かべて首をゆっくり左右に振った。

「殺すなんてそんな物騒な。僕はただ君たちを家に招こうとしただけだというのに...まぁこの前までの行いが君たちにとって許せないものなのだとしたならそれは謝るよ。」

いきなりゼウス家の最高権限者から招待を受けてしまったがここでついて行って万が一何かあればまた争いが起こるのだろう。

「あぁ!行ってやるよ俺直々になぁ!?」

ジェミニが僕の体を急に乗っ取るのは久しぶりだ。それだけ腹が立ったのだろう。しかしレジェは深層意識の中で僕に冷静になるように言ってくれた。

「あの方の用件が分からない以上無駄に気を駆り立てるようなことはあってはなりません。クリティカの誘いに乗ってみませんか。」

と、レジェは状況の把握から入ろうと提案してくれた。しかしジェミニが感情的になってしまったこともありクリティカも静かに反論してきた。

「本来感情を持たない無機物如きが人間様にたてつくとはいい度胸だねぇ?そう思うだろう?ジークくん。ねぇ、それで家に来てくれるの?くれないの?早く決めてよ。暇じゃないんだからさぁ...」

徐々に苛立ちのようなものがクリティカから感じられるようになった。何か本気で殺意を感じるような苛立ちだった。背筋が張るような威圧感。

「分かった。行くよ。でも明日まで待ってくれ。僕たちにもやる事がある。」

そういうとクリティカはさっきの殺意のある苛立ちとは打って変わってとても満面の笑みで

「やったぁ!じゃあ明日待ってるよ!絶対来てね?」

と無邪気に僕に約束を取り付けた。

「絶対...だからね...?」

クリティカは少し狂気に満ちたような表情と声色で「絶対」を強調した。その後スキップで帰って行くクリティカを見ていると、本当に何を考えているのか分からない奴だなと思いながら、明日への恐怖が増した。

 今日できることは今日のうちにやっておこうとは思うが、招かれている以上は何も準備など出来ない。故に今日も鍛錬するために丘へ向かったのだった。

「デッドゾーンに入るために必要になってくるものは結局掴めず仕舞いでクリティカと接触する羽目になってしまったわけだけど...」

「ジーク。私に心当たりがあります。」

「お?俺にも聞かせろよレジェ!」

レジェの言葉を今か今かと待つ。その瞬間レジェが僕の体を乗っ取った。

「炎。水。風。大地。この魔法派生から独立した魔法は人間の体に魔力がなくなった場合、その人の生気を魔力に強制変換します。ということはあの禁忌の魔法融合。あれは人間一人が裕に死を迎えるほどの生気を吸っていると睨んだのです。」

「おい待てレジェよぉ。相当無茶な手使ってたって事だぞ?しかもマリンからの魔力援助があっても死ぬ可能性があったってことになる。」

確かにその通りなのだ。しかし気になるのは何故レジェが魔法融合の反動を受けていないのかだ。しかしその疑問の答えは僕もなんとなく気付いているつもりだった。

「ジーク。あなたが思っている通り。私が反動を全く追っていないのには魔法発動にあるんですよ。魔法を込める対象を詠唱時に選択する時にjerk swordジークソードとしていましたから。ちなみに星龍剣はあなたと同等のダメージを受けたんですよ。」

この剣は元々普通の剣とは違ったが僕と同じ境遇もとい魔法融合の反動に耐えるとは異常すぎる。

「ってことはよぉ...俺の体って...」

「えぇ。間違いなく禁忌のテクノロジーで出来てます。」

さらりと言うが、ジェミニは魔法融合を体内で完結させているということになる。ということはつまり、元々デッドゾーンになる環境は僕の体で準備されていて、僕の体から魔力が欠乏したことによるものって事か。こういう時答え合わせ程度に奴がいると助かるが自称神を軽々しく呼ぶのも気が引けるのでとりあえずそういう仮説で行こうと思う。

「で、何故僕の体をいきなり乗っ取ったんだ?」

レジェは的確な行動で今まで僕達を導いてきた。何か事情があるのだろうと僕はなすがままレジェに身を預けた。

「私の父親が私にくれた最初で最後の魔法です。デッドゾーンの解放と相性が良いのではと思いまして。今から少しお見せしますがジーク。あなたに多大な負荷がかかる可能性は覚悟してもらいます。」

覚悟と言われても、もうその魔法を使う気満々だろう。もう止めるにも止められない。こうなればどんな反動が来ても受け止めてやる。さぁ来い。

「準備はいいですね。沈まぬ太陽・白夜エンドレス・サン

するといきなり体内から魔力が光になって漏れ出した。そして僕の体の外を纏う鎧になった。

「この魔法は自分の魔力全てを体外で自在に操ることができる魔法です。しかし一度外に出た魔力は体には戻らないのでそこに関しては注意する必要があります。」

「って事は今のジークは魔力が空っぽってことか!?この状態で魔法を使えばデッドゾーンにはいると。そういうことなんだな?」

「その通りですジェミニ。いいですかジーク。私があなたに意識を戻したら光は私が深層意識から操ります。貴方はその隙に竜属の魔法を使うのです。」

ということは僕に意識が戻ってくる時に相当のダメージを負わなければならないというわけだ。意識がいきなり戻ってくる。体には想像もつかないような怠さと痛みが待ち受けていて、足が砕けて立っていられなくなりそうだ。しかし、僕は絶叫にも近い大声を出して自立した。大声に驚いた鳥達がそこらの木々から羽ばたく。

「う...ぐあぁぁぁぁ!!ブレスファイア!!ぐらあぁぁぁ!!」

目をいっぱいに見開き声と共に魔法を口から放射する。すると、体はが鼓動を軸にして躍動し始めた。熱いのは自分が放っている魔法なのか体の奥底から湧いているものなのか分からない。しかし確実に"あの時"に近い感覚なのだ。本来ならば死んでいた"あの時"と。

 やがてブレスの放射が終わり、僕の体は直立していた。そして放射された熱がそよ風に運ばれて消えた頃。僕の意識は体から近からず遠くない場所にあったのだ。これが二度目に経験するデッドゾーン。その自覚を次は持っている。トロイの話では全てが本能で動く体制になったという事だが、何か感覚が違った。本能と自分の考えが混じり合った世界が僕の視界には広がっていた。フォンと剣が空を切る音が聞こえる。僕が剣を振ろうと考えている間にもう、その行動は終わっていた。あの木まで走ろうとした時にはもうその木に着いていた。体の持ち主ですら追いつくことのできない圧倒的なスピードで僕の体は動いていた。

 脳がオーバーヒート寸前まで熱されているようで、体には微弱な電流が流れ続けているような、そんな感覚。デッドゾーンのおかげかそれともデッドゾーンのせいか、本来ならば感じる痛みすら消え失せたのだろう。

「これがデッドゾーンってやつか...。」

「想像以上ですね...。」

二人の想像すら超える力は僕の理解のさらに奥にある存在なのだろう。何はともあれこれでいつでも発動はできる。と、思ったその時。

「うっ...ぐ、ぐあぁぁぁぁ!!」

全身から心臓に痛みが集まっていくような激烈な不快感がゆっくりと僕の体を蝕んだ。その痛みは、心臓を介してじっくりと剣を握っている左手に移動し、やがて剣にその痛みが吸われるように消えた。

「おいジーク。剣を見るのだ!」

久しく聞くザードの声に応え剣に目をやると、星龍剣は黒く染まっていた。ずっと見ていると意識が吸われそうな不思議で魅惑的な黒だった。

「へぇ...君が死の色を発現させるとはねぇ...僕、驚きだよ。」

その憎たらしい口調と男性にしては変声していないような高い声は

「クリティカ...なぜここにいる...」

僕は少し怒り口調で彼を牽制する。クリティカは全く動じた様子もなく棒読みで、用意されていたかのようなセリフを吐いた。

「なぜって...ねぇ?君がその剣の真価を見つけられるようにサポートしてやってるのさ。その剣について教えてあげてもいいんだよ?」

余計なお世話だが、この剣の真価は僕も気になる。確かめるためにはコイツの話を聞くしか無さそうだ。僕は不服ながらコイツの話に耳を傾けた。

「うん!物分かりがいいな君は!でも実は、その剣に関しては僕もほとんど知らない。しかし!その剣は持ち主を学習する。そして次の代へ受け継がれていくってことを僕は知ってる。どうだい?役に立てばいいけどね。」

クリティカはどこでそんな知識を得ているのか疑問ではあるがそれより不可解なのは、あの余裕はどこからきているのかだ。その余裕と飄々とした態度はまるであの自称神を彷彿とさせるほどだ。しかし怯えてばかりもいられない。確かに残忍で人の命を道具や物を捨てるかのように葬るような奴だが、恐れていては僕が餌食になるのも時間の問題だろう。レジェとジェミニの二人は深層意識の中でこの一触即発な状況の火に油を注ぐまいと口を詰むんでいた。深層意識の中でレジェが僕に声をかけてきたため僕はクリティカを鋭く見つめながらレジェの声に耳を傾けた。

「あの方はこの間、意図的にあなたに盗賊を仕向けたのではないでしょうか?」

オクトパスと初めて戦ったあの時、あれは仕組まれたものだったというのだろうか。しかし、今のクリティカの話とどう繋がるのだろう。僕にはレジェの話がよくわからなかった。するとクリティカは妙に苛つく声で煽るように口を開いた。

「レジェちゃん大〜正〜解〜!つまりはね、あの盗賊たちを使って君の素性を事細かく観察してもらってたってわけさ!」

深層意識で話していることが全て筒抜けになっている。どういうわけなのだろう。

「んーとねぇそれは...僕のこの腕輪が、相手の思考を読む力のあるものだからだよ!だからね?隠し事しても無駄だよ?ね?クロニカ姉さんの事何か知ってるでしょ?」

読まれている!?まぁ、そういう事なら今までの奴の妙に勘が鋭い感じに納得がいく。勘ではなく確信だったならあんな全てを見通したかのようなすまし顔をしてても何もおかしくない。図星の僕はなんで答えていいか分からなかった。しかしジェミニの妙案で僕たちはクリティカの言及から一時的に逃れることができた。

「お前の姉はすでに俺たちの仲間だ。そう!俺の女になったと言っても過言じゃねえ!!」

するとクリティカは少し嫌悪に顔を歪ませて言った。

「創星神の言うことはたとえこの腕輪の審判をかいくぐっていたとしても信じるわけには行かないなぁ...分かったよ。一旦君たちは姉との裏同盟疑惑を打ち消しておこうか。」

どうやらジェミニの言うことは嘘だと言い張りたいようで今回に限っては助かった。でもジェミニ、言い方ってものはあるんじゃないかな。僕の体から発してる言葉ってことを忘れないでよ。

「それじゃあ明日待ってるよ。もちろんこの腕輪を外してね。無礼講って奴だ。君たちも肩の力を抜いて僕の家にくるといいよ。」

高笑いしながらそう言うと木々の生茂る獣道へと姿を消した。

 やっとだ。やっと解放された。デッドゾーンの最中に人と会話したり深層意識を潜るのがこんなにも大変とは。覚悟はしていたが相当の負荷が体にはかかっているのが分かる。

しかしこのデッドゾーンに共鳴したのか剣は黒く染まり、傾けると静かに血のような赤い光が反射して見える。クリティカは死の色と表現していたがどういうことだろうか。この剣は持ち主を学習する。と言っていたがまさか僕が何度も何度も死にかけた経験をもとに学習したとでもいうのだろうか。もしそうなのだとしたらすこし複雑な気持ちだ。この剣の進化をもたらせた嬉しさと、何度も死にかける自分の弱さへの悲観が混ざり合っている。

「ジーク。今までその剣のことを教えていなかった私にも責任はありますが、少なからず私が学習させたこともこの剣には詰まってるのですよ。もちろん私の先代や先々代やもっと昔の記憶も。だからそれを引き出せるか否かは現持ち主のあなた次第なんです。分かりますね?」

するとジェミニは少し苦笑いしながら自分が本来いるべき場所ではないと思っていたのを僕は見逃さなかった。

「ジェミニ?確かにこの剣の中で過ごす者として一番場違いなのは君かもしれない。でも、それが何だって言うんだよ。僕とレジェのいる場所がジェミニ、君のいる場所さ。」

僕がそう言うとジェミニは少し気を楽にしたのか、今までのしかかっていたおもりをどけたかのような軽くて自由な気持ちを取り戻していた。

「それでも俺は創星神だぞ。本当にそれでいいのか?」

「我たち魔王と呼ばれるような存在を体に置いておくのは苦がないか?ジークよ。」

僕はこの三人で見つけてみせるんだ。あの日父がくれた最初で最後の問題の答え合わせを。そう深層意識の中で訴えると、ジェミニは安心しきったようにだらけ、分かったと一言放ちその後大人しく眠りについた。おいジェミニ。寝るな。デッドゾーンで疲れてるのに感覚が繋がってるお前に寝られたらここで寝ることになるだろう。そう思いながら自我を保っていたが、睡眠欲が限界まで上り詰めてとうとう寝てしまった。しかし僕を受け止める地面はいつもよりふんわり柔らかく、じんわり暖かかった。まるで僕が倒れ込むのを知っていたかのように。

       *

 起きるとそこにはいつも鍛錬をしている丘の姿は無かった。

「おぉー気がついたんだねー。君が倒れ込むところを見てすかさず助けなきゃって思ってねー。申し遅れた。僕はグランだよ。一応大地の精霊王をやらせてもらってる。この家も君が倒れ込んだところの土やらを使って構築したもの。」

少し待ってくれ。情報量が多すぎて頭に入らない。まずは四精霊王の一人と出会っているということ。そして眠気で倒れそうな僕を受け止めるために家を一瞬で建築してるってこと。そして極め付けは精霊王全員と人生のうちで接触していることへの驚きだ。

「グランさん。ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました。」

レジェがお礼と謝罪をしてくれたが自分でもしておきたくてレジェに意識を返してもらった。

「本当に助かりました。ありがとうございます。で、グランさんは何かこの丘にご用でもあったんですか?」

「僕はですねー。水の精霊王さんに頼まれて、風の精霊王さんの様子を見に来た次第ですよー。って言っても精霊界の事なんては分からないかー。アハハ忘れて忘れてー。」

もしかしなくても、リリスとマリンの仲介役として使われてるぞこの精霊王。それにしても忘れてと言うほどだから何かあったのだろうか。少し気になるが、とりあえずは深入りしないでおこうと思う。

「僕ばっかり喋って悪いんだけど、その剣ってもしかしてー?星龍剣だったりー?なんか黒いけど...」

のんびりしているが流石は精霊王だ。やはり見通しというか何か先のことを考えているような頭脳や広く行き渡った目で核心に迫ってくる。

「その通りです。現代の星龍剣の使い手ジークって言います。よろしくお願いします。」

一番つかみどころのない感じ精霊王だったので思わず固く挨拶してしまったが、精霊と心を通わせなければいけない事を思い出して自分を律する。そしてその言葉の旨を声に出す。

「僕は竜属魔法の使い手。精霊と心を通わせる使命を持った存在だ。グラン。君も僕に力を貸してくれないか?」

「いいよー。というか人と共存するのが精霊たちの望みだからね。君がその共存の架け橋になるって事でしょ。すごいね君は。僕はそんな事いきなり言われても出来なそうだよ。だから出来そうなことを手伝うよ。」

そう言うとそろそろ行かなきゃと言い、即興で建てた家を残してマリンの家へと向かっていった。この砂で作ったとは思えない家は出て行く時崩さなくて良いって言われた。すぐに解体して元の地形に戻せるからってことで。

 砂からできた家を出て家の外見を見ると、木造的な見た目をした平屋が建っていた。ジェミニとレジェは幻覚魔法の一つで、砂で作ってあると思わせないような魔法が貼ってあるとのことだった。僕は数時間寝ていたようで妙に脳がスッキリような状態で丘を下っていった。夕焼けが僕の影を地面にくっきりと投影しており、日の暖かさを純に感じて下る丘は何故だか冷たい風が吹いていた。

       *

 次の日の朝僕は猛烈にソワソワしていた。というのも、この街リビゼーをまとめ上げる総統名家ゼウス家の門をくぐるからだ。あんな外道に会いに行くにも、身分とはこうも人を縛り付けるのだと深く実感する。

僕が玄関のドアノブを引くと、そのドアは反発するかのように逆に開いた。玄関には焦った様子のピスケスがいた。一体何が起こったのだろう。皆目検討がつかないが、言葉も発さずあたふた焦っているピスケスを見て緊急事態であることは明白だった。

「ジークさん!大変です!オリオンさんがこっちの世界に来るそうです!なにか思い立ったようで...今朝通信があって!」

その言葉にいち早く反応したのはやはりジェミニだった。

「なんだって!?確かオリオンはまだ破損の修復で再起が難しい状態なんじゃ...はかり間違ってもあと三年は動けないはずだぞ...!」

ジェミニは相当怯えているようで、ピスケスの焦りからもオリオンは臆するべき相手なのだと実感させられる。創星神という神ですら神と名状するほどの存在は一体どこまで恐ろしいのだろう。

「ジーク。オリオンは私が昔、奇跡的に破壊しました。がしかし、創星神を束ねる神なんです。信じられないほどの力と知識を兼ね備えています。血迷って戦おうとなんてしないでください。」

レジェがそう言うとピスケスは|忙(せわ)しくうなずき、注意するように言うと足早に家へと駆けて行ってしまった。いつも楽しそうに話す彼女があんなに怯えているのに、その背中を追いかけることすら出来なかった。僕はその哀愁と共に家を出るのだった。

「なぁ二人とも、クリティカが僕を家に呼んだ理由ってなんだと思う?」

僕は奴から招待されてからずっとこれに引っかかっていた。僕がクロニカと繋がっているのかという言及なのか、僕が持っているゼウス家宝の指輪のことなのか。そういえばあの時クロニカが持ってきてくれたもう一つの家宝はどうなったのだろう。きっとクロニカが持ち帰っただろうが、少し心配だった。

「そりゃ多分あいつお得意の正義についての話なんじゃねぇかな。あいつは正義だとか言って三人も虐殺した悪魔みてぇな存在。正義がどこにあるんだかわからねぇな。」

「ジェミニあなたがそれを言うんですか?魔王と呼ばれて嗜虐の限りを尽くしていたあなたが。」

ジェミニは図星なようで少し慌てていたが、更生した旨の言葉が並べられた。レジェは少し意地悪をしたらしく、ジェミニはそれを勘付き少し笑っていた。

「レジェその言葉はお前にも刺さらないか?その魔王を滅するために、倫理を捨てたお前がなぁ?」

ジェミニはお返しと言わんばかりにレジェに言葉を返す。レジェは少し赤面し、白い顔がこれでもかってほど赤くなるのを感じる。深層意識の中で容姿が分かるとなんだかこういう変化がすぐわかってしまって悪い気がする。少し和んだ雰囲気でゼウス家の大きな豪邸まで軽い足取りで向かう。しかしその大きな門の前にいざ立ってみると、大きな圧迫感に押しつぶされそうになってしまう。門番などはおらず、門にはただ大きな板状で紺色の扉があるのみだった。

「なんだか見たことない材質だな。でもなんだか魔力を感じる。」

「この材質は俺達創星神の体にちょくちょく使われてんだぜジーク!これはクラクと呼ばれる石でな、現代より遥か未来の世紀の魔法が詰まってるらしいぜ。なんでも未来には行き過ぎた科学は魔法に等しいって説を説く奴が現れるらしくてな?クラークっていうヤツらしいけどそこから名前をとった石だな。」

レジェはとても納得したように聞き入っているが、僕にはよくわからなかった。機械である創星神が意志を持っているのはこの石のおかげっていう事だろうか。

「ジーク。あなたが今思っていることはほぼ正解です。機械が人間と対等それより上に立つようになることをシンギュラリティと言います。そのシンギュラリティをさらに超えた者たちが創星神なのでしょう。この石が部品として使われるのはきっとより早くシンギュラリティをおこしてより優秀な創星神を製造するためでしょう。」

そういうことか。でも何故門の扉になんか使われているのだろうか。何か特別な理由があってなのだろうか。僕は扉に手をかけた。するといきなり青白い光が扉から漏れ出し、扉の内側へとワープした。ワープというより、僕がいた空間が反対になったような感覚。そこで出迎えていたのはクリティカと四人の背丈の高い女性の使い達だった。しかし使いと思われる人物は全ておなじ顔であり、少し驚いてしまった。扉よりも驚いた。

「やあやあジーク君。待ってたよ。その扉驚いたかな?その扉について少し...その扉は登録された人間の遺伝子を認識して空間転移魔法を自動的に放つ優れものだよ。君の遺伝子はオクトパスに摂って来てもらったからね。あの時オクトパスに頼んでおいたのは殺すことじゃない。ジーク君がそこに何時に行くから血を取ってきてと言っておいただけさ。」

そんなどうでも良いことで僕は死にかけたのかと思うとクリティカの話に苛立ちしか感じれなかった。

「庭でお出迎えとは...ありがとうございます。流石は名家です。普通の一民家と違うわけですね。」

僕は少し皮肉めいた言葉でクリティカから心理的に距離を取った。何故かというと、心理的に近い距離で話すと何故だか奴の底知れぬ殺気のようなものに呑まれそうになるためである。

「うん!正直僕は神から選ばれていると思ってるよ?人の代表者が僕だってね。」

しかし言葉の冷戦では拉致があかないと思ったのかクリティカは意外とすんなりこの話をやめ、家へと僕たちを招き入れた。

 ゼウス家の家はとても清潔感があり、典型的なお城とでも言うべき作りだった。見たことのない材質のものが異常なまでに多く、世間一般では出回っていないようなものまであり、家の柱や壁に不用意に触れると何が起こるかわからなそうだった。

「クリティカ様。お連れの方はジーク様ですね。食卓へ案内してよろしいでしょうか。」

「頼むよ。僕は一旦この腕輪を外してくるから。じゃあジーク君、少し食卓で座って待っていてくれ。」

食卓で何をするのだろうか。まさか食事なんてことは無いだろうし、いきなり戦闘とはいかないだろうし。すると使いの人が今回の目的を小声で教えてくれた。

「クリティカ様はジーク様に期待してるんです。人間が全ての文明の上に立つ存在になるその大きな一歩になるって。だからきっとそんな話をされるのでは無いですかね。私ども使いにはなんの話がされるかなど全く分かりませんが。」

クリティカが僕に期待している。それは多分あり得ないだろう。クリティカは自分が神に選ばれただとか言っていた。つまり、僕に頼る必要性はほぼほぼ皆無なのだ。しかしクリティカは全文明の上に立つだとかそんな単純な理由でこんな残虐を極めているのであれば僕は止めなければならない。僕たちはその文明に支えられて生きているのだから。

「なぁなぁジーク。これってもしかしてだが、相当入り組んだ状況なんじゃねぇか?」

「ジェミニの言う通りですジーク。これはかなり複雑ですよ。彼が何を思って全文明の上に立ちたがっているのかも分かりませんし。」

この家系に謎は尽きない。でも今日は心も読まれず無礼講とのことだった。ここで徹底的に彼の心を吟味しなければ僕はこれからクリティカに対してどうしていいのか分からない。僕はそんな不安を残しながら案内されるまま食卓につき、木造の高級そうな椅子に腰掛けて待つように言われた直後、食卓にやってきたのはクロニカだった。クロニカは小さく、今から弟の前でとる態度は演技だと良いながら澄ました顔を作り、座った。しばらくしてクリティカが食卓へと到着してクロニカの隣に座った。テーブルの上に組まれた手には腕輪が付いておらず、本気で僕と話す準備を整えていた。

「ジーク君にまず言いたいことがあってね。君の笑顔を求める正義は素晴らしい!故に君の活躍の邪魔になる人間は全て排除することに決めたのさ。どうだい?僕と組むっていうのは。悪い話じゃないだろう?」

ふざけるのもいい加減にした方がいい。確かにクリティカの強さは戦ったことがなくても読める。しかし、奴は人の命を軽く奪うような非道な奴だ。組むなんてあり得ない。

「組むなんてそんなわけ...」

「いや組むべきだ。お前はその偏見と自己判断で幾度となく死に直面してきただろう。お前の理想に近づくために我が弟が提案してくださっているのだ。」

クロニカの態度は偽りといえどとても冷徹で、まるで隙のない以前のクロニカのようだった。するとクロニカに対してクリティカは不満の表情を見せた。

「ねえ?クロニカ姉さん。僕はこの子を崇高してるんだ。そんな口きいたらダメでしょ。謝ってよ。」

クロニカは首を横に振った。演技なのだろうが、心が痛む。クロニカにこれ以上辛い思いをさせるのは御免だ。

「やめろクリティカ。僕はこんな争い望んじゃいない!僕の理想を叶えてくれるんだよな!?だったらなおさらクロニカを悲しませるようなことは言うな。」

するとクリティカは下卑た笑みを浮かべ、その笑みは次第に狂気に染まったように黒くなる。

「姉さん。笑いなよ。ジーク君に失礼だろ。僕はこんなにも笑顔で楽しいのになぁ...?姉さんはなんでそんなにつまらなそうなのかなぁ...?」

「無理に作った笑顔なんて嬉しくない!お願いだクリティカ、人の命は奪わないでくれ。」

僕は苦渋を飲む思いで椅子から立ち上がった。そして崩れ落ちるように跪いた。僕が少し顔を上げるとクリティカは拍子抜けした表情をしてたちまち無垢な笑顔をこちらに向けた。

「やっぱり君は人間界にとっての逸材だよ!人の命、人の心!美しさの結晶のような人間だ!加えてこれから訪れるであろうさらなる成長ッ...!まさに人間が新たな文明の創始者となる!僕はこれを正義として生きてきた!ジーク君に折り入って頼みがある...」

そう言うとクリティカは僕の前で跪き、僕の肩に手を置いた。

「人が時代を創っていく世界のためにも今ある全ての文明を滅ぼさないか?」

それは的外れの期待だった。共存という道はきっと彼にはないのだろう。

「誰がそんな提案受けるか...」

その時、僕の体は何か得体の知れないものに支配されるように剣を握った。僕の意識は深層部ではなく他のどこかに幽閉されたような感覚だった。

「出せ!ここから出せ!うっ...ぐ、ぐあぁぁぁ!」

無数の鎖のようなものが絡みつき身動きが取れない。二人との連絡ももちろん遮断されている。自分が何をしているのかはくっきり認識できる。自分が暴れる瞬間を黙って眺めていろというのか。僕は死より恐ろしいその瞬間を直視しなければならない。嫌だ。人を傷つけるのはもうたくさんだ。

「なら、何故お前は強くなろうとしているのだ?」

僕の口から僕とは違う誰かの声がする。何故、強く。

「それは人を守るため。」

「では今まで人を守れた試しなどあるか?失い続けたお前が。」

その答えと質問は深く僕の心を抉り、吐き気と目眩が襲った。そして僕は今、立ち尽くすだけのクリティカを刺し殺そうとしている。倒れ込むこともできず、意識は依然縛られ続けている。

僕はあと少しで人を刺し殺してしまうだろう。僕は僕が人を殺す瞬間を見ていなければならないのか。いや、違う。失い続けた。だからもう、失わないために戦わなきゃならないんだ。戦うのは守るためなんかじゃない。失わないためだ。もう誰の命も。誰の笑顔も。

 その瞬間僕は黒い意識から解放された。そして僕は剣を落として言った。その声と体は確かに震えていた。何に震えていたかなど分かりはしないが。

「僕は君の悪を知らない。そして君は僕の正義を知らない。教えてくれよ悪ってやつを。そして教えてやるよ、僕の...正義を!!」

するとクリティカは更に驚いたような表情で言った。

「あんなにも強い意識の迷宮シナプス・ラビリンスを抜け出して来るなんて予想外だ。いいよ?悪ってやつを教えてやる。こういうことだよ。」

するとクリティカはクロニカを蹴り飛ばし大声を上げた。その大声に反応するかのように三人の影が僕を囲んだ。マウス、オウル、オクトパスの三人が僕に一斉に敵意を向けた。

「残念だなーこんな逸材を殺さなきゃなんて。でも大丈夫。またその剣を託される人間を探せばいい。きっとその子もジーク君みたいにキレイな心の持ち主なんだろうなぁ...♪お前ら、殺せ。」

今一度何も失わないために、レジェ、ジェミニ、力を貸してくれ。

「はい。どこまでもお力添えしますとも。」

「おうよ!あの世までついていってやる!」

悪いがここから先ちょっとの間だけは笑顔は封印だ。その分ここにいるみんなの笑顔は、僕が取り戻す。


後書き

夢について後書きで書かせてくださいって言ったの覚えてくれてますかね?矢口です!今回の七話もそうでしたが、夢とは人それぞれ異なっていて、一人の夢が叶うのと同時に夢を失う人間も大勢いるってことなんです。でもそれは言い換えればそこで終わるような夢だったって事ですよね。だからこそ夢に対する執念は大事だと思うんです。もちろん人の倫理の上での話ですよ?クリティカはきっとテストで倫理だけ満点取れなくて、なんでだろ〜とか平気でいうタイプだと思います。はい。まぁちょくちょく僕の夢についても語っていきたいですね。これからも応援していただけると嬉しいです!それではまた八話でお会いしましょう!ウナムでした!

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