6.目醒める魂

前書き

最近リア友に「ゼウス家の設定酷いな...これはもう権力の応酬だぞ...」と言われてその通りだし、そういう風に作ったんだからよかったと安心すら覚えて、もっと表現に磨きをかけようと思っている矢口です!六話!なかなか頑張って書いているつもりではありますが、実力っていうのはちょっとそっとじゃ伸びませんね!というのも、インスピレーションを得るためのソース集めに尽力できていないことにあると思うのです。なのでこの六話は五話以上に面白くできるように頑張ります!それと、最近Twitterで絡んで頂くことが多くなってきており、感謝でいっぱいです!もっと絡んでほしいウナムでした!それでは六話お楽しみください!


「僕はこの数か月のうちに何度も死にかけたんだよ...本当に嫌になるよ。」

「一度は死にましたけれどね。その時はもう気が気じゃなかったですけどね...」

それを聞いてマリンはとても驚いたような表情を見せたが、少し落ち着くと紅茶を一口飲んで滑らかな唇を震わせた。

「修羅場を潜り抜けてきたようですね...お力添え出来ずすみませんでした。」

切実に謝ってくれたが、僕が死にかけたのも一度死んだのもマリンのせいではなく少し困惑してしまった。しかし、精霊王として民を守りたいという心持ちやプライドが一段強いのがマリンである事を僕は知っている。サソリ型の創星神との戦闘に敗北した件を話したときなんかは少し僕について怒りすら憶えていたようにすら見えた。それが創星神への憤りなのか、僕に対して呆れなのかそれとも他の理由なのかは僕には分からなかった。

「なぁマリン。魔王って呼ばれてた創星神の俺が言うのもなんだけどよ。創星神にも悪いやつだけってわけじゃないんだぜ?」

ジェミニが僕の体を乗っ取って何を言い出すかと思えば、約半年前のジェミニなら思っても見なかったような言葉を口にした。マリンはその様子を驚きに満ちた表情で見て

「それはきっとあなたのような者がいるからですよ。」

と、意味深な言葉を僕にかけた。マリンは口元をおさえながらスコーンを口に運んだ。

「そういえばさマリン。前々から気になってたんだけど、相手の攻撃が通らないのになんでティーカップとかお菓子とか掴めるの?」

するとマリンはレジェさんに教えてもらうといいでしょうと説明を避けた。

「レジェさんの父親は魔法歴史学の研究家だったのです。だからレジェさんに聞けばきっと私より分かりやすい答えが返って来ますよ。きっと。」

そういうとマリンはソーサーを持ち上げ口元にティーカップを運んでは、目を瞑って、味わうように紅茶を飲み干した。レジェは僕になぜだと思うか聞いてきたが皆目見当がつかない。

「わからない。なぜ物に干渉出来るのに攻撃は通らないんだ?」

僕はレジェに答えを求めた。

「精霊とはいわば不完全なエーテル体みたいな物ですから。魔力によって物に干渉したり出来るわけです。ということは」

「つまり魔力を込めず可視化のみしてる状態なら攻撃を受けないということか!」

レジェの説明を遮って僕は少し上がり口調で答えた。するとレジェはとても穏やかな心持ちになったのを感じた。

「そういえばあなた方はゼウス家はご存知ですか?」

マリンがいきなり"そのワード"を出すとは予想外だった。僕は一度殺された恐怖がよみがえり、吐き気を催した。

「俺が代わりに説明するぜマリン。つまりな...ジークは一度大切な人たちをあのちっこいクソガキに殺されたり、あの華奢なナイフの女に一回は殺されてんだ。そん時あの自称神に助けてもらったってわけで。」

雑な説明ながらまとを得ていて、マリンも小さく頷きながら聞いている。自称神で通用するあたりきっとあいつに迷惑被っている一人者なのかもしれない。自称神もといトロイは素性が不明でどれほどの強さをしているのかは全く分からない。もしかしたら奴は、態度だけ余裕をかましたなんちゃって神かもしれないと思う時もある。そういえば...

「その自称神から昔話を聞いたんだけどね?」

僕が話を切り出すと、マリンは興味深そうにこちらを貫くが如く真っ直ぐな視線を向けた。

「それが、あの不動の月の存在理由についてだったんだ。それで手短に言えばあの月は...ってうわぁ!」

僕の言葉は大きな地震と隕石でも落ちたかのような轟音にによって掻き消された。

「やぁやぁ風の精霊王さん。この間僕を可愛がってくれたお礼参りにきたよ?」

狂気に支配されたような高い声色と独特の煽り口調。そしてこの間マリンに敗れた者。僕の脳内にはもう敵の像が頭に浮かんでいた。差し詰め、創星神の羊がこの間の負けを返しにきたといったところだろう。それにしても諦めが悪いな。

「オラァ!オラァ!フグァ!」

聴き慣れない低い声が唸り声をあげては金属同士が擦れ合う嫌悪感のある音が耳を刺した。たまらずマリンの家を出て外を見るとそこに立っていたのは、体の至る所が圧縮機のようなもので構成された牛のような見た目をした無機物だった。

「おかしいですね...アリアスは一緒ではないのですか...」

マリンの一言で僕も思い出す。そういえばあいつの声が聞こえたのにあいつがいない。僕はどこから襲われてもいいように腰を落とし、回避する体制を整えた。すると牛の背後からアリアスの声が聞こえてきた。

「身構えたところ悪いけど僕はここだよ。そこの双子座に聞かなかったかい?僕は他の創星神に連結して対象を強化出来るって。」

そういえばそんな事を言っていた。

いかにも強そうであるし、僕の実力では創星神二体分の相手をするに至らない。しかし、ここで立ち止まったらまた死を迎えかねない。それだけは「死んでも」御免だ。

 マリンは戦うような素振りを見せておらず、マリンの事だからきっと訳のある事なのだろうと僕はマリンを背に剣を抜いた。

「ジーク。私が切り込みます。ジークは魔法の準備を。ジェミニはジークの魔法の援護を。」

深層意識の中で僕たちに指示を出すと僕の体を乗っ取ってレジェは牛に颯爽と駆け寄っていった。

「よっしゃジーク!行くぜ!ついてこいよ!」

うんジェミニ。援護側が言うセリフじゃないかな。なんて思いながらブツブツと詠唱をする。

「グラ・グラ・エクスプロード…」

レジェは噴射される蒸気を華麗に避けながら相手との距離を徐々に縮めていく。どうやら牛だけあって足の速度はそこまで速くないらしく後退りしながらの噴射攻撃はあっという間にレジェのステップによって完封されてしまった。

「今ですジーク!」

準備は出来てる。さぁ行こうジェミニ。

「行くよザード。ブレス!アイス!」

絶対零度の吐息が僕の口を介して相手に勢いよく吹き付ける。相手の高熱の蒸気を一瞬のうちに氷の結晶に変えてしまった。そして上下する圧縮機を完全に凍結させて相手の動きを封じた。

「これで...!」

安心は束の間だった。圧倒的破壊力もとい超馬力の圧縮機によって氷は粉砕され、圧縮機は上下運動を再開させる。

「やはりですか...しかし私も今は戦えるか微妙...」

微妙に聞こえにくい大きさでマリンが呟いた。とにかくマリンは今戦うには少し無理のある状況であると分かった。そうなれば僕たちだけでどうにかするしかなさそうだ。

「お前らじゃタウルスには勝てないなぁ?しかも僕の強化を受けたタウルスには...なぁ!?」

羊は煽りに煽ってくるが確かにこれは厄介だ。一撃で仕留める事はできなそうだし、長期戦も分が悪い。ならここは僕が出る幕ではない。

「ジーク。あなたは休んでいて下さい。あなたの使う竜魔法は莫大な威力の代償に相応の魔力を使います。」

「ここは俺たちに任せろ。」

「我も負けてばかりはおられんでの...!」

皆が体の中で僕の考えを咀嚼してくれる。僕は詠唱を開始した。

「グラ・グラ・エィンシント…」

先ほどとは違い、ジェミニが先行して相手へ切り込んでいく。相手は拍子抜けしたように真正面から突っ込んで来る僕に高熱の蒸気を噴射した。しかし僕の体に火傷を負わせる事は全く出来ない。それもそのはずだ。ジェミニもといフェルノは水を蒸発させられるし、ザードも蒸気くらいなら瞬間冷凍可能だ。

「パウェンマイヴォドィ…」

意識はレジェに切り替わる。レジェがいつもの如く軽快な動きで相手の攻撃を避ける。圧縮機だけあって一撃もらえば命の保証は無い。お構いなしにレジェは相手の動きを読んでいなしていく。

「アドヴェント!」

詠唱を終えた僕はレジェの支配していた体を乗っ取り相手にゼロ距離での高火力魔法を放った。

「ブルラァ!グルァ!神器・改造クロック・オーバーホールゥ!」

負けじと相手も神器を解放してくる。相手の体が分解され、再構築される。それはまるで大きく固い檻だった。アイアンメイデンを彷彿とさせるような見た目で、性能も似たものだった。高火力で放ったはずの高圧の魔法は大きく口を開けた檻のなかに吸い込まれてたちまち収縮してしまった。

「そんな...もう体が持たない...」

「ワッハハ!さすがタウルスだよぉ!僕の強化もあるけど...これで君たちもジ・エンドだねぇ!?スコーピオンが仕止め損なった君たちを始末する。ジーク君を守れないのであれば精霊王達はたちまち時代の流れで消滅!あぁオリオン様の崇高な世界が目の前だぁ...」

何を言っているのかわからない。ただ、僕の存在は精霊王の命運を分けているという状況は理解出来た。

「やめなさいアリアス!タウルス!」

横で戦うことを渋っていたマリンが止めに入る。がしかし、アリアスはいつもの煽り口調を崩す事はなく、

「君への復讐だよ?君の言うことを聞くとでも!?笑わせるな!君本体を叩くより、君の大切な者たちから殺してやるよ!死ね、死ね、死ねぇ!」

そういうと僕の魔法を消滅させた大きな口から周りの気温を瞬時に変えかねない程の高熱蒸気が勢いよく噴射される。マリンは風で傘を作り僕の体を覆って守ってくれた。しかし僕の体はすでに火傷だらけで動ける状況になかった。そう、きっとどんなに避けたつもりでも微量の熱気で少しずつ焼かれていったのだろう。大した痛みではないが、今のコンディションであいつらには勝てないと本能が唸って聞かない。そんな時。

「ジークさん。魔力の供給をします。もう一度だけあの高火力出せますか?」

マリンが口を開いた。魔力の供給なんてどうやってと思っているとレジェが僕の考えを察知して答えた。

「ジーク。彼女は風を依代として体を作っているように風から魔力の生成が可能です。そしてその譲渡は王にのみ許された力なのです。」

つまり、風から作った魔力を僕に供給し、僕の竜魔法をもう一度発動しようという手はずという訳だ。

「分かった。だいぶ賭けになるけど死ぬよりましだ。やってみせる!」

するとジェミニは妙案を思いついたと僕とレジェに伝えてきた。

「それで行こう。」

羊は死なない僕に苛立ちを感じ始めており、タウルスは少しそれを落ち着かせるようにオーバーホールを解除した。

「お前らしぶといんだよ!死に損ない共が!」

「そろそろ本気で潰すか...二つの意味でな...グラララララ!!!」

唸り声を上げていた牛も驚くほどの低温で意味のある言葉を発した。

「こっちのセリフだなぁアリアス?お前ほどの雑魚に苦戦してる俺が馬鹿みてぇだ。」

ジェミニはアリアスをいよいよ煽り返す。アリアスは憤りと焦りからかタウルスと分離する。

「いまだマリン!」

マリンは分離したアリアスの噴出口から風を得て魔力を生成する。アリアスは分離してはまずいとすぐにタウルスに連結したが気付くのが遅い。マリンは僕に魔力を譲渡した。

「ジェミニ頼むよ...」

僕は初めて自分の体からジェミニを分離させた。

「久しぶりの外だ!暴れるぜ!?たかが下級創星神二匹程度が...」

そういうとジェミニは神器をフルブーストさせて牛を翻弄する。牛は元々動きが遅いらしい素振りを見せていた故にジェミニのハイスピードにはついていけないだろう。僕の体もあの速度を耐えているのが不思議なくらいだからな。

「グラ・グラ・エィンシント・パウェンマイシェード!!」

「バル・バル・スァンダ・ジークシェード!!」

レジェと詠唱を合わせる。いわゆる魔法融合という禁忌の技だ。文明的にも許されていないが命のかかったこの状況ではやむを得ない。相手の意識は完全にジェミニ。ジェミニは魔王と呼ばれていただけあり、そこらの創星神なら問題なく戦うこと ができるようだ。

 ジェミニは相手からの総攻撃を一度も喰らわずに飛行することをやめ、相手はこれ幸いとジェミニに攻撃の矛先を向けた。

「さすがの魔王さんも二創星神相手じゃ足が止まるか。まぁその噴出口を足というのにも無理があるね。ハハッ!じゃあぶっ壊れろ!」

「フンガ!叩き潰してやる!粉々にしてやる!覚悟しろ魔王!」

そういうと高圧力な一撃がジェミニを襲い、蒸気と巻き起こる砂埃で周りの様子が見えなくなった。

「舐めんな雑魚ども二匹が。俺は元々二人だ。そして今は四人なんだよ。そう簡単に数だけで勝てるんなら苦労してねぇ!」

空を切り裂くようなはっきりとした声と共に砂埃が吹き飛び、ダイヤモンドダストのようにキラキラと輝きながら凍った。

氷盾アイシクル・シールド

相手の高圧高圧縮高火力の三拍子を、たった一瞬で創造した氷の盾によって防ぎ切ってしまった。

「今だ。ジーク!レジェ!」

ジェミニが叫ぶ。牛と羊は分が悪いと察知し逃げようと試みたようだが、ジェミニがそれを許すはずもなかった。

「逃げんじゃねえ!煉獄牢フレイム・プリズン!!」

一瞬のうちに相手を炎の柱に閉じ込め、僕たちは相手の場所を落ち着いて補足した。あとは任せたと僕の体へと一足先にジェミニが帰ってくる。

「やれ!二人とも!」

「行くよレジェ!」

「任せてください。ジーク!」

僕は大きく跳び、空中でレジェを体から解放した。

「「アドヴェント!!」」

光属の魔法と竜属の魔法を混合させた魔法を剣に込めて一刀入魂ってところだ。レジェも剣を振るから正確には一刀ではないけど。剣は眩く光り輝き、肉眼では視力を失ってしまいそうなほど白く輝いていた。その光はやがて二匹の竜へと姿を変え、剣に宿った。確かに力が加わったような感覚が僕にはあった。

「何度同じことを繰り返すのだ!無駄よ!オーバーホール!」

牛はさっきより分厚いであろうドーム状の盾に体を再構築した。このままでは最後になるかもしれないこのチャンスを逃すことになる。しかしレジェは落ち着いていた。

「ジーク。安心して私と剣を振りなさい。」

炎の渦の中に空中から突進する僕達。マリンはきっとこのサポートで限界だろう。チャンスはもう一度きり。ここで決める。

「はぁっ!」

「せいやぁ!」

気合のこもった叫びと共に大きく縦に一撃をくらわせる。そして着地と共に僕の体にレジェが帰っていった。すると僕の剣は土に当たっているような感覚がした。外したのではない。目の前には真っ二つに割れた

牛の盾。あの鉄壁の守りを、果実を両断するかのように突破してしまった。これが禁忌たる所以なのかと使った当事者である僕ですら驚いた。

「グ...ラァ...!機能停止...!」

プシューという音を立てて牛は動かなくなってしまった。

「な!?そんなぁ!?お前らずるいんだよ!禁忌をそんないとも簡単に扱いやがって!」

羊は焦りながら牛の体を抱える。そしてブツブツ言いながら重そうに牛を持ち上げて逃げようとした。

「おい!待て逃げんなド腐れ羊が!神器...」

僕の体を使ってジェミニは追いかけようとしているようだけれど、僕にその動きはできそうにない。

「ジェミニ。やめておきましょう。禁忌の魔法融合を行ってジークの体が持つはずがないのです。」

「そんなこと言ってもよ!あいつらはまた修理されたら元通りだぜ!?今のうちに叩いとかなくて良いのかよ!?」

僕の力が至らないばかりに、みんなの望みに一歩及ばない僕が情けなかった。

「お前重いんだよタウルス!あぁもうお前らいつか絶対に蒸し殺すから覚えてろよ!うぐぅ...」

創星神は基本どれくらいの大きさなのか分からないがあの小さな機体であの巨体を持って飛ぶってどれだけ高圧な蒸気なのだろうなんて考えながらただぼーっと遠くを見ていた。死ぬほどではないがそれに近い。だいぶ体に疲労が溜まっていてそれを吐き出す場所が全く無い感覚。ただ体を回り続ける赤い意識に苛まれ続ける。しかし死ぬほどじゃ無いと何度も何度も心に死との決別を言い渡し続ける。死ぬのが怖くて嫌なのは当たり前で、それ以上に自分の命に他の二人の運命がのしかかっていることも加味すれば、僕は死ぬわけにはいかない。その時突然体が自然と起き上がった。

 体の外に相当な力の電流が疾っているのが分かる。そしてあの赤い意識が沸騰したように体が熱い。脳からじんわりとアドレナリンが垂れ出して全身を光に勝るとも劣らないスピードで巡っている。

「デッドゾーンだジーク!落ち着け!」

「オーバーワークによるものですね...まずいですよジェミニ。」

僕は体の制御が徐々に効かなくなってきているのを感じた。体が自分以外の何かに浸食されつつあったその時僕の体がよろめいた。その時。僕の体デッドゾーンの状態を維持しながらも、僕のコントロールで動くようになっていた。

「これは...禁忌の魔法融合による副産物と言っても過言ではない...のですかね。」

マリンが少し物珍しそうに僕を見つめて言い放った。

「どうなんですか。トロイさん。」

「はいはーい!呼ばれて飛び出てトロイでーす!って...マリンちゃんが故意に俺を呼ぶなんて珍しいね。ジーク君のこの状態。気になる?」

「手短にお願いします。そしたら帰っていただいて結構です。」

辛辣な皮肉を飛ばされているのにヘラヘラした様子のトロイ。本当にこいつが今の僕の状態を理解しているのか疑問だった。

「ジェミニ君が言ってたデッドゾーンってのがもう正解なのさ。しかし逆になんでジェミニ君が知ってるのかは疑問だけど。それで少し長く話をすると、それは人間が到達するにはまだ早い領域なんだ。でも原因は君たち三人かな?ジーク君はすでに人間の境地を超えているってことになるんだね。それで、デッドゾーンっていうのは言わば"普通なら死んでいた"という限界を超えた先にある領域でね。君は今相当のことが無ければ死ぬことはないだろうね。本能が全ての危険を察知して動くからね!」

そう言うといきなりトロイが殴りかかってきた。しかし僕は手のひらで彼の拳を受け止め、手首で完全に衝撃をいなした。無意識のうちに。

「つまりこういうこと!分かった?五人とも!」

相変わらずジェミニを二人扱いしてカウントしているようだ。しかしそういうことか。今の僕は人間離れした状態ということだろう。野生的かつ緻密な動き。

「それにしてもデッドゾーンに入った人間は今世紀二人目だなぁ...いつもなら三世紀に一人いるくらいなんだけど...すごい時代発見しちゃったかもな...」

トロイがそうしみじみとしているとマリンはにっこり笑って言った。

「トロイさんお茶飲んでいきますか?」

「お得意の分かりやすい皮肉!ねぇ見た?今の!ジーク君!どう思うよ!?ねぇ!」

申し訳ないけれど僕も正直早いところ帰って欲しいと思っていた。しかしこの感覚を覚えれば僕はもっと強くなれるってことになる。俄然やる気が出てきた。明日からはこの感覚を練習しよう。

「ジーク君にシカトされて悲しいから俺は消えるよ...!何かあったらまた呼んでね!じゃあねみんな!」

なんだか都合がいいのか悪いのか分からない神だ。でもこの感覚は確実にこれから過激派の創星神たちに対抗できる手段になり得る。来たるべきその日までに僕はこの感覚を体に覚えさせることができるのだろうか。そんな不安と一筋の光が見えたような希望によって混沌とした心境に身を置いている。

「さぁ。今日はもう帰りましょう。送っていきます。それにしてもジークさんの成長は著しいものですね。」

そういうとマリンは人間体を崩し、一吹きの風になった。いつ見ても詠唱なしで魔法紛いの行為ができる精霊ってやつはすごい。生業としてそれができるってレベルを超越していると感じる時もしばしばあるし、小さな使い魔ですら魔法使い初心者もとい見習い程度なら一掃だろう。

「それにしてもジークさんはお体に障るようなことが多いようですがたまには自分に緩みを持たせてもいいのではないですか?」

マリンは精霊王ながら人間に理解があるような口調でありなんとなく恐縮してしまうが、王にこんなに気軽に接している時点で王政で回ってる街とかだったら問題だろう。

「まぁそれだけ僕にもやりたい事があるって事です!マリンは何かやりたい事はないの?」

「もう何年も生きてますし、今更何か生活を変えるのはなんと言いますか無理だと思ってますよ。でもそのお手伝いはできるかと思います。」

きっと何年も生きているうちに変化することを恐れるようになっていくのだろう。僕たち人間も短い人生の中で変化を恐れる。生きてる期間が長ければその恐怖が消えるなんてことは断じてないようで、あの自称神とは違って永い時とその変化を重く考えているように見える。

「そっか。マリンにも何か必死になれるものが見つかるといいね。」

「マリンさん。あなたは今の生活を必死に生きているんでしょう。ジークはきっとそれを分かっていてこの言葉を発したんだと思います。」

レジェにしてはだいぶ下手なフォローだが、要はそういうことになる。

あとジェミニ。寝るな。僕たちまで眠くなるって何回言えば分かるのだろうか。

「さて着きましたよ。」

いつものように家まで飛ばしてもらってしまった。風渦から足を出すといきなり風が強まり僕の体は乱雑に地面におろされ、家の壁にまで叩きつけられた。

「ぐっ...!」

「はっ...!はぁ!?何しやがんだマリン!お前ふざけんなよ!?」

マリンが故意にやったとは思えないがなぜ今こんなにも風が強くなったのだろう。

「す、すみません。最近どうも力の制御を誤る事が多くて...微力治癒をかけておきますから...」

そういうと僕の体に緑色の暖かい光が舞った。

「あなたの治癒力を高める魔法ですが、治癒力とはすなわち体のエネルギーを傷口を治す力に変換させるだけに過ぎません。今日はどっと疲れが出る事でしょう。早めに休養なさってください。それではごきげんよう。」

少々焦り気味に去っていくマリン。マリンですら力の制御ができないなんて、風の魔法とは一体どんな力を秘めているのだろうか。

 そんなことを考えているうちアドレナリンが切れ始めたのか、痛みで体が思うように動かなくなる。レジェが意識を乗っ取って治癒魔法に重ねて回復魔法をかけてくれる。

「知ってましたか?光属の魔法は風属の魔法の派生なんですよ。しかし、偶然発見された手法で派生したために、風属の魔法派生から形状は独立してるんです。」

そういうとレジェは僕にゆっくり意識を返す。

「さぁて。まぁなんでもいいけどよ!飯にしようぜ!あと風呂!今日は俺の番だからな!早く飯!」

ジェミニはなんというか、最近日常を楽しんでいるようで何よりだ。

       *

 いつのまにか寝ていたようで、いつ寝たか覚えていない早朝、コンコンと家のドアが叩かれる。まだ外は暗く、こんな時間に家へ来るなんてなかなか急ぎのようだ。違うと分かっていながらも心のどこかでピスケスであって欲しいと願いながらドアを開ける。するとそこにはクロニカの姿があった。

「げぇ...何かご用ですか。死ねとかだったら無理ですよ。」

「その節は失礼した。しかしながらあなたは少し失礼では無いですか?いきなり人を殺人鬼呼ばわりですか。」

いや、素行の問題だろゼウス家の。あとお前の。と思いながらも少し用件が気になった。僕に殺意以外を向けてこなかったクロニカが他に話があるとなれば何かあるのだろう。

「えっと...この間の謝罪はきっと違うだろうから...そうだなぁクリティカの横暴をやめさせてほしいとかかな?」

少し適当だが、真面目に推理したつもりだ。クロニカはギロッとした目を僕に向けて目線を外さなかった。しかし、しばらくすると口元が震え始め次第に顔も赤く染まってきた。

「な、なぜ分かった...?しかも二つとも合ってる...あうぅ...私はまたやってしまったか...!?」

いきなりいつもの威勢が消えて乙女のようなことを言い出したので、僕と僕の深層意識の中ではもう拍子抜けしてしまって、なにを言っていいのか分からなくなってしまった。

「とりあえずここじゃなんなので上がってください。何か事情があるのでしょうし。」

そう言ってなんだか背の低くなったクロニカを食卓まで案内し、お茶を出した。朝早くからお茶菓子というのも何か違う気がして、ベーコンエッグサンドを作って振る舞った。

「それで何の用ですか?」

「はい。あのですね...先日は命を狙うような真似をしてしまい申し訳ありませんでした...。そして自分が大切にすべきものを見つけさせてくれたジークさんには感謝してます。」

「は、はぁ...それとクリティカの事で何かあるとの事でしたが...」

僕はなんだかやりにくさを感じながらクロニカと会話する。この人はなんだか何かに縛られて自由を知らない人のような気がしてならない。

「そのことなんですが...これ...!」

差し出されたのは四色の指輪だった。どういう風の吹き回しだろうか。何にせよこれはきっと何かの罠だろうと少し警戒した。すると突然クロニカが意味のわからないことを言い出した。

「これはその婚約指輪です...」

僕はその言葉を聞いた途端無意識に顔が赤くなっているのを感じた。頭に血が昇って熱くなっていったのを感じ取ったから。

「ジーク。あれは冗談だぜ?お年頃のジークには少し早かったか?ハハハッ!」

ジェミニに茶化されてしまったがこれでいい...

「冗談です...でもジークさんを好きになったのは本当ですよ!」

それ見た事か。って

「えぇ!?どういう事だクロニカ!?」

「この指輪についてはまた後で説明を。あの時圧倒的不利な状況、もとい命を救っていただいた時からずっと思い続けていました...。」

あの時...命を...救った....それはきっとピスケスが神器を解放してクロニカを殺そうとしたときのことだろう。しかし僕には分からなかった。好きになったなら"なぜ刺し殺そうとしたのか"が。しかし僕はべつにそんなことは気にしておらず何より今気になるのは、婚約指輪として名状し差し出されたこの意味深な指輪である。きっと普通の指輪ではないのだろうと少し勘がはたらいていた。

「横から申し訳ないのですが、この指輪はなんなのですか?興味程度の質問ですが、お答えしていただけますか?」

多分だが、レジェもこれについては気になっているだろう。僕が指輪を貰った辺りから少しソワソワしていたし、好奇心で知識を得てきたタイプだろうから尚更だろう。

「これですか?これはですねQの契約クイーン・コンタクトって言ってゼウス家の四家宝の内の一つです。四種の竜を操る事ができます。竜属魔法の使い手のあなたにこそふさわしいと思いまして...。」

それは一体どうなんだ。僕がゼウス家の家宝を身につけるっていうのは完全にアウトゾーンな気もする。そこで何か別の理由があるのではないかと深く聞いてみることにした。

「クロニカ。この指輪は何のために僕に?今言った理由はウソではなさそうだけど、何かまだ隠してるでしょ?」

「何故さっきから私の考えている事が筒抜けなのです!?でもそんなところも素敵ですね...。そうですね。あなた方が精霊と人間界をつなぐ架け橋になればと思ったからなのです。初代の精霊王たちは文明の発展と共に一度命を断たれましたがその魂の具現として竜に姿を変えたのです。故に旧精霊王たちの力を変換したのがこの世界での竜という事になるわけです。」

そういう事か。という事は僕の竜属魔法は、精霊王の力の根源的なものであると解釈できるわけだ。

「そこで、精霊と人間の架橋になる竜属魔法の使い手として私が選んだのがジークさん。あなただったわけです!」

独立した魔法の中でも発現率が相当低いのが竜属。父も母も竜属の魔法を使えたが結構例はあるらしく、竜×竜では必ずしも竜になるとは限らないのだとか。しかし発現して純竜属の魔法を使えるようになれば、強大な力が手に入るという事だった。争いさえなければこんな過激な攻撃魔法いらないと思っていたが、精霊とつながるためのルーツだったとは。

「分かった。それじゃその指輪は僕が使う事で真価を発揮できるって事だね?でも大丈夫なの?僕なんかで。他にも強い純正竜属魔法使いはたくさんいるでしょうし。」

「あなたでなければいけない理由は主に二つです。まず一つ。あなただけが持つ能力が多いからです。言ってみれば三位一体のその体や、精霊王や創星神との友好はなかなか素晴らしいものですよ!そしてもう一つは私があなたを...」

「あぁ!!それは分かったから!これ以上話をややこしくしないでくれ!」

そう言って僕はクロニカの話を中断する。ぷっくりと頬を膨らませ、僕を可愛く睨むクロニカだが、僕は一度命を狙われた身であるためクロニカの事がどうも信用出来なかった。

しかし今は何より僕が文明の架け橋になろうとしている状況。二人の運命を背負って、そこに重荷をまた増やすのかと思ったら僕の腹は一瞬で決まった。

「任せろ。僕が全て救う。その前にクリティカをどうかしなきゃね。」

「お前ならそう言うと思ってたぜジーク!」

「やはりジークは誰よりも強いですね。」

みんなもわかってくれている。僕は自分の弱さを受け入れる事で強くなることを選んだ。ただそれだけでこれだけ強くなれる。しかし、まだ足りないのだろう。きっと僕にはまだ"本当なら死んでいた"場面がたくさん起こるだろうしそれがもう当たり前なのだと感じている。

「受け入れてくれるのですね。ありがとうございます。改めてお礼を。」

クロニカは顔を赤く染め直し目には涙を浮かべていた。今にも泣き出しそうな顔を見つめて僕は優しくクロニカの頭を撫でた。そして手をクロニカの肩に置き力強くうなずいた。

華奢な体つきで、こんな体で僕やレジェと戦っていたなんて到底思えない。

「君の弟だろ?この間あいつは君のことを姉って呼んでたからね。哀れな弟を止めに行こう。お姉ちゃんなんだろ!」

そう言っては見たもののあいつはなんだかスキがなさそうで真正面からでは反撃をくらってしまいそうな気がする。

 僕はみんなで策を練るために一週間ほどの猶予を取るとともに、竜の操作やデッドゾーンの操作を練習することにした。しかし、三日経っても、どちらともうまくいかず少し自分の力に過信があったようにも思えた。そんなある四日目のこと。

「やぁやぁジーク君。うちの姉を見なかったかい?最近どこかへ行っては帰ってくるのが遅くてね?でもまぁ曲がりなりにも僕の姉だからね。きっと法に触れるようなことはしてないと思うけど。僕たちは裁く側なんだから。」

その一件以来、クロニカはめっきり家に来なくなった。きっとクリティカの監視の目が鋭く黒くなってしまったのだろう。それなら、なおさら早く決着をつけなければならない。

 さあ、権力に勝るものを見せてやるクリティカ。首を洗って待っていろ。そう心で思っていると何となく、自分が悪に染まっているのではないかと言う感覚を捨てきれずにはいられなかった。

 本当の僕はきっと何か理由を探していて...本当の僕って何だ。僕は一体...僕は悩んでも抜け出せない沼に落ちていく。きっとこの答えはレジェもジェミニも知らない。それでも二人は僕の存在理由を示してくれた。僕の正義を支えてくれるレジェとジェミニのためにも僕は僕が決めたことをしなければならないと心に刻み、誓った。


後書き

日めくりカレンダーが二日に一めくりになってる矢口です!うげぇ...六話でしたがいかがだったでしょう。

戦闘シーンと少々のラブコメ要素と蜘蛛の巣のような脆い伏線に彩られたちょっと詰め込みな一話だったのではないでしょうか?でも多忙な日が続いたり、書き直しなんかも起こって相当な時間を費やしてやっとの投稿です!でもやっと解放されたまでありますね。でも正直、学生の学業資本にまんまと丸め込まれました。31日までにもう一話書きたいけど無理そうかな...。がんばってみます!これからも応援よろしくお願いします!七話でまだお会いしたく存じます!ウナムでした!

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