5.雑多の咆哮

前書き

最近家の近くにできたラーメン屋でちぢれ麺にどハマりした挙句、袋麺で我慢する金欠学生執筆者の矢口です!そういえば最近餅にもハマっていましてですね...ってそろそろ食べ物の話はいいか。

第五話です!結構楽しんで執筆してきましたが、まだまだ行けそうな気がします!楽しめる作品になっているのかな...?最近少しずつ評価をくれる方が増えてきてウナム氏感無量です。コメントもらっただけで嬉しくなってしまいますね...!それと、Twitterで僕に絡んでくれる方も多くなってきた印象があります。本当にいつもいつもありがとうございます。そんなウナム氏は今日も物語を紡ぎます!お楽しみください!ウナムでした!


 乾いた寒さに目を覚ました僕は布団に深く潜る。体を温めるために。しかし、体が温まってくると、また眠くなってしまう。もう一回だけ寝よう...

「ジーク。二度寝しないで下さい。ジェミニですら起きてますよ。」

そうは言っても、ジェミニは炎と氷の使い手として生きているのだから、そりゃこの寒さに耐えられるだろうさ。

「寒い...寒い...」

呻き声に近い震えた声をあげながらベッドを出ると、玄関からトントンという可愛らしい音が聞こえた。きっと彼女だろう。

「はーい」

僕は不在ではないことを示した後、急いで着替え、玄関に急いだ。この寒さのせいで握るのすら勇気のいる金属製のドアノブに手をかけ、ドアを開けるとそこには、赤いマフラーを首に巻いたピスケスが立っていた。その頬はマフラーに劣らないほど赤く染まっていた。

「ピスケス!どうしたの?」

最近仲良くしてくれている、創星神の魚座「ピスケス」だ。それにしても用件より気になったのは、無機物であるはずの創星神が体を火照らせて、呼吸もしているということ。この子だけが創星神の中で唯一感じているものなのだろう。そんなことを考えているとピスケスは優しさに顔を緩ませたような笑顔で、

「お茶、しませんか?」

と、少し恥ずかしげに聞いてきた。最近は三日に一回のペースでお茶しているけれど、ピスケスが誘いに来てくれる時はいつも少し恥ずかしそうな表情をしている。僕は快くその誘いを受けた。

 ピスケスの家までは家二つの隔りがあるが、その短時間を歩く途中僕の体の中の二人はなんだか微笑ましそうに僕を思ってくれていた。何故だろうか。

 ピスケスの家に着くと、部屋はすでに暖炉の火が回っていて暖かかった。僕はいつも通りピスケスの向かいに座り少し話をしていた。

「そういえばジークさんと中のお二人さんってどちらの方がお強いんです?」

「あぁ。それは...この二人だよ。特に、レジェには何度やっても勝てない。」

興味のあることに関しては結構ストレートな子で、僕も嘘偽りなくそれに答える。それがいつもの、この子とのお茶。その後も話は弾んだ。

「へぇ〜。という事はジークさんの手詰まりの解消としてのお二人さんなんですね。なんだかジークさん、トロイアの木馬みたいですね!」

トロイアの木馬。聞いたことがある。ギリシャ神話に登場するギリシア勢を窮地から救った木馬ということ。

「それはつまり...僕が木馬だということ...?」

「ジークさんは木馬なんかより素敵です!それに、お二人さんがジークさんの体の中にいるというのは、お二人さんを救う存在になれるチャンスなんですからね!」

なんて良いことを言うのだろう。やはりピスケスは優しさに溢れているな。と思っていると、

「へぇ...ピスケスちゃん...だっけ?良いこと言うじゃない!」

トロイだ。毎度毎度何の用なのだろうか。

「まぁ!私の名前知っているんですか!?...でも、どちら様でしょう...思い出せないです...」

「当たり前さ。初対面だからね!初めまして。俺はトロイ!これからよろしく!」

「はい。よろしくお願いします!」

いきなり現れたトロイに動じることなくピスケスはトロイを受け入れた。普通だったら得体の知れない者がいきなり家に入ってきたら驚くだろう。するとジェミニが僕に何か言いたげにしていたため、僕はジェミニに耳を傾けた。

「おいジーク。こいつとはご無沙汰だがよ、あの昔話ってやつ聞かなくて良いのか?またこいつに消えられたら次はいつ会うかわかんねぇぞ。」

そういえばそうだったと、僕は完全に忘れていたものを思い出す。レジェも心なしかその昔話とやらに興味があるらしく、うきうきした気持ちが伝わってきた。

「ねぇトロイ。ちょっといい?」

「久しぶりだねぇ!どうしたんだいジークくん。」

「前に言ってた"昔話"っていうのを聞きたくて。話してもらえない?」

僕がそう言うと、トロイは少し口角を上げてニヤついた。

「いいよ。せっかくだからピスケスちゃんも聞いておくといいよ。」

僕達はトロイに耳を傾けた。

「ここはもう何千何万という歴史を誇る文明の発展都市。滅んだ文明も数知れないが、生まれた文明も幾千幾万とある。そんな文明の大都市リビゼーにはね、最古の起源のようなものがあるんだ。俺はその時代からこの街を見続けてきた。だからウソのないノンフィクションの昔話だよ。」

「おいちょっとまてトロイ。それだとお前、この星が生まれる前から...」

「存在してたよ。その頃の俺はまだチリにも等しい存在だったけどね。」

ジェミニのおかげで少しトロイの今までの言動の数々が納得いくものに変わった。つまり、こいつは創星神や精霊より遥か昔からこの街に居たっていうのか。驚きだ。

「話を戻すと、その起源は一本の木"イヴユグドラシル"から始まったんだ。この木を植えた子たちもこの世に存在してる。こんな辺鄙な世界によく飽きず何億年もいられるね...と思うよ。俺もだけど。それでね、そのイヴユグドラシルにはね絶対的な力があるのさ。植えた場所を中心に街が栄えるっていうね。」

「それがこの街。リビゼーってわけですね!」

ピスケスは自慢げに声をあげた。

「ご名答。そして、イヴユグドラシルは月の光によってどこまでも進化していくんだ。この街には二つ月が見えるだろう?あれの動かない方の月光でね。」

「あの動かぬ月は何のためにあるのですか?」

レジェは最後の最後まで細かく冷静に話を分析していた。僕も長年の疑問だった。レジェ達が大戦を起こした頃からあったんだね。その月がないと育たないということは、イヴユグドラシルのための月ということかな。

「あの月はある精霊王が作ったんだけどね。今は堕ちた身として月下城で暮らしているよ。それで、あの月はイヴユグドラシルのために僕が作ったのさ。イヴユグドラシルは普通に植えても何百年と育つ気配がなかったからね。その光で育つように設定した月を作ったってわけだね。」

しかし、この街にそんな木はない。でも、トロイがウソを言っているようにも見えない。

「その木って本当にあるの?」

僕は思わず聞いてしまった。

「残念ながら時代の流れによって一度封印されたよ。でも、力が強大だからさ、また植えれば生えると思うよ?探してみたら?どこにあるかなんて知らないけど。」

そういうとトロイは何かを察知したかのように少し体を機敏に反応させた。

「ごめんね〜ちょっと用事があるんだ〜!じゃあジーク君、ピスケスちゃんまたね!」

そういうと、温度のない炎を纏って消えてしまった。あぁ、またトロイの謎が増えた...。それに加えて消える姿を見ていたピスケスは目を輝かせていた。

「あぁいうのが神っていうんですね!出逢えて光栄に思います!」

君も創星神だから神だろう。と思ったけれど、たしかに神の中でも上位に入りそうなほどの存在感を放つのが奴だ。

「俺たちも神だろうが。ピスケスよぉ...」

ジェミニはストレートに僕の思っていることを伝えた。

「私たちとはなんていうか...ベクトルが違うでしょ!こう...神秘的な!」

「神って言ってんだからおんなじだろうがよ!」

「ほらジェミニ。あんまり騒がないでください。楽しくお話ししましょう。」

レジェがとても冷静になだめた。最近ジェミニはレジェの言うことを聞くようになった。本当に魔王だったのかこの神。

「それにしてもピスケスってすこしずれてるよね。」

「そんなことないです!少し関心が強いだけです!」

それをズレていると言うのでは...

なんて思いながらも、少し天然なのがピスケスだ。たしかに何にでも関心を持ってくれるから、話してて楽しいのは事実である。

「それにしてもあの月にはそんな存在理由があったんですね!トワイライトムーン...」

「トワイライトムーン!?」

僕は今日初めて聞くワードに少し驚いた。

「あ!トワイライトムーンっていうのはですね、オリオンさんが管理してた出所不明の不動の月です。」

「そうなんだ。って....オリオンってまさかあの?創星神のリーダー格!?」

「正義を重んじる素敵な方ですよ。とは言っても、その時代の文学を数え切れないほど読んでその時代にあった正義を執行しているので、たまにズレていたりしますけれど...」

そうなのか。やはり創星神も危険な奴らばっかりじゃないんだな。あと、ズレてるのは君もじゃないかなピスケス。

 そんな会話をしていると、レジェが口を開いた。

「そういうことでしたら、その月の謎を解くためにその木の苗、または植えた者たちを探してみればいいのでは無いですか?」

まさに鶴の一声。レジェらしい言葉だ。迷いがなく、正解に近い行動を取ろうとしている。

「じゃあ明日は探検ですね!私もついていっていいですか!?楽しそうです!いつも木陰で本を読んでいるだけじゃ退屈だったんですよ!」

ピスケスは嬉しそうに言った。もちろん歓迎だが、僕たちについてくると、とんでもないことが起こる可能性もあったので一応確認したが、ピスケスはこれでも神ですから。と、言って聞かなかった。やっぱり自分のことは神だと思ってるんだね。まぁ神なんだけど。

 そんなこんなでお茶は続いたが、窓を見るとすっかり暗くなっていた。昼くらいまで寒さで寝てしまったせいか、一日がとても短く感じた。きっと、ピスケスとの会話が楽しかったっていうのも相まって、一層強く感じたのだと思う。

 僕はピスケスの家を出て家まで歩いた。その間ピスケスはずっと僕たちに手を振ってくれていた。僕は手を振りながら帰った。

 家に帰るとザードが僕の体を乗っ取ってトワイライトムーンについて少し教えてくれた。

「ピスケス。あやつめ、自分の生まれたところをトロイが作ったと聞いて驚かんとは凄い奴だな。」

「うん。実質創星神は俺が作ったみたいなところあるからねー。」

ナチュラルにトロイが会話に割り込んできて少し困惑してしまった。

「なんでいるんだトロイ!?」

「だって、ザードちゃんに呼ばれたしなぁ。来ないわけにはいかないでしょ。それにしても最近呼ばれなったのに今日はやけに呼ぶじゃんか。何かあった?」

トロイの質問をよそに、レジェが口を開いた。

「あなたってもしかして、名前を呼ばれると召喚されるのですか...?」

たしかに今までトロイという単語を出す度に出てきていたような...

「ビンゴ!レジェちゃんさすがに鋭いね!でも、俺も面白そうな奴のところにしかいかないんだけどね。街中でそこらの民間人が呼んでも来ないよ。俺は。」

そういうことか、確かに僕が持っている剣は普通じゃないし、僕の三重人格は普通じゃない。トロイにとってはとても面白いことなのだろう。

「でも、なぜ時代の傍観者なんていう名前で呼ばれているの?」

前にリリスがお風呂でトロイを呼んだ時に使っていたあだ名的なものだ。どういう意味なのだろうか。

「あー。それはねぇ...そのまんまの意味だね!僕は基本ヒントとかは出すんだけど、直接的な戦闘とかはしないからねぇ。最も、戦いたいなら話は別だけどね。」

確かに今まで何回かトロイを呼んだけれど、一回も戦ったところを見た事はない。本当に見るだけなんだな。と思いながらトロイの最後の言葉に耳を疑った。

"戦いたいなら話は別"

ということは、望めば戦うことができる。しかし皆、それをしないのは、トロイの力量が計り知れない者だからだろう。

「じゃあこの街がぶっ壊れちまったらどうすんだよ?お前が大切に育てようとしてるイヴユグドラシルの賜物だろうよ。」

確かに見ているだけでは戦争は止まらない。過去に大戦があったというのに、なぜトロイは自分の大切にしている街を守ろうとはしなかったのだろうか。

「うん。破壊することで新しい文明が生まれるからね。幸いな事に、イヴユグドラシルの育った土地は滅びることがなくてね。悠久の時を経て、必ずまた文明を築くのさ。だから俺は何も止めないよ?」

トロイが言っている意味は理解したくなかったが、トロイの言っている言は筋が通っている。

「ちょいと喋りすぎちゃったかな?じゃあまたね!俺は今日ちょっと忙しくてゆっくりしてる暇がないんだぁごめんね!」

そういうといつものように炎に包まれて消えてしまった。火の粉が僕の皮膚に飛んできたが、全く温度を感じなかった。いつも纏っているあの炎には何の意味があるのだろうか。

       *

 僕は翌日、信じられないほど早く起き、丘に登って剣の鍛錬をして、早めに丘を下り、ピスケスがいつもいる木陰で彼女のことを待っていた。しばらくすると手を振りながら、走ってくるピスケスの姿が見える。手を振り返すと、まるで無邪気な子供のような笑顔を見せた。

「おはようございます!って!その顔のキズ...大丈夫ですか!?昨日はなかったですよね!?」

オロオロと挙動が細かくなったピスケスをなだめるために、いつもレジェと実戦訓練をしているということを話すと、ピスケスはレジェに少し怯えたような表情を見せた。なだめるつもりが、逆効果だったみたい。

 ピスケスは僕より前を歩き、町の中心に向かっていた。街の中心は三角噴水という、とても水の綺麗な広場があるが、人はほとんどいない。なぜなら、この中心部には娯楽施設が全くないため、観光のために集まった人達以外はあまり見ない。

「久しぶり。ジーク。何してる。」

この独特な片言。オクトパスだ。

振り向くといきなり大声が飛んできた。

「お前!この前はよくもやってくれたな!本当に許さないからな!」

桃色の髪をなびかせて怒りをあらわにしていたのはマウスだった。

「あ?お前が俺たちに盗み働くのが悪いんだろうよ。次は全身冷凍か?火達磨か?かわい子ちゃんよぉ!」

ジェミニはだいぶ煽り口調でマウスを煽る。すると、オクトパスは衝撃の事実を口にする。

「マウス。かわい子ちゃんじゃない。男。」

「え...えぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」

本当に驚いた。こんなに女の子のようなスタイルで、男だなんて信じられない。そう思っていると、

「なんだよ!悪いかよ!男で悪かったな!」

と、マウスは威嚇するかのように僕を睨んだ。しかし可愛い顔立ちから睨まれても全く怖くない。

「ちなみに僕たちが何してるか聞きたいんだよね?オクトパス?」

「うん。知りたい。」

「なんだよ!無視すんな!おい!おーい!」

マウスが叫んでいる中、オクトパスに事情を説明した。

「ほうほう。じゃあ同じ目的でここにきたんだね。悪いけど、依頼的に君たちには消えてもらうしかないようだね。」

そういうとオクトパスは不本意そうに姿勢を曲げた。すると、複数布を巻き付けたようなオクトパスの独特な服が触手のようにうねりだした。

「依頼主から同じ目的を持つものは始末しろって言われててね。悪く思わないでよ。」

そういうと、オクトパスの触手のような服が僕の足に掴みかかってきた。とっさに避けたが、本気の殺気を感じる。もう話し合いの余地はなさそうだ。僕は覚悟を決め、剣を抜こうと後ろに手をかけた。しかしそこに剣はなかった。

「僕のこの服の名前は"静寂の鞭(サイレントハンター)"って言ってね、名前の通り、音もなく攻撃できる鞭なのさ。」

 そういうことか。しかし、その剣は使命を背負った人間のみが許されているためオクトパスはあの剣を使えない。

「マウス。これ持ってて。」

そう言って僕の剣をマウスに引き渡すと、僕に向かって無数の攻撃を仕掛けてくるオクトパス。僕はなんとか避けてはいるが、いつか避けられなくなりそうだ。するとジェミニが僕の体を乗っ取った。

「おうおう!随分と好き勝手やってくれんじゃねぇか!幸い人がいないからな。存分に暴れさせてもらう!」

ジェミニは持ち前の俊足でオクトパスの鞭をかわし、相手の懐まで潜った。しかし、オクトパスはそれを呼んでいたかのように目の前に鞭が突き出される。ジェミニは体を捻って大事には至らなかったが、僕がレジェとの訓練中に付けたキズを掘り返されたため、だいぶ深くキズを負ってしまった。

「うぐぁ...い、いてぇ...」

顔から熱く赤い血液が垂れる感覚は少し気持ちが悪かった。

「避けたら。楽にしてやれない。じっとしてて。死んで。」

そういうわけにはいかない。僕はもう、死に直面するのは御免だ。あんな感覚は今後一切味わいたくない。

「ふざけんな。お前許さねぇからな!」

そういうとジェミニは右手を後ろにして炎弾を作った。

「後ろの手。何企んでるか知らない。けど関係ない。」

そういうとオクトパスはいっせいに鞭をこちらに向けて突き出してくる。

「|氷槍(ブリザード)!!」

無数の氷柱が鞭を止め、相手を後退りさせた。そこに漬け込むようにジェミニは後ろで隠していた炎弾を投げた。しかし、その弾は外れた氷柱の残骸に当たるような角度で放たれた。

「どこ狙ってる。残念。君たち。死ぬ。」

オクトパスがそういうとジェミニは煽り返した。

「少しは頭鍛えろタコが。」

その瞬間、炎弾は大きく音を立てて爆発を起こした。

「なッ!?」

マウスがオクトパスを抱えて遠くに移動したため、爆発によるダメージは微々たるものだっただろうが、不意打ち的に爆発が起こったため、逃げ腰の体制になっていた。

「そういえば。そろそろ集合。行こうマウス。」

逃げる理由を作るかのようにオクトパスは都合よく用事を思い出し、音もなく消えていった。

「あ!おい待て!クソが!」

ジェミニは悔しそうに足を踏みしめた。それはそうと、なぜ爆発を起こしたのだろうか。と考えていると、レジェがジェミニを褒めた。

「熱膨張とは考えましたね。ジェミニ。それとジーク。冷えた場所がいきなり温度の上昇を受けると、空気が膨らんで、今みたいに爆発を起こすのです。」

そういうことなのか。今は冬だから、さらに氷で温度を下げて、右手を隠してゆっくり温度を上げていた炎の塊を熱膨張に利用した訳だ。

ジェミニはなんだかんだで知略に優れている。いつもは頭が悪そうな話し方してるのに。

「おい。頭悪そうって筒抜けだぞジーク。」

物理的に一心同体だと、こういう心にしまってこくことも選別しなければいけないのがまた面倒だ。

「それにしても依頼主っては誰のことだったんだろうね。二人は心当たりある?」

僕は全くの検討がないわけではないが、二人に少し意見を求めた。

二人とも一致したのは"トロイかゼウス"という事。しかし前者に限っては限りなく可能性が低い。なぜなら、人に頼まなくても奴なら直接対決で僕たちに打ち勝てる力があるはずだから。そう考えれば後者の方が可能性は高い。しかし、この二択だけでなく、違う勢力が動きだしているかも知れない。そう考えると一概にゼウス家を疑うのはお門違いな気がしてならなかった。

 そういえば...オクトパスと出会ってからピスケスがいない。まさか!

そう思い、夢中で探し回ったが、どこにもいない。返事すらない。

「哀れなものだな。ジークとやら。お探しの娘はこれだろ。」

いきなり前をに出てきた女性に機能停止したピスケスを突きつけられた。その女の正体は、クロニカだった。

「クロニカ!その女の子を返せ!」

「返してやるさ。こんな人形如き。ただし、これ以上私たちゼウス家の邪魔は許さない。」

そういうといきなりこちらにピスケスを投げて寄越してきた。

僕はなるべくショックの少ないように受け止め、抱えた。

するといきなり、光の剣のようなものがクロニカの足を貫いた。

「あぁもー!せっかくいいところだったのにー!」

そう言いながら噴水の影から姿を現したのは、クリティカだった。

「クリティカ...」

息絶え絶えにクリティカの名前を呼ぶとクロニカは、体を支えきれず跪く。

「うちの姉がゴメンね!これ!迷惑料として納めておいてよ!君たちの正義。これからも見せてもらうよ。ハハハハッ!」

笑いながらそういうとクリティカは、クロニカのみぞおちを数回蹴り、気絶したクロニカを引きずりながら路地に消えてしまった。

とてもえげつないものをみた。それどころではない。ピスケスは大丈夫なのだろうか。

一旦家へ戻り、ピスケスを安静にすることに決めた僕たちは、ピスケスを抱え、家まで走った。

 家に着くと、大急ぎで客間のベッドに寝かせた。体の損傷部がないか確認するためにレジェを竜魔法で解放した。いくら緊急だとはいえ、いくら無機物だからとはいえ、女性の裸体を見るわけにはいかない。

 しばらく部屋の外でジェミニと話していた。

「あのクリティカという人、このままだときっと相当な犠牲者がでるきがする。」

「あぁ気をつけないとな。ピスケス...無事でよかった...」

「え!?もう無事だって分かるのか?」

僕はジェミニに問いかけた。

「当たり前だろ。魚座のパーツが俺の中で稼働してるからな。それにリンクしている奴が死なない限りは半永久的に稼働する。」

「それを聞いて安心した。でも、それなら抱えて戻ってくる時とかに話してくれればよかったのに!」

「まぁな...」

何か含みがあるようにジェミニは言った。しかしその含みが何故だか幸せそうに見えた。レジェもなんだかその言葉に共感を示していた。ドア越しの共感が体を通じてやってきている。最近二人、僕に内緒で僕のことを考えている。どういうことなのだろうか。少し気になるが、深く聞かないでおこう。二人は頭が切れるし、正直、僕では理解し難い内容かも知れないからね。

 少し僕が自己満足に浸っていると、レジェが部屋から出てきた。

「大丈夫ですよ。全く外部からの損傷はありません。」

そう聞いて安心した。するとレジェの後ろからピスケスが覗いた。

「私、足引っ張っちゃいましたね...ごめんなさい...」

そういうと部屋に閉じこもってしまった。そんなことはない。ピスケスから目を離したのは僕の責任だし、何より、ピスケスは僕たちのためにイヴユグドラシルの情報収集を手伝ってくれていたのだから、何も間違ったことはしていない。やっぱりこの街では普通の正義が通用しないのだろうか。そう考えていると、

「そんなことをありませんよね。ジークさん。」

口調の違う声が背後から聞こえた。その声の主を確かめるために後ろを振り向くとそこには、マリンが立っていた。

「マリン!?大丈夫になったの?リリスから聞いたよ?色々と。いつも助けてもらってるのに、助けに行けなくてごめんね。」

「いえ。そんなことはありません。お騒がせいたしました。」

「それにしてもなかなかひどくやられたようですね。その顔の傷。早く治療しましょう。」

僕はマリンに治療されている間にマリンに話を持ちかけた。

「ピスケスの事を分かってくれるの?」

「私はあまり創星神をよく思っていないですが、今回は彼女が正しいと思うのです。彼女がいなければあなた方はただの昔話として、彼の言葉を聞き流していたでしょう。」

彼というのはきっとトロイの事だ。

呼び出さないように発言にも気を配っている。それにマリンの言う通りだと僕も思う。ピスケスがいなければ有り得ない発見だったかも知れない。

 僕は治療を終えたが、左頬には後遺症のような色の違う皮膚が残っていた。オクトパス。恐るべき相手だったが、ジェミニのおかげで助かった。今回はいろんな人たちに助けてもらってばっかりだ。しかし、まだ終わっていない。きっと依頼主というのはゼウス家の事だ。クロニカはきっと僕のことをまた殺しにくるだろう。しかもマウスに剣を取られたままだ。質に入れられる前になんとかしないと...

 そう考えていると、そんな僕の思考を読んだのか、リリスがやってきて、剣を持ってきてくれた。タイムリーすぎる。さっきからだいぶ奇跡的なタイミングが重なっていて何がなんだかわからなくなる。

「うわマリン!お前復活してたのかよ!まぁいいや。これ、お前のだろ。ジークのガキ。」

いつも通りの憎まれ口を叩きながらリリスは剣を返してくれた。

「いやぁ、昨日いつもの湖で飯食ってたらよ、目の前にいきなり落ちてきたもんだからビビったぜ。ジークが剣を捨てるはずないと思ってな。届けにきたってわけよ。」

するとマリンは皮肉のようにリリスを諭した。

「あら。いつも荒れてらっしゃるあなたでも、そういう所は成ってるのね。感心したわ。」

「だろ!ヘヘッ!だからマリンのクソガキ。お前はもう少し俺を敬え。」

この水の精霊王チョロいな。なんて思いながらふと窓の方を見ると、ピスケスが覗いていた。

「ピスケス!おいで!みんなと話そう!」

僕が呼ぶと、彼女は輝くような笑顔でうなずいた。

その後しばらく会話が続いた。

「私は魚座の創星神ピスケスです。しかし、皆さんと戦う意思はありません。この街で平和に過ごして行きたいというのが私の願いなのです。」

そういうとピスケスは精霊王たちの反応をみた。

「そうでしたか。あなたは温厚派の創星神なのですね。」

「へぇ...あんたみたいな創星神はほかにもいるのか?」

精霊王たちは意外にも敵対する気がないように見える。

「はい。射手座のサジタリウスさんや獅子座のレオさんなんかは人間と戦う意思はありません。」

獅子と射手。いかにも戦えそうな名前をしているが、そんなことも無いのか。と思った。射手座の件は前々から聞いていたが、獅子座も温厚派なのか。

「それではそれ以外の方は...」

レジェが口を挟むとピスケスは、はっと体を少し驚いたように浮かせる。

「はい。戦闘に飢えている方は蠍座のスコーピオンさんと牡羊座のアリアスさんとかですかね。他の方は特に温厚でもなければ、冷徹でもありません。」

「僕はその戦闘に飢えている側の二人に当たったってわけか。」

そういうとピスケスは頭を下げて自分の仲間の不始末だと謝ってくれた。

その後少し会話をすると、精霊王たちはやることがあるとどこかへ消えてしまった。

 僕たちがもう一度家から出るとそこには顔に痛々しい打撲の跡が残るクロニカが立っていた。

「貴様らを処す。」

そういうとクロニカはいきなり、剣を振るってきた。不意打ち故に避けきれない。くらうことを覚悟で避けるように動くと、その剣は思わぬ方向へ弾き飛んだ。

「これ以上私の友達に手を出すなら容赦はしませんから。神器・装甲(クロック・アーマー)!!」

ピスケスの神器解除宣言によって、ピスケスは原型を失い、一つの凶器のような見た目に変貌した。

「ゼウスの名に泥を塗ったことを後悔しろ!ワンフォーオール!」

僕を捉えることを失敗した剣は封剣として散らばり、ピスケスを囲んだ。しかし、ピスケスに付属している機関銃が封剣を全て撃ち落とし、クロニカの方に向いた。

「砲撃開始。3...2...」

僕はクロニカを庇った。

「やめろ!ピスケス!」

「何故その人を庇うのですか!?あなたの命を狙うような人を何故!?嫌です!やめません!」

僕はピスケスを見つめ、そこを動かなかった。1のカウントから砲撃がなくなった。

「神器解除」

ピスケスは原型を取り戻し、崩れ落ちた。

「あなたを撃つことは出来ません...きっと私はクロニカさんすら撃てなかったでしょう。臆病ですから。」

泣きたくても泣けないピスケスを僕は抱きしめた。そしてゆっくりピスケスから離れ、クロニカに近寄り、腰を抜かしたクロニカに手を貸した。クロニカはヤケに素直に僕の手を取り、起き上がった。そして言った。

「助けてもらって感謝する。では、死ね。」

その言葉と共に僕は、クロニカの剣に貫かれた。ジェミニとレジェは驚いて言葉も出なかったようだった。

「キャアァァァァァァァァ!!!」

ピスケスの悲鳴と耳鳴りの中、僕は意識を失いかける。血はこんなにも温かいのに、僕はとても寒い。あぁまた死が訪れる...

       *

 見覚えのある地獄。ここは地獄以外の何者でも無い。この世のものとは思えない不快感。孤独感。そして嫌悪感だけが残る。死の直前。ただそんな感覚に落ちていくだけ。きっと前のように助かったりはしないだろう。あぁ。涙すら許されない。きっとピスケスもこんな気持ちなんだろう。泣けないっていうのはこんなにも辛いことなのか。そして深紅の空間に落ちていく僕を僕だけが認識している。

「君に死んでもらうには、早すぎるなぁ。僕みたくトロくトロく生きてもらわないと〜。なんてつまらない冗談言ってる暇ないか!さぁてと...リザレクション。」

       *

 僕は、到底冬とは思えない暖かさに包まれながら目を覚ました。

すると突然、生暖かい何かが僕の顔に滴った。目を大きく開くとそこには大粒の涙を浮かべるピスケスがいた。

「ジークさん...死んじゃったかと思いました...心配かけないで下さい...」

そういうとピスケスはぶわっと泣き出した。涙を流せない存在が涙を流していることへの驚きはさておき、僕は致命傷をくらったはずじゃなかったのか。

「ジーク君に俺の火の粉をつけておいて正解だったね。君のことだからまた命を狙われるんじゃないかってね。心配だったんだぁ。リザレクションはしばらく使えないからもう死なないでね?」

トロイはそういうと消えてしまった。きっと奴が助けてくれたのだろう。リザレクションという事は一度は途絶えた命ということか。

「ごめん...ごめん...ごめんね...ピスケス...」

僕は声が震え、涙を流した。もう、涙は流さないって誓ったじゃないか。でも、僕は泣いた。あの時のように。

       

...一方ある城では...

「...あれ?この魂、なんか変ね。もしかして一度死んで生き返ったのかしら?どちらにせよこの魂は取っておきましょう。」

「ごめんね〜!君の苦労は分かっているんだけどさ!ちょっとこの時代を動かしそうな青年が死んじゃったものでさ。リザレクション使っちゃったんだよね...」

「そうなんですか。まぁいいです。くたばってください。」

「さらっとひどいな!?まぁいいでしょ。とりあえずまた俺は傍観者に戻るよ。じゃね!」

「しばらく顔を見せないでください。不愉快です。」

       *

「ジークおい!危ないところだったぜ!?俺らは剣にまた戻るだけだけどよ!もう二度とあんな無茶すんじゃねぇぞ!」

「ジェミニの言う通りです。全く...ジーク。前にも言ったでしょう。自分がいなければ守れないと!」

「ごめん二人とも。でも、僕はクロニカの笑顔を守ったよ。クロニカ、僕が手を差し伸べた時少しだけ安堵したように笑ったんだ。僕を殺したいような嗜虐の笑みじゃなくて本当に。」

僕がそういうと二人は、僕らしさと認めてくれた。二人ともごめん。でも、すべての人の笑顔を守る存在にならなきゃいけないんだ。それが僕の使命。

「ピスケス。君の笑顔を守れなくて僕は悔しかったんだ。ごめん。だから次と言わずこれからは絶対に笑顔にしてみせる!」

ピスケスは涙を頬に伝わせながら微笑み頷いてくれた。僕が守りたいのは平和なこの生活。そして生活に溢れる何気ない笑顔。

 翌日僕は丘へ行き、剣の鍛錬をしていた。レジェは僕の動きがいつもの数倍は良いと言ってくれた。レジェはお世辞は言わない主義だからきっと本当に力がついてきたのだろう。

「レジェ!勝負をしよう!」

「いいでしょう。本気でいきます。本気で来てください。」

僕は体制を低く身構えた。レジェはいつも通り、剣を地に突き刺して両手を束の先端に置くような構えをとった。僕は低い体制から緩急をつけて剣を振る素振りをした。

レジェはその素振りに乗り、体を微妙に動かした。しかし、何回も戦っていくうちにレジェの動きを読むことができるようになった僕は、剣を横に構えてガードを整えた。レジェは案の定ガードしている方向に剣を振ってきた。剣同士がキィンという音を立てながら火花を散らす。そう。今回はこれが狙いだ。

「ブレス!ファイア!」

僕は口を大きく開けると炎を吐いた。レジェは大きく避けたが、避ける方向も確実に読んでいた僕は、相手が避ける方向に足を突き出した。

そう。右片方は剣でガード済み。真ん中では炎をくらう。ということはレジェが攻撃を仕掛けるのは僕がノーガードの左。レジェはそれを読んでか攻撃してこなかった。

「シューティングスター!」

レジェは魔法で僕の背後に光の速さで移動してくる。それも対策済みだ。

「テール!」

後ろの攻撃を一度守ってしまえばこちらのものである。尻尾に剣が当たる感覚を感じる。振り向きざまに剣を振り下ろすとそこにレジェの姿はなかった。するといきなり下からとんでもない打突攻撃をくらった。レジェの光魔法「シールド」をバッシュして使ってきたのだろう。

しかし振り下ろした剣がシールドを割り、シールドに反射してバウンドする。レジェも大きく後ろにノックバックした。その隙を見逃さなかった。僕はレジェが体制を立て直すより先に走り込んだが、剣は構えなかった。

「シャウトォ!!!グァァァァァ!!!」

力強い竜のような雄叫びをあげ、地面がゆれ、レジェはますます体制をぐらつかせた。

「今だ!クロー!」

右手を突き出して爪を突き出した。

「シューティングスター!」

僕の目の前から消えるのは想定済みだった。そこで、右手に握って置いた剣を背後に振った。するとレジェのこめかみ付近で剣は寸止めになっていた。しかし僕の眉間にも、レジェの剣が寸止めにされていた。初めて僕がレジェに負けなかった試合である。

レジェは息をつき、微笑むと、

「成長しましたねレジェ。まさか引き分けにされるとは。」

「お、お、おぉー!!ジークすげぇぞ!あのレジェ相手にここまで!」

ジェミニも褒め称えてくれた。僕はもっと強くなりたい。そう思っていると、

「良い試合でしたね。そろそろお茶にしませんか?」

と、マリンの声がした。この森はマリンの家のすぐ近くだ。たまにこうやって鍛錬の後にマリンの家にお邪魔したりしている。

 今日はまた一つ強くなった。明日もまた一つ強くなれるといいな。と心に留めつつ、マリンの家に歩みを進めた。


後書き

ピスケスちゃんが自作の推し!矢口です!いやぁ...五話でしたけど、なんかジーク君は結構頑張ってますね!前のお話から結構な月日経ってるけれどそこは後で、アナザーストーリー的な感じでまとめますので。一旦見て見ぬふりをしていただきたい...そういえばこの五話を書いている間にミラティブの方を始めたんですよね。宣伝アカウントとして。でも、宣伝だけでは人が集まらないと思って、ゲームとか歌を歌ったりだとか色々してます!良ければそっちも見てほしいところですね!

でも本命はこっち!学生クオリティながら、頑張って書いてるからよければ少しでもいい評価下さい!

 そしてですね、このホシケン実はネタを作りすぎてまだまだ続きそうなんです!良ければ末長くお付き合いください!よろしくお願いします!それではまた六話でお会いしましょう!ウナムでした!

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