4.腐敗する正義

前書き

 最近パソコンでAmazon prime Videoを利用し始めて、執筆しながらアニメ三昧、特撮三昧することに楽しみを見出しつつあります。どうも矢口です。四話ですね!ちょっとずつ面白い作品になっていると知人からも褒められるようになってきました。そういう一言はエネルギーになりますよね!モチベーションエンジン起動です!さてさて、三話ではレジェさんが相当強く描かれていたように自分でも思いますが、リリスもなかなか頑張っていたのでは無いでしょうか?それにしても...ジーク君の成長。著しいと思いませんか?心がぐんぐん成長してます。そしてジェミニ。独自の成長を遂げる彼にも結構注目してます。読者視点で自分の作品語ってましたが、執筆者として彼らの成長を創造して行きたいと思います!それではお楽しみください!ウナムでした!


 僕はレジェとの激闘から一週間、日雇いの仕事で生活費を稼いでいた。だいぶお金も溜まり、滞りなく仕事は進んだ。しかしレジェとジェミニは少し暇をしていたようだった。なので、レジェとジェミニは僕の中でトレーニングをしてもらっていた。レジェに勝つ日がまた遠くなりそうだ。そんなこんなで今僕は、布団に包まって久しぶりの休みを満喫している。休みに休んでいるって感覚。今までは休みでも、何かしらに巻き込まれていたし、こんな平和な日があってもいい。そう思っていたんだけど、世界はそう優しくなかった。家の玄関からがいきなり爆破音がした。

「ハァ!?」

変な声を出してしまった。しかし、何故そんな音がが起こったのか気になり、玄関まで駆け足で見に行くとそこには、いかにも機械といった感じの見た目のサソリが家へ侵入してきていた。

「ターゲット補足。排除開始。目標レイン・ジーク。発射!」

確実に僕を殺しにきているような、そんな殺意の一撃が僕を襲う。しかしレジェが咄嗟に光魔法のシールドを使ったことによって僕への被害は無かった。

「あ、ありがとうレジェ...」

「お礼を言われるのはまだ早いようです。来ますよ!」

そうレジェが言うとサソリは

「|神器・追跡(クロック・サイト)展開。冷却フルパワー。オートエイム射撃開始します。」

という言葉と共にあろうことかせまい室内で連射を開始した。

「ジェミニ!お願い!」

「任せろ!神器・爆速!」

無数の弾を避けることまでは叶うが、どうしても反撃の隙がない。

「レジェ攻撃頼んだぜ!」

ジェミニがレジェにバトンタッチする。レジェは天空からかかとを落としサソリに垂直に落ちていく。それすら読んでいたかのようにサソリは

「機関銃シフト。近距離射撃開始。」

という音声と共に射撃を始めた。レジェは空中で体を捻り弾を翻した。その後相手の腕を蹴り落とし、体制を立て直した。しかしサソリは近距離にも対策をしていたようで、トゲが足に刺さって足を動かすたび、激痛が走る。これ以上、足を使った戦闘は無理だと判断したのか、ジェミニは

「おいジーク!俺を外に出せ!俺のジェットで戦線離脱だ!」

しかし、あろうことか竜属魔法を使う魔力すら残っていなかった。

「どうやらこのサソリの毒の効果のようですね...」

足から大量の出血をしているため貧血で立ちくらみがしてくる。追い討ちをかけるようにサソリは

「対象生命反応低下。追撃。」

という死の宣告にも等しい音声と共に、無慈悲にも射撃が開始される。

僕は倒れ込んでしまった。

「こんなとこで...終わる...?のか?せっかく気持ちを固めたのに、気持ちだけじゃ何も変わらないのか...」

僕の意識は暗黒の渦のような場所に吸い込まれ、やがて深層意識にさえ干渉できないほど酩酊してしまった。

「仕方ない。あの方からこの子は殺すなと言われてるから...」

       *

 気がつくとそこは以前嗅いだことのある上品な香りと、こだわりあふれるアンティークで埋め尽くされた家の一部屋だった。

「マリンの家...?でもなんで...」

「あなたの家の方角に飛ばした使い魔が爆発に巻き込まれましてね。幸い精霊なので一つも怪我はありませんでしたが、あなたに何かあったのではとそちらに伺うと、あなたが倒れていたので、取り敢えず私の家へ匿ったというわけです。」

大体の事情は理解出来たが、あのサソリについてはわからないことだらけだ。しかし今は生きているだけでもよしとしよう。

「ジーク。目を覚ましましたか。すみません。私が無警戒で蹴りに転じたせいでこんなことに...」

「レジェのせいじゃないよ。相手が悪かった。でも助かった。ありがとう。ジェミニもね。」

「おう。でも悪かったな。もう少し俺も広さがあれば飛び回れたんだが、なんせ室内だからよ...何にせよ生きてて良かったぜ。」

みんなとりあえず生きていることに喜んだ。しかし誰が助けてくれたのだろうか。そんなことを考えているとマリンは少し険しい顔をしてこちらへ向かってきた。そしてその顔をゆるめ、

「少し痛むかもしれませんが治療しますので我慢してください。|創造・疾風(クリエイト・ウィンド)。」

少し痛むが、刺さったときほどじゃない。我慢していると、

「歩けるくらいには回復しましたが、しばらく激しい動きは控えて下さいね。」

という指示があった。なんだかあっという間に歩けるくらいにまで回復したのが驚きだ。流石は精霊王だな。なんて思っていると、いつぞやの白黒の珠が足元浮いているのが見えた。あれはやっぱり夢じゃなかったのか。と思っているといきなり珠は人間体になり、僕の足元に座った。

「痛い痛い!ぐあぁぁぁ!!」

僕はまだ治りかけの足に体重をかけて座られたことで相当の痛みを感じた。

「やぁ!元気してた?この前お邪魔したときはごめんね!君の体は僕と干渉するのが多大な負荷だったみたい!」

それよりも早くどいてほしい。この前お前のせいで食らった頭の痛みより、今圧をかけられてる足の方が何倍か痛いから。

「オーガさん。どいて下さい。その子今、足を怪我してるんですよ。」

マリンは蔑むような眼と口調でこの謎の人物を罵っていた。女性って怖い。

「ごめんね!足怪我してるって知らなくて!」

怪我してようがしてまいが、足には座らないと思う。そう思いながらとりあえずオーガさんとやらの素性を聞いてみた。

「僕はジークです。星龍剣の呪いで二人の人格を体に宿してます。あなたは?」

「僕はオリエントオーガ!四大精霊王をまとめる精霊神さ!まぁ名ばかりでみんな結構自由に過ごしてるから、まとめたことなんてないけど。えへへ...」

神にしてはアホっぽいけど、マリンが何もツッコミを入れないところを見ると本物の神らしい。そして僕はオーガに問われた事を思い出す。

「あなたは前に僕に存在理由を問いましたよね。その答え。見つけられた気がしたんです。」

僕は自信を持ってオーガに宣言する。するとオーガは少しキョトンとして、

「存在理由なんて問いたっけ?覚えてないぞ...マリンその時いた?」

「知りませんよ!あなた...また気分で物言いしたんですか?...全くこんなのが神でよく世界が回っているものです...。」

僕ら三人は唖然として必死に向き合ってきた課題について少し考えさせられる。しかし無駄なものなど一つもなく、オーガを責める気にもなれなかった。

 僕は家へと戻るとマリンとオーガに伝え、山を降りた。山を降りる最中、ジェミニの腰に取り付けられた魚座のパーツが鼓動するかのように動いていた。昨日まではそんな事なかったのに、どういう事なんだろうか。山を降りると、いきなり雲行きが怪しくなってくる。雨が多い町外れの道。しかし雨に当たったのは初めてだった。僕はなるべく濡れないように木陰まで駆けた。すると、とても清楚でおしとやかな女性が同じ木陰にいるのを見つける。

「雨降られちゃいましたね。」

いきなり声をかけられて肩が少し踊ったが、平静を装って返答した。

「そうですね。あなたも雨宿りですか?」

すると女性は華奢な体を横に振り、

「私は海育ちなので、山の景色は新鮮で良いな。なんて思ってて。いつも木陰で過ごしています。」

そう女性がいうと、ジェミニの鼓動が凄まじく速くなるのを感じた。どうしたのだろうか。ジェミニはこの鼓動を誤魔化すかのように体を左右に揺すった。すると女性は聞き間違えることのないほどはっきりとした滑舌で、

「ジェット・ジェミニ。インフェルノとブリザードですね。その剣。魔王を封印した星龍剣でしょう。」

と言い放った。僕たちのことを知っているようだ。

「まさか創星神!?」

「そのまさか。ダイブ・P・ピスケスです。」

耳を疑った。偶然会った人が創星神で、しかも体が存在するはずのない創星神がそこに実体を持っているってだけでもう、話の辻褄があわない。どういう事なのだろうか。

「ピスケスさん...それって一体...」

ピスケスは僕の聞きたいことを悟ったかのように言った。

「あ!私が実体のない創星神って事は多分ジェミニから聞いてますよね...?これは人形なんですよ〜!私は皆のパーツである傍、人間として生きるために依代となる人形を貰ったわけですね。」

なるほど。いや待てよ。それってみんなのパーツには君の意思が宿ってなくないか?今、この人形に意識があるということは...

「あぁ、ピスケスはみんなの神器のパーツとして稼働する。逆に全部のパーツが止まればこの人形も多分ガラクタだ。」

ジェミニには分かるようだが、僕には分からない。

「つまりこの魚座の創星神は、パーツ全てが体であり、すべての創星神が魚座ってことになるんです。ジーク。」

ピスケスは目を輝かせて

「そういうことです!この人形にも私のパーツの一部が内蔵されているのです!なので、あなたがアリアスさんと戦ったのを知っていますよ!」

パーツ同士がリンクしているのか。理解するのにだいぶ時間がかかってしまった。

「でも何故人間として生きようとしたの?」

僕はとても気になっていた事を包み隠さず聞いた。ピスケスは考える素振りすら見せず即答した。

「この街のみんなが大好きだからだよ!」

うん。話が飛躍するタイプだ。筋道が通っていても理由が通らない。つまり?

「つまり、争いを好まず慎ましやかに暮らしたいのですね。」

レジェは僕が納得する理由をあげてくれた。レジェって僕の思っている事を僕より速く脳内で変換してる節がある。僕の考えがレジェに追い抜かされているような感覚にたまに襲われる。

「そういうことですね。温厚派なのです。サジタリウスさんとかもそうなんですよ!」

その名前を聞いた瞬間二人の動揺が重なって感じられた。サジタリウス...射手...。よく分からないけどまた、昔のいざこざだろう。

 雨が止み、ピスケスは街へ帰っていった。僕たちも一旦家へ帰ろう。


-一方その頃精霊王は...

「オーガさん?何かあったのですか?」

「うん。僕はこれから堕ちた精霊の管理に行かなきゃなんだけど、何やら地中から機械音のようなものが聞こえるのさ。そっちの調査頼みたい。」

「かしこまりました。」

「あ!リリスも一緒...って、なんでそんな嫌そうな顔するのさ!大丈夫!リリスには許可とってるから!」

「私の許可は?」

「じゃあ頼んだよ!バイバーイ!」

「ま、待って下さい!...本当に勝手な人です。それにしても私の家のすぐ近くで...物騒ですね...」

       *

 私は風の精霊王。マリン。地中は私の不得と致すところなのですが...

オーガさんの頼みならまぁ仕方ありません。とりあえず、リリスを待つとしましょう。

「オラァ!来てやったぞクソガキ!オーガから地中調査頼まれたからよ!よりにもよってお前と一緒とはな。」

「こっちのセリフです。オーガさんは何を考えているのでしょう。」

それにしても、地中の調査なら大地の精霊王がいるでしょうに。

「いいから行くぞ!トロいんだよ!お前は!」

「あの...失言ですが、その言葉...」

「あぁ!?いいから行くぞ!」

リリスは相変わらずうるさいですね。

「残念だけど、僕の相手をしてもらおうか。」

「あぁ!出たよ自称神!何の用だ!」

「自称じゃなくて神なんだよ!あと、君が呼んだのだけれど!?」

はぁ...やはり...面倒な事になったわ...

「すみません。何も用件はないのです。以後気をつけますので...」

「あぁ!そうなの!じゃあ仕方ないね〜!他ならぬマリンの頼みだからねぇ!それじゃ、リリスも気をつけてね。バーイ。」

本当に何者なのかしら。あの強大な威圧感。ただものじゃない。トロイは消える直前、リリスの足元を指差した。何かあるのでしょうか。

 それから静けさにしばらくひたっていた。その時。

「ギシャァァァァ!!!」

鉄のツンとくる匂いが地中から突き出て来た。その後地中から尻尾が這い出てくる。

「オーガが言ってた地中からの機械音ってのはこいつで間違いねぇみてぇだな。リベリナー・スネーク...久しぶりに見たぜ...」

「そのようです。リベリナー・スネーク。最近被害者が増加していると聞きましたが...」

「「|創造(クリエイト)!!」」

甚だ癪ですが、リリスと声がシンクロした事よりもこの蛇が人を殺めて回っていることの方が腹立たしい。

 蛇は尻尾を振り回してこちらを牽制してくる。二人同時にそれを避け、武器を生成する。私は傘を風でよく作っているため、一番幻出させるのに時間がかからない。風で傘を作ると、隣でリリスは水のメリケンを作っていた。

「相変わらず野蛮ですこと。」

「お前こそ傘で戦うとかありえんぞ?」

軽く罵り合い、蛇を見る。蛇は歯の噴射口からどどめ色の液体を噴出しようとこちらを狙ってきていた。

そして私に向かって一直線に噴射してきた。

「おっ、ラッキー!」

そういうとリリスは相手の懐に潜り込まんと走り込んだ。私は傘を開き、毒らしき液体を弾き飛ばす。

蛇は私に攻撃を当てることしか考えておらずリリスの猛攻を受けた。

「|水連拳(アクアコンボ)!」

蛇はたまらず舌を突き出し、リリスを攻撃しようとした。あの至近距離では到底避けられない。

「へへっ!その毒液もらった!」

そういうとリリスは毒液を依代にして相手の舌を避けた。毒液を依代にしたリリスは全体的に若干黒く見えた。私は一旦傘を閉じ、蛇の動向を見守るように身構えた。

「ギシャァ...キシャァ...どいつもこいつも俺を馬鹿にして邪険にする!ふざけるな...ふざけるなぁ!」

蛇は怒り狂ったように突進してきた。私は相手の一番の脅威である舌を封じる妙案を思いつく。

「リリス。あの攻撃避けてください。私が引き受けます。」

「んぁ?仕方ねぇな...今だけは言うこと聞いてやるよ。そらっ!」

そういうとリリスは体を捻り蛇の大きく開いた口が私に覆いかぶさった。私は傘を口に差し込み口の中で傘を開いた。

「ご安心を。風で造った傘ですから。」

相手の口は開きっぱなしになる。傘がつっかえて舌と歯での攻撃は不可能。ともなれば攻撃手段は尻尾のみ。

「リリス!」

「言われなくてもわかってんだよ!クソがぁぁぁ!!いくぜ!|轟滝(ライオットフォール)!!」

「行きます。|美疾風(カレイドサイクロン)!」

叩きつけられた水しぶきたちが、風に乗ってたちまち竜巻に変わる。

蛇は地面に叩きつけられ、機械とは思えないほどバウンドする。

「トドメだ食らえ!自分の毒をなぁ!|毒正拳(ポイゾニックナックル)!!」

無抵抗の相手に相当の威力の正拳突き。本当に野蛮ね。

 しかし蛇はまだ起き上がり言葉を発した。

「マリン...お前の体にはなぁ...俺の毒が回ってんだぜぇ...?そろそろ回る頃かもなぁ!お前のファントムローズに毒を仕込んでおいて正解だったぜ!キシャシャシャシャ!」

そう言うと蛇は土に穴を掘って逃げてしまった。私は唖然としてしまい、追いかける気力もなくしてしまった。

「おい待てこんにゃろ!」

リリスは穴に水を流し込んで追跡していた。私は嘘だと信じたが、どうしても頭から蛇の言葉が離れず倒れ込んでしまった。

       *

 家へ戻ると、蜂の巣にされたとは思えないほど綺麗に修復してあった。

「これは一体...どういうことだ...」

「ジーク。おそらくこれは創星神が修復したと思われます。あの方達は文明を尊重する者たちです。壊したものは直していくのでしょう。」

そういうことか。と納得していると、ジェミニは少し恥ずかしそうに

「俺...魔王と呼ばれていた時代は、文明の一つ二つ消しても構わないと思ってたけどな。」

と言った。今はそんな気無さそうだけれど...それにしても足が動かない。右足はほとんど引きずって歩いているし、何より魔力がほとんど吸われていて星龍剣を背負うだけの馬力はほとんど残ってはいなかった。

とりあえず、自分の部屋へ入り、ベッドへ直行した。

しばらく休んでいると、ドンドン玄関を叩く音がした。今日はもう勘弁してくれ...そう思いながら玄関の戸を開けると、左襟に名家「ゼウス家」の紋章をつけた女性が立っていた。僕はとりあえず立ち話では失礼かと思い、食卓の間に案内した。

「私はクロニカ。ゼウス家の長女だ。君がジークで間違いないだろうか?」

「はい。そうですが。」

そういえば名家の方が僕になんの用なのだろうか。そう考えていると、

「今朝、ここで銃撃戦が行われなかったか?あれによる被害者が出ていてな。幸い死亡者はいないが、軽症が三人出ている。」

僕は今朝のサソリの件だとすぐ勘付き、素直に話す事にした。

「この通り、僕も死にかけたんですよ。サソリ型の機械に...」

説明途中に小さな剣が僕を取り囲んだ。封剣って奴だろうか。ってそれどころじゃない。今戦いなんて起こされたら確実に死ぬ。

「お前の敷地で起こった事だ。お前がケジメをつけろ!」

そう言われ固まってしまった僕はあっという間に封剣に包囲されてしまった。レジェに託そう。なけなしの魔力で竜魔法を使い、レジェを体から解放する。ジェミニの呼ぶ声がしたが、なんと言っているか聞き取れない。僕の意識は薄れていき、やがて視界が真っ赤に染まり、次第に黒く呑まれていった。

       *

 このままではジークが本当に死んでしまう。しかし、この目の前にいるこの女性。クロニカも相当の危険人物。もう話し合いの余地などなさそうである。私は左手に星龍剣を握ると、彼女が指揮棒を振るかのように指を滑らかに動かすと、ジークにまとわりついていた封剣が一斉にこちらに向かって来た。

右に五本。左に二本。背後に三本。

計十本の封剣が私を襲う。私は右手に剣を持ち替え、五本の封剣を弾き、背後の三本を光魔法のシールドで防いだ。左から襲いくる封剣をしゃがんでかわすと、クロニカは顔を引きつらせた。

「なかなかやるな...レジェ・セイン...だが弾くだけじゃあ意味がないんだよ!」

そう言うと封剣は再び意志を持ったようにこちらに飛んでくる。私がしゃがみ込んだ体を立て直している最中だった。まずい。このままでは当たってしまう。しかし私はこの窮地を脱する方法を知っている。ジークに教えてもらった。

「ライトニング!」

私は体に雷を纏う事で封剣を雷で弾き返すことを可能にした。

クロニカの懐に突風の如き速度で潜り込む。

「オールフォーワン!」

クロニカが叫ぶと封剣は、一つの剣に収束し、私の星龍剣による一撃を防いでいた。

一旦距離を取り、様子を見る。そうするとクロニカが少し嘲笑うように口を開いた。

「大戦を起こしたお前が、今更この世でなんの罪滅ぼしだ?償って死ねば楽なのに...何故だ?」

「私はそれを償いだとは思っていません。私が死ぬときは、全ての人が笑って暮らせる日が来るまで絶対に来ない!」

私はジークに感化されたのかもしれない。昔の私は使命に駆られただけの操り人形。でも今は、笑顔のために戦う聖騎士。そのために今は負けられない。

 クロニカは呆れたような表情で、異常なほどに綺麗なフォルムから豪速で突きを繰り出してきた。チャンスは一瞬。

「今です。」

私は剣を握る相手の両腕の間に、低姿勢で潜り込み、腕を入れた。そしてテコの原理を利用して、逆関節のように捻り、相手の腕から剣を離す。そして相手に剣を突き立てた。

「これ以上私に挑むならその腕を切り落とします。あなたの封剣はその指輪で指示を送っていたのでしょう?」

そうするとクロニカは負け惜しみを吐いた。

「ゼウス家の私にたてついたこと、後悔するといい...しかし今回は私の負けだ。どうにでもしろ。」

 その後、クロニカに被害に遭った人たちの住所を教えてもらい、謝罪しに回った。

「ジークは大丈夫でしょうか...」

胸が張り裂けそうなほど心配でならなかった。でもそれ以上にジークならきっと、被害にあった人たちの事を無視しないと思ったから私はこうして謝罪しに回っている。

ジークの心を大切にしたい。そう思って。

       *

 僕は一体どこにいるんだ...僕はついさっきのことすら思い出せない。どころか、自分の名前も思い出せない。何もわからない恐怖が体と心を蝕んで行く。寒い。寒い。寒い。

恐怖が肌を伝うたびに、僕は、僕の心は、僕の体は冷えていく。

 あぁここはきっと人の成れの果てなんだ。嫌だ。嫌だ。嫌だ...嫌だ!

僕の吐き気と恐怖は留まる事を知らず加速していく。鼓動が高まっている、鼓膜と心臓が直でつながっているようにドクドクと音が聞こえる。

このまま死ぬのか。そんなの嫌だよ...レジェ...ジェミニ...

 思わず二人の名前を思い出す。そして、死んだ父の残像が脳裏に焼き付いていたようで、モヤがかかった父が僕に語りかけた。

「剣は...ためにあるんだ」

そうだ。僕はまだ死ぬわけにはいかない。こんな不完全で終われるものか。まだ、未回答なんだよ。

その瞬間、僕の視界はとても眩しいものへと変わった。

「おかえりなさい。ジーク。」

柔らかく温もりのある膝を枕に僕は寝ていたみたいだ。

頬に暖かく冷たいものが滴り落ちてくる。

「死んでしまうかと思って心配しました...。」

レジェの声は震えていた。

「また...私は一人に...なってしまうのかと...心配しました...」

そしてレジェらしくない泣き声が、家中に響き渡った。

僕を優しく、しっかりと抱えて泣き叫んでいた。

ジェミニは涙を見せるのが恥ずかしいのか俯きがちだったが、震えていた。僕には笑ってくれる仲間がいる。僕には怒ってくれる仲間がいる。そして僕には、僕のために泣いてくれる仲間がいる。そう思うと、自然と目に涙が浮かんできて、高揚する感動を抑えきれなかった。

その日僕たちは泣いた。でも、泣き終わった後はご飯を食べて笑った。

人生でこれほど泣いたり笑ったり、移ろう感情を感じた日は多分他に無いだろう。

 翌日僕の足は、完全に回復していた。少し話がそれるが、敵に家がバレているが大丈夫なのだろうか。そんな事を思いつつ、いつもの丘に鍛錬しに出かける。

「今日はいつもみてぇな甘い匂いしねぇな...今まで欠かさずマリンの家から漂ってきていたが...」

「後で様子を見にいってみますか。何かあったのかもしれませんし。」

「あの人は精霊王。死ぬことはまずありえないだろうし、やっぱり何かあったんだと思うよ。」

心配を募らせながら昼時まで剣の鍛錬を続けた。

「ジーク。お疲れ様です。マリンの事を考えていたわりには綺麗な太刀筋でしたね。」

僕はそう?と返すと、ジェミニが言った。

「剣を正確に振りながら次の行動が考えられるようになった。ってことだな!」

確かに少しずつ成長しているのかもしれない。でも僕はもっと強くならなきゃならない。これはその大事な一歩。この感覚を忘れない。

 どうしても心配でマリンの家まで行ってみると、家の前にリリスがいるのを見つけた。何故マリンと犬猿の仲のリリスがここにいるのか少し疑問だったが、それだけで良からぬ事態が起こった事を察知した。

 事の始終をリリスから聞き、驚愕した。

「どんな効果の毒かも分からないんですか?解毒方法はあるんですか?」

「落ち着けガキ。毒の効果は分からないが、マリンが言うにはあいつの毒液、解毒が不可能みてぇでよ。」

それじゃあマリンが危ない。僕は家に入れるようにお願いした。リリスはダメだと言ったけれど、やはり心配だ。僕はリリスの横を振り切り、ドアを開ける。

「あ!おいコラ待て!ガキ!」

そこにはマリンの姿はなかった。リリスは少し顔を俯かせて、

「あいつは心の整理がつくまでの間、実体化しねぇってよ。」

と言って僕の頭にゲンコツをくらわした。僕は頭を抱えてしゃがむ。

「おい!リリス!何しやがんだテメェ!」

ジェミニは怒っていたが、もともと悪いのは勝手に入ろうとした僕だ。このゲンコツは然るべきゲンコツなんだと心におさめておいた。

「それにしてもよ。ジーク。使い魔から聞いたぜ?死にかけたんだってな。」

「あぁなんとか生きてたけど。レジェのおかげでね。」

「そりゃ良かったよ。助けに行けなくて悪かったな。」

リリスは僕のことを助けてくれようとしていたのか。そう思うとなんだか、今までの挙動が少し可愛げのある行動に見えてくる。

「また来るよ。マリンの笑顔のためにね。」

「こんなクソガキにそんな大層なもんはくれてやる必要ねぇよ!」

なんだかんだ言って、リリスは優しいやつなんだな。そう思いながら山を降りた。

 山を降りると、町外れの道に霧がかかっていた。地面もぬかるんでおり、とても歩きにくかった。あと少しで街に着くというところで、誰かと肩をぶつける。

「あ...ごめんなさい!」

妙に聞き覚えのあるような無いような、不思議な感覚に違和感を覚え、顔を確認すると、艶のある桃色の髪をなびかせた、少し可愛げのある顔をした女の子だった。女の子の表情がいきなり絶望に変わり、顔色が急に悪くなった。

「あ...あの...す...すみません...でした...。」

何故か震え声で謝られたため、こちらも、|吃(ども)って返事してしまった。レジェは何かに気付いたようで、僕に語りかけた。レジェから衝撃の事実を聞く事になった僕は驚いて声に出してしまった。

「この子がマウス!?」

「声に出ちゃってます!かなり大きく!」

「ば、バレた!?ごっ...ご...こっごご...ごめんなさいー!」

正体が破れるなり、走って去ってしまった。しかし、ジェミニの一件からだいぶ僕に恐怖心を抱いているように見える。あの子を笑顔にする日は遠そうだ。

 霧を抜け、ぬかるみも無くなったため、だいぶ歩きやすい道に出ると、この前の木の下で今日もピスケスが本を読んでいるのを見つける。邪魔するのもなんだか悪い気がして、軽く手を振った。返っては来なかったけど。

街に戻ると、いつもの活気とはまた違ったざわつきを見せていた。何かあったのだろうか。そのざわつきの中心ほどまで近づくと、本能的にえずくような吐き気を催す匂いが立ち込めていた。そして、その匂いの正体は、街の石畳を真っ赤に濡らした大量の血だった。

 片目に黒い包帯を巻いた青年が、三人の人間を殺害していた。そしてその三人は、昨日レジェが謝罪しに行ってくれたというサソリの被害者たちだった。

「遅かったじゃないの。僕はね?姉から事情を聞いて君たちに会いにきたのさ!君たちは創星神を倒そうと健闘した。それをつまらない怪我如きで喚いたコイツらを始末してたってわけ。」

なんという事だ。僕たちの正義を立証するために殺したって言うのか。僕達が命をかけて守ったものは、無駄だったってことか。許せなかった。情けなかった。

「許さないからな...」

僕はドスの効いた声で青年に宣戦布告した。

「ん?何か言った?残念だけどこの子たちの存在なら僕の家の権限で闇に葬るから。君も歯向かうならやっちゃうよ。削除♪削除♪」

流石に今歯向かって勝てる相手じゃない。僕は落ち着いた。ジェミニもレジェも滾る怒りを鎮めて平静を保っていた。

「あなたの事は許しません。でも、僕はあなたと戦う意思はありません。」

「そうなのか〜!じゃあさ、また遊ぼうねぇ〜!」

人を殺す事が遊戯な訳ないだろ。そう思いながら僕は悔しさを紛らわすために走った。もう一度霧の中へ。知らない道で貿易業者とすれ違うと、それを避けるために体をひねると、ぬかるみに足を取られて転び、泥をかぶってしまった。

「なんなんだあいつ!人の命をなんだと思ってるんだよ...!」

僕は悔しすぎるあまり、自分の服が泥で汚れたのすら気にならない。

「ジーク。あいつは襟にゼウス家の紋章をつけていました。姉と言っていたのはクロニカのことでしょう。」

「クソ!こんなん腐ってるだろうが!あれが正義ってんならもう俺は戦う理由すらねぇよ。」

ゼウス家には逆らえない。この街を支えてきた名家の一つなのだから。逆らっても勝ち目がない。文明の街の中心。言うなれば人間界代表とされる者たちだ。そんな家に乗り込めばもう二度と、あの街で笑顔を見る事はできないだろう。

「お父さん...僕はどうすれば...」

お父さんが亡くなってから初めて、お父さんの言葉が欲しくなった。いつも僕の質問に必ず答えをくれるお父さんの言葉が。こんな時、お父さんはなんて言うだろう。

 レジェとジェミニは心の中で何か考えを組み立てていた。二人ともルートは違えど出した答えは一つだった。

"ジークのやりたい事をやれ"という事。僕の「やりたい事」。今、僕にできる事をやりたい。

「なら今は、悲観に浸っている暇はありませんよ。あなたはゼウス家を超える信頼と力を得るために人徳を積むのです。いいですね。」

「できる事。探すんじゃねえそこにある問題を一つ一つ片付けていけ。俺みたいに一段飛ばしなんて考えるんじゃねぇぞ。」

僕はきっとすぐ焦ってしまう。でもこの二人はそんな僕を認めてくれる。それだけでいい。この剣を握る理由。今はそれでいい。不完全が僕らしさなら、今は不完全でもいい。勝利のためでも反撃のためでもない。自分への鼓舞のために、狼煙を上げるのだ。

 空は次第に淀み、雨が降る。僕は自分に滴るのが雨か涙が分からなかった。しかし、僕の頭上の雨は瞬く間に止んだ。

「大丈夫ですか?ジークさん。とりあえず、うちに来てください!洗濯しましょ?」

傘を差し出してくれたのはピスケスだった。この子は本当にこの街を愛している。そして何より人を愛しているのだろう。

僕はピスケスの傘を受け取り、ピスケスと傘を分け合って歩いた。ピスケスはなんだか楽しそうだった。

「私、男の人と二人で過ごしたのって初めてです!嬉しい!」

純粋で汚れのない笑顔から放たれる言葉は、無自覚ながら破壊力が抜群だった。僕は思わず赤面する。あぁもう可愛いなこの子!

 僕はピスケスの家に案内される。意外にも僕の家の二つ奥の家だった。この広い街では相当の近所だ。世間は意外と狭い。それにしてもあの遺体、回収されたんだな。服を洗い終わったら弔いに行こう。半ば僕達のせいで命を落とした者たちだ。

心中穏やかではいられなかった。でももう、泣かない。泣いてばっかりじゃ前に進まないから。

 ピスケスの家の敷居を跨ぐと、とても華やかな部屋が広がっていた。ピスケスは代わりの服をいそいそと持ってきてくれた。とは言ってもバスローブだけど。

「そういえばジェミニさんとは上手くやれていますか?魔王なんて呼ばれてますけど、根は良い方なので!ゆっくり向き合ってあげてくださいね!」

洗濯しながらピスケスは世間話を始めた。本当にいろんなところに目の届く子だ。でも、いつか全ての創星神を倒す事になれば、この子もいなくなってしまう。この子の時間を僕が奪って良いのだろうか。

「さっきまで街がざわついていたのは気づいてた?」

僕はピスケスにストレートな質問を投げかけた。

「いいえ。何かあったんですか?もしかして市場で特売とか!?」

「いや、なんでもない。」

ざわつかせた正体なんて、この子に知って欲しくない。次第に、昏倒するほど複雑に絡む思考回路。それを優しくほどいてくれるような存在だ。

「お前。ピスケスの事好きだろ。」

「そ、そんな事は...!あるかも...」

「ジーク。あなたもそういう年頃なんですよ。恥ずかしいことなんてないです。」

 単刀直入に言えばピスケスの事はとても可愛いと思うし、好きとまで言える。しかし、この子は人形であり、創星神。叶わぬ恋である。

そんなやりとりをを体の中でしているともう手洗いは終わっていて、ピスケスは何処かへ行ってしまった。

しかし、そう時間が経たないうちにそそっかしく走って戻ってきて、僕の目の前で敬礼した。

「今、暖炉に火を焚べ足してきましたので、あと少しで乾くのではないでしょうか!」

ピスケスは天真爛漫な笑顔をみせ、部屋のソファに案内してくれた。お茶も用意してあって、いつ準備したのか分からない。レジェもそこが気になったようで、

「この短時間で、お茶を淹れるなんてどうやったんですか...?」

と聞いていた。さっき暖炉の火力を上げた時に、出かける前から沸かしていたお湯を取ってきたんだとか。本当に手際が良くてほれぼれする。

ジェミニは久しぶりに創星神と世間話ができて楽しそうだった。話の題材は星属の魔法についてで、僕とレジェにはイマイチ、ピンとこなかったけれど。

 乾いた服を着て、深々とお辞儀しながら感謝の意を述べると、ピスケスは僕より深々とお辞儀をして

「話し相手になっていただいてありがとうございました。また話しましょうね!お待ちしてますから!」

と逆に感謝をしてきた。なんだか、申し訳ない気持ちになったが、その気持ちを受け取る事にした。

 僕たちは一旦家に戻り、この前余らせた木蓮をカバンに入れ出発した。それぞれ、ゼウス家に殺害された人たちの家を回って、木蓮の花を供え、祈りを捧げて回った。やっぱりおかしい。何の罪もない人たちを罪人に仕立て上げて殺しただけじゃないか...。

「いつか...あなたたちの笑顔も...!取り戻してみせます...!」

そう誓いを立てると、僕はゆっくり立ち上がり、心臓に手を置いて二人に語りかけた...

       *

 数日が経ったが、ほとんど変わりなく、鍛錬と日雇いを反復する生活。そこにピスケスとの交流と、死者への弔いが増えたくらい。

 相変わらずレジェには勝てないけど、最近少しずつレジェとの駆け引きが出来るようになってきているような、そんな気がする。あと、この数日で、ジェミニは炒め物が作れるようになった。まだたまに焦がすけれど、僕の料理当番の日でも料理を作りたがるようになった。料理好きの魔王なんてのも悪くない。ピスケスは最近お茶の時間に家に誘いに来るようになった。

 僕はこの生活を守りたい。この正義は果たして偽善なのだろうか。僕にはそうは思えない。


後書き

さてさてさてさて!矢口です!いやぁ...戦闘シーン沢山かけて楽しかったですね...それにしてもゼウス家、残虐な者たちです。すごい惨い。あれじゃ「殺したいから殺した」って言ってるのと変わらないよ!?

それにしても、ピスケスちゃんめちゃくちゃ可愛く描写したつもりです!可愛いと思ったらその場で挙手!あと、今回も無駄に出てきてお世話様のトロイ君。今回なんて呼ばれて数秒で消えろ発言されてましたし、何だか少し可愛そう。キャラクターの個性が少しずつ光り始めましたね!ジーク君もジーク君で成長していていますし、僕もこれからの執筆が楽しみです!五話はもう計画を立てたんですけど、なんだか今回と同じくらい楽しく書けそうな気がします。戦闘シーンも徐々に増えてきましたけど、それ以上に三人の成長シーンも増えてきましたね。僕も成長していきたいと思います。それでは五話でまたお会いしましょう。ウナムでした!

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