第49話

 笠原が歩きながら、俺に問う。

 俺は思っていたことをはっきりと話すことにした。


「……実は武藤と付き合っているのは嘘で……嘘で。……本当は恋人のフリをしていました……とか?」


 案外当たっているんじゃないかと考えている。だって、


「それは……私の、武藤に対する態度? それとも、武藤が言ってたの?」


「武藤とは、今日ほとんど会話してない。武藤に対する態度、これも大きいと思う。でもさっき———」


「……そっか。でもそっちだって———」


「俺が何を言おうとしたのか分かるの?」


「名前じゃないの? 私が青野の前で武藤って呼んだから。煌って呼んでたはずなのに」


 その通りだった。だけど、笠原の言ったそっちだって、というのは。


「早川さんと青野、付き合ってるんじゃないの? みんなでせっかく遠出してるのに、こんな暗いカップルないと思うよ?」


「暗いカップル?」


「とても一緒に泊まりがけで遊びに行くくらい、仲の良いカップルに見えないってこと」


 早川と俺、正直言って武藤と笠原より仲良いと思う。最初の方は何故かカップルみたいなことをしていた笠原だったが、楽しくないのか、段々とボロが出ている。


 外は真っ暗で静か。外灯の明かりに集まる蛾が、俺の視界の中で目立っていた。隣をずっと歩いている笠原を直視することなどできるはずもなく、前方だけを見ながら淡々と会話を進める。


「俺と早川は、仲が良いと思うよ。俺が何回も早川の部屋を訪れられるくらいには」


 事実をそれっぽく伝える。

 そもそも、付き合っていることにしたのは早川で、俺は笠原に対して、なんとなく否定していたような気がする。


「私は……武藤の部屋に行ったことない……」


「武藤のこと、嫌い?」


「……好きじゃない」


 俺の前で遠慮するなよ。嫌いすぎて殺したいくらい。縄で縛って、海に沈めたいくらい言ってもいいのに。


「なぁ、笠原? 武藤と付き合うのイヤなら、今すぐ別れろって。包丁でもなんでも持ち出して、脅せばいいだけでしょ?」


 俺は簡単なことのように言ったが、


「その気になっても、中々言い出せなくて……。なんて言えばいいのか」


「俺が言おうか? 正直、武藤のことあんまり好きじゃないから、二人で話すとかやりたくないけど、困ってんならそんくらいするよ?」


 実のところ、笠原が武藤と付き合うこと自体、間違っていたのだ。確かに美男美女のカップルではあるのだが、なんか出来すぎていて、気持ち悪かった。


 笠原の行動はぐちゃぐちゃで、武藤と付き合う理由すら、俺には分からない。別れてしまえばいいのに。


 俺は、笠原みたいな状況に陥ったことはないので、そんなに大胆なアドバイスはできないけど。


「青野はさ、早川さんとなんで付き合ってるの?」


 

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