第48話
武藤は、箸しか出さなかった。お前が気を使えよ、と思ったが、俺も結局釜と米を洗って、炊飯器のスイッチを押しただけだったから、何も言わない。
早川と笠原は、お婆さんと笑顔で料理をしていた。炊飯器のセットをしておいてよかった。武藤と同類にされるところだった。
俺は炊飯器のスイッチを押したあと、なんとなく、邪魔だと分かっていながらキッチンにとどまり、料理が出来上がっていく様を見ていた。
とにかく武藤と二人で会話をするという時間を作りたくなかった。笠原のことを言われそうで。
「できたよ〜」
少し腰が悪いようで、キッチンにつかまりながら立っているお婆さん。その隣で、笑顔で料理を皿に盛っている早川と笠原。
武藤はスマホを握ったままだ。
それでも笠原の声には反応して、こちらを向いた。
「美月、ご飯できたの?」
「うん」
武藤の会話なんてどうでもいいので割愛する。
寝室で寝ていたらしい爺さんがリビングダイニングにやってきて、全員がそろった。
俺が唯一手伝ったご飯。テキトーに洗ったせいで米が粉々だった。
笠原たちが作ったのは、なんかの魚の煮付け。
手作りの料理なんて久しぶりに食べたので、食事中ずっと笑っていた。
* * *
食後。
同じ部屋にいるのに、わざわざ声をかけずにLINEで。
『あとで散歩しに行かない?』
笠原からだった。
『みんなで?』
『ううん、二人で』
二人というのは俺と笠原のことだろうか。いや、そうとしか考えられない。だが、早川はなんとかなるとして、武藤が許さないはずだ。
俺と笠原が二人で夜に外出しました。それだけでなんかあるな、って分かってしまう。
武藤にクソ文句をくらう未来が俺には見えているため、
『ごめん、武藤が怖いからやめとく』
そう、LINEを送ると。
『武藤からは許可、もらってる』
……………………。
嫌な予感しかしない。具体的にどんなことなのかは分からないのだが。武藤が許可? あり得ないでしょ。
それでも。
『分かった。何分後?』
『五分後』
* * *
あまりにも急すぎるお誘いを受け、俺はジャージのまま外に出た。本当に武藤から許可を取っているらしく、二人で部屋を出ようとしても何も言わなかった。
だが、早川はついてこようとしたため、ちょっと無理やり突き離した。
今思えば、早川も連れてくればよかった。武藤と二人とか、俺なら死んでしまうレベル。
夜でも暑い。
外に出ただけで、汗がふき出した。湿度が高くて、汗がなかなか乾かない。
嫌な予感しかしないし、二人で話すのは久しぶりである気がして、とても緊張している。
玄関で靴を履いてから、無言で家の門を出る。
土地勘などないので、家の周りをグルグル回ることになってしまった。
「青野、今日私が何を言いたいか、分かる?」
【あとがき】
次話投稿は、明日の朝六時です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます