第47話

 戻りたい。そう思ったのは、これで何度目になるのだろうか。そんなことできるはずがないと分かっていながら、幾度となく夢を見てしまう。


 あのとき、こうしていれば。高校生になっても、まだ間に合ったはずだ。知る限り、チャンスは恐らくいくらでも。


 あの経験が、感覚が、感触が……そして感情が。ここで今、脳内に蘇る。


 忘れられなかった、あの人に。近くにいるのに、上手く声をかけられなかったあの想いを。


* * *


 昼飯をテキトーに済ませたあと、特に用事などなく、そのまま四人で爺さんの家に帰った。エアコンがガンガンに効いており、非常に快適だったが、すぐ近くに武藤や笠原がおり、全く落ち着くことができなかった。


 課題をする気にもなれないし、なんだかここで寝顔を晒すのも気が引ける。早川も居辛さを感じていたのか、自分のキャリーバッグからトランプを取り出して、俺を誘った。


 畳の上で、早川と向き合うように座る。


「畳だし、スピードでもする?」


 早川がそう提案してきたが、正直言って疲れるやつはやりたくなかった。でも早川がそう言うから、一応それに乗っておく。


 笠原は武藤となんか話しているし、俺と早川の間に会話がなかったので、非常に気まずい状況が続いていたのだ。


* * *


 人生とは不思議なものである。嫌いであるはずの武藤と、仲良く晩ご飯を食べていたのだから。

 

 二人でババ抜きをするという、全く面白くないアホなことしている最中、キッチンの方からガチャガチャと音が聞こえた。


 すると目の前に座っている早川が。


「あれ、もうご飯作るのかな?」


 と、俺に言った。

 時刻はすでに十八時を回っており、晩ご飯を作り始めていても、おかしくない時間になっていた。


「早川、手伝いに行く? 早川の技量でどこまでできるのか知らないけど」


「うん、ちょっと行ってくる」


「じゃあ、俺もリビングに行くよ。あんまりここにずっといるのも良くないしさ」


 隣を見ると、寝転がりながらスマホを眺めている武藤が視界に入ってくる。

 お前がいち早く行くべきではないのか、そう思ったが、いちいち声を上げることはない。


 俺たちの行動に気づいた笠原が、こちらを見ながら立ち上がる。


 俺は笠原にも聞こえるように、


「とりあえず、お婆さんとお爺さんに会いに行くか」


 と、言った。


 

 武藤も何故かついてきて、四人でリビングへ。

 隣のキッチンでは、お婆さんが炊飯器の釜を洗おうと、洗剤を手に取ったところだった。その横でゴロゴロするわけにもいかないので、一応俺が代わっておく。


 どうせ料理を手伝うことなどできやしないから、早めに力になるのが大切だ。あとで何をしたらいいか分からなくて、結局何もしないっていうのが最悪だから。

 

 何もすることがなくて、いい感じに時間を潰したかった、というのもあるけど。早川との二人ババ抜きは無駄だなー、ずっと感じていたが、釜を洗っているときは、有意義な時間を過ごしている気になれた。


 近くで、笠原と早川の奮闘する姿を見て微笑ましくなった。

 

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