第45話

「婆ちゃん、爺ちゃんはどこかな? いつもリビングにいるはずなんだけど」


 お婆さん相手に、ほんの少し口調が優しくなった武藤。これを見る限り、俺に対してはきつく当たっていたみたいだ。


「ベランダで花に水やりをしてるよ」


 婆さんが武藤にそう答えて、武藤は婆さんをその場に放置。笠原の手を握り、婆さんの横を通って家の奥へと進んでいく。


 俺は婆さんにわざわざ挨拶する気にもなれず、軽く会釈だけして、武藤と同じ道を通った。


* * *


 家の玄関から見て、最も奥にある部屋。そこは、シングルベッドが二つ並んでいる、綺麗なところだった。


 そこのさらに奥。大きな窓の外、ゆっくりとジョウロで植木鉢の花や木に水をやる、白髪のお爺さん。


 恐らく、あの人が武藤の爺さんなのだろう。


「爺ちゃん、腰痛くない?」


 武藤がいつになく、優しく声をかける。


 武藤が爺さんの代わりに、水やりをしているのを横目に、俺といえば、呑気に早川と指スマをする。


 笠原は武藤の後ろで、困ったように爺さんの手伝いをしている風を装っていた。時々こちらをチラ見してくる辺り、何をしたらいいのか分からないんだろうな、と思った。


「爺ちゃん、オレたちリビングにいるから。あと、部屋使っていい? 二つくらい空いてる部屋あるよな?」


 なんか武藤が爺さんと会話をしているが、少し離れた位置にいる俺と早川は、そのとき最早他人だった。いつまでここで立っていればいいのか。


 武藤も爺さんの世話ばっかりしてないで、笠原をなんとかしろよ。というか、俺と早川をなんとかしてくれ。

 どんな事故が起こっても、将来お前と関わることは一切ないであろう二人。

 ……爺さんのせいで疲れた。


* * *


「うわー、やっと落ち着いたって感じだな」


 武藤が大きく伸びをして、荷物を部屋の隅っこに寄せる。


 予想を遥かに超えるほどの汚部屋ばかりで、他に部屋が無く、親戚が全員集まれるくらい大きい部屋に、四人で寝ることになってしまった。エアコンが二台設置されている。これはありがたいのだが。


 畳の匂いが、心地よい。ここに来るだけで疲れたので、早く眠りたい気分になる。


「よし、青野たち。準備ができたか。とりあえず万博公園でも行っとく? お前ら、太陽の塔知らないだろ」


「知ってるよ、さすがに」


 さすがに有名すぎて、誰でも知っていると思う。そもそも万博は、海外の人も訪れた場所で、それは日本でも周知されているはず。


「早川は、知ってるよね?」


 俺がそう言うと、


「うん、岡本太郎でしょ?」


 早川が当然のように言う。が、武藤は。


「……あ?」


* * *


 豪邸の外に出て、辺りを見回す。行きは全く気づかなかったが、ここはかなりの高級住宅街だ。武藤の爺さん家の隣が、メルヘンチックなお城みたいな家で、それは確定した。


 すると、何かと目が合う。


「万博公園近いんだなー」


 お腹の顔と見つめ合った。



【あとがき】

 昨日、間違って第46話を投稿してしまいました。一瞬で下書きに戻しましたが、3PVついてしまいました。

 本当にすみません。

 

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