第42話

「あー、寝たー。あ、和人くん、今どのへん?」


 俺は、早川と同じように眠ろうとしたのだが、なんだか緊張して眠ることができず、ただひたすらに外の景色を眺めていた。すると、一時間ほど経った頃だろうか、早川が目を覚ます。


「おはよう、早川。今、広島くらいじゃないかな? 岡山には行ってないと思う。どうせまだまだだろうと思って、あんまり意識してなかったけど」


 外を見ていると、勝手に景色が次々と変化していく。その様子を何も考えずに見ていただけなのだ。


「そっか……。和人くん、何かして遊ぼうよ。しりとりはどう?」


「めんどい。俺、そろそろ眠くなる頃だと思うんだよね。だから、寝る」


「ちょっと。私が寝てたとき起きてたんでしょ? 私が起きたら寝るのやめてよ〜。寂しいじゃん」


「知ーらね」


* * *


「あっつ!! 殺す気か、これ」


 新幹線の車内の温度に慣れていたのか、外に出ると、蒸し暑さで死にそうになった。


「お、こっちも晴れてるじゃん! やったね、和人くん」


「ところで、ここに来て何するの? 俺、武藤から聞かされてないよ?」


 武藤のジジイの家で、何かをするわけではないだろうから、恐らくどこかに出かけるのだと思う。


「ここって、私たちが住んでるところより都会だから、楽しみだね」


 ニヤニヤしながら言う早川。その目線の先には、手を繋いだ状態でこちらへと歩いてくる武藤と笠原の姿が。


「やってんなー」


 俺が無表情で言った。


「熱いお二人だよね。美男美女のカップルなんて、どうせ二人とも面食いなんだよ」


 武藤は絶対面食いだけど、笠原のことは、まだよく分からない。


 武藤と笠原が、ついに俺と早川の言っていることが聞こえるくらいの距離に来た。

 俺はすぐに口を閉ざす。


「よ、青野。元気だったか? 早川も」


「いや、全く。新幹線の中で、何をしたらいいのか分からなくて、無意味な時間を過ごして、とても気分が悪いよ」


「あぁ、そうか。ま、とりあえず疲れただろうから、爺ちゃんの家まで行くけど……なんか文句あるヤツ、いるか?」


 武藤が俺と早川を見る。ジジイの家に泊まるの、やっぱりやめないか? っと、思っていたが、そんなこと言えるはずもなかった。


「じゃ、電車に乗って、その後バスだな。そんな時間かからないと思うから、安心してくれ」


 駅の構内は、かなりの人がいた。夏休みだからだろうか。家族連れが多い。


「じゃあ、ついてきてくれる?」


 武藤はそう言って、さっきから一言も発さない笠原の手を引いて、人の流れに乗っかった。


 俺は武藤の真似をして、早川の小さな左手を、右手で握った。



 

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