第41話

 新幹線への改札の前。目の前を流れるように人の波が、右から左へと動いていく。


「今日、良い天気になってよかったね」


「こっちは関係なくない? これから新幹線乗るんだよ?」


 早川と雑談を交わしていると、案外ラフな格好をした、美形の男女二人組が現れる。


「青野来てるじゃん。さては楽しみにしてるな〜」


 少し俯いた俺を、笠原が覗き込む。俺の表情を確認しようとしたみたいだ。


「笠原、そんなに時間ないし、ホーム行く? まだやりたいこととかあるなら、待つけど。あ、あと武藤。今日誘ってくれてありがとね」


「え、あ、おお」


 俺の言葉の後半は、武藤に向けてのものだったから、笠原より先に武藤が反応した。


「いや、ないけど……。トイレ行きたい人がいたら、今なら行っていいよ」


 笠原が、早川も含めた全員に言った。恐らくもう新幹線は来ていると思うが、今乗っても何もすることがない。


「あ、そういや、渡すの忘れてたな」


 武藤が財布から取り出したのは、新幹線の切符だった。そういえばもらっていなかった。


「武藤ありがと」


 俺は、早川の分を一緒に、武藤から受け取った。斜め後ろにいる早川に渡す。


「……もう、行く?」


 笠原がそう言ったので、それに従って改札をくぐった。


* * *


「いや……は?」


 俺と早川の席は隣同士であったのだが、武藤と笠原の席は、まさかの違う号車。


「あいつらワザとだな」


「びっくりだね」


 そう言いながらも早川はさほど驚いていない。だが、俺はむちゃくちゃ驚いていた。そもそも、この旅行の主導権はあちらにあるのだ。新幹線の中で、出来るだけ友好関係を築いておこうと思っていたのだが。


「どうする、早川。置いていかれたら」


「それはないから大丈夫」


 そんなこと分かってる。


「なんで、こんなことしたと思う? どうせ武藤でしょ、これやったの」


「多分ね」


「じゃあ、決定的だ。ガチで俺たち二人は、何のために呼ばれたんだと思う? 邪魔もん扱いじゃん、こんな最初から」


 今日の目的地は、完全に武藤のホーム。俺にとってはアウェーである。

 武藤のジジイが怖い。


「笠原、今何やってるかな……。あ、羞恥プレイか」


「何言ってんの?」


「さすがに新幹線の中は無理か。笠原にそんな上級者プレイは無理だもんね」


 早川とどうでもいい会話をしながら、出発時刻を待つ。

 

 アナウンスが流れ、出発時刻になったことが分かった。これからかかる時間は、二時間半くらい。とても暇なので、早川と静かにトランプでもしようかと考えて、バッグの中を探る。


 すると、横から寝息が。その方を見ると、早川が普通に爆睡していた。


 新幹線の中で一人は寂しいので、俺は早川に会うために、同じように目を閉じた。

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