第40話
『和人くん、明日駅まで一緒に行こうよ』
そう連絡があったのは、遊びに行く前日の夜。俺が、大きめのリュックサックに、荷物をまとめ終えたときだった。
早川とは、家が近いし、心配だからその方がいいと思って、
『分かった。時間は?』
新幹線の出発時刻は、八時十五分だったはず。
『八時』
引っ叩いてやろうか。そんなの絶対に遅れるに決まっている。あの二人はもちろんのこと、新幹線は待ってくれない。
最寄りのバス停から駅までは、バスで二十分くらい。幸い、バス停は近い。歩いて十分もかからないくらいだ。
俺は『あ、じゃあ三十分前に出れば間に合うじゃん』とか言ってしまうアホではない。
新幹線の場合、早めに行って、余裕を持って行動することは当たり前である。
『出発一時間前に待ち合わせよう。早川の家まで行くの面倒くさいから、バス停まで来てくれる?』
そう送ったら、一瞬で返信が。
『了解。遅れたら迎えに来てね』
『ごめん、置いていく』
明日は三人の旅行になるのだろうか。っていうか、早川が来ないなら、俺行かないよ?
* * *
「早川、なんで武藤は、俺と早川を誘ったんだと思う?」
「へ? なんでそんなこと聞くの?」
朝のバスの中。部活の高校生がちらほらいた。
「武藤は笠原と二人になりたいはずでしょ? 俺ら邪魔じゃん」
俺と早川が行く限り、武藤と笠原の時間は少なくなる。俺たちがいなければ、爺さんを別にすると、武藤は笠原とずっと二人きりでいられるのだ。
「あー、そういうこと。……あ、あれじゃない? 私たち武藤くんに協力したから、お礼に、とか?」
「んなわけないでしょ。武藤はそんないいヤツでも、アホでもないよ。もし、マジで何の企みもなく、俺を誘ったんだったら、相当頭が弱いヤツになっちゃうんだけど」
そう考えると、武藤のジジイの家になんぞ行きたくはない。メロンを食って、早めに帰りたい。
「ホントだねー。もしかしたら、私たちが武藤くんと仲良くなったのは、武藤くんが笠原さんと付き合いたいからだったよね? もう恋人になったから、私たちはいらないってことで、山奥に幽閉するとか」
「怖すぎる。それ普通に犯罪だよ、犯罪。もし、そうなっても、笠原がなんとかしてくれるでしょ」
絶対そうはならないと分かっていながらも、これ以外に話すことがなくて、無理に会話を繋げる。
駅が見えてきた。駅前の広場は、それなりに人が多かった。
バスを降りると、人の流れに倣って、横断歩道を渡る。俺は少々重たいリュックサックを、一つ背負うだけにとどまっているが、隣を歩く早川は違った。
一泊二日にも関わらず、謎のキャリーバッグに荷物を詰めたようだ。それに加えて、移動用なのか、肩にもう小さなバッグをぶら下げている。
ゴロゴロゴロゴロうるさかった。
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