第38話
「あ、こんなんでいいんじゃないかな? 可愛いもの好きそうでしょ、詩音」
ごめんなさい、分かりません。普段着だって、ほとんど見たことがないのだ。早川の家に行ったときだって、薄手のワンピースだし。
早川の姉が取り出したのは、可愛らしい黄色のシマシマ模様の寝巻き。ズボンはグレーの無地のものだった。袋にルームウェアと書いてある。
「あー、これにしましょうか。いまいち好みとか分からないんで」
俺は袋に入ったそれを、早川の姉から受け取る。そしてお礼を言ったあと、
「一時間後、あそこで待ってる。それまでに、詩音とのデート、終わるかな?」
と、言われた。
指定された場所は、早川が行くとか言っていた、オシャレのお店の隣に位置している、これまたオシャレな雰囲気を漂わせる、喫茶店っぽいところ。
「あ……分かりました。終わらせてきます」
早川と、いつ別れるのか分からないのに、こんな約束をしていいのだろうか。
「あ、あの……。早川は一緒じゃなくて、いいんですか?」
「うん。家に帰ったら、いつでも話せるしね」
何の話か分からないところが怖い。
「青野くん、私から話したいこと話すだけだから、怖がらないでいいよ」
* * *
「あ、和人くん。これ買って」
俺が買い物を済ませると、早川からそんなことを言われた。
「イヤだよ。そんなに金ないから。いや、持ってるんだけど、全部使ったらマジで金欠」
俺の安めのTシャツとさっきの寝巻きだけでは、使いきれない量のお金を持っているが、早川の持っているカゴの中身からすると、なんだか嫌な予感がする。
「あのね? 早川のパジャマ買ったの俺だからね? その辺ちゃんと理解してよ」
早川は、例のオシャレなお店の中で、カゴの中に服やらなんやらを入れていた。そこを俺が、発見したわけだが。
「じゃあ、パジャマの分は私が払うから、このカゴに入ってるやつは買ってよ」
「それ、パジャマの方が安いってことでしょ」
「これそこまで高くないよ? パジャマよりは高いけど。まぁ、それは当たり前じゃん? ユニクロのルームウェアより安いやつは着ないよ」
なんのこだわりもない、俺たちのルームウェア。他所行きの服と比べてはいけない。
「私が半分出して、残り半分は和人くんが払ってくれる?」
さっき会った姉をここまで寄越そうか、と考えたが、早川の家には親がおらず、お金を使うのが怖いのだろう、と考え、それを了承。
「早川、大事に使えよ」
半分しか出していないが、全て俺が買ったかのような雰囲気を出した。
* * *
俺が買い物で使ったお金は、だいたい一万円くらい。思ったより高くなかった。
それでも、こんな大金を一日で使ったのは、初めてだった。
そのあと、非常に不自然だが、早川とはショッピングモール内で別れた。トイレ行ってくるから先に帰っといていいよ、という苦し紛れな口実で、早川の姉が待っているであろう、喫茶店へ向かう。
閉鎖的な空間が大好きな俺からすると、こんな場所は最悪だった。一刻も早く帰宅したい。
「青野くーん。こっちこっち」
約束の時間までは、まだまだ時間があるが、早川の姉はすでに来ていた。
笑ってはいなかったけど、楽しそうだった。
【あとがき】
今日の十九時に、次話投稿します。
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