第37話
「あの……一緒に来てる人がいて……。俺一人じゃないし、無理です……。……あの、誰、ですか?」
知らない人に、いきなり声をかけられて、不思議に思わない人はいないだろう。しかも、俺の名前を知っていたのだ。
俺の目の前の女性は、少し微笑んで、
「妹がお世話になってる、って言ったら、分かる?」
……ん?
妹、妹、妹、妹、妹……。
「あっ。———誰ですか?」
何かに気付いた気もしたが、やっぱり結論には至らなかった。
「妹と付き合ってるんでしょ? 写真見せてもらった、っていうか、スマホのロック画面が君の写真だったんだけど」
そういうことか。
「あー、早川の。っていうか、今聞き捨てならないことが聞こえたんですけど。ロック画面がなんとかこんたか」
早川の姉って……あれか! 泣きながら帰ってきたとかいう。
「まぁ、彼氏の写真をロック画面にしてる彼女くらい、世の中にたくさんいるでしょ。で? この後時間ある? 妹と来てるんでしょ?」
早川の話からすると、お姉さんの状態はかなりヤバいことになっていたはずだが、俺から見るかぎり、そんなことはなさそうだ。
何があったのかは、全く知らないし、今まで顔も見たことないような人だったが、会話は成立している。案外良い人そうだった。
「早川の服、買ってからだったら、いくらでも時間ありますよ。どっちにしろ、この俺の安Tシャツ買ってからなんで、ひとまずレジに行ってきていいですか?」
その場を立ち去ろうとしたそのとき、俺の右ポケットに乱暴に突っ込まれたスマホから、LINEの着信音が鳴った。
早川の姉の前で触るのもどうかと思ったので、レジに向かいながらLINEを開く。
早川からのものだった。
『パジャマ買うの忘れた。なんか、私にあうやつ買ってきて』
無理無理無理無理無理無理無理。
そんな重大な役目を、俺に負わせないでくれ。
「……俺も寝巻き買おうかな」
最近は面倒くさくて、下着のままベッドで寝ているし、冬でも二、三年前に買った微妙にサイズの合っていない寝巻きしかないのだ。
夏とは言え、武藤の爺さんの家で下着姿でうろつくわけにもいかないだろう。
俺のはなんでもいいし、すぐに選べるので問題ないのだが、早川のやつはどうすればいいのか。正直、早川の好みなんて知らない。そもそも、女子って寝巻きとかいる? 全裸でよくない? いや、何言ってんだ、俺。
ふと良い案を思いついて、すぐに辺りを見回した。
まだ近くにいたようだ。俺は彼女に近づいていき、
「早川のお姉さん? 早川のパジャマ選ぶの手伝ってくれません? それが無理なら、だいたいで良いんで、高校一年生が着てそうなパジャマを教えてください。お願いします」
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