第35話

 少しの間、ベッドの上でゴロゴロとしていると、いつの間にか笠原から、またLINEが来ていた。


 それは来週、遊びに行く場所の写真であった。俺はそれを見てひっくり返った。


 ダブルデートの舞台は、遊園地でも、近所のスーパーでもなく、ちょっと古そうな豪邸だった。いや、なんか語弊がある。笠原から送られてきた写真が、とても大きい和風の家だったということだ。

 ここはどこなんだ。


『ここが宿だよ!』


 つまり。


『今回はお泊まりダブルデート!!』


 …………………………。

 泊まりがけ、それはもうデートとは言えないだろう。旅行だよ、それ。

 

 遠出ならお前ら二人で行けよ、と思った。笠原が指定した場所まで、新幹線に乗って一時間半くらい。俺が住んでいるところから、東へ向かうことになる。


『新幹線は煌がとってくれてるよ!』

『ここは煌のお爺さんの家なんだって』

『一緒に行こう!』


 嫌だ。

 次々と送られてくるLINEの嵐に、俺は目を背けたくなった。

 何故爺さんの家に行く必要があるのか。


『メロンごちそうしてくれるって』


 急にどうした。メロンで釣ろうとしているのか。

 俺の気持ちが笠原にも分かってしまったのかもしれない。いやあり得ないけど。


 新幹線がどうこう言っているので、今更断れるものではない。一応行くと伝えておく。

 

 早川には笠原から伝えているだろうから、俺はなんの心配もしなくていい。するとすれば、遊びに行くときの服装だ。


 早川は中々オシャレな洋服を持っていそうだし、残りは陽キャ。その中でダサくて浮く、なんてことがあってはならない。


「あ゛ー!!」


 部屋のクローゼットの中はほとんど空。冬に使うジャンパーくらいだ。

 学校があるときは制服でよかったし、休日に外出する際も、泊まりがけなんてことはなかった。


 一日目と二日目が全く同じ格好でも問題ないのならいいのだが、絶対問題ある。


「服、買いに行くか……」


『早川さんからオッケーもらったよー!』


 俺はどうすればいいのか分からなくなって、自室の真ん中で立ち尽くした。


 明日か明後日、出かけよう。


* * *


 んなわけで翌日。

 俺は早川を引き連れ、近所のショッピングモールの一角にある、ユニクロに来ていた。今日より明日の方が涼しそうだったので、俺は昨日の時点で明日は出かけないと決めていたのだが、早川からまたもやLINEが。


『明日、ユニクロ一緒に行かない? 服買いたい』


 一人よりも二人の方が心強いのは間違いないので、俺は仕方なく外出している。Tシャツにジーンズという、いつもの格好で。


「ねぇ、和人くん? 毎回同じ格好しか見たことないけど、それ以外に持ってないの?」


 早川が化け物を見るかのような目で、俺を一瞥した。


「なんだその目は。っていうか、違うの持ってんなら、それと組み合わせてもっと上手くやってるよ」


 俺もそこまでアホではない。まぁ、この状態になるまで、新しい服を買わなかったのは十分アホなのだが。


「よし、私も買いたいものあるし、和人くんのも選んであげる」


 そう言った早川は、機嫌良さげにスキップしながら店内の奥へと入っていった。



【あとがき】

 明日の投稿はお休みします。次話投稿は、明後日の、朝六時です。




 


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