武藤煌
自分を好きになる女の子は、はっきり言って、いくらでもいた。いつでも明るく、クラスの中心人物として、権力を周りに示してきた。
成績も良くて、スポーツもできたから、友達はかなり多い。
つまり、多くの女子にモテるためには、友達を多く作ればいいのだ。そこから女子との繋がりも増えてきて、プライベートでも遊ぶようになる。
高校が決まり、夜を三人目くらいの彼女と、二人で歩いていたときだった。
疲れたような表情を浮かべながらも、姿勢よくすたすたと歩く、とんでもない美人を見つけてしまった。
オレは、この時はすでに恋愛上級者と言ってもいいほどの恋愛経験があり、身長もまあまああったから、ナンパも経験済みだった。
勢いで声でもかけようかと思ったが、そういえば隣に女がいたことをかろうじて思い出し、なんとか踏み止まった。
「ん? どうしたの?」
オレの彼女は、自分一人だと思い込んでいる、同い年の哀れな女。余程自分に自信があるのだろう。
不思議そうな表情で、オレに尋ねてくる女は、なぜかオレの右手に左手を伸ばし、そして重ねた。
「ほら、行こ?」
目が他の女性に行っているということを察知したのか、この場から早々に移動させようとしてくる。
今日は彼女に、ちょっと高級なものをプレゼントをしたばかり。もちろん親の金で。
教育熱心な親を持って心底がっかりしているが、基本的に勉強さえしていれば、プライベートにどうこう言う人たちではなかった。
優秀な父親は会社を立ち上げ、どうやら成功しているらしい。よって金は十分にあるのだが、高校は公立に行くことになった。両親がどちらも公立高校を卒業して、国立大学に進学したのが、大きいのだろう。
彼女と、彼女の家の前で別れ、オレは自宅を向かう。明日はデートのダブルヘッダー。一つ目のデートはデートと呼べないほど短い時間になりそうだが、二つ目は他校の可愛らしい女の子だ。ちなみに年上。
今のところ、この子が本命だったりする。
……のだが。
少しはしゃぎ気味の男女の集団を、羨ましそうに影から眺める、女性を発見した。顔はよく見えなかったが、服装には見覚えがあった。
試しに話でもかけてみようか。
五人目くらいの彼女にするために。
前髪を整えて、服装を正す。一応ここで深呼吸を入れてから。
堂々と彼女の背後から近づき、話しかけた。
「お姉さん、どうされたんですか?」
「え?」
驚いたような顔をした綺麗な顔面が、オレの目の前にあった。
それもそうか。知らない人に、意味も分からず声をかけられたのだから。
【あとがき】
今日の15時に更新します。
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