第30話

「行っちまったな……。晴れて武藤もリア充か」


「なんか嬉しそうだったし、良かったじゃん、ね?」


 園中と早川は祝福している雰囲気がある。俺はといえば、ここまで見ておいてなんだが、別に何も思わなかった。


「……で? これから、何するの?」


 俺が園中に聞くと、


「ヤルに決まってんだろ。武藤上手いらしいぜ? みんな知ってると思うけど、武藤ってたくさん彼女いるからな」


 その言葉を聞いた瞬間、早川が驚いたように声をあげる。


「え!? そ、そうなの……? 初耳なんだけど……」


 俺も余裕で初耳だが、なんかその辺を上手くやっていそうな感じはしていた。スクールカースト底辺に近い生徒からは、かなり評判は悪そうだし。


「言っとくけど、全部他校らしいし、年齢としもバラバラだってな。まぁ、最悪バレたとしても、どうせ武藤大好き人間がそういうポジションに来るわけで、ほとんどの場合、関係は変わりそうにないよな」


 これが上級陽キャの実力なのか。俺にとっては必要なく、全く羨ましくない能力だが。


「まぁ、控えめに言ってもモテるからね、武藤は。結構誰にでも。武藤のこと大した知らない女からすれば、ただのイケメンに見えるんだろうし」


 俺は偶然、善良な生徒を脅して金をとっている武藤を見つけてしまったので、こんなことを思ってしまうが、他校の、武藤の彼女のように、何も知らなければ外見で判断するしかないのだろう。

 そして好きになってしまう。


「結局みんな顔か」


 園中が呟く。

 園中が言う『みんな』の中に、果たして笠原を入れていいものなのか。正直、顔面で選んだとは思えない。


「ここに居ても仕方ないよ。和人くん、帰ろ?」


 顔に汗を滴らせる早川が、俺に言った。

 確かにこの分かれ道にずっと居ても何もすることがない。それにこのままだと熱中症にでもなって、命に関わってくる。とりあえず冷房に当たりたい。


「なるべく日陰歩こうよ」


 俺は早川にそう言うと、園中にしばらくの別れを告げる。そして早川と俺、二人並んで武藤や笠原とは逆の、右側の道を進んだ。


* * *


 武藤たちを見るのに集中して、しばらく時間を忘れていたが、スマホの電源を入れると、まだそれほど経っていなかった。その証拠に、まだ太陽が俺の頭の上にある。


「あ、笠原さんからLINE来たよ。来週遊びに行きたいだって。和人くん、行く? 武藤くんと園中くんも来るらしいけど」


 早川と歩いていると、俺の隣からLINEの着信音が鳴ったのだ。


「え、来週か。……夏休みだってそんなにあるわけじゃないし、課題がちょっとねー。休み明けの実力テストもあるから。もしかしたら行けないかもしれないな」


「それ、絶対行かない気でいるよね。武藤くんたちの様子を観察するのも、楽しいじゃん」


「さすがに一週間じゃ、何も変わらないと思うけどなぁ……」


 恐らく、笠原は武藤の恋人になった。そして武藤は笠原と恋人になった。

 ここに首を突っ込むのは、非常に気が引ける。俺が武藤の立場だったら、ただウザいだけだ。邪魔するな、と言いたくなるだろう。

 

「あとね? 私たちもさ、二人だけでどっかに遊びに行かない?」


 早川からそんな提案をされるのは、かなり意外なことだった。


「へ? なんで?」


「だって、笠原さんたちには、付き合ってるって、言っちゃったし……」


 俺はしばらく考えて。


「うーん、考えておく」


 と、返事をした。


 そうは言ったものの、こんなに遊んでいては、二週間ほどの夏休みが、遊ぶだけで潰れてしまいそうだ。


 今日はまだ昼だ。

 早めに課題を終わらせておく方が、後々困らないだろう。俺にしては珍しくそんな考えに至り、早く家に帰りたくなった。

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