第33話

「へぇ。で、その彼氏っていうのは?」


 ここにきて恋愛相談か。早川とはなんだかんだでいつも仲良くしているので、できれば力になりたいと思っているが。


「今ね? 武藤くんや笠原さんはもちろんのこと、園中くんも、私と和人くんが付き合ってるって思ってるの」


「なるほど。もうここまで来たら……俺とは喧嘩別れしたってことにしてもいいよ。俺の性格は結構クソだし、全部俺が悪かったってことにしてくれて構わないから」


 早川に好きな人ができたなら、一緒に寝るという謎のこの関係も解消。その人と結ばれるために何か協力してもいい。


「いやそうじゃなくて。和人くんをマジの彼氏にしようかなって」


「やめとけよ。俺になんの取り柄があるんだ」


 これはずっと気になっていたことだ。笠原のことについてはなんとなく見当がついているというか、多少目を瞑れば理由を作ることはできる。


 早川については、そもそも俺を誘った理由が本当に分からないのだ。


「一番近い異性だったからかな? あと、キスマークのことで気になり始めたのもあるかも?」


 ……キスマーク?

 何それ。


「高校初授業のとき、和人くん首のところにキスマークあったでしょ」


「……そうだったかなぁ。あんまり覚えてないけど。それっぽいことは何回かしてるかもしれないし。もしかしたら自分でも気付いてないだけかもしれない。でもその日かぁ……」


 記憶力には、全く自信がないが、キスマークつけられたことくらいは、そう認識していたら覚えているだろう。

 その日は偶然キスマークを誰かにつけられたことに気づかなかったとか……。

 とてつもなく考えにくい。


「早川が俺に話しかけたのって、随分と序盤だったよね。確か、学校が始まってからそんなに経ってなかったと思う。多分一週目じゃないかな?」


「うん、そのくらいだと思う。その時最初に、彼女いるかどうか、和人くんに訊いたよね」


 入学してから時間が経たないうちに、恋人の有無を訊かれたから、とても驚いたのを覚えている。


「で、私が誘った」


「もう、そのことはどうだっていいよ」


 俺は少し恥ずかしくなって、話を進めることを促す。


「んで? とりあえず付き合ってくれるの?」


「え? うん、いいけど」


「あ、いいんだ」


 早川は意外そうな表情で、俺を見た。俺としては、早川と付き合ったとしても、恐らく今の関係とほとんど変わらないだろうと思っている。名前が変わるだけだ。


「いいよ」


「あ……じゃあ、それだけ」


「ん、あ、これだけ? もう帰るの、俺」


 お姉さんの話で、難しい話になると思っており、早川の家に長居するつもりでいた俺は、拍子抜けした。


「あ、じゃあこれで」


 これからまた真夏の太陽の下に出なくてはならないことを考えると、憂鬱で仕方ないが、早川の家にこのまま居たとしても、どうせ課題なんてやらないし、ダラダラするだけだ。


 玄関先までついてきてくれる早川に、また今度と言うと、俺はドアを開けた。ボアっと外の熱気が俺を襲う。


「あっつ……。あ、じゃあね、早川」


 もう一度別れを言って、歩き出す。


「———待って」


「へ?」


 早川から呼び止められる。既にドアの外。むちゃくちゃムシムシするので、早く帰りたいところだが。


「今度、和人くんの家にも、行ってもいいかな?」


「……また、今度ね」



【あとがき】

 明日更新します。

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