早川彩音
今の生活が辛い。それは、私が誰に対して言ったというわけではない。客観的に見て、それは明らか、というだけだ。
私の楽しい大学生活はどこへやら。成人する前に、そんなキラキラ輝いているものは消え失せた。
しばらく友人と会えない日々が続く。その間、ずっと仕事をしていた。家に帰ると、ぎこちない笑顔で、妹が出迎えてくれる。泣き方も笑い方も分からなくなった彼女は、私の目からは、とても可哀想に映った。
窓から、カーテンの隙間を縫った月明かりが、私の頬を濡らす。自力で引っ越してきたこの狭い部屋。その部屋から、外を眺めた。
近所の高校の制服を着た男女が、仲睦まじそうに、手を繋いで歩いている。何の楽しみもない今の私からすれば、それはどんなに綺麗に、美しく見えたものか。
親さえ、生きてくれれば。
一浪して入学した、今の大学。今年はすでに休学しているが、落ち着いたら必ずまた通いたいところだ。
両親の残したお金は、少しはあるのだが、これから先何があるか予想もつかないので、出来るだけ今後のためにそのままにしておきたかった。
私には、妹がいた。
「お姉ちゃん、ご飯食べますか?」
ふいに彼女の声が聞こえて、なんとも言えない気持ちになる。
「うん、食べるよ」
明日も仕事だ。
* * *
朝起きて、まずはスーパーの魚売り場のバイトへ向かう。この仕事は昼まででシフトは終わる。しかし、また昼から別の場所で仕事を入れている。今度はケーキ屋。スーパーの魚売り場と時給はそんなに変わらないが、忙しくない分、少し楽できる。
私が働いてお金を稼いでいる間に、妹は学校で授業を受ける。
今年受験がある妹の成功を願いながら、私はお金のことだけを考えて仕事をした。最近の頑張りのおかげで、両親の貯金をちょっとばかり崩せば、来年はなんとかなりそうな額になる希望が見えてきた。
妹が、公立高校の受験に失敗し、私立高校に行くことになれば、間違いなく終わるが、そこはあまり心配していない。
頭の出来はそこまでよくなかったはずだが、私に迷惑だと思われることはしない人だった、と思う。
もっと何か楽な方法があるはずだが、不安を拭うには働くしかなかった。
夜。
仕事を終えて帰宅する途中。またまた羨ましい光景が目に飛び込んでくる。
私が大学で仲良くなった、女の子たち三人組だった。
年齢はみんなバラバラだが、私が席の近い人に、適当に声をかけて結成させた一つのグループのようなもの。
彼女たちの隣にはもう一つ、男ばかり集まった、三人の集団があった。
「いいなぁ……」
私が全く働かずに大学に通って、妹を高校に入学させる。
それだけで破産してしまう可能性すらある、うちの経済状況。
彼女たちにバレないように眺めていると、背後から誰かに話しかけられた。
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