第28話

 一学期最後の終礼が終了すると同時に、俺は早川の元へ急いだ。

 既に帰宅の準備が完了している証として、早川は自分のリュックサックを俺に見せる。


「早川、来て。武藤が行っちゃうから」


「あ、待って。園中くんも一緒について行きたいって言ってるんだけど」


「え」


 俺と早川の今日の目的は、笠原と武藤の尾行である。今日一緒に下校するらしい。そこで何も無いはずがないのだ。


「武藤、今日告るってさ」


 早川の背後から、武藤のおまけが登場した。

 至って無表情で、園中が俺に言った。この間振られたばかりなのにもう告るのか、と思わずにはいられない。

 観覧車のゴンドラの中で、どんな振られ方をしたのか知らないし、別に気にならない。大事なのは、なんで笠原の気持ちが変わったのか、だ。

 

 結果は、正直言ってどうだっていいのだ。


 教室の窓から、武藤と笠原が並んで歩く姿が確認できた。このまま階段を降りて、帰宅するのだろう。


「ま、いいや。二人とも、バレないようにしてくれ。バレたら結果変わるかもしれないし」


 園中は、武藤に迷惑がかかるということが分かっているので、恐らく問題ないとは思うが、どこか抜けているところのある早川は注意しなければならない。




 俺と早川、園中の三人は、笠原と武藤に続いて、校舎から外へ出た。

 終業式は、真昼間に終わった。そのため、通常時の下校よりも、格段に気温は高い。


「あっつ。笠原たちの尾行、途中で諦めるかもしれないな、これ」


 俺がそう呟くと、


「最初に言い出したの、そっちなんだから、最後までやってよ。もしかしたら、このまま今日、路チューまでしちゃうかもよ?」


「そもそも観覧車で振られたんでしょ? 上手くいったとしてもそれに真夏のキスなんて暑そう。昼間だし、目立つから外ではやらないと思うけどな」


 正直、最近振られてすぐにまた告るやつの気が知れない。どんな鋼のメンタルを持ち合わせているのか。


 武藤は笠原に笑いかけながら、身振り手振りで、何か楽しい話を伝えようとしている模様。必死になりすぎてキモかった。


「武藤、がっついてるな。笠原のどこがそんなに気に入ったのか分からないけど。……あ、青野? 武藤と笠原の写真、撮っても大丈夫か?」


 園中がそんなことを俺に聞いてきた。

 が、その質問に答えたのは早川だった。


「肖像権がどうとかで訴えられたくなかったらやめといたらいいんじゃないかな? まぁ、誰にも見せないんなら大丈夫だと思うな。だって武藤くんだし。仲、良いんだよね?」


「いや、武藤に見せるために撮るんだけど。一人用だったら、俺がただのストーカーになるんだが?」


 尾行なんて、やってることストーカーとほとんど変わらないだろ。


「ちょっと静かにしてよ。見つかったら、園中は大丈夫かもしれないけど、俺は何言われるか分かんないよ?」


「それは武藤くんから?」


「どっちもだよ」



 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る