第27話
夏休み。
それは、俺にとってはただ学校が休みになる、楽な日でしか無かった。しかし、今回は早川や笠原。あいつらがいるし、いつもとは一味違った夏休みになりそうだった。
今日は一学期最後の登校日、終業式である。ギンギンの太陽に照らされながら、生徒たちは、心をうきうきさせながら続々と校門をくぐっていく。
俺は別になんとも思っていないが、彼らと同じように校門をくぐった。
「お、青野おはよ」
ちょっと左手を上げて、かなり明るい表情で俺に挨拶してきたのは、学校指定のサブバックを右手に持った笠原だった。
最近はろくに話をしていなかった。恐らく、俺が無意識に避けていたのだろう。
今日もいつもと同じように意識的に会話をするつもりはなかったが、話しかけられたのなら仕方ない。
「笠原、おはよう」
出来るだけ動揺せずに挨拶を返した。
すると後ろから。
「青野、お前早川と付き合ってるんだってな。絶対に武藤には言うなよ?」
「園中かよ」
武藤がいなければ完全にモブである顔の持ち主が、俺の目の前に立っていた。
「なんだよその顔。失礼だな」
「よし、分かった。武藤には言わない」
「会話下手くそだな」
武藤にへこへこしてる園中には言われたくない。
俺は、笠原と園中を待つことはなく、歩いている流れのまま、校舎へと進む。校舎前で挨拶運動をしているハゲた化学教師の頭が、夏の太陽に輝き、光った。
俺が教室に入ったときには、ほとんどの生徒が登校しており、陽キャたちですでに賑わっていた。
明日から夏休みだ。久しぶりの長期休暇。気分が上がるのも当然だ。
「あーおの! 明日から夏休みだねぇ? 青野の好きなお休みだよ? どうする? 明日にでも早川さん誘って遊ぼうか」
教室の雰囲気にでものまれたのか、校門で会ったときよりも、いくらかテンションの高い笠原が、俺の机を叩いた。
「早川に聞いてくれる? あ、でも、課題早めに終わらせたいなー」
「どうせやらないでしょ。私や、真面目な早川さんを見習った方がいいと思うよ?」
コイツ、早川のこと何も知らないな。俺の中では、早川の成績が悪いことは有名な話だ。陰キャは全員頭が良いと思っている系のヤツか。
「じゃあ、とりあえずなんでもいいから、笠原が予定立てといていいよ。俺は基本いつでも大丈夫だから」
「うん、分かった。……あ、あと、青野? 私、今日武藤に一緒に帰らないか、って言われてる。だからさ、その……一緒に帰れない。もう、戻れない」
別にお前と下校する気なんて一ミリも無いよ、とか思ったわけではない。きっと笠原は、武藤と付き合うつもりなんだろう。
恋愛なんて無理にしなくてもいいのに、何故恋人を作ろうとするのだろうか。笠原は武藤のこと、好きじゃないだろ。
「そっか。頑張ってくれ」
それだけ言って、俺は自分の机に突っ伏した。
笠原が俺の元を去ってから、机の下でスマホを操作する。LINEのアプリを開き、早川へ飛ばす。
『今日、一緒に帰ろう』
そう、送った。
しばらくすると、既読がついた。返信は了承されたものだった。
『笠原さんが気になるの?』
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