早川詩音

 今日の入学式、私は憂鬱で仕方がなかった。たくさんの人が集まると分かっていながら、何故行かなければならないのか。


 一年前、両親が死んだ。私の姉が既に高校を卒業して大学に通っている、しっかりした人だったため、仲の悪い祖母の家などに行かなくてもよかった。


 しかし姉は、最初は私や自分のために、そして家を守るために懸命に働いてくれていたのだが、途中でやめてしまった。両親が大量に残した貯金。それだけでも十分暮らしていけたから。


 バイトをやめた姉は、大学の友人と毎日のように遊び始めた。きっと、バイトを何個も掛け持ちして、ずっと働いていたときだって、みんなと一緒にはっちゃけて、遊んでいたかったんだろうな。


* * *


 入学式は、何もしなくても終わった。クラス発表と担任教師の挨拶だけで、その日はお開きとなった。


 これから一緒に学校生活を共にする同級生たち。彼らの顔は、誰一人として私の脳に刻まれることは無い。元々、関わる気すら無い。


 今日も新聞配達。

 さっさとこんな仕事なんか辞めて、もっと儲かる仕事がしたい。通帳は姉が管理しているため、私の収入は、自分で稼いだお金か、姉が月に一回私の部屋に置いていく一万円札しかなかったのだ。


 ラブホ街にでも行って、男でも待とうか。……そんな都合よくいくとも思えないし、そもそもイヤだ。夜だと誘拐とかされそうで怖いし。


 とりあえず新聞配達を終わらせたら考えよう。

 姉はもう家には帰ってこない。ここ何ヶ月も家族の顔を見ていない。


 でも、それを寂しいとは、全く感じなかった。きっと私は、前世から一人が好きだったんだろう。

 それは悪いことじゃない。


* * *


 思わず笑ってしまった。ラブホ街に、私が持っている制服と、全く同じものを着ている男子生徒が、背の高い女性に肩を抱かれる形で、ホテルに堂々と入っていったから。


 私の学校は、靴の色によって学年が分かられている。私の学年の色は赤。ホテルに入っていった男子生徒も、多分赤だったと思う。

 

 しかしそうなると、入学式のその日にホテルに行くという、とてもバカなことをしていることになる。


 にわかに考えにくいものだった。だが、翌朝私が登校すると、同じクラスの見た目大人しそうな男子の首筋に、キスマークを見つけた。

 タイムリー過ぎたため、私は確信した。絶対ホテルに入っていたアホだな、と。


 ふと姉のことを思い出した。彼女はあんなことしているんだろうか。

 少し心配になってきたような気がする。

 だけど、あっさり死んだ両親には……。


 私の罪は———両親が死んでも涙が出なかったことだった。


 




 

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