第18話

 俺たちはほとんど会話をせずに、そのまま帰路に着いた。

 朝、待ち合わせ場所として指定されていた駅に帰ってくる。武藤は笠原と帰り、園中はぼっち。俺は早川と帰ることになった。


 俺は武藤や笠原とはほんの少しだが家が離れているので、かなり家が近い早川と帰ることは、当然のことだといえたが、園中は別に一人で帰る必要がなかった。恐らく武藤と笠原に気を使ったんだろう。

 園中は一日中気を使っている。武藤の友人役も大変だ。


「和人くん、今からウチに来られる?」


 隣を歩いている早川から、ふいに声をかけられた。


「は?」


「今から、やるの、どうかな?」


 早川の顔は、淡いオレンジ色に照らされている。今から早川の家に行けば、間違いなく遅くなる。


「元々約束してたでしょ? 私、今日初めてコンドーム買ったの。なんか恥ずかしかったんだけど」


 朝、コンビニに行ったときだろうか。


「そんなの、知らない」


「ねぇ、和人くん? 私今度からお金払おうか? そしたらもっとしてくれるようになる?」


 早川が壊れた。


「何言ってんだよ。俺たち、セフレだろ? お金払ってたら、その関係が崩れるだろうが。そんなの、意味が無い」


 言ってから気がついた。俺は何を言っているんだろうか、と。


「セックスにそもそも意味なんてあるの? 子どもを作るわけでもない。なんなら、私たち恋人同士ですらないんだよ? 愛を確認する手段っていう言い訳も、すでに破綻してる」


 早川の真っ直ぐな眼差し。こんなのは初めてだった。


「あのね? そんなの俺に聞かれても困るだけだよ。俺は早川と同じ知識、もしくはそれ以下のものしか持っていないんだ。俺を頼るなよ」


「和人くんを頼ってるわけじゃない。ただ、温もりが欲しいだけなの。ただ和人くんを肌で、直に感じたいだけ」


 早口で早川は続ける。


「さっきのセックス発言もそうだったけど、肌で直に感じたいとかさ、こんな人通りの多いところで言うのやめてくれよ。それに加えて早口で言ってるから痴話喧嘩みたいじゃん」


 早川は、俺のテキトーに話した今の言葉を全くと言っていいほど聞いていない様子だった。ただ目の前に立っている俺の、目だけをじっと見つめて、そっと言い放つ。


「今日は、私の家にホントは来て欲しいけど、最悪来なくてもいい。でもね? これだけは和人くんに、言わせて欲しい。これを聞いて何を思ってくれても構わない、嫌ってくれても構わないから……!」


 早川は目を瞑り———


「和人くん———好きだよ」


「早川?」


 早川は止まらなかった。


「———大好き」


 それから早川は、気が済むまで、俺の目を見たまま笑っていた。

 早川は随分と人を好きになるのが早いんだな、と思った。人を好きになったことが無いとか、言っていたくせに。

 いつなく純粋な早川を、俺は無表情のまま眺めているのだった。



【あとがき】

 フォローやお星さま、お待ちしてます!

 次話投稿は、明日朝6時です。

 

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