第17話

「あれ? なんか、雰囲気悪いな」


 見るからに落ち込んでいる武藤が、下を向いて観覧車の席に座っていた。笠原については背中しか見えないので、よく分からない。


「あー、あれはフラれたな。それか保留」


 園中のその言葉に俺は、


「まぁ、あの表情で成功しました、はないだろうね。付き合うことになってたら、そのままキスぐらいしちゃいそうなシチュエーションだし」


「二人で密室みたいなものだからな。フラれた後の雰囲気は最悪だが。笠原がそんなことするとは思えないけど」


 俺と園中が話していると、早川が、


「園中くんは、武藤くんが笠原さんと付き合って欲しいと思ってる?」


「あ、あぁ、思ってるけど?」


 「それが何?」みたいな表情だ。


「園中くんは武藤が、笠原さんのどんなところを好きになったと思う?」


 早川は、そんなことは一ミリも気にした様子もなく、園中に対して質問を並べていく。


「いやー、普通に顔だと思うけどな。アイツ面食いなんだ。中学生のときも、顔面偏差値の高い女を取っ替え引っ替えして、問題になったんだけどな」


 武藤は中学生の頃からそんな感じなのか。武藤の中学時代など何の興味も抱かなかったが、一年や二年で人は変わらないということが分かった。


「そ、そうなんだ。やっぱり人は見た目だね。ふふ。ね、和人くん」


「なんで俺? ……人は見た目とか、それでお前が納得できるなら、そう思っておけばいいよ」


 俺と早川の会話を聞いていた園中の頭の上にはクエスチョンマークが十個ぐらい浮遊していたが、大して気にならなかったのか、再び外を見出した。


「そうだね。そう思う。……あ、和人くん。後で話したいことがあるから、みんなと別れたら一緒に帰ろうよ」


「課題やれとかだったらやらないよ? 俺バカだもん。テストのクラス順位、ケツから五番目」


「私はケツから七番目。って、そんなことじゃなくて、ちゃんとした相談」


「……相談、ね」


「そう、相談」


「あー、分かった」


 何のことなのか分からないが、早川の成績のアホさから、とりあえず勉強に関係することでは無さそうなので、一応了承する。


「うん、ありがと。おっと、もうちょっとで終わるね。フラれた武藤くんと話すのが楽しみだね」


「早川って性格悪いんだな」


 その数秒後には、観覧車は一周。俺たちより先に降りた笠原と武藤が、少し離れたところで、若干距離を取って待っていた。


 武藤の表情から、かなり気まずい状況であることが、容易に想像できた。


 しかし、笠原は平気そうな顔をして、こちらにピースサインを送った。


 俺はしょんぼりした武藤を見て、


「いい気味だな」


「和人くんも、結構性格悪いよね」



【あとがき】

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